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今回はDZOFILM「Catta Ace」のインプレッションレビューである。箱を開けてみるとレンズが2セット入っている。なるほど、Catta AceとCatta Zoomの比較ができるではないか。Catta Zoomは以前試しているので、そちらを参照してもらえばインプレッションはお分かりになると思う。

その時にはまだフィルターのオプション品は発売されていなかったのだが、やはり気になっていた記憶があり、今回は両者とも純正のフィルターが同梱されていたので、これで試せると少し期待値が上がっている。やはり一人現場での作業の効率化は重要であり、少しでも楽に早くセットできる方法を常に考えている身からすれば、これは前のめりになる。

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マウント交換に対応

レンズのインプレッションを行う時に必ず確認しなくてはならないのが、レンズマウントである。レンズが送られてきても、マウントが合わなければただの筒か大きめの文鎮と化してしまう。

そこで必ず編集部とはまずはその確認から入るわけだが、DZOFILMの良いところはPLマウントを基本としながらも、他のマウントを自分で交換できるところである。マウント交換を外部に頼むとメーカーによって金額が異なるだろうが、先日別メーカーで問い合わせた時に5万円くらいと言われて、やはり躊躇してしまっていることを考えると、ありがたいと思う。ただ以前にも書いたが、マウント交換での微妙なSIMでのバランス調整などはなかなかハードルが高いので、正確性を求めるのであれば、やはりそこはプロに任せたほうが良い。

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付属のツールでネジを外す
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マウントを外した状態

さらに、ネジ山やネジ自体の消耗もあり得るので、頻繁に行うことは考えないほうが良いであろう。機材をソニー製からRED Digital Cinema製に変えるなど、数年に一回あるかないかの機材変更などであれば、ネジに対しての負担もそれほど問題になることではない。選択肢として自分で交換できるのは、マウント問題があるから機材を変えられないという呪縛からは逃れられるので、心理的には将来性の不安は軽くなるかな。

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EFマウントはベースでフランジバックを調整している?

Catta Aceの場合、PL/EF/LPLが用意されているが、今回もPLマウント装着で送られてきたので、まずはEFマウントに変更しなくてはならない。そこはDZOFILMのインプレッションを結構やってきたので、お手のものとスイスイとPLを外し、EFを取り付けたのだが…。

何かおかしい。装着イメージの写真を撮っていて違和感が漂っている。何だろうとよく見ると、レンズサポートが横に来ている。しかも、3580の表記も上に。一瞬「こういう仕様?」と思いかけたが、そんなはずはない。レンズサポートが横にあったら、アクロバット的にセットしなくてはならないのだから。でも交換の時にレンズ側とマウント側のネジ穴は合わせて取り付けた。

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カメラに装着して取り付けのミスに気づく

逆に言えば写真の通り、不規則なネジ穴配置なので合わなければ取り付けられないはずなので、取り付けられたのだから合っているはずだ。不思議を通り越して、マジックを見ているかのような気分になったが、この状態が正しいとは思えないので、マウントを外してみることに。そしてネジ穴を見つめながら、「合ってるよなぁ」と呟いてると、ふと気づいたことが。

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ネジの位置は不規則なのだが、なぜか90°違いでも取り付けられた

レンズ側にSIMの位置決めのために突起が出ていて、SIMの凹みをその突起にはめ込むことで正位置を確認するのだが、それはマウント側でも共用なのだ。そこを意識せず、ネジ穴位置だけで合ってしまったので、そのまま取り付けていた。取り付けている時に違和感があってもおかしくないのだが、取り付けられてしまったことにより全くそれを感じさせなかったのだ。ここは自分で行う時の要注意点だろう。

一方、Catta Zoomはネジを外して交換というタイプではなく、メカニカルに取り外しができる。ただこの操作法を迷うのは前回のレビュー通りで、今回も案の定パズルをしている感覚に。LOOSE・TIGHTと書いてあるダイヤルを回して操作するのだが、思い出すのに数分かかった。ただネジを取り外ししての交換ではないので、やり方さえ覚えてしまえばとてもイージーであり、そうそうマウントを交換することはないにせよ、ありがたい機能である。

二者を比べて、マウント交換はCatta Zoomに軍配が上がる。なぜこの方式をCatta Aceに採用しなかったのかが、逆に不思議なくらいである。せっかく開発した良い機能であるのに、もったいない。

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Catta Zoomのマウント交換はネジが使われておらず秀逸である

フィルター取り付け

マウント交換も済ませ、次はフィルターの装着チェックをすることに。やはりDZOFILMの前向きな挑戦だと思う一つが、この操作性の改善を追求しているところだろうか。特にNDフィルターは外撮影の場合には必須であり、急いでいる時には装着が面倒になるものだ。RED KOMODO(以下:KOMODO)の場合、標準マウントがRFなので、RFレンズを装着の時にはその煩わしさを味わっている。ただEFマウントのレンズを取り付ける時にはキヤノン純正のドロップインフィルターマウントアダプターをかませている。EFマウントのレンズを取り付けた時には、前玉側にネジネジしてフィルターを取り付ける作業からは解放され、負担軽減となっている。

Catta Zoomにはレンズ自体にドロップイン機能があり、前回の使用感でも特筆するべきと書いたのだが、その時には前述の通りNDやらPLのフィルターオプションは発売されていなかったので試せないでいた。今回はフィルターも同梱されていたので試してみた。キヤノン製よりも小ぶりで摘む部分も小さいので、外す時にKOMODOのフォローフォーカス用ロッドも邪魔になり、若干外しづらさもあったがやはり便利である。

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キヤノン製とは違いロックがないので、スッと外せる

一方、Catta Aceは後ろ玉側に取り付けるという方法で、非常に気になる構造ではある。ただこのフィルターはPL専用のもので、EFマウントには取り付けることはできない。ここは購入時に気をつけなければならない。ということで、フィルター装着後のインプレッションは書けないが、取り付け方法で気になったことだけはお伝えしておこう。

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PLマウントにフィルターを装着

後ろ玉側への装着は撮影中に汚れや埃の付着がないことが最大のメリットであろう。ただ、マグネット方式で取り付け時はスッと引き寄せられる感じで気持ちよく行えるのだが、外す時がフィルター側に引っ掛かりがないので苦労する。何回かチャレンジして外れたが、ここで注意しなくてはならないのが、レンズ表面がすぐなので、時に指が触れてしまう可能性が高いことだ。特に手際とスピード感を求められたら、意識せず触れてしまうだろう。

また、特にNDの場合は、減光量を変えたい場合にいちいちレンズを取り外ししなくてはならないのは、面倒でありリスキーと思う。土埃や粉塵が舞っている現場では、センサー側にもそれらが付着してしまう可能性が高く、なるべくなら取り外しは避けたいものだ。

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ND4/ND8/ND16とUVカットがセットになっている

ドロップイン方式でも全く入り込まないかと言えばそれはないが、センサーが剥き出しになることはないので、リスクの高低で言えばドロップイン方式の方が良いであろう。

最近は前玉側にマグネット方式でフィルターを取り付ける仕様も出ているので、そちらの方が操作性、リスク面では良いかと。ただ後ろ玉タイプの利点はフィルター自体が小さいことと、装着後の汚れがつかないことだろう。当然携帯性も良くなる。自分の選択としては、ドロップイン方式→前玉側マグネット方式→前玉側ねじ込み方式→後ろ玉側マグネット方式といったところだろうか。ただ前にせよ後ろにせよ、マグネット方式は非常にイージーなのでとても良いと思う。

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マグネット方式なのではめる時は楽だが、外す時にコツがいる

重さ比べ

次は本体の比較だが、重さはあまり変わらず、同じズーム範囲の70-135mmで比べた場合、Catta Aceは1,710g、Catta Zoomは1,597gとなっている。長さは同じマウントの仕様がないので、マウント違いでの比較になるが、写真の通りCatta Aceの方がコンパクトである。フロント径は同じ80mmで、フィルター径も同じ77mmである。そうなると100g軽いCatta Zoomの方がコンパクトに感じるのだが、手にして実機で比べるとCatta Aceの方が収まりが良いのだ。

また、Catta AceはKOMODOに対してはドロップインフィルターマウントアダプターをかませているので、単純計算するとEFマウントタイプの全長187.5mm+アダプター24.7mm=212.2mmであり、Catta ZoomのRFマウントタイプの全長212.4mmと変わらなくなる。その上100gの差があるのに、アダプターをかませる前のコンパクトさが頭にインプットされた状態だと、不思議とCatta Aceの方がコンパクトに感じてしまうのだ。

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映像テイスト

画作りに関してはCatta Aceが今回の主役なので、Catta Zoomについては前回のインプレッションをご覧いただきたい。

まずフォーカスブリージングに関してはメーカーが言うように、ほぼ感じないレベルに仕上がっている。フォーカスブリージング=安いレンズというイメージがあるが、"映画作りをターゲットにしているレンズメーカー"の意地なのだろうか。インディペンデント系のフィルムメーカーにも手の出しやすい価格帯でフォーカスブリージングなしを実現しているのは、相当頑張っていると思う。

また、"映画作りをターゲットにしているレンズメーカー"という表現をしたが、それは画作りにも反映されている。撮影してBlackmagic Design「DaVinci Resolve Studio」で開くと、「映画ルックの画だよね」となる。もちろん本機がKOMODOということもあるのだが、他のレンズに比べてもその傾向は強くみられた。

なかなか言葉では表現しにくいが、しっとり感があるのだ。ハリウッド映画など予算たっぷり、ARRI+マスタープライムレンズでディテールまでくっきりと撮れるものと比べれば違いはもちろん出るが、「でも映画だよね」と言える画なのである。

発色も目で見た感覚より若干鮮やかではっきりと出てくる。緑が強くなったり、赤が強くなったりという偏りは感じられず、バランスが良い。つまり緑は緑、赤は赤で、他の色からの影響は受けずに撮れているということだ。

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とてもニュートラルで発色もバランスが取れている
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ただ背景が明るく、被写体にアイリスを合わせると、明暗差での輪郭での色滲みは出てしまうが、焦点差の影響もあるだろうから、このクラスのレンズとしては許容だと思う。そしてボケ玉の出方がやはり良い感じである。真円に近く、ボケボケすぎず、だけど優しい感じというか。

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この画作りに関しては35-80mmでも70-135mmでも変わらず、レンズを変えたことを意識させない均一性が保たれている。ちなみにサンプル画像はRED RAWで撮ったまま、デコードをREDデフォルトにしたもので、特にLUTやグレーディングは行っていない。

さらに画のテイストを確認したい方は、メーカーのサンプル動画をご覧ください。しっかり撮れば同じクオリティは出せると思う。

選択の仕方

Catta Zoomの単独でのインプレッションで、他のレンズとの比較で選択するかしないかの判断を求められた場合、もちろん選択肢の一つになるだろう。ただ自分の主戦場はドキュメンタリー映画であり、一人での移動を考えた場合、収納という問題で立ち止まってしまうが、そこを考えずにいれるのであれば十分である。言い換えれば、車だけの移動で済む現場であれば。

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では、Catta AceとCatta Zoomのどちらを選ぶと聞かれれば、これはとても悩むところである。操作性で言えばCatta Zoomに気持ちが惹かれるが、コンパクトさで言えばCatta Aceである。装着した時の長さはさほど変わらないが、鞄に収納する時には歴然とした差が出てくるからだ。いかに隙間を作って収納を増やすかというチャレンジの身にとっては、20mmの差は意外に大きいのである。

そして画の違いはどうかと言えば、これはあまり違いを感じないのが正直なところである。どちらも「映画」をとても意識していて、その画作りをしているので、そこでどちらが秀逸であるかの議論はない。

決定的に違うのが、イメージサークルである。Catta Aceはビスタビジョンセンサーもカバーする46.5mm、かたやCatta Zoomは43.5mmである。とは言っても、43.5mmでもフルサイズセンサーはカバーできていて、ビスタビジョンセンサーカメラは「RED V-RAPTOR」の8Kクラスなので、現実的にはそこはあまり意識しなくてもよいのでは。ただRED V-RAPTORをお持ちの方は例外である。筆者の場合はKOMODOなので「どちらでも」という感じである。なんせSuper35のセンサーなので。

ただ「ほほう」と思うところがマウントでの棲み分けだ。Catta AceはPL/EF/LPLが用意されていて、かたやCatta ZoomはE/RF/L/X/Zのラインナップだ。どれも被っていないという徹底ぶりというか。特にPL/LPLがCatta Aceにしか用意していないのは、イメージサークルの大きさを必要とする大型センサー用に特化したいということではないだろうか。それからすると選択する時の基準は、手持ちのカメラに依存してくるということだ。ただ変換アダプターをかませば良いということもあるが。

松本和巳(mkdsgn)|プロフィール

東京と北海道旭川市をベースに、社会派映画、ドキュメンタリー映画を中心とした映画制作を行っている。監督から撮影まで行い、ワンオペレーションでの可能性も追求している。昨年8月に長崎の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画を劇場公開。本年4月8日から子どもの居場所を取り上げた「旅のはじまり」がシネ•リーブル池袋をはじめテアトル系で公開される。夏には長崎被爆者の証言ドキュメンタリー映画第二弾、広島の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画も公開される。テアトルシネマグループと一緒に「SDGsシェアプロジェクト」も立ち上げ、先ずは「知ってもらう」をテーマに社会課題の映画化を行なっていく。その第一弾が「旅のはじまり」であり、今後毎年数本を公開していく。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。