2025年、PTZハードウェアの到達点

2025年は、PTZカメラの「拡張性」が一段と際立ってきた。IP関連のライセンスが無償化されたり、AI機能が本体側で処理できるようになったりと、ユーザーが選べる構成や運用の幅がこれまで以上に広がった一年だったように思う。

新製品の数自体は多くないが、その分、既存モデルの機能追加やラインナップの整理が進み、どのメーカーも“使い勝手をどう底上げするか”という方向でしっかり進化していたのが印象的だった。

本稿では、Inter BEE 2025の展示内容を踏まえつつ、主要メーカーのPTZカメラがどのようなアップデートを迎えたのか、カメラ本体の視点から整理していく。

キヤノン CR-N400/CR-N350:ラインナップを強化する新製品

CR-N400(左)CR-N350(右)

Inter BEE 2025のキヤノンブースで中心に据えられていたのが、新たに加わったCR-N400とCR-N350だ。上位のN700と、長く定番として使われてきたN300。その間を埋めるモデルが登場し、ラインナップ全体の見通しが一気に良くなった印象がある。

まずCR-N400は、12G-SDI、HDMI、XLR、タイムコードといったベースバンド端子をしっかり備えており、既存設備との親和性が高い。筐体サイズはN300に近い扱いやすさを保ちながら、低照度性能や内部処理はN700寄りに強化されている。従来システムを生かしつつ画質を底上げしたい現場には、もっとも現実的な選択肢になりそうだ。

一方、CR-N350はN400からベースバンド端子を整理し、IP配信用途に必要なインターフェースに絞り込んだモデルだ。IP完結の企業配信やライブ常設など、“端子は最小限で十分”という環境に向けた構成となっている。4K/60p対応やアドバンスドズーム(FHD時40倍)といった基本性能は共通しており、用途に応じてモデルを選びやすい点も好印象だ。

キヤノンはこれら二つを「兄弟機」として明確に位置づけ、物理端子の有無によって運用スタイルを選べる構成を用意した。これにより、ユーザーは自分たちの設備やワークフローに合わせて、無理のない形で機種を選択できるようになっている。Inter BEEでは複数台連携の群制御デモも行われており、少人数運用への現実的なアプローチが見える展示だった。

CR-N350(左)、CR-N400(右)。筐体サイズは共通。Inter BEE 2025展示の様子

ソニー ILME-FR7/BRC-AM7:バーチャル直結とAI精度の底上げ

ILME-FR7
BRC-AM7

ソニーはInter BEE 2025でも存在感が強く、既存機のアップデートがしっかり訴求されていた。ILME-FR7のバーチャルプロダクション対応と、BRC-AM7のAI機能の強化である。新機種こそなかったものの、既に導入が進んでいるフラッグシップが“別の領域へ踏み出した”ことを示す展示だった。

まずILME-FR7は、Open Track IO対応によってUnreal Engineとの直接接続が可能になった点が大きい。従来はレンズデータのキャリブレーションなど、撮影前の準備に時間がかかるケースが多かったが、今回のアップデートでその手間が大幅に軽減された。PTZの可動域とフルサイズセンサーの画質をそのままCG空間に持ち込めるため、ライブイベントや中規模VP案件でも採用しやすくなると感じた。

BRC-AM7は、AIによる被写体認識の精度がさらに上がった印象だ。骨格検出ベースのオートフレーミングに加え、複数人フレーミングや顔登録など、スタジオ番組で求められる運用に一歩踏み込んだ機能が追加されている。また、被写体の視線方向に自然な余白を作る「目線空け」のような処理も強化され、カメラマンの“癖”をAIが再現するイメージに近づきつつある。

さらに、NDI®対応の標準化など、IP制作の敷居を下げる取り組みも継続している。設置性と画質、そしてAIによる自動化をバランスよく伸ばしているのがソニーの現状で、既存ユーザーにとっても今回のアップデートは恩恵が大きいだろう。

パナソニック AW-UE160/AW-UE150A:動き方と構成の幅を広げるアップデート

AW-UE160
AW-UE150A

Inter BEE 2025のパナソニックのブースでは、PTZとボックスカメラを併行して展開する現在のスタンスがはっきりと出ていた。既存モデルへのアップデートも紹介されており、特にPreset Smart Compositionのデモは来場者の関心を集めていた印象だ。

AW-UE160/AW-UE150Aに追加されたPreset Smart Compositionは、プリセット移動時の軌道をより滑らかにするもので、移動カットをそのまま映像として扱いたい現場には適した機能だと感じる。Inter BEEのデモでは、カメラ移動中の映像が以前よりも扱いやすくなっており、省人化の現場でどのように生かせるかを意識した説明が多かった。

Preset Smart Composition デモ展示

一方で、PTZカメラとは異なる選択肢として、ボックスカメラとリモート雲台を組み合わせた運用スタイルも紹介されていた。スタジオカメラAK-UCX100と同一プラットフォームを採用した「AK-UBX100」は、Movicom製リモート雲台に搭載した展示が行われ、リモート操作のデモも実施されていた。

PTZカメラ的な運用を意識しつつも、ボックスカメラならではの画作りやシステム構成の自由度を生かせる点が訴求されており、固定設置を前提としたスタジオや中継用途での活用が想定されているようだ。

AK-UBX100をMovicom雲台に載せた展示で操作デモを実施

また、「AW-UB10」「AW-UB50」もMovicom製リモート雲台との組み合わせで展示されていた。センサーサイズやレンズ交換といったボックスカメラ特有の特性を生かしながら、リモート操作による運用が可能になる点は、画質を重視したい現場にとって一つの選択肢になり得るだろう。

AW-UB50とMovicom製リモート雲台を組み合わせた展示

スタジオ、スポーツ、議会中継など、設置場所があらかじめ決まっている環境では、「PTZ一体型」と「ボックス+雲台」のどちらが向いているかを案件ごとに選ぶ、という提案が聞かれた。パナソニックとしても両軸を提示する姿勢が強まっており、用途ごとに最適な選択肢を用意する意図が感じられた。

また、配信面ではSRTやRTMPへの対応など、IPワークフローを意識した機能追加も進んでいる。PTZとボックスの二軸をそのまま環境に合わせて使い分けられる点は、2025年以降の設備更新でも重要な要素になるだろう。

Bolin Technology:日本ラッド取り扱いで広がる選択肢

Bolin Technology 屋外向けPTZカメラ「EXU248F」

Bolin Technologyは、2025年11月から日本ラッドが取り扱いを開始したことで、日本市場でも導入しやすくなったPTZメーカーである。海外では放送局やスタジアム、官公庁などで実績があり、国内でも本格的に検討対象に入るフェーズに入ったと言える。

例として、屋外向けPTZカメラ「EXU248F」を紹介する。堅牢性と長時間運用を重視した設計で、特に屋外向けPTZは、防塵や温度対策を含めた耐環境性能が高く、テーマパークやスタジアム、沿岸部施設など、過酷な環境での常設用途を強く意識している。

また、撮像ブロックには4K対応のソニー製Blockカメラモジュールを搭載しており、色合わせの点でユーザーが選びやすい点も注目だ。IPまわりでは、Dante AVやNDIなど複数方式に対応するモデルを用意し、既存システムへの統合を行いやすい点もポイントとなる。

設備更新のタイミングで、全天候型のPTZや、IPベースで安定して動作するカメラを探している現場に向いたブランドと言えるだろう。

成熟した今だからこそ見える「次の伸びしろ」

Inter BEE 2025では、PTZカメラが数年前とは比べものにならないほど充実したラインナップになっていることを改めて感じた。新しいモデル自体は多くなかったものの、既存機のアップデートが進んだことで、現場で求められてきた使い勝手がしっかりと磨かれていた印象だ。

プリセット動作の滑らかさやAIフレーミング、IPワークフローとの親和性、屋外常設向けの耐久性など、各社が目指す方向はそれぞれ違う。それでも共通するのは「より自然に、より幅広い現場で扱えるPTZにする」という姿勢で、どのブースを見てもその進化が伝わってきた。

ハードウェアとしては成熟に差し掛かったタイミングだが、その分、2026年にどんな便利機能が加わるのか、どんな現場に対応できるようになるのかという期待が大きい。今年は、まさにその“伸びしろ”を感じさせる一年だった。