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電子楽器メーカーとしてスタートしたローランドも、我々映像人からすればすっかり映像機器メーカーとして定着した。同社最初の映像製品は1994年のテープ編集システム「ビデオくん」だが、これが2001年のノンリニア編集機「DV-7」へと繋がった。

DV-7とほぼ同じぐらい長い歴史を持つのが、映像のポン出し機「Video Presenter PRシリーズ」だ。複数の映像をスタンバイしておき、好きなタイミングで再生できるマシンである。最初はDVシステムとして、のちにHD対応となったが、長らく4K対応が待たれていたシリーズである。

11月5日に発表された「Media Presenter」は、4K対応ポン出し機の登場を待っていた方にはまさに待望の製品であろう。しかも専用ハードウェアは不要で、完全ソフトウェア製品としてリリースされる。

今回はMedia Presenterの開発に携わった皆さんに詳しいお話を伺うため、開発拠点である浜松のローランド新本社を訪れた。同社は昨年11月、本社ビルを一新し、これまで3事業所に分散していた開発拠点を1か所にまとめ、世界中のクリエイターに向けたブレイクスルーを生み出す空間として、「Roland Inspiration Hub」と名付けた。本社工場も隣接しており、開発から製造までを一元化している。

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昨年11月に竣工したローランド新本社ビル

Media Presenterは、なぜソフトウェア製品となったのか。また誰に向けた製品なのか。今回お話を伺ったのは、ビデオ製品全体の開発責任者であるLive Production事業部長の服部宏平氏、Media Presenter開発リーダーの吉澤正憲氏、歴代のPRシリーズの開発リーダーであり、Media Presenterの開発エンジニアでもある青木英児氏だ。

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左から Live Production事業部長の服部宏平氏、企画グループ 製品リーダーの吉澤正憲氏、BOSS & LPソフトウェア開発部 Live Production開発グループの青木英児氏

Video Presenterの系譜

――今回発表されたMedia Presenterの前身として、「Video Presenter PRシリーズ」という製品群がありますよね。まずはその歴史的背景についてお伺いできますか?

青木氏:

一番最初の製品は、2002年の「DV-7PR」というモデルなんですが、これはノンリニア編集機のDV-7Rに、映像ポン出しの機能を入れて合体させたようなスタイルでした。

――編集って、いわゆるポストプロダクション業務じゃないですか。でもポン出しってライブ業務ですよね? 1台で2役みたいなことだったんでしょうか。

青木氏:

そうです。一番最初は、「映像も演奏したい」というところから始まったんですね。MIDIで、映像を編集ではなく演奏したい。

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PRシリーズの初号機「DV-7PR」

 

当時、楽器奏者がリアルタイムに空間演出までできないか?というテーマがあって、VJや空間演出に興味がある面々で自社ビデオ製品をかき集めて実験をしていました。その中で、リアルタイムに制御可能な映像送出源としてのDV-7Rのレスポンスが良くて、演出に使えないか?となったのがきっかけでした。

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長年PRシリーズの開発を手掛けた青木氏

――なるほど、そこが全ての始まりですね。そこから専用機として2004年に「PR-50」、2005年に「PR-80」が出ます。そもそも映像のポン出しって、どういう狙いがあった機材なんでしょうか。

青木氏:

もう最初からステージ演出ですね。著名なCGクリエイターさんに実際に現場で使っていただいて、そこからまたブラッシュアップしていくという。当時ローランドの業務用製品はまだ設備音響メインでやってたんですけど、ステージ分野にも製品を広げたいというところから、大手のイベント演出系の会社さんにも、実際に製品を持ち込んで使っていただいて。草の根的な感じで広がっていきました。

――ニーズはあるんだけど、専用機を作ってそこへ取り組むメーカーはほとんどなかったみたいな感じですね。記憶に残るところでは、2007年に「PR-1000HD」で初めてHD化しました。確かこの時に一緒に使うビデオコンバーターが出ましたよね?

青木氏:

そう、ビデオコンバーターの「VC-300HD」は、PR-1000HDとペアで使う製品でした。PR-1000HDの出力はDVIしかないので、VC-300HDを通してSDIなどに変換して使うと。あとVC-300HD自体がHDVのエンコーダ/デコーダを持っているので、キャプチャーする時もこれ経由でやれるという構成でした。

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HDに対応した「PR-1000HD」
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同時に開発された「VC-300HD」。続くローランドビデオ製品の基礎となった

――思えばVC-300HDが、ローランドのビデオコンバーターシリーズの始まりですもんね。さらにその技術をベースに、VRシリーズやVシリーズがマルチフォーマット化していくという流れを作った。その意味ではおよそ20年後に、4K対応ビデオコンバータ/スケーラーの「VC-1SC-4K」と4K対応「Media Presenter」がほぼ同時に出るというのは、感慨深いものがありますね。

お客様のニーズを確実に捉える

――では新しい「Media Presenter」のお話を伺います。スタジアムとかホールとかの場合、設備としてハードウェア固定というスタイルなんでしょうけど、やはりソフトウェア化してほしいっていう要望もあったということでしょうか。

吉澤氏:

そうですね。イベント会社さんに話をお伺いに行くと、可搬性の面などでソフトだけにならないかっていう方もいらっしゃいましたし、そういった需要が結構あるっていうことが分かりました。

――それは4K化してほしいという要望と重なったタイミングでもありますか?

吉澤氏:

4Kの話は以前から少しずつあったんですけど、昨今は特に大型LEDディスプレイの普及によって、急激に需要が高まってきました。PRシリーズの機能がちょうどLEDディスプレイの演出に向いているということ、PCの性能がソフトウェア動作に追いついてきたということ、その間に4Kが盛り上がってきたということが重なったというところがあると思います。

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Media Presenter開発リーダーの吉澤氏

――ソフトウェアで、かつ4Kで出せるようになった。その技術的なブレイクスルーとしては、何が決め手ですか?

吉澤氏:

やはりGPUの性能アップが大きいですね。昨今はゲームエンジンに近いような構成になってますし、加えて即応性のためにはストレージ(SSD)、CPU、GPUといったバランスが揃ったというのがポイントになったところです。

――今回ソフトウェア化されたのは大きなトピックではありますが、もともとVideo Presenterもハードウェア製品でありながら、実際に操作するのは専用ソフトウェアですよね。そういう意味では、元々専用機で動くソフトウェア製品でもあった、ということになりますか?

吉澤氏:

データ構造とか、ユーザーインターフェイス(UI)の部分は、割とオリジナルを踏襲した形になっています。特にUIはそのままでという要望が強かったので、そこをキープしつつ、再生性能とか内部構造をチューニングしていきました。

――ローランドとしても、すでに「Graphics Presenter」のような汎用PCで動くソフトウェアの製品もあります。そういう積み重ねの上に来たっていう感じなんでしょうか。

青木氏:

GPUの使い方とかその出力とかは、Graphics Presenterである程度やってきた部分がありますね。コードそのままではないんですが、考え方や方法論の面で活かされています。

――今年本社を拡充して、3箇所の開発拠点が1つに集約されました。ソフトウェア開発でもやはりそういった点のシナジーもあるんでしょうか。

服部氏:

新本社になってから、全製品の検証やテストをしているチームが隣にいるので、いろいろな使い勝手やレスポンスといったところの評価がすぐ聞けるというのはいいですね。リアルに人が使う楽器のような観点というか、スペックで表れないフィーリングのところなども気軽に試せるような関係にあるので、そこは確実にシナジーになっているところはあります。

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Live Production事業部長の服部氏

青木氏:

機材のレスポンスがいいみたいな我々の判断基準とか価値観って、ハードとかソフトとか関係ないんじゃないかなと思っていて。それをわかっている人間が評価しているので、そこへ繋がってくるんじゃないかと思います。

吉澤氏:

ですから今後は、楽器の方で映像的な表現をしたり、映像の方で音楽的な要素を取り入れたりっていうのが出てくるのかなという気がします。

なぜ再び「ポン出し機」を?

――PRシリーズって2016年の「PR-810HD」が最後で、そこから10年経ってるわけです。みんなこれを大事に使っているのかもしれないですけど、そうでない皆さんはこれまでどうしていたのかなと心配になります。

吉澤氏:

ありがたいことに前の機種を使っていただいている方も結構いらっしゃいますが、最近ではもっとハイエンドなメディアサーバー製品を使っていらっしゃる方が多いようですね。あとはVJソフトのようなものを応用されている方もいらっしゃいます。

――PRシリーズ不在の間に、ものすごくハイエンドになるか、ものすごく簡易的なものになるかの二択になっちゃったというところですね。そこにリーズナブルな価格で、ポン出し専用として仕様を固めたというところがポイントになりますか。

吉澤氏:

まさにそういう感じだと思います。ハイエンドは使わない機能が多すぎ、でなければパワーポイントやパソコン内のメディアプレーヤーで済ませる方も結構いらっしゃるような状況でして、もうちょっとパッと使えるものが欲しいというお客様も多くいらっしゃいます。そうした隙間を埋める製品としてご提案していこうということですね。

――逆に言うと、2016年以降ローランドとしても、プレゼンターに代わるソリューションはいろいろ考えてきたということですか?

吉澤氏:

やはり一つはスイッチャーでも再生したいという要望をいただいておりまして、一部のモデルではプレーヤーという形で対応しました。ただ依然として、独立したプレゼンターという形でのご要望も強かったので、何らかの形で実現できないかなということは考えていた状況ですね。

青木氏:

弊社製品としては、音のサンプラーとして「SP-404シリーズ」みたいな製品もあるんですが、あのスタイルの映像版とかあったら面白いんじゃないかみたいな発想で研究していたこともありました。その後、研究を続け、顧客インタビューを重ねることで、やはり長年PRシリーズで培ってきたUIを用いたこの操作感がユーザーさんにとって大事だということが改めて分かりました。ソフトウェア、ハードウェア等、製品の形態の差ではなく、ユーザー様と共に育ててきたUIでしっかり安心して確実にオペレーションできるものがベストというところが再確認できたのが、ここ数年の動きだったかなと思います。

――実はもう答えは最初からあった、ということなんですね。

どうやってパワーを絞り出すか

――プレゼンターの基本的な仕様として、32個のクリップを待機させておいて、それを瞬時に再生することになります。これを専用ハードなしにやるのはなかなか大変かと思います。

吉澤氏:

弊社の場合ですと、メモリとかに先読みするのではなく、ファイルから直接読む形にしています。そこが最も苦しめられた部分というか、すでにハードウェアのPRシリーズで実現できていますので、それを4Kになっても実現しなくてはというところが一番苦労したところではあります。

例えばキーボードショートカットを連続で叩いても遅延なく反応する、とかですね。実際のイベントでこういったオペレーションはないと思うんですけど、この安定性とか応答性を担保することが、開発の根幹になっています。

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自らMedia Presenterをデモする吉澤氏

――専用ハードなしに、ファイルから直接4Kを再生するのって、かなりの負荷になりませんか?

吉澤氏:

そうなんですよね。なのでいろんなファイルを叩いた時に、レイテンシーがばらつくんじゃなくて、ある程度許せる範囲ですべて同じになるような設計になっています。

――それはちょっと楽器のレスポンスに似てる感じがありますね。均等に遅れてれば問題ない、バラバラになるからダメなんだって。

青木氏:

まさにその通りですね。一般的なVJソフトとかメディアプレーヤーなんかは、素材によって出てくるタイミング違うんですけど、一定のレスポンスであれば自分たちはそれに合わせられるって皆さんおっしゃっているんで、そこは外せない部分です。

――内部に取り込むフォーマットは、統一しているっていうことですか?

吉澤氏:

そこも一つ大きな違いのところです。他社さんのものだといろんなファイルが使えますというようなものもありますけども、レスポンスを担保するために統一するというのが弊社のスタンスです。それもフレーム間の圧縮のないイントラフレームのものを採用しています。

――なにか動作チェックツールのようなものも用意されているんでしょうか。例えばうちのPCで動くかな? みたいなところはみなさん心配されるところだと思いますが。

吉澤氏:

その点においては、今回トライアル版も提供させていただく予定です。ウォーターマークがつくだけでフル機能が使えるという形になりますので、実際お手持ちの環境で使っていただいて、評価していただけるかなと。

――それはいいですね。やっぱり手持ちの機材で出せるのか試してみたいですよね。実際の出力はPCのHDMI端子から出すっていう前提なわけですが、昨今はLEDディスプレイみたいな、変なアスペクト比のものもあります。その辺はどうやって対応しますか?

吉澤氏:

これは2パターンあるかなと思います。一つは弊社「VC-1SC-4K」につないでいただくっていう方法が、いろんなケースに一番柔軟に対応していただけるのかなと。もう一つは、Media Presenterの出力にスケーラーがありますので、特定の領域に切り出すことができるようになってます。そういった形でご対応いただければなと。

Inter BEEで実際に触れる

実際にMedia Presenterの実機動作を拝見したが、UIは完全に歴代のPRシリーズと同じだ。設定画面までそっくりそのまま踏襲しており、これまでPRシリーズを使ったことがあれば同じ感覚で設定・操作できるはずだ。

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歴代のPRシリーズと同じ

昨今はノート型でもゲームPCとして強力なGPUを搭載したマシンも多数出回っており、Media Presenterを動かすのにも十分なスペックを持っている。本当にノートパソコンから大量の4K動画クリップがキーボードやマウス操作でサクサク動く様子に、「な ん だ こ れ !」とひっくり返った。

4K映像がサクサク動く
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もちろんStream Deckにも対応

加えてローランドの対応スイッチャーと組み合わせれば、Graphics Presenterで実現していたFill+Keyの同時出力による合成も可能だ。タイトルだけでなく動画としてもFill+Keyが出せるのは、ライブで合成をやるという場合にも対応できる。

そして今年もまた、11月18日から20日の3日間、千葉幕張メッセにて国際放送機器展 「Inter BEE 2026」が開催される。もちろんローランドブース(Hall5 #5501)では、「Media Presenter」の実際の動作も、新ビデオコンバーター「VC-1SC-4K」との組み合わせで体感していただけるようになっている。

これまで高レスポンスのポン出しニーズに対応できず悩んでいた方、4K対応をどうするか検討中の方、ソフトウェアだけでホントにやれんの? と疑問の方はぜひ、ローランドブースに足を運んで、実際にその目で動作をご確認いただきたい。そして筆者と一緒に、「な ん だ こ れ !」と言いながらひっくり返ろう。