2010年1月11日から14日まで、香港会議展覧中心にて、トイ&ゲームフェア(Hong Kong Toys&Games Fair)が開催された。これは毎年開催されているアジア最大のおもちゃ関連ショーで、同時開催で、ベビー用品フェアやステーショナリーフェア、そして何より映像版権ライセンスのフェアまで併設されているのが特徴だ。今回はこのフェアの情報から、アジアの映像エンタテインメントについて掘り下げてみたい。

小粒化、均質化するおもちゃ

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会場を付属ホテルの窓から。2つのホテルから徒歩ゼロ分で会場に入れるのは魅力だ

今回も会場は、定番の香港会議展覧中心。香港にいくつかあるコンベンションセンターの中でも最大のもので、香港返還のセレモニー会場にもなったところである。現状でもアジア最大級のコンベンションセンターなのだが、さらに拡張する工事が予定されているあたりが中国系のパワーだ。トイ&ゲームフェアは、この巨大な会場の代表的イベントの一つで、香港でももっとも盛り上がるイベントの一つでもある。

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会場入り口の一つ。どこを正門と決めずにすべての入り口が適当に盛り上がっているのは香港らしい
 

今回のフェアでは、明確な流行がいくつか見られた。たとえばハイテク系では、同じ型を使ったと思われるほどそっくりなハイテクおもちゃがあちこちのブースで繰り返し見られた。中でも小型ラジコンヘリは人気で、ラジコンが集められたブースだけではなく、他のフロアブースですら扱っているところがあるほどであった。 

 

どうも元々同じ金型から生まれたラジコン筐体のため、形状そのものは、変えることは出来ない。そのためメーカー毎の違いは色違いと値段の勝負というところ。それぞれの個性が薄事はいうまでもない。 

 
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会場風景。やはり人は少なめ。コンベンションセンター内のカフェスタンドなのに鶏肉がいくつもぶら下がっているのはさすが香港
 

他にも映像関連では、電子ゲームを扱うブースなども出ていたが、そのほとんどが、昔のゲームボーイの焼き直しのようなデザインの筐体の機械面を新しくしただけで、面白味には欠けていた。香港らしい、うさんくさいどこかで見たような何十種類ものゲームが詰め込まれた据え置きタイプの機械も健在ではあったが、人は集まっていなかった。 

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ステーショナリーフェアのジャパンブース。日本らしいミニマリズムに則った文具が多い

会場全体に世界不況の直撃を受け、高価であっと驚く超高性能電子おもちゃや映像入りの派手なおもちゃよりも、量産の効く安価なおもちゃへとシフトしている感がかなり強く、おもちゃ自体に関しての新鮮味はあまりなかったというのが本音だ。この香港トイフェアは、昔は良くも悪くも破天荒なおもちゃやゲームがある場所として有名だっただけに、なんというか、小粒化、均質化してしまった感じがあるのがちょっと残念だ。 

今年は少々地味目のトイフェア本体に比べ、同時開催のイベントは新奇性にあふれていた。中でも、ステーショナリーフェアは、日本ブースが出て頑張っており、多くの耳目を集めていた。ちょっとアーティスティックに走ったデザインが多く、商売にはならないかも知れないが、通りすがりの人々が必ずカメラを構える位の刺激があり、非常に強い注目を集めていたのが印象的であった。我が国も、こういうイベント参加は、ぜひ、どんどん進めてゆくべきだろう。 

ライセンスフェアと、日中貿易交渉問題

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今回トイフェアと同時開催されたイベントの中でも、最も大金が動くと言われているのが、ライセンスフェアだ。ライセンスフェアとはその名の通り版権商売専門のフェアで、この会場を通じて世界の作品がアジア市場へと契約され、世に出て行くことになる。どこか日本企業の影の薄いトイフェア本体と違い、このライセンスフェアの主役は、ずばり、日本のアニメである。いかにして日本のアニメライセンスを有利な条件で買い付けるかに注目してバイヤーはブースを回り、ブース側も、いかにして日本側から良い作品ライセンスを揃えられるかを売りにしている。特に、今年もやはり中国本土市場を狙える作品が注目されており、中国本土市場での商売を売りにしているブースが多かったのが印象的だ。  

しかし、ここで気になるのが、このフェアに出展している日本作品を取り扱うブースの国籍だ。実は、日本作品を扱っているブースの内日本企業の占める割合は低く、その多くが基本的に日本企業ではなく、香港や韓国の企業なのだ。これはもちろん、各国バイヤーの放送ルートや映像売買ルート、あるいは日本法人の現地企業の存在などの商売上の理由がその最大のものだが、実は、中国市場に関しては、それだけではないところがある。 

 

以前から繰り返し書いているとおり、中国が共産国であるため、他国の映像作品放映に大きな制約がある、という点である。日本は中国政府との特約などが特にないため、日本製の映像作品を中国国内で映像放映するには一作品、一放送毎に政府の許可が必要で、しかもこの許可は、中国国内企業や中国政府と特約を結んだ企業以外には基本的に降りないのである。商売を考える上で、これではお話にならない。結果的に、日本の作品のライセンス利益は、ほとんどが海外の中間企業に吸い上げられてしまい、日本国内の企業にはごく一部しか入ってこないということだからだ。 

 
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ライセンスフェアの日本専門館。CoolJapanと銘打っていたが、残念ながら著名な作品はなく、人はまばらだった

また、そうした中間企業を挟むため、本来の権利者であるはずの日本企業が相手国国内に直接ライセンス権を持っているわけではないというのが別の問題を生んでいる。つまり、直に権利を持っているわけではないため、相手国内で海賊版の排除に乗り出すことが出来ないのだ。 

 

読者諸賢はご存じの通り、米国の映像企業が海外に進出するときに、最初に行うのが弁護士の雇用と海賊版の排除である。日本も、そうしたやり方を行わない限り商売としての映像進出はあり得ない。そのためにも、相手国国内で直接ライセンス権を行使することは必要不可欠なのである。日中間での貿易交渉、特に、映像放映権などライセンスの日中相互国内直接乗り込みや放送権の包括契約について、早急に進めるべきであると痛感した。今回のイベントは私の商売上役に立ったと言うよりも、特に版権ライセンスの問題に関して、色々と勉強になるイベントであった。 次回はTDC(貿易発展局)を始めとした香港映像商売事情について述べたい。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。