「デジタルサイネージ」とは?
最近よく耳にする「デジタルサイネージ」。繰り返され耳馴染みになっているがピンとこない方もいるのではないだろうか?当連載では、これからの映像業界にとっては必要不可欠なデジタルサイネージの世界を紹介していく。
映像を目にする場所は、何も家の中に限ったものではない。通信と放送の境目がなくなるように、デジタル家電もこれからは単に家の中で使用するだけのものでは、収まらなくなっている。外に持ち出すことも多くなっている。現在東京のJR山手線の車両ドア上部には液晶モニターが設置され、「山手線トレインチャンネル」と呼ばれる映像が流れている。CM、ニュース、天気、占いといった定番コンテンツに加えて脳力系クイズやワンポイント英会話などがコンパクトにまとめられて配信されている。これらは広告モデルであり、販売は非常に好調である。広義ではあるが、家庭以外の場所での映像媒体のことを「デジタルサイネージ」と呼ぶ。定義するならば家以外の場所における映像メディアであると思ってほしい。私たちの生活動線に目を向けると、すでにこれまでに多くの場所で様々なディスプレーや表示機器が設置されて情報提供されていることに気づくだろう。そう、すでに多くの場所で目にしているのである。「デジタルサイネージ」は、古くて最も新しい映像メディアといえる。
街頭の大型ビジョンや駅や空港、ショッピングモールはもちろんエレベーターまでがそうだ。しかしながらこれらのほとんどがまだネットワーク化されておらず、本来の効果を十分発揮できていない。逆に言えばネットワーク化されれば非常に強力な媒体となり得る可能性を秘めている。
次世代の広告媒体になりうるデジタルサイネージ
デジタルサイネージには広告や販促型のモデルがある。最新の市場規模は公開されていないが2005年で130億円(富士キメラ総研調査)とされており、減少し続けているラジオ広告費のさらに10分の1以下である。 そして2009年を迎える今その市場規模は大きく伸びている。さまざまな会社の参入が続き活発な動きを見せ始めている。その背景は何なのだろうか。 メーカーにとってはテレビ局の地デジ投資が一段落し、大画面テレビをはじめとするコンシューマー向けのデジタル家電製品も完全に価格競争に埋没している。当然新たな市場を探し求めることになる。クロスメディアといわれる多くのメディアを掛け合わせたプロモーションも定着し、広告主も徐々にテレビCMから他の広告媒体へのシフトをはじめていて、その受け皿はインターネットだけではなく、デジタルサイネージが「リアルな消費の現場に近いメディア」として注目されている、いや求められていると言うべきだろう。 たとえばスーパーマーケットの食品売り場担当者は、午後のワイドショーの番組内容によって商品の配置を変更し、「今日の○○で紹介されました!!」とPOPを書き直しているが、デジタルサイネージを使えば一発で最新情報に更新できる。そしてなにより配下にある携帯電話という最強端末の有効活用が期待されている。認証や属性の特定、位置情報や効果測定、そしてクーポンなど携帯電話のデジタルサイネージへの応用範囲は無限大であるからだ。
もちろんデジタルサイネージはそれ単独ですぐに既存のメディアに取って代わるようなものではなくあくまでも補完メディアである。その普及拡大のためには業界内外に対する啓蒙活動が必要だ。さらに媒体としての技術基準や効果測定や取引基準がまだまだほとんど確立されていない。またそこで再生される映像は不特定多数の目に触れるので倫理面や景観への配慮も必要になるだろう。街中が無秩序な広告の洪水になることを望む人は誰もいない。むしろデジタルサイネージによる景観形成することも可能だと考えるべきである。
デジタルサイネージのメディア特性
そんなデジタルサイネージの特性は、これまでのマス広告やカテゴリーメディアはさまざまなターゲットを想定している。おのずとマス広告の手法とは異なる。広告指標も視聴率のような数の理論以外の視点と論拠が必要だ。メディアミックスと言った詰め合わせセットのような広告手法ではなく、生活者動線というものを考えて、時間や場所や気持ちをうまく踏まえたカタログギフトのようなマーケティングが必要になるに違いない。放送と通信にもはや境界がないのと同様に、古くて最も新しいメディア、デジタルサイネージも従来型のテレビ、屋外広告とはまったく異なる新たな融合メディアになっていくものと期待している。