2012年8月末、ついにBlackmagic Cinema Camera(BMCC)が出荷開始された!今回は、早速入手したBMCCのファーストインプレッションをお届けしたい。

ついにやってきたBMCC!

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BMCC!!ついに夢のカメラが手元に!!なんとレンズキャップが金属製

NAB初日の衝撃の発表から4ヶ月半。ついに手元に来たBMCCを徹底的に分析してみよう。まず驚いたのは箱が美麗だということ。まるで、Leicaを連想させるコンパクトで綺麗な外装。業務用カメラの段ボール箱に慣らされた身には驚きだ。がらにも無く箱開けの儀式の風景をブログに載せてしまった。箱の中には、なんと、DaVinci Resolveのハードウェアキーが封入されていた。てっきり、BMCCをハードウェアキー代わりにする簡易システムかなにかだと思っていたので、嬉しい驚きだ。DaVinci Resolveは業界標準のカラーグレーディングソフトで、これだけでも別に買えば83,980円の価値があるまともなソフトウェアだ。そういう点を計算すると、このBMCCは恐ろしくお得なカメラであることが理解できる。なにしろ、今までこうした本物のシネカメラは最低数百万円していたのだ。それが、DaVinci Resolve付きで25万円強。信じられない激安価格だと言っていい。

そして、シネカメラという言葉から受けるごつい印象には似つかわしくない一眼レフ風の高級感溢れるストラップと共に、ごろっと丸いアルミ削りだし形状の本体が入っている。取り出そうとしてその重さに驚き、レンズを付けようとして更に驚いた。なんと、このカメラ、本体レンズキャップが金属削り出しで出来ているのである。はっきり言ってやり過ぎと言っていいほどの高級感だ。本体レンズキャップなんて、カメラ付属品でいの一番に無くしてしまうものの代表格だが、これはさすがに無くせない。しっとりとした質感のカメラストラップを付け、レンズを付けると、これがなかなか見栄えがする。これに、近所のヨドバシカメラで買ってきた激安RIGを付けてみたが、これはこれで案外使えた。正直、とても25万円台の激安シネマカメラには見えない。

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シンプルスタイルのRIG。トップハンドル以外ヨドバシカメラで全部揃えてみた。これでも充分

無論、私もプロの端くれなので、本格運用のためにちゃんとしたRIGも組んでみた。ZACUTOのBMCC専用RIG「ZACUTO BMC Stinger」をあらかじめ導入してあったので、それを装着。レンズは「SIGMA 10-20mm F3.5 EX DC HSM」。マイクは市販品の「オーディオテクニカ AT9940」を使用。レンズもマイクも民生品だが、EFマウントとノーマルオーディオ端子装備のため、これで必要充分な機能を発揮する。

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弊社業務向け豪華版のRIG。ZACUTOのBMCC専用RIG「ZACUTO BMC Stinger」を装着したところ。カメラ本体と同じくらいの値段がするが、その価値はある。特にトップハンドルは手放せない

注意点として、内蔵SSDはメーカー指定のものを使う必要がある。それ以外のものはエラーが出て使えない事が多いようだ。格安ノンブランドSSDが使えない分高く付くが、REDなど他のRAW収録機ではそもそも市販のSSDが使えず、メーカー製の超高額SSDメディアしか選択肢が無いところを考えると、他のカメラよりもずいぶん安上がりだと言っていいだろう。私は、格安で手に入れた「Kingston SSDNow V+200 240GB」を5枚導入した。BMCCの2.5K RAW収録で約25分の収録が可能なので、5枚もあれば十分だと言っていいだろう。SSDのフォーマットや収録データの消去はカメラ本体ではできないので、Macとの接続機器が必要だ。私は、定番の「裸族のお立ち台」を用意した。

バッテリーはBMCC本体に内蔵されているが、最大カタログスペックで90分、実用で1時間程度の使用時間だ。充電に2時間かかるため、これはあくまでも非常用のものと考えて追加バッテリーの準備を進めている。現在のところまだ適切な市販品が無いので、おなじみSYSTEM5の特注品でNEP社が制作しているSONYインフォリチウムL 2発直列搭載のバッテリーシステムの試作品をお借りして使ってみた。Vマウント仕様のものも同時にお借りできたが、自分の好み的には、世界中どこでも手に入って運用の楽なインフォリチウムLバッテリーの方が気に入っている。BMCCの、16mmフィルムカメラ的なローバジェットフィルム~ハイアマチュアという使い方には、世界中で気軽に入手できるインフォリチウムLバッテリーの方が向いている気がしたのだ。BMCCは12V~30Vまでの広い電源受け入れ能力を持っているので、この辺は他の機器で普段使っているバッテリーや好みの都合でいいだろう。

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バッテリーシステムはNEP社製のインフォリチウムL 2発搭載のものと、Vマウントバッテリー搭載のものをお借りした

BMCCにはSDI端子もついている。ただ、本体のモニタ性能が良いので、特にサブモニタやEVFの必要性は感じなかった。付属のUltraScopeを用いて、Thunderboltを搭載したMacで確認しながらの撮影も対応しているようだが、これは今のところ英語版OSのみの対応となっているようだ。日本語OSでの対応が楽しみである。

さて、これだけで撮影準備が完了だ。本体込みでも40万円から、Macを入れても60万円程度で本格シネカメラの運用が出来る。今まで最安値だったRED SCARLET-Xですらも、格安と言われながらも200万円弱程度の運用開始コストだった事を考えると、恐ろしいほどの価格破壊だと言える。

シネカメラでの撮影方法

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RIGを使った撮影シーン。ビデオに比べてシャッター速度が固定で感度も低めなので、慎重に!

さて、Blackmagic Cinema Camera(BMCC)はシネカメラ(シネマカメラ)である。その仕組みは、この価格帯ではおなじみのビデオカメラとは明確に違うものになっている。一体ビデオカメラとシネカメラは、どこが違うのだろうか?

シネカメラとは、極論を言えば、フレーム単位での収録を行い、そのフレームごとがきちんと一枚の写真として成立するようなカメラのことである。ビデオカメラが動画ファイルの作成を行い、なめらかな動きそのものの収録を目指すのに対して、シネカメラにおいては各フレームごとの完成度の高さを目指す。シネマ=映画とはすなわち活動写真であって、その本質は写真としての完成度の高さにあるのだ。

実は、シネカメラはカメラの使い方もビデオとは根本から異なる。まず、シャッター速度(シャッター開角度)は基本的に180度、もしくは172.8度、場合によっては144度固定となる。度数表示の180度というとビデオに慣れた身にはわかりにくいかもしれないが、これは1/48秒。172.8度とは1/50秒のシャッター速度だ。映画は、表示フレーム24コマとそのフィルム移動中の真っ暗な非映写コマ24枚の、合計48コマで1秒を形成している。撮影されたフレームのブラー効果が前後フレームへ継続することを考えてこれに合わせてシャッター速度を設定するので、シネカメラのシャッター速度は固定となるのだ。

本来であれば天然光の下では180度(1/48秒)の設定が好ましいのだが、東日本や欧州の電気周波数が50Hzである為、室内灯のフリッキングを押さえるために敢えて172.8度(1/50秒)のシャッター速度を用いることも多い(西日本や米国では60Hzの周波数のため、蛍光灯のフリッキングを押さえるために144度を使うのだが、BMCCではこれもあらかじめ用意されている。ただしこちらは屋外で常用すると若干パラついて見える可能性がある)。

またISO感度も基本的に固定である。このカメラ、BMCCではISO800が常用ISOなので、ISO800での撮影が最も広いダイナミックレンジで収録できるように出来ている。そのため、ライティング環境が許すのであれば、出来る限り原則としてISO800、もしくはそれよりも低いISO感度で撮影をして行くことが望ましい。ただしこれはフィルム時代のフィルム感度に当たるものなので、特段の事情と演出意図があれば変えていいものだ。

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BMCCのメニューを見ると、完全にシネスタイルを考慮していることがわかる。シャッター速度も度数表記だ

さて、実はここにもビデオとの大きな違いがあるのだが、シネスタイル撮影では、ビデオ撮影のようにむやみやたらと感度を上げて撮ってはいけない。映画現場で口伝されている格言に「雨の日に雨を撮るバカは居ない、夜間に夜を撮る間抜けはいない」というのがあるが、あくまでもそれなりに明るい現場で撮影を行い、後から現像処理で夜に見せるのがシネスタイル撮影の原則だ。雨の日に機材を持ち出せば上手く雨粒が映らない上に壊れるし、もしも本当に闇夜に撮影すれば…当たり前だが、そもそもフィルムが感光しないのだ。

ちなみに映画においてBMCCの常用感度と同じISO800のフィルムは「超高感度」に当たる。従って、BMCCは超高感度フィルムを使っているのと同じ扱いを心がければいい。同様に「中感度」フィルムはISO100~200程度、手に入りやすい高級な「高感度」フィルムでもISO400~500だ。BMCCの最高感度であるISO1600は、恐らくアマチュアではムービーメーカーですら触ったことが無い人も多いのでは無いかと言うほどの超高感度にあたる。ビデオ目線で見るとBMCCのISO1600という数字は低く思えてしまうが、シネカメラとしては必要十分な機能を備えていると言えるのだ。最近では、ビデオカメラメーカーの思惑で、シネカメラを謳うのに暗所撮影能力を最大のメリットとして誇っているような風変わりなカメラも大手を振って出ているので混乱してしまっているが、BMCCは本来のシネスタイル撮影にこだわったカメラだと言えるだろう。

正直、私は撮影していて、非常に気持ちが良かった。BMCCでは、こうして固定したシャッター速度とISO感度に対して、照明を焚き、あるいはNDで減光し、絞りを合わせて撮って行くことになる。現場にカメラの設定を合わせるのがビデオだが、カメラに現場の設定を合わせるのがシネスタイルで、BMCCはまさにシネカメラなのだ。なお、シネスタイル撮影では、ビデオに比べてシャッター速度が遅めなので、三脚やRIGは必須と言える。BMCCでもこうしたカメラ固定機材を使っての撮影が基本となるだろう。

デジタルフィルムの王道、RAW収録でハードに使おう!

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RED RAWのDaVinci Resolve設定項目

BMCC最大の魅力は、なんと言っても連番RAWデータ収録の出来る最安値のカメラだ、というところだろう。RAW収録ではセンサーデータを生(RAW)で記録しているため、ビデオカメラであればエンジンがリアルタイムで処理してしまっているような過程の多くを後からクリエイター自身の手で行うことが出来る。例えば、RAW収録の元祖とも言えるRED RAWであれば、感度のデータを豊富に持っているため、後処理でISO感度や色温度を大きく変更しても画質が劣化しない事で知られている。カメラの感度や色温度そのものが後処理で変更できるというのは衝撃だ。果たしてBMCCのRAWデータはどういった性質を持っているのだろうか?

実際に試してみたが、BMCCのデータではISOこそ変えられないものの、露光(Exposure)は大きく変更することが出来、また、色温度は自由自在に画質劣化無しで変えることが出来た。大体、一般的なスチルカメラのRAW現像と同じような操作ができると思っていいだろう。1フレーム5MBという2.5K RAWにしては軽めのデータサイズと実用性をバランスした、非常に扱いやすいものだと言えるのでは無いだろうか。

RAWデータというと大きな勘違いを受けることがあるのだが、実は、RAWとはいってもセンサーデータをそのまま非圧縮で無傷の状態で収録しているわけでは無い。実は、どんなメーカーのカメラのRAWデータであっても、不可逆圧縮をして、データを取捨選択し、相当にデータ量を落としている。生データとは言っても、それは特定項目ごとの生データであって、全データが生でそのままあるわけでは無いのだ。

それもそのはずで、センサーが本当に生で吐き出すデータは膨大で、それを全て収録する方法はまだこの世に存在しないのである。どんなカメラであれ、思い切ってデータを切り捨てることでなんとか現実的な収録状況に納めているのだ。そうなると、なんのデータを収録向けに残したのかがそのカメラのRAW収録の特徴付けを行うことになる。そしてここが面白いところなのだが、BMCCでは、カメラ独自のRAW収録形式は採用せず、Adobe Systems社の提唱する汎用RAWフォーマットであるCinemaDNG形式での収録を行っているのだ。

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BMCCによるCinemaDNGのDaVinci Resolve設定項目。明らかにREDよりも設定項目が少ない

DaVinci Resolve上でREDの設定項目と見比べてみれば一目瞭然だが、BMCCの吐き出すCinemDNGファイルでは、汎用フォーマットだけあって、REDよりも圧倒的に収録されている設定項目数が少ない。元々CinemaDNGの元になったAdobeDNGは、映画のデジタルネガ目的ではなく、あくまでもスチルカメラ用のデジタルネガだから、センサーデータからの収録データの絞り込み選択は思いきったものがあるのだ(実際のところ、CinemaDNGとはAdobeDNGのファイルを連番に並べただけに過ぎない。つまり、動画専用形式では無くスチルデジカメRAWと同じものだ)。

一例を挙げると、CinemaDNG(と、その元になるAdobeDNG)では、ISO基準データの収録項目がそもそも存在しないため、露出関連に関しては撮影後にISOカーブを動かすことは出来ず、Exposureでリニア的に露出をいじるのみになる(*1)。感度のデータがそもそも撮影時ISOを基準として大きく切り捨てられているのだ。そのため、RED RAWのように収録カーブそのものを動かしてISO感度を現像時に自由自在に上下したりといった思い切ったマネは出来ない。

しかし、Exposure部分のデータ収録はあるのでスチルカメラの現像処理程度の露出上下は問題なくできることになる。特殊なケースを除き、通常の撮影時にはある程度モニタを見て大体のISO基準と色温度は合わせているはずなので(さもなければそもそもモニタを見て撮影は出来ないだろう)CinemaDNGのExposureデータ部分のみの操作でも、現実的なワークフローを考えると十分なものと言える。とんでもない大ハズレの撮影を行ってしまった収録データについてはフォローしきれないかも知れないが、ある程度ちゃんと撮っていれば多少の感度変更は画質劣化無しに出来ることになる。この辺も割り切りの問題だ。

とはいえ、CinemaDNGもちゃんとしたRAWである。よほど無茶な撮影方法やRAW現像の動かしかたをしない限り、現像過程で画質が劣化するということはまずない。参考例で、露光過多で飛び気味の撮影を無理矢理に行った映像を、現像で手直ししてみた。見れば一目でわかると思うが、これ以上の無茶な撮影をするケースは想定しにくいので、必要十分と言ってよいのでは無いだろうか。服のレースによるモアレは気になるが、これはカラーグレーディング前から出ていたものだ。元々玉虫に変化する服を露光過多を演出するためにISO1600で撮影したのでそれが原因だろう。それ以外は安定しており、おおむね非常に素直な画質のカメラだと言っていいだろう。

また、BMCCは2.5K RAWという小さい映像サイズのシネカメラではあるが、フルHDが事実上の民生レベルでの映像流通最高品質である2012年現在では、最終出力に対し、必要十分な映像の大きさであると言っていいだろう。

BMCC by DaVinci Resolve9 (モデル:吉澤直美) from Kazuyoshi Tezuka on Vimeo.

ちなみに、BMCCのRAW映像のサイズはカタログスペックでは2432×1366であるが、実際の最終的なRAWファイルピクセル数は2400×1350となっている。センサー出力自体はカタログスペック分出ているようだが、どうも誤差の端数分はセンサーからRAW画像を作る際の演算処理過程で失われているようだ。まあ、端数は無い方が処理は楽なので、これはこれでありがたい。映像敢えて露光過多で飛び気味に撮影した撮影データをDaVinci Resolveで現像してみた。ISO1600、SIGMA 10−20mm F3.5 20mm 4500Kにて撮影。モデルは吉澤直美さん。現像後はちゃんと見られる映像になっているのがわかる。

私の手元にこのカメラが届いてから1週間程度で、まだBMCCを使い込んでいるとは言えない状況ではあり、まだまだ細かい機能や癖などは理解していない。しかし、本物のシネカメラが常に手元にあるというのは何とも嬉しいものだ。

以前、フィルム時代には、16mmや8mmフィルムカメラがそうしたクリエイター所有カメラとして活躍していたが、BMCCの場合には、フィルム現像のコストがかからないため、より手軽に日常的にどんどん撮影を行うことが出来る。しかもそのクオリティはデジタルフィルム、RAWの最高品質のものだ。ただの手元カメラというだけで無く、いわば、作品作りのためのベースツールとしても使えるわけで、今までに無かったカメラの使い方も出来るだろう。また、必要十分な機能を備えているため、学生の教育用にも最適なのではないか。いずれにしても、手元に常に置き、どんどん使い込んで行きたいカメラである。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。