AG-AF105への思い

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ホワイトバランスに四苦八苦する弊社スタッフ。手動ではきちんと決まるのにオートが狂うという珍現象に振り回された。さ、そのてんやわんやはこれから2回にわたって、お送りする

買っちゃったのである。

そう、2010年4月のNABでのモックアップで惚れ込んで、11月のInterBeeでブースに長時間張り付きまくり、ついにはPRONEWSライター陣によって「カメラに恋する変態」の称号を頂いてしまったあのカメラ、Panasonic「AG-AF105」を買ってしまったのだ。しかも、よせばいいのに業務用では禁忌とされる初期ロットを、自社決裁権を行使しまくって予約購入。

もちろん、私とて趣味のカメラマンではなく、デジタル映像制作会社アイラ・ラボラトリを率いる身。早速、サブカメラとして業務に同行させ、実際に使ってきたので、その際の運用状況やお勧め機材などをつらつらと述べていきたい。

簡単にAG-AF105を解説

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AG-AF105本体。ベースロットマウント「GENUS GMB/A」を付けた状態だ

さて、我が愛機「Panasonic AG-AF105」は、ほぼ同型のマイクロフォーサーズマウント式レンズ交換業務用カメラ「AF-AG100」の日本市場版である。マイクロフォーサーズ(以下m4/3)は、もともと家庭用入門一眼デジカメ用に作られたフォーサーズ規格の小型版で、はっきり言って、トイカメラに毛の生えたような完全民生用のカメラ規格だ。

それが何で今回、業務用のAF105に利用されているのかというと、その秘密は、極めて短いレンズフランジバックにある。元々そこそこの大きさの一眼レフカメラ規格だったフォーサーズ規格だったのだが、小型レンズのm4/3規格にする際に、思い切ってレフ板を省略してセンサーデータからミニモニタに電気的にライブ出力するデジタルビューファインダーを採用したのだ。そのため、レンズと撮影センサーの距離が思い切り短くなり、その結果、マウントアダプタを間に挟んでレンズを取り付けたとしても、撮影に十分なフランジバックの距離の近さを維持することが出来ることになったのだ。つまり、m4/3は、マウントアダプタを付けるだけで、数多くのレンズ資産を利用可能になったのである。

AF105でもこの特性を生かし、様々なマウントアダプタを介して様々なレンズを取り付けることが出来るとされている。その代わり、民生用の脆いマウントなので、大型レンズ使用の際にはレンズサポートは必須だ。m4/3は、いわゆる女子カメラも意識した力のいらない軽いマウントだけあって、取り付け後、使用中に大した力がかかってもいないのにマウントから音が出て驚くこともある。また、フォトカメラの規格であるm4/3を採用することにより、センサーサイズが従来上位機種の4倍という大きな面積になった点も見逃せない。センサーサイズの拡大によって有効口径が大きくなり、ボケ足を稼ぎやすくなっただけでなく、記録画素同士の光漏れや干渉、量子ノイズを減らし、クリアな映像を得やすくなったのだ。とはいえ、実のところAF105の実解像度は800TV本程度しかない。もちろんそんじょそこらの民生機よりはクリアな画像ではあるが、センサーサイズがはるかに小さい従来型ハイエンド機種が1000TV本程度の実解像度を基本としているところから見ると、このサイズの大判センサー機にしては、やや不鮮明な映像傾向があると言える。

記録素子本体は、民生用フォトカメラ「Lumix GH2」と同世代のものを使っているが、そのチューニングはHD記録に特化され、記録画素のみに光を集める特殊なローパスフィルタも採用している。そのため、その記録画像はGH2の動画モードよりも鮮明で、また、業務用ならではの豊富な記録設定や出力系なども大きなメリットとなっている。しかしその代わりに画素数の多い写真は撮れず、AG-AF105による写真撮影では、フレームストリップによるフルHD切り出し静止画のみとなる。RED ONEの登場以来ファイルベースワークフローで定着した感のある、カメラ同位置でのパブ向け写真には対応していないのだ。従来のテープベース機同様、別途パブ打ち用のスチルカメラを持ち歩く必要があるのは覚えておく必要があるだろう。

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キャノン端子が2系統付、しかも、端子を挿したままの状態でスイッチでオン/オフ、抵抗の有無の選択ができる。特にマイク抵抗を切り替えできるのはありがたい

記録系には、AVCHDによるSDカード2スロットのみを搭載。これはあくまでも、メインの記録はHD-SDIやHDMIからの外部記録を主眼に置いていて、本体記録はバックアップかちょい撮りのライトユース的な扱いとなっている。このことは、業務用では必須のはずのSDカード2スロットの同時記録(ミラー記録)が出来ないところからも伺い知ることが出来る。安価な民生フォトカメラマウントのレンズ交換式カメラながら、上位機種と同じ密封型センサールームを持っており、ほこりが入りにくい仕組みになっている。実はPanasonicにはセンサークリーニングサービスが無いのでこうした仕組みは必須なのだろう。

元の回路に民生フォトカメラGH2からの流用パーツを結構使っているらしく、オートホワイトバランスセンサーがなぜかレンズの上のハンドル部分についていたり、まだ煮詰め切れてない部分も散見されるが、まあ、全体としては使いやすい、優れたカメラである。いわゆる、DSLR/DSMCブーム(デジタル一眼動画ブーム)に対する、業務用カメラ側からのチャレンジとして作られたのが、このAF105なのだ。

まずは「標準ズームレンズ 14-140」+マットボックス「GENUS GWMC」

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マットボックスを取り付けての弊社スタッフの運用風景。ズームが重いので顔が必死だ

それではまず、ピーカンでの屋外撮影から。この日の撮影はプレゼン用のもので軽いものだったが、クライアントが最終カメラでの映像を欲しがっていたので、試しに、前日に弊社に到着したばかりのこのAF105をサブで運用してみたのだ。

サブ運用なので、記録は内蔵SDカードへのAVCHD記録、24PのシネライクDモードに設定し、シャッター速度は1/60にしてみた。

晴れの昼間の屋外撮影では、とにかく不意のスミアの入りが怖い。そこで、標準ズームレンズ「LUMIX G VARIO HD 14-140mm/F4.0-F5.8 ASPH./MEGA O.I.S.」にマットボックス「GENUS GWMC」を取り付けて撮影を試みた。

ズームでレンズ長が変化するため、ベースロッドにマットボックスを取り付けることは出来ず、マットボックスは専用の取り付けリングアダプター(62mm)を介して直接レンズ先端に取り付けることになる。正直ズームが相当に重くなるが、光が入るよりはマシだ。レンズ+マットボックスの重量は800グラム超えで、ズームの際にレンズマウントがカタンと音を立てることもあったが、そっと扱えばなんとか乗り切れた。

しかし、ここで問題発生。AF105はレンズの位置が低いため、カメラを三脚から外して置いたときに、マットボックスで本体を支える形になってしまうのだ。これでは、レンズマウントに強い力がかかってしまうことになり、好ましくない。急遽、ベースロットマウント「GENUS GMB/A」を取り付けてみた。マイクは、弊社にはステレオ収録の要望が多いので「AZDEN SMX-1000」をセレクト。このマイクは長さがあるので、安価ながら結構いい音を撮ることが出来る。どうせ弊社は音はやらない会社なので、この程度のマイクで充分なのだ。

ピーカン屋外撮影での初期の基本形態がこのスタイルになったが、このスタイルでは、三脚から外したときのバランスが悪く、非常に手持ちがしにくいという問題が出た。三脚でも、足場が悪いところではカメラの安定性が悪く、少々苦労した。

試しにこのスタイルに、ショルダーストック「VariZoom VZ-1 Shooter」を付けてみたが、バランスが悪く、全くまともな映像が取れなかった。どうも、AF105は、レンズが低い見た目に反して、かなり重心が高いカメラのようだ。何を撮ってもぐらついてしまう。  木に駐まっているトンビすらまともに撮れず、まるで家庭用ビデオの素人のような映像に、スタッフ一同ちょっと落ち込んでしまった。手ぶれ防止装置も付いているのだが、それを付けてもバランスが悪くてぶれてしまうのだ。

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三脚用GENUSセットにVZ-1を付けてみたところ。撮れなくはないが、正直、トップヘビーでバランスは悪い

とりあえず、最初は三脚載せで、全部オートで何カットか撮ってみたが、マットボックスを使うと、オートホワイトバランスが急に取りにくくなった。マニュアルを読んでみると、なんと、オートホワイトバランスセンサーが上部ハンドルの根本に付いていると書いてある! そんな位置に付いていたら、当然、マットボックスに前方を遮られて、ホワイトなど取れるはずもない。我々制作では滅多に使うことのないオートホワイトバランスだが、報道系では必須のものだ。自社運用には問題のないものの、少々心配になった。

実はこの日のメインカメラはEOSだったので、カラー照度計を持ってきてなかった。そのため、結局、見た目で色温度を合わせて撮影に挑んだ。後でデジタルでいじれるとは言え、少々不安だ。また、色温度を合わせたとしても、このカメラはどうしても色味が黄に寄り、緑がかりやすい傾向が強い。収録の際には、後のカラコレを考慮して、ダイナミックレンジをたたみ込んで収録できるDRS撮影モードを入れるのは必須だろう。

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なぜかオートホワイトバランスセンサーは、レンズの上「Panasonic」の文字のところに付いている。この位置では見事にマットボックスに隠れてしまう

結局、この初回の映像は、業務に使うには手間のかかる使いにくいものになってしまったため、メインカメラとして持ってきていたEOSの方を優先して業務に回した。  しかし、カメラ到着翌日のぶっつけ本番にしては、それらしく回す事が出来たのは僥倖だった。極めて素性の良いカメラだということが出来るだろう。習熟時間ほぼゼロの状態で、予備のカメラとしては、充分に使えたのだからたいしたものだ。

という事で更なる試みは、後編へ続く!

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。