増加するMac対応
11月はInterBEEもあり、今年は例年以上にカメラの新製品が各社から出てくるので、それを取り巻く周辺も含めて見逃したくない製品が映像分野では多くなっていますね。SONYはF65、CanonはC300、そしてREDからはついにScarletが登場しました。思い返せばInterBEEで展示されるカメラは放送局が主な納品先で、それに関連するプロダクションがENGカメラやスタジオカメラに注目する、というのが10年くらい前までの業務用カメラでした。
その後、ビデオカメラの記録メディアにテープ以外のフォーマットが登場した頃から、カメラ製品はビデオカメラに限定せずにデジタルカメラへと移行していきます。そして、RED ONEという黒船が映像業界に維新をもたらしました。価格もさることながら、解像度、記録するフレームレート、RAWデータという得体の知れない記録フォーマット。これらがすべてそれまでの製品をひっくり返しはじめました。これと時期を合わせるようにして、ワークフローという言葉が撮影からポストプロに広まっていきます。単にカメラの映像を記録して編集に渡すだけだった時代から、ファイル記録により選択肢が増えると同時に、不確かな手法が制作現場に混乱を招くことも増えてきました。ワークフローを端的に言い表せば、ファイルをひとから人へリレーションすることです。この時ひとが使うのがコンピュータです。
ワークフローでQuickTimeを基本にすることは、映像業界の暗黙の了解になっていると私は感じています。それは言い換えるとMacintoshを使うことです。CGIの現場ではWinowsの普及率が高いとはいえ、制作会社や編集、オーディオポストでは今やMacはスタンダードになりました。WindowsNTが登場した頃に、それまでのMacの不確かさに辟易していたユーザーの声を受けて、ユーザーは一斉にスイッチしました。そして数年前から、Macへの大きなスイッチのような業界の動きは無かったとはいえ、気がつけばいろんなモノがMac対応になっている時代になっています。カメラメーカーの対応ドライバはWindows版が先行して、数ヶ月してから不完全なMac版が追いかける、というのがこれまで多かったのですが、今やMac版ソフトも同時にリリースされることも珍しくなくなっています。
それに対してAppleは?
AppleはMac OS Xをなんとか普及させて認知させるために、Mac OS X10.2から10.3の頃からプロフェッショナル分野に注目して、積極的にFinal Cut Proをアピールしていました。安価なMac版オンリーな編集アプリにより、フリーランスのディレクターを中心にFCPが爆発的に広まっていきました。プロが使うための安定した環境はMacにしかない、そんなマーケティング戦略は技術的にも正論で、さらにスタイリッシュなMacによりAppleファンは次第に増えていきました。
気がつけば、無理にプロに対してFCPを売り込まなくても、勝手に顧客がAppleの映像制作環境を買ってくれるようになっていました。この頃から徐々にAppleは、モバイル路線に航路の変更をはじめていました。最初は小さな角度の方向変更でも、みんなが気がつけばすでにこれまでの路線とは大きくモバイル方向に進路を切っていました。
今年AppleはFCS3の後継として、まったく新しい概念のFCP Xをリリースしました。この時点で既存ユーザーは面食らったとはいえ、私たちのAppleはそんなドラスティックなことをするはずが無いと思ったでしょう。映像業界を見捨てるわけが無い、というような感情的な視点もありました。私はAppleは決して映像業界を見限ったとは思いませんが、これまでの映像制作スタイルは見限ったと見ています。古いものがすべて効率が悪いとは思いませんが、気がつかないうちに身体の一部分に血液の循環が悪くなった部分があるのであれば、それは早期に措置をせねばなりません。Appleは映像業界のそんな鬱血した部分を冷静に見ていたのでしょう。
AppStoreが始まった時にも書きましたが、Appleは重厚長大なものには全く興味がないのだと思うんです。なぜならAppleは人間ひとり一人を見ているからです。大きすぎるモノには、ひとは振り回されがちです。もっと人間がひとり一人が自由な発想で、何者にも束縛されずに進むべきである、そんな思想を故スティーブ・ジョブズから私は感じ取っています。
タスクは分割細分化する
Macintoshラインナップで映像業界に大きく根付いている製品は、なんと言ってもMac Proでしょう。どんな制作会社に行っても一台は必ず置いてあるのがMac Proです。これは映像分野で使うビデオI/Oハードウエアが、PCI-Expressバスを必須としていたからとの事情もあります。またメモリの実装量の拡張や、HDDの追加のためのベイも複数あったという点も理由です。Appleは間違いなくモバイル方面に舵を切りました。Mac Proが時間を待たずに今のスタイルを大きく変えることは、今や業界ではみんなが覚悟しはじめています。さらに言えば、この先Macのラインナップも、ドラスティックに変更されることもあるでしょう。これは映像業界の事情は全く関係なく、Appleが目指す方向に向かってまっすぐに突き進むからです。
もしMacが映像業界で使いにくくなるとしたら?Windowsを選択するでしょうか?いやそれは無いでしょう。昔WindowsNTへスイッチした現象は、もう二度と起こらないと私は確信しています。あるとすればLinuxへのスイッチでしょう。しかし、これもなんだかまだ明確にイメージはできません。モバイル化することで、ハードウエアやソフトウエアはコンパクトになります。そうであれば、私たちユーザーも意識を変えてタスクをコンパクトにするのが、私が考えるこの先の未来です。ひとつのシステムで何から何までも解決できてしまう魔法のツールは一見して便利な気もしますが、もしもそのツールが無くなってしまうことを想定すると、怖くて使い続けられないと私は考えます。Appleもこの先ドラスティックに路線変更をして、FCP Xの時のように業界を激震させるのなら、これからはそれに振り回されないように、自分の仕事を小さな単位に分割できるように設計変更するのが安全です。もしもメーカー側の都合でそのひとつのピースが無くなってしまうのなら、別の代替えピースを探すのです。見つからない場合にも大きな致命的な穴にはなりにくいのです。
他の選択肢も用意する
小さなピースにしておくことで、最近話題のワークフローにも柔軟に対応できるという利点もあるでしょう。まさにレゴのブロックを置き換えるように、ワークフローのピースは置き換えが可能なのです。そしてピースの代替え策は、日々模索していなくてはなりません。
この先もMacは業務で使えるか?この問いに対する私の答えは、もちろん使い続けられる。です。ただし使い方は徐々に方向修正が必要です。FCP Xがリリースされた時に私が感じたのは、編集作業はもっとコンパクトになるべきだということでした。純粋にカットをつなぐことにもっと注力するべきだとも感じました。自分の使う道具はたくさんある方がいいのですが、あまりたくさん持っていても腰に付けると重たくて身動きが遅くなってしまいます。フットワークよくするためには、使う道具もシェイプアップが必要なのではないかと思うのです。
Appleはこの先も独自の道を進んでいくでしょう。そして、製品化されるモノ達は、きっとひとり一人が取り回ししやすいくらいのコンパクトなツールでしょう。決して重厚なものではないと、私は想像しています。