11月は、映像制作界おいて特別な月になる。そうInterBEEである。 しかし、現在、映像制作を取り巻く環境はさらに困窮を極めている。経済不況の影響から、TV局を始め各方面で制作費の削減、制作規模の縮小削減の中での開催となる。今号はInterBEE直前番外編として、現況を取り巻く制作環境と、それを受けてInterBEE2009に期待するポイントなどを取り上げてみたい。

不況の波に煽られるHD化とDSLRへの期待値

HD化が叫ばれて久しいが、現実問題としてこの不況がHD化に歯止めを掛けている。いや、むしろ逆行しているといっても過言ではない状況がある。TV局系の制作費削減は、一昨年からの企業のCM離れをよりいっそう加速化。某在京キー局の話では、大きな制作費一律削減が行われ、ついに撮影/制作をHDからSDへ差し戻すという条件までもが、経費削減条件に組み込まれているところもあると聞く。HD化への技術進歩は著しいにも関わらず、全く別の理由である経済不況の煽りで逆進しているというのは悲しい限りだ。

さらにこのところのDSLR(デジタル一眼レフムービー)の隆盛は、CMや映画だけではなく、業務系と言われるプロモーションやミュージックビデオ、ブライダルや企業案内、Webビデオの世界までも浸透しはじめ、このミドルレンジからハイアマチュアまでも、その浸透ぶりと活況には目を見張るものがある。これは日本だけのことではなく、9月のDV Expoレポートでも紹介した通り、すでに世界的一大ブームとも言えるものだ。

このブームの要因は、デジタル一眼レフが持つフィルムに近い良いルック(画のクオリティ)が、約30万円という破格の安価で入手できる、ということが最大の理由だ。果たしてDSLRが全てを席巻してしまうのか?

DSLRの死角と今後のHDビデオの行方

今後ももちろん動画制作の主流は、HDビデオになるであろう。DSLRはもともとスチルカメラであるがゆえに、様々な限界もある。DSLRが不得意な点は、長時間録画が出来ないこと。例えばキヤノン5DmarkⅡでは30分以上連続録画出来ないという制限がある。これは技術的な限界ではなく、実はスチルカメラという製品規格上の規制からくるもので、30分以上連続録画が可能な場合、国によってはビデオカメラとして既定され、その製品にかかる関税が違ってくるのだ。特に欧州ではスチルカメラとムービー(ビデオ)カメラにかかる関税が大きく違うため、メーカーとしては如何ともしがたい部分があるようだ。

元来キヤノン5Dは、銀塩カメラのクオリティを捨てきれないユーザーに対して、キヤノンからのデジタル化移行へのメッセージ的存在のカメラである。35mmフルサイズイメージャーが搭載されたのもその理由からということだが、昨年度の5D markⅡへのムービー機能搭載によって、その存在理由が大きく変わって来たことは言うまでもない。しかし課税という理由で価格が上がってしまうのでは、スチルの機能のみ望むユーザーには甚だ迷惑な話であって、本末転倒なことになってしまう。

また、構造的な部分でもムービーカメラとは違う部分が大きい。例えばその筐体は基本的にはスチルカメラとして設計されているために、長時間撮影で使用していると筐体に熱を持ち、条件によってはノイズ等の発生などの検証事例も上がっている。

こうした技術面と政治面での折衷案がどう製品に反映されてくるのか?今後のメーカー側の判断が注目されるところだが、元々ムービーカメラとして作られている訳ではないことからも、やはり動画はムービーカメラでというのは本筋であると思われる。

特に今年は、安価で高画質という切り口では、パナソニックのAVCCAM(AG-HMC155、HMC45など)に代表される小型軽量&長時間のビデオカメラに注目が集まるだろう。AVCHDの編集が面倒だ、というイメージが、ノンリニア側の機能拡張や、様々な仲介システムによって軽減されて来ているからだ。ソニーも直前にPMW-EX1Rを発表、機能アップされたが価格を下げ、DVCAM収録可能にしてHDMI端子を増設したところは、現況市場を良く反映している製品としても注目だ。また当然ながらこの時期発表が予告されていた、REDの新機種「SCARET」や「EPIC」が本当に出てくるのかにも期待大だ。

DSLRの普及の兆候にも見られたが、何も付いていない安価でシンプルな機材であれば、周辺機器もそれに乗じて様々なサードパーティが生まれ、様々なスタイルを生み出す要素が多く生まれる。シンプルこそが小型カメラの活躍の幅を拡げるのではないだろうか?InterBEEでもそうした新たな周辺製品が出てくることも楽しみの一つだ。

もうひとつのInterBEE2009を

今年のInterBEE2009も非常に楽しみだが、どうしても仕事の都合で観に行けない方、幕張まではちょっと遠いな、という方へ朗報だ。会期中は、筆者自身も生中継を会場からPRONEWSTVで行う。 さらに 次回DVJ BUZZ TVの次回開催(#8)は、12月1日(火)に、アップルストア銀座 3Fシアターにて開催(入場無料)。

 内容は「After InterBEE2009/業界専任記者が観たInterBEE2009報告」。このPRONEWSで活躍している記者の方々に、今年のInterBEEを各記者の視点からレポートして頂く、たった90分で最新映像機器トレンドがわかるイベント企画。乞うご期待!

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。