カメラの性能、使いやすさ以上に押さえなければならないと言えば収録部分だ。私が自分の会社で先日購入した最新一眼レフ型4KシネカメラCanon Cinema EOS-1D Cの場合は、前回も言及しているが、CFカードに大事なカットを収録していく事になる。何よりも優先したいのは、ちゃんと撮れるかどうか、という点だ。
さて、今回の収録に使用したのはLexarのCFカードとそのリーダー。実際LexarのCFカード製品、特にカードリーダーは仲間内での評判が非常に良い。今回はレビューという名前にかこつけて、いつものコーナーで熱く語ってしまおうかと思う。とりあえず、四の五の言わずにいきなりハードに試してみて、使えるなら使える、ダメならダメとはっきり言うのが私流。消耗機材のレビューということで念のため借り増しもしたが、借り物だけでなく自分で買った製品も手元にあるので、最悪、編集部から借りたものを壊しても、こっそり取り替えれば大丈夫。思い切って真冬の諏訪湖で、雪と氷の中ドカンと試してみた。
極寒、純白の地での過酷な撮影テスト!
この日の気温は1月の長野県諏訪地方にしては非常に暖かく、朝9時の時点でマイナス4度。昼頃にはプラスまで上がった。しかしそれでも通常の家庭製品にはあり得ない、かなりの寒さには間違いが無い。何しろ、全面結氷の結果、湖面に神の渡った後と言われる氷のせり上がり「御渡り」が観測されるほどの寒さなのだ。
カメラ関係ではバッテリーが寒さに弱い事が良く知られているが、電子回路ももちろん寒さには弱い。さすがに最近はカメラのコンデンサー電解液が凍って破裂するといった派手なトラブルこそあまり聞かないが、それでも、電力低下や結露など、様々なトラブルを起こし得るのが極寒環境なのだ。しかし、業務用途と考えれば、この程度の寒さは撮れて当たり前。もちろん北海道や山岳地帯などの極寒地では機材にも防寒をするが、それを差し引いて考えれば、何の防寒装備無しにこの諏訪湖で撮影できれば、どんなところでも寒さには問題が無いと言えるのでは無いか。(我ながら、製品レビュー記事とは思えない無茶なコメントだが、もちろん、こんな無茶な環境での利用は明らかにメーカー保証外なので自己責任でお願いする!)
とは言っても相手は冬の自然。今回は、Canon Cinema EOS-1D Cに、回転防止のためのKirkの1D X系専用のサードパーティカメラプレートを嵌め、雲台には専用のプレート受けを装着。三脚はGITZOのバードウォッチ用の超軽量全天候型の防塵防水機構付きのものを選択した(この気温だと安価な三脚ではオイルが固まってしまうし、プラパーツがあると凍結して割れてしまう)。収録マイクも、システム5で初期ロットサービスで貰ったオマケのMZW400ウィンドジャマー付き超軽量ゼンハイザーMKE400マイクを選択。もちろん、CFカードは最高速最高性能のLexar Professional 1000x CompactFlash Card 128GBだ。とにかく徹底的な高性能屋外仕様で攻めた。この辺の機材については別枠で書きたいと思う。
撮影風景。普通のスチルカメラでJpeg撮影しても、背景は飛んでしまってひたすら純白だ。これがデジタル映像に映るのだろうか?(スチル撮影はGH2、フルオートモード Jpeg収録)
CFカードはLexar Professional 1000x CompactFlash Card 128GB。この寒さとデータ量に耐えられるのか?
今回の撮影の無茶な点は、実は寒さだけではない。真冬の諏訪湖の凍った湖面には純白の雪が積もり、空は冬の信州特有の灰色がかった曇り空。山々にも雪が積もり、建物や路面にも青白く氷が張っている。ただ、御渡りが珍しいというだけでなく、その風景の純白のコントラストが美しく、冬の諏訪湖は多くの観光客を集めているわけだ。
……つまり、程度の差さえあれ、この時期の諏訪湖における撮影対象はほぼ全て白なのだ。この厳しい寒さといい、白一色の色合いといい、普通のビデオカメラではまったく撮影が困難な条件だ。メーカーさんがこの記事を見ているのを承知で、我ながらよくもまあこんなに意地の悪い撮影を思いついたものだと思う。
しかし、通常のビデオカメラとビデオガンマ(REC.709)では撮りにくい風景だが、シネカメラCanon EOS-1D CとLogガンマなら撮れる。そのはずだ。というか、仮にも映画用を名乗る以上、この程度は撮れて貰わなくては困るのだ。
参考映像では、湖面の端に三脚を据え、よりにもよって意地悪にも、逆光環境で撮影を行った。レンズは極限環境に定評のあるCanon 24-105 F4 Lレンズを選択。純白の環境ではF4では明るすぎるので、CESのついでにラスベガスで買ってきた怪しげな可変光NDフィルタを装着した。もちろん撮影サイズは、4:2:2収録の可能な4K、Canon Log撮影だ。結果は下記の通り。
Canon Logガンマで撮影した映像をHDサイズにリサイズしただけのもの。階調が全部出ているが、極めてフラットな絵になっている
AfterEffectsのColor Finesseで簡単なカラーグレーディングを行ったもの。なるべく階調を残しつつ、目で見える色合いに近い色を入れている
しかし、これだけの悪条件にもかかわらず、さすがはCanon Cinema EOS。ちゃんと撮れているでは無いか!
詳細はグレーディングをしてみないとわからないが、白一色の風景に、きちんと雪なら雪、氷なら氷、雲なら雲、山なら山の、それぞれの「白」が入っているのが見て取れる。
撮影時にはひたすら簡易波形モニタを見つめ、なるべく多くの階調を納めるように気をつけた。Logガンマだけに、実際の色とはだいぶ違う色での収録となるが、単にアシスト機能でモニタビュー上での色を変えるだけではなく、スチル写真やサブカメラのGH2などでも同じ風景の撮影をしておき、色の参考に出来るようにしておいた(この点、同じカメラで写真も撮れるEOS-1D Cは楽なのだ)。カラーチャートがあると色基準としてなお良いが、純白の環境では光量過多で色が回り込んでまともに撮れなかったのでこれは参考程度となった。撮影時以外はサングラスをしていないと雪目になるような環境なのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
撮影時は、カメラ本体のバッテリーが寒さに負けてあっという間に尽きて行くことを除けば、驚くべきことに全くノントラブルであった。ここのところ、外国製シネマカメラでトラブルばかり経験してきただけに、この過酷な環境でもノントラブルというだけで感動してしまう。
ただ、撮影開始後30秒を過ぎる頃になると、なぜか撮影経過時間が点滅をはじめて大変に焦った。EOS 1D-Cは非常に利口なカメラで、撮影不能では無いが通常でないような設定や、撮影続行可能ながらも何らかのトラブルの可能性のある状況になると、点滅して危険性を知らせる機能が付いているのだ。この点滅も、何らかのトラブルを起こしうる状況であることを指し示しているわけだ。よもや、この寒さでカメラやCFカードにトラブルでも生じたのだろうか?
果たして、iPhoneに入れて携行していたマニュアルを見て、私は衝撃を受けることとなった。そこには「撮影経過時間は4GBになる30秒前になると点滅する」と書いてあるでは無いか。MOVコンテナは4GBごとにファイルが分割される為、それを知らせるための点滅だったのだ。……つまり、このカメラの4K映像は、たったの55秒で4GBを使いきってしまうのだ!!とはいえ、EOS-1D Cは、4K以外の撮影では4:2:0に色解像度が下がってしまうので、でき得る限り4Kで撮りたい。
収録メディア側から見て、こんなにハードなカメラは他に無いだろう。
しかし、今回の主役であるところのLexar Professional 1000x CompactFlash Card 128GBは、このハードな撮影を見事に耐えきった。いや、耐えきったというのは実は語弊がある。Canon EOS-1D Cには、CFカードの書き込み速度低下に備えるキャッシュ機能があり、そのキャッシュを利用している間はキャッシュ残量メーター表示が出るようになっている。しかし、Lexar 1000xカードでの撮影中は、どんなに無茶な撮影条件であっても、ただの1回もそのキャッシュ利用表示を見なかった。つまり、このCFカードはハードな4K撮影に耐えきるどころか、常にまだまだ速度に余裕がある撮影状態だったのだ。
それもそのはず、このLexar 1000x CFカードは、実は、145MB/sの超高速書き込みが可能という怪物CFカードなのだ。EOS-1D Cの要求速度が100MB/sであるから、それを45%も上回る速度を出せるということになる。読み込み速度に至ってはその名の通りの1000倍速=150MB/sの最低保障速度という、2013年1月現在UDMA7規格最速を誇るCFカードだ。
実は、EOS-1D Cの4K撮影で要求される100MB/sという無茶な書き込み要求速度を満たしているCFカードはごくわずか(日本国内で容易に入手出来るCFカードではほぼ2社)しかないのだが、その中でも、このLexar Professional 1000x CompactFlash Card 128GBはダントツの速度を誇っているのである。同1000xシリーズには64GB以下の容量のものも用意されているが、EOS-1D Cの毎分4GBというとんでもない消費量を考えると、ここは素直に128GBのCFカードを選択したい。
さらにLexarのProfessional CFカードにはオマケとしてデータ復旧ソフト「イメージレスキュー」のライセンスが付属している。撮影中にバッテリーが切れるなどの原因で、業務用途でバリバリ使っていればどうしてもデータは破損するものだ。今回の撮影でもデータ破損こそ無かったものの、寒さのために撮影中にカメラ電源が落ちる場面は存在した。そんなときに復旧ソフトがあるのは心強い。他社製品と異なりこのライセンスには期限がなく永久ライセンスなのも魅力だ。
安心して使える収録カードを選択するのは映像業務の初めの一歩だが、こと、Canon Cinema EOS-1D Cに関しては、2013年1月現在、このLexar 1000x 128GB CFカードが最良の選択肢だと言って良いだろう。
Lexar Professional 1000x CompactFlash Card 128GB。EOS-1D Cの頼もしい相棒だ。復旧ソフトのライセンスもおまけで付いている。
取り込み・編集にも高速CFカードが必須な4K映像
さて、こうして撮影した映像だが、そのままではただのデジタルデータに過ぎない。特にCanon Log撮影データは、デジタルネガと呼ばれ、そのままでは色がフラットになってしまっていて見ていても面白くも何ともない代物だ。また、4GBを越えたファイルは強制的に分割されているので、これをCanon公式ホームページからダウンロードできる専用ソフト「EOS MOVIE Utility for EOS-1D C」で接続する必要も出てくる。つまり、いずれにしてもグレーディングと編集加工は必須となるのだが、ここにおいても、高速CFカードとそれに見合った高速カードリーダは必須となってくる。もちろん、ここでもLexar 1000x CF製品を筆者は利用している。
……と言うかメーカーさんへの遠慮や宣伝抜きで、実のところLexar 1000x CF製品しか今の段階での選択肢は無い。なにしろ、Canon公式ホームページにおいて2013年1月現在「EOS MOVIE Utility for EOS-1D C」に関しては、この「Lexar Professional 1000x CompactFlash Card 128GB」と「Lexar USB3.0デュアルスロットカードリーダー」の組み合わせしか対応していないのである。4GB以上の撮影、つまり、1分以上の4Kシーンを撮ろうと思ったら、他のどれでもない、このCFカードとリーダーが必須なのだ。ここからも、4K Log映像というのがどれほど無茶な要求をしているかと言うことと、それを45%以上の余裕をもって実現させているLexar 1000x CF製品の凄さがわかる。
最高速のCFカードリーダー、Lexar USB3.0デュアルスロットカードリーダー。実は4K Canon Logをメーカー公認環境で扱おうと思ったら、今のところこれしか選択肢が無い
Lexar USB3.0デュアルスロットカードリーダーは、USB3.0接続のため、電源不要で非常に便利に取り回すことが出来る。そのため、筆者で多用されるMacBook Pro Retina 15inchとの組み合わせで、いつでもどこでも映像取り込みとチェックが可能となっている。昨年から、筆者は、どこでも持ち運べる、なるべく軽い環境でのモバイルデイリー処理(日々の収録後に行う確認、ファイル形式変換処理)とモバイルグレーディングの必要性を繰り返し口にしてきているが、それが容易に実現するのが、このLexar USB3.0デュアルスロットカードリーダーとEOS-1D Cとの組み合わせなのだ。
このLexar USB3.0リーダーを使えば、デイリー処理での読み出しが高速なのはもちろん、本当の緊急時には、ほぼストレス無しでLexar 1000x CFカード上での編集加工やグレーディングも出来てしまう(ワークフロー上、収録後のマスターメディアに直接書き込むことはしたくないが、どうしてもという緊急事態は案外あるものだ)。何しろCFカードの最高速である読み込み150MB/s、書き込み145MB/sがそのまま出ているのだから、小型モバイルRAID環境並の速度があるのだ。
この速度を生かして、撮影直後にLexarUSB3.0リーダーをMacBook Pro Retinaに繋げば、データをCFカードに納めたままで15インチスクリーンで映像が確認できることも大きい。EOS-1D Cのビューモニタは優秀だが、やはり、4Kのピントやアラが全て見えるというわけではない。その点15インチRetinaであればIPS液晶のそこそこ綺麗なモニタで2.8K以上のピクセル数があるので、ある程度の問題は見て取ることが出来る(現場確認用に、SwitchResXなどの、HiDPIを切るためのソフトウェアを入れておく方がいいだろう)。その場でAfter Effectsあたりに読み込んでLUTを当ててやれば、デジタルラッシュとしての使い方も出来る。これに加えてAJA IoXTと小型マスターモニターがあればモバイルでのちゃんとした現場確認も可能だ。
もちろん、このCFカードリーダーの速度の便利さはそれだけではない。4K映像はとにかくファイルサイズが大きいため、私の場合、まずはCFカード上で再生して使えるカットだけを選び抜いて編集ストレージにコピーしている。USB3.0接続のCFカードからリアルタイム再生できるので、難しい事は抜きで見た目合わせで使えるものを選び出すことができ、非常に楽である。
いずれにしても、Canon Cinema EOS-1D Cを持つならば「Lexar Professional 1000x CompactFlash Card 128GB」と「Lexar USB3.0デュアルスロットカードリーダー」は必須の組み合わせと言えるだろう。
MacBook Pro Retina15インチとの組み合わせで、CFカード上でのリアルタイム再生が出来る。大きく可能性が広がる
さて実際に、簡単にグレーディングをしてみたのが下記の切り出し写真である。
収録した映像をUSBでノートPCに挿してLUTを当てるだけでも現場でそれなりの参考色が得られる。それを持ち帰って加工すれば、最適な状況でグレーディングをすることが可能だ。とかく難しいと思われ勝ちな4K、そしてLogガンマ映像であるが、ちゃんとLexar 1000x CF製品などの高速ツールを使えば、さほどの苦労なくワークフローに取り入れられる。
実際、今までのビデオ世界であるREC.709では白一色にしか映らない世界なのに、Log撮影データに簡単なグレーディングをするだけで頭の中に思い描いたような美しい空や微妙な雪の加減、氷の色を描き出すのは、デジタル映像というものに対する考え方そのものが変わる。この感覚は確かにフィルムに近いし、その便利さはフィルム以上の部分も多い。まともな映像関係者であれば、これを1度経験すれば、もうグレーディング無しの映像世界には戻れないだろう。
今や、4KもLogガンマも、敷居は決して高くない。読者諸賢に於かれても、是非ともこの素晴らしさを試してみて頂きたい。
現場で撮ってみたCanon Log映像の切り出し
上記映像のCFカードをMacBook Proに繋いで、After Effects CS6を用い、メモリー上でREC.709のLUTを当てたところ。白一色になってしまうが、空や山など大体の色のイメージがつかめるので、現場では休憩時間などにこれを見て撮影戦略を進める
持ち帰って、ちゃんとAfter Effects CS6付属のColor Finesseでカラーグレーディングしなおしたもの。NDフィルターで茶色く転んだ色を消すために、別のカメラ(GH2)で撮った写真を参考に青みを強く入れてある