先日米国ラスベガスで行われたNAB2010は、PRONEWSの特集ページでもわかるとおり、十数年ぶりの大変革を感じさせる大盛り上がりの中閉幕した。今年の立体視放送と、ファイルベース&プログレッシブの低価格カメラの攻勢は、3DCGの盛り上がり以来の映像変革だというのが大方の意見だ。そんな大変革のNAB2010でも、実は、オタク的に注目すべき展示は細々と行われていた。流行の部分はNAB2010の特集ページを見て頂くことにして、ここではこのコラムらしく、どこまでもマイペースに、アジア的、オタク的視点から見たNAB2010の報告をしたい。
どこか力の抜けたアジア系ブース
韓国ブース 案内の女性も、どこか力が抜けた感じまず、当コラム的に定点観測的に注目していたのが、同じ東亜の映像系ライバル、韓国パビリオンであった。韓国は、その技術力よりも、見事な宣伝広告の手段で定評があり、NABでの毎年の展示も、それは見事なものなのだ。ところが、さすがの元気印の韓国も、この不況での疲弊があるようで、今年は珍しくおとなしい展示となっていた。特に目玉の新製品もなく、それどころか通訳をしていた美女の英語も私と同程度の怪しさという有様で、余所の国の事ながら、これで大丈夫なのかと不安を抱かせるものであった。正直言って、この、韓国の様子を見る限り、今年は我が国が韓国に対するリードを大きく取り戻すチャンスなのではないかと思う。
韓国ブース。モバイルDTV向けセットトップボックスと7インチモニタの組み合わせだが、解像度も低く、ありきたりではあるまた、中国系やその他アジア系のブースも出展していたが、これもどこか力が抜け気味。人が集まっていると思いきや、ただ雑談をしていたり、事情を聞けば単に費用補助があったので出展しました、という話だったりで、いまいちぱっとしない。これに対して、CANONやPanasonic、SONY、池上などの日本企業ブースはファイルベース&プログレッシブ路線でイケイケの超積極的展示で、好対照であった。まだまだ慢心は禁物だが、映像機器業界でのジャパンパワーが若干復活しつつあるのを感じた。そんなアジア系のNAB2010であった。
軍事系展示は力が入るも、どこか奇妙
CG映像系ブースや映像ライセンス販売ブースが激減し、低価格帯のカメラや機材ばかりがもてはやされる不況の中、力が入っていたのが、政府系、特に軍事系企業の展示の数々だ。ただし、残念ながら、去年までブースを出し続けていたBell社の攻撃ヘリ転用の空撮ヘリなどは姿を消してしまい、また、米軍系でも実際の戦車や重武装の持ち込みはしていなかった。聞けば予算の都合とのことで、こういうところからも強く不況を感じる。
NABでのオタク注目といえば、去年から始まったMilitary&Governmentサミットだろう。こちらも去年とは打って変わって初日から大賑わいであったが、残念ながら、人気と比例して秘密主義が盛り上がってしまったようで、去年の第一回の時のようなぎりぎりの軍事技術の話はほとんど聞けなかった。最初の基調講演を聴けば、後の発表は全部わかるといった具合で、2日目には基調講演以外はがら空きという状態になってしまっていた。
そんな中注目を集めていたのが2日目の基調講演を行ったHARRIS社のLANCE社長。同氏はブッシュ前大統領の友人の一人で、軍産共同体といえば彼の名前が出ないことはないほどの、現代軍事産業の寵児と言える存在だ。しかし、この講演も、残念ながら中盤になると席を立つ人が続出した。というのも、実は、このLANCE氏、大のアメフトファンで、そのため、いちいち戦争をアメフトに例えてスーパーボールの映像付きで説明をするのだ。
HARRIS社LANCE氏の軍事技術に関する講演は、常時アメフトを例に行われたイラクやアフガンのような死者を垂れ流す泥沼の戦争をアメフトに例える精神は、実のところ、ちょっとオタクの守備範囲を超える。オタク的敏感な感性としては、人の死や流血をさわやかなアメフトにしてしまうHARRIS社社長のこの感覚は理解できない。この感覚は日本から来たオタクだけでなく米国人の方々にも共通だったようで、席を立つ人が続出した次第だ。
無論、スーパーボールの中継に使われた技術のいくつかが軍事転用可能なのは間違いないのだろうが、それにしても、戦争とアメフトをほとんど完全に同一視してしまうのはいかがなものか。世間一般との乖離を強く感じる部分だ。米国からは、昨年の政権交代以降の共和党利権の凋落を伝え聞いているが、まさにそれを象徴する講演であったと言えるのではないだろうか。
ラスベガスにも散見されるオタク系文化
カジノホテル内にあるコスプレバーの入り口最後に、一歩NAB会場を出て、映像屋オタク視点でのラスベガス事情を少々。まず、定番のカジノから。不況のため、テーブルゲームでの平均掛け金が大きく下がり、1ドル単位での小さい賭が流行する中、人気が落ちないのがスロットマシンなどのカジノマシン群だ。中でもスロットマシンは、去年に比べて映像重視の派手なマシンが主流となっている。昔から定番のプログレッシブマシン「Wheel of Forturn」の25セント機でも、リールがデジタル表示に変わり、映像演出が入るようになった機械が流行していた。ここには日本のパチンコパチスロ同様、映像業界の入る余地が大いにあると感じる。
また、スロットマシン以外の機械でも、CG映像でのディーラーによるルーレットの大型筐体や、もはや定番と化したバーチャル美女相手のブラックジャックなども大人気で、ここも映像屋としては要注目。たまたま隣の席に座った米国人ギャンブラーの言葉だが「プロのディーラーの転がす、どこかうさんくさい動きのボールにイライラするよりは、バーチャルディーラーのデジタル制御乱数の方がよほど信頼できる」というのは、いかにもラスベガスらしい意見だった。この様子では、おそらく近々の内に立体視の筐体も出るのではないかと思うが、問題は立体視向け眼鏡をイカサマやクレーム等に使われる危険性だろう。
次いで、ラスベガス名物のショーの類だが、正直これは下火。不況の影響をもろに食らって、一時期のアニメ的演出などはめっきり減ってしまっていた。新しいショーも、とりあえず脱げば良いんだろ、という路線ばかりが多く「わびさび萌え」を求めるオタク的には正直食傷気味。代わりと言ってはなんだが、オタク心をくすぐる、ウェイトレスが若干お色気のある制服を着るコスプレバー、コスプレカフェの類は静かなブームになっていたようで、その手のテーマバーがいくつも生まれていた。
HOOTERSだけではなく、今やこの手のコスプレ系の店は随所にある。どこか日本のメイド喫茶を連想させる元々HOOTERSなどでコスプレバー/コスプレレストランの文化があるアメリカだけあって、過激な制服での風俗一歩手前のサービスというのは、なかなか相性が良かったのだろう。日本では萌えブームはとっくの昔に終わりを告げ、メイド喫茶の類は既に下火になりつつあるが、米国のこうしたテーマバー、テーマカフェは、もう少しの間は盛り上がりが続きそうな気配である。日本では消えつつあるそうしたオタク乗りの雰囲気を味わっておきたい人は、今の内に米国に行ってみるのも楽しいかも知れない。