安価で高性能、AG-AF105にベストマッチなリグ、ikanリグ!  

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ikanのリグキット「Super Fly」。必要なものが揃い、シンプル且つ頑丈。しかも安価。今回はここからトッププレート以外を取り付け「Deluxe Fly」と同様のキット内容で運用

一回目から、時間が空いてしまったが、AG-AF105を使いまくりである。さて、今回は、屋内/夜間向け撮影に使ってみた。とはいえ、こちらもゲームムービー向けのプリプロで、実はもっと安価なSD映像でも充分なのだが、暗所での撮影希望と、画角の要望が多かったので、思い切ってテスト運用中のAF105を使ってみたのだ。

実はとても重要なポイント。私は、AG-AF105の大きな利点の一つは、そのコストパフォーマンスの高さにあると思っている。AG-AF105は、レンズマウントにm4/3を使用しているため、そのランニングコストの安さは際立っている。つまり、弊社のような小規模プロダクションであっても、自社でカメラやレンズ群を所有して、いつでも使うことが出来るのだ。

従来、シネライクな映像が欲しいとなれば、例えば最安値の撮影セットとなるCanon EOS 5D mark2であったとしても、レンズ群やカメラサポート類を自社で全部揃えるのは不可能で、必ずレンタル業者さんに事前に確認した上で、いちいちコストを払ってカメラ周辺機器を借りてくる必要があった。ところが、AG-AF105であれば、どんな高いレンズでもm4/3ならばせいぜい10万円程度で買うことが出来る。周辺機器もDSLR/DSMCの安価なものが流用可能で、しかも、AVCHDフィニッシュで構わない映像であるのなら、高価な出入力系キットも特に必要ない。あたかも大手制作スタジオでもあるかのように、いつでも必要なときに使い慣れた機材を手にして撮影に入れるというのは、何とも心強いものなのだ。しかもその画質はフルHDの中でもずば抜けていると来ているから、嬉しい。

さて、まずは前回の反省から、実運用向けにリグを組み直してみた。ベースロットマウント「GENUS GMB/A」の代わりに、お借りしたikanのリグ「Super Fly」をトッププレートを外して運用。事実上の「Deluxe Fly」モードでの運用だ。

このikanの「Super Fly/Deluxe Fly」は元々はDSLR/DSMC用のリグだ。しかし、小柄で丸っこいAG-AF105には、ビデオ用のリグよりもこのDSLR/DSMC用のリグの方が適しているようで、非常にバランス良くなった。このリグに、弊社の秘密兵器でもあるフォローフォーカス、ikan「F3 Friction Follow Focus」を取り付け。このikanのフォローフォーカスは、非常に変わっている。

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ikan「F3 Friction Follow Focus」。ギアではなく、ゴムリング式のフォローフォーカスだ

まず、フォローフォーカスおなじみのギアが無い。その代わりに付いている二つの車輪が、とても柔軟性のあるシリコンゴムで出来ている。次に、普通であればレンズに取り付けなければ行けないギアベルトもない。ギアベルトの代わりに、この、フォローフォーカスのゴムを強く押しつければ、それだけでフォーカスリングを回せるようになるのだ。 あまり力がかかるとゴムが滑ってしまうので大型レンズには正直不向きだが、元々が女子カメラ用途でもあり、力のいらないm4/3のレンズならばこれで必要充分。しかも安い!

実は、m4/3ではギア式のフォローフォーカスは、レンズ長が足りずに設置すら出来ない機種も多い。また、m4/3には、鏡胴が細く、レンズが小さく、沈胴フォーカスのレンズが多く、さらにフォーカス回転方向も業界標準のCanon型と逆という特性がある。従って、AG-AF105でm4/3レンズを使ってフォローフォーカスを使用したいと考えている場合には、ギアに動きを限定されるギア式フォローフォーカスよりも、今のところこのikan「F3 Friction Follow Focus」が一番安全な選択肢と言える。

必殺!NOKTON 25mm F0.95!

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「NOKTON」に付けたOリング(トイレ配管用、未使用!)。 口径55(内径53mm)のものがベスト

このリグに、我が社の必殺レンズ「コシナ NOKTON 25mm F0.95」を取り付けた。誤字ではない。F0.95。訳のわからないと表現して良いほどの明るさの大口径レンズだ。市販レンズの中ではライカのフルサイズレンズ、「NOCTILUX 50mm F0.95」と並んで、世界最大の口径となる。焦点距離がフルサイズの半分になるm4/3であるから、フルサイズ換算で50mmに当たる焦点距離。つまりこのレンズ、このぶち抜けた口径でありながら、常用標準レンズなのである。

実は、私がこのAG-AF105を購入した最大の理由が、この「NOKTON」にある。世間にカメラは多いといえども、F0.95という世界を見せてくれるレンズは、この「NOKTON」とライカ「NOCTILUX」しかない。そして「NOCTILUX」は日本円で100万円越えの高額単玉レンズで、しかも映像に使うには癖もあり、とても手が出ない代物なのだ。

もちろん、AG-AF105はm4/3なので「NOKTON」では有効口径は減ってしまう。そのため、ボケ足の量は「NOCTILUX」には敵わない。しかし、その明るい世界は、鮮明にイメージを描き出してくれる。しかも、10万円前後と非常に安価なレンズだ。そして「NOKTON」が付く唯一の業務用映像カメラが、AG-AF105なのである。正直言って、このレンズのためだけにAG-AF105を買う価値があると言っても過言ではない。

ただしこの「NOKTON」、映像に使うにはちょっと工夫が要る。まず、絞りリングがスチルカメラ向けのクリック段階式になっている。そっと回せばさほど不自然無く光の加減を変えられるが、慣れるまでは苦労するだろう。

次いで、フォーカスリングが、かなり極端な凹凸になっているという問題がある。そのためフォローフォーカスが凹の部分で滑ることがあり、ちょっとした工夫が要るのだ。弊社では、このフォーカスリングに、トイレなどの下水工事用のOリングパッキンを2つ巻いて使用している。手で回す際にも回しやすくなり、非常に便利だ。

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ikanを使った室内撮影用標準リグセット。ダブルハンドルが操作しやすい

この「NOKTON」、とにかくレンズが高性能すぎて、絞りを開いた状態だと、カメラ付属のモニタ程度ではまったくピントが見えない。左側、ユーザ1ボタンにディフォルト配置されている輪郭強調を用いても、全く見えない。本格運用には外部モニタが必須だし、さらには現場でのピント確認用のMacは必須だ。

もっとも、AG-AF105の標準感度はF8.0なので、無理にF0.95で撮る必要がある場面もそうそう無いとは思うのだが、暗所での撮影や、どうしてもボケ足が欲しいときなどには、外部モニタは用意した方がいいだろう。弊社では、今回の撮影で、外部モニタの準備がなかったため、MacBookを外に持ち出して、撮影の度にデータを読み出してピントを確認するという面倒なことになった。しかも、AF105はAVCHD収録だけに、ファイルコピーではなくいちいち取り込みソフトで取り込む必要があり、大変面倒であった。さて、こうして工夫した弊社標準リグセットが、これだ。

このリグでは、ikanの「Deluxe Fly」準拠のリグを使うことにより、ハンドルを二つ手前に作る事に成功している。これにより、非常にコントロールが楽になったのはもちろん。三脚から外した際にも運用が楽になっている。狭い室内では、パン棒を畳んでしまって、このハンドルで動かすことも出来、大変便利であった。

重宝する為に必要なサードパーティーガジェット

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ikanを使った、ショルダーリグセット。ビデオ用のベースと違い、大変安定した運用が出来た

三脚から外したikanのリグセットは、そのままVZ-1に載せても安定する。そのまま高架下に移動して、ショルダーでの歩きながらの撮影も余裕で行えた。ikanのダブルハンドルは本来DSLR/DSMC用のものだが、同じように丸っこいAG-AF105でも、大いに役に立ったのである。しかも当たり前だが、同じikan製だけあって「F3 Friction Follow Focus」との相性も良い。

実は、今回使用したレンズ「NOKTON」は沈胴式のフォーカスを行うため、マットボックスをベースロッドに取り付けることが出来ない。ただでさえ重いレンズに重いマットボックスが付くことになり、フォローフォーカスの重さが心配であったが「F3 Friction Follow Focus」は、力加減の難しいショルダースタイルであったとしても、難なくフォローリングを回して見せた。調子に乗って、ビデオライトもマットボックスを被写体に映り込ませないよう高々と仕込んでみたが、ikanのダブルハンドルのお陰でこれも難なくこなし、床置きする際にはカメラの足となってカメラを安定させてくれた。はっきり言って、ikan様々の撮影となった。

撮影から編集へ

さて、こうして無事に室内撮影と夜間撮影を終え、編集を行ってみたが、愛機MacBookProに入れた「Final Cut Pro 7」では、いちいち取り込み作業が入るのが気になった。これもAVCHDならではの問題だ。FCPではなく「Adobe Premiere CS5」であればAVCHDであっても64ビットネイティブで編集できるので、AG-AF105の内蔵SDカード収録を使う場合には、ひょっとすると、そちらの方が向いていたのかも知れない。

次の撮影では、HDMIからApple ProRes422形式に直に取り込める「Atomos Ninja」を試してみるつもりだ。これならば、内蔵SDカードをバックアップとして、「Ninja」の方をオンライン素材に使えるのではないかと妄想しているのだ。実は、「Ninja」も既に発注済みである。なにしろこの「Ninja」、10万円を切る値段と、この性能にしては信じられないくらいの安価なのだ。

「NOKTON」といい「Ninja」といい、こうした安い高性能機材がどんどん使えるのも、民生品と共用パーツの多いm4/3機であるAG-AF105の特性。弊社のような零細映像会社が、こうした機材をどんどん買いそろえて手元に置くことが出来るのが、やはり、このAG-AF105の一番の利点ではないかと思うのだ。今後もどんどん可愛がってやりたいカメラである。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。