今回は日本のミュージックビデオ(MV)制作を先導する、豪華3組のアーティストによる夢の競演が実現した。このPRONEWSでもコラムを執筆中のTokyo Video Magazine「VIS」編集長の林永子さんを司会に迎え、三組の個性的なMV作品を中心に、かつ彼らの生の言葉から、そのクリエイティブ・マインドの一片を垣間みることができる、リッチな時間となった。

なかなか表には出てこないMVクリエーターの素顔

今回の企画は、もともと私自身がDVJ編集長時代の2006年、MVクリエーターの製作現場特集として、彼らのオフィスを訪問、その時多くの興味深く楽しいお話をお聞きしたが、誌面の都合上、その100分の1も紹介できなかったことが悔やまれ、機会があれば!ということに起因している。(DVJAPAN vol.25で紹介)

こんなにも魅力的な人たちが作っているMVクリエイティブの世界が、あまりにも世間には知られておらず、そこがもっとクローズアップされ、さらに彼らのステイタス自体も向上すれば良いのにと当時からとても強く感じていた。

もちろんMV自体は、CDセールスのためのレコードレーベルの宣伝材料の1パーツにしか過ぎない。いわゆるプロモーションビデオである。しかしあえてここでミュージックビデオという呼び方にこだわるのは、やはりそこには多くの個性的なクリエイティブ材料がつぎ込まれ、各人が心血を注いで削り出した、知恵(創造力)と、(時間制約)と、勇気(限られた予算)の結晶なのである。そんな中で、その全てを見事に結実させている彼らの作品とそのアイデンティティには、いつも感動させられる。

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丹下紘希さん、島田大介さん、ELECROTNIKさんはそれぞれ多忙を極める、日本のMV界を代表するクリエーターだ。もちろんMVだけではなくCMやWeb、TVなどの映像でも活躍されている。ただ、誰もが知る有名なミュージシャンのMV作品を手掛けているが、その詳細はここでは控えたい。なぜならば彼らはいつもミュージシャンの裏方という存在でしか認知されないことが多く、常にその憂き目にあっているからだ。彼ら個人の評価がもっと上がることが、今回のDVJ BUZZ TV開催の大きなテーマでもある。

さらに彼らの話を直接生で聞ける機会もまた希少なことだ。彼らがどんな指向性で作品作りに取り組んでいるか、お互いの作品についてどんなことを感じているかなど、普段は横の繋がりが少ないクリエーター間の交換は彼ら自身にも新鮮だったようだ。そして、このような素敵なメンバーを揃えられたのも、今回のキュレーターであり、当日の司会も務めて頂いた林永子さんの人望に他ならない。ずっと感じていることだが、林さんの活動は、彼らMVクリエーターをこよなく愛するところから全てが始まっている。そんな愛とリスペクトで溢れるMV作品紹介も、また更なる興味を深く抱かせるものだった。彼女の不変的なMV愛の姿勢にも、またリスペクトに値する。

MTVといえば…マイケル・ジャクソンよ、永遠なれ…合掌。

マイケル・ジャクソンはKing of POPだが、それ以上にKing of MVだ。つい最近マイケル・ジャクソン死去という衝撃的なニュースがあった。彼はMTVを通じてMVという作品を全世界の音楽リスナーに送り届け、最大の功労者であるといっても過言ではないだろう。

もちろん今回の登壇者それぞれ、多かれ少なかれ、『スリラー』をはじめとする、マイケルのMV作品には影響を受けているという。『スリラー』は未だ超えられぬMVの金字塔であり、現在の様々なMVスタイルの根本を作ったパイオニア作品として多くの影響を与えて来た。特殊効果など彼の生み出した作品に含まれた構成要素は全て、現在のMVの教科書的存在でもある。

「スリラーを撮ったジョン・ランディス監督は、ある意味で一番僕が目指す理想のミュージックビデオ監督です」と丹下氏が話していたことは興味深い。その理由はやはり著作権の問題だ。『スリラー』はマイケルとジョンの共作であり、彼にも版権があることから、あのMVでミリオネアになったというのは彼ぐらいだろう。実はMV界が抱えている一番の問題は著作権問題である。彼らMV監督達が世に認められるために、今後も課題は多い。

87年のBADツアーで来日した際に、『smooth criminal』の中で、マイケル本人が特許を持つ、斜め45度に直立不動で静止するワザ「ゼロ・グラヴィティ」を生で見た感動は忘れられない。MVでの疑似体験からライブでの現体験へと結ばれたことで、より大きな感動につながったことは間違いない。

さらにこの7月から予定されていたロンドン公演用に最新の3D版『スリラー』の映像が収録されており、これがもしステージで公開されたならば、大きな話題を呼んだに違いない。MVの素晴らしさを教えてくれたマイケル・ジャクソンよ、安らかに。

次回は、8月7日(金)にスペシャルイベント『The HD Digital Workflow 2009』を開催。キヤノンHDビデオカメラと、話題の新製品AJA Ki Proで小規模スタジオ&低予算で本格的TVドラマを製作するワークショップ形式の実演収録と、制作プロダクション関係者によるパネルディスカッション。 下記サイトより事前登録が必要。

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http://cweb.canon.jp/prodv/workflow2009/index.html
■DVJ BUZZ TV HP
http://www.dvjbuzz.tv(近日正式オープン)

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。