txt:オースミユーカ 構成:編集部
時間やりくり珍道中
4年前に作ったEテレ「お伝と伝じろう」という番組が、春から4度目の再放送が決まった。月曜の朝から小学生向けにしては濃すぎる10分番組と言われ続け、しつこい再放送にもかかわらずいまだ人気がおとろえないのは「お伝と伝じろう」こと、レ・ロマネスクのお二人の持つ強烈な世界観をそのまま番組に取り入れたからだ。
Eテレ「お伝と伝じろう」
毎週月曜日 午前9:30~9:40
※レ・ロマネスクのTOBIさんはEテレ新番組「で~きた」の作曲とダンスも担当。
http://www.nhk.or.jp/kokugo/otsuta/
番組以来、公私ともどものおつきあいがあるボーカルのTOBIさんから「レ・ロマネスク金太郎飴を作ることにしたから、飴工場にいっしょにいって制作過程を撮影してくれる?ちなみに明日なんだけど」という突然の連絡がきた。その週は毎日のように撮影が入っていてなかなかしびれる忙しさ。でもTOBIさんの指定した“明日”だけはぽっかり空いていて、つかのまの休息日にあてるはずだった…。
お疲れモードの私は「空いてるっちゃ空いてるんですが、撮影って言っても私ハンディカムしか持ってないし…」とやんわりと断りを入れてみたものの、相手はフランス帰りの日本人。空気を読むなどしてくれるはずもなく「ハンディカムで全然問題なし。とにかく空いてるなら来てちょうだい」と勢いで押してくる。結局次の日、私は台東区根岸にある金太郎飴本店で、カメラをのぞいていた…。
演出プランなどなにもないままただ撮影にかり出されたので、職人の顔や飴のアップなどよかれと思うものを適当に撮った。誰が編集するのかな~とのんきに構えて、その日はデータを渡しつつ別れた。
そして一ヶ月後、Eテレ新番組「で~きた」の編集も佳境に入り寝れない日々を送っていた頃、またTOBIさんから連絡がきた。「こないだ撮った金太郎飴制作のドキュメンタリー映像に、私たちが歌って踊るシーンを足してPVにしたいんだけど、撮影してくれない?ちなみに曲のリリース日は2週間後なんだけど」
YouTubeとはいえ、2週間後にリリースしてなきゃならないなら、編集、納品の期間など逆算すると撮影は3、4日以内にしないと絶対間に合わない…。どんだけ雑なスケジュールで頼んでくるの!とつっこみたくなるものの、相手はフランス帰りの日本人。ラテン気質とアンニュイを武器に平然としているので、生真面目な日本人の私としてはあきらめて受け入れるしかない。
その日に曲を送ってもらい、演出をきちんと考える余裕もないままとりあえずロケ地を決定するためにミーティングをした。週末に入ってしまったのでミーティング場所は公園。急遽撮影を担当してくれることになったカメラマンの上岡伸輔さんと私が子供を遊ばせている所に来てもらい、たびたび子供の世話で中断しながらもTOBIさんの映像プランを聞いてロケ地を話し合った。
曲のタイトルは「飴と飴」。「飴をください 飴だけください ムチなんていらない」というバカバカしすぎる歌詞をかっこいいロックで歌い上げるレ・ロマネスクならではの名曲だ。
「飴乞いダンス」で開けるロケ場所
雨乞いならぬ「飴乞いダンス」を神様にするシーンがメインのため、神社やストーンヘンジなどのロケ地を探ってみるもののさすがに直前だけあって許可が降りない。切羽詰まったTOBIさんはTwitterで「PV撮影で使わせてもらえる神社を探してます」とツイートすると、六本木ヒルズの真横にある櫻田神社の神主さんから「うちを使ってください」との連絡が。神主さんが信者だなんて…、さすが国境を越えるスター。
本来のPV撮影ならまずイチからどんな映像にするか企画を考えたいところだが、すでに飴工場の素材はあるし、TOBIさんのプランも明確にあるし、ロケ地も決まったし、ないのは私がゆっくり演出プランを考える時間だけだ。というわけで今回はTOBIさんの企画を実現させるための現場監督に徹することにした。
さっそく次の日ロケハンに行き、その翌日には撮影を敢行した。カメラはNikon D180。飴工場の撮影では、Sonyハンディカム、Canon 5Dと素材が混ざっているので、画質をあわせることはあきらめて、とりあえず一眼で撮って、最終的にグレーディングでなんとかトーンをそろえることにした。
櫻田神社は由緒正しく趣のある神社だ。ひっきりなしに訪れる参拝客にスター自ら頭を下げつつ、神主さんにレフ板を持ってもらい、私がiPhoneのスピーカーから曲を流して、人手不足の撮影だったけれど、なんだか手作り感満載で楽しかった。参道、境内、本殿、とあちらこちら場所を変えて三時間ほどですべて撮り終えた。準備から撮影まで恐るべきスピードだったが、その場のノリで気の合う仲間と臨機応変に進む撮影も勢いがあってたまには(ほんとにたまには)、いいもんだ。
あとはレ・ロマネスクが『飴と飴』で紅白に行ってくれればいうことなしです。
「飴と飴」レ・ロマネスク