txt:茂出木謙太郎 構成:編集部
とある芸人からの相談で始まったVTuberプロジェクト
まだ寒かったある日、デジタルハリウッド大学大学院に一人の芸人が訪ねてきた。アメリカザリガニというお笑いコンビの平井さんだ。30代後半以上であればアメリカザリガニがテレビで華やかに活躍していたことを知っているだろう。
ところが20代までの若い世代には、アメリカザリガニと言えばゲームの世界で活躍している芸人というほうがなじみが深い。毎日のようにゲーム大会の司会、ゲーム会社の配信、自分たちのゲームチャンネルの配信など、とにかくゲームに軸足を置いた稀有な芸人の一人だ。
まぁ、いろいろあって、デジタルハリウッドでの出会いがもとになって、バーチャル・ユーチューバー(VTuber)プロジェクトを立ち上げた。VTuberプロジェクトを立ち上げるにあたって、いくつか考えていたことがある。
- せっかくやるならVTuberの「何」が魅力なのかを追求してみたい
- 技術的、コンテンツ的なチャレンジをできるだけたくさんしたい
- 「そんなのあり?」というような間口の広さをもちたい
毎日のようにたくさんの才能がVTuberに投入されている中、気が付くとあっという間に埋もれてしまいそうな熾烈な競争が繰り広げられている。かわいい女子が毎日のようにたくさんデビューしているのだが、その魅力が何かわかっていないと、運営がうまくいかないのだ。
プロジェクトが始まったころには、すでにデビューまでに数千万円を投資しているにもかかわらず、なかなか思うように成果が上がらない…といった事例も出つつあった。VTuberのデビューで予算を食うのはキャラクターデザイン・CG制作・システム・日々の運営(企画・撮影・編集・出演費)だ。運営は仕方がないとしても、VTuber資質を見抜くまではできるだけ費用を抑えたい。
そんなことを悩んでいたある日、そもそもVTuberって可愛いければ女子キャラのデザインである必要はないのかも、ということに思い至った。もちろん、キャラデザインはかわいいほうが良い。CGのクリエイティブは綺麗なほうがいい。しかし、一方で重要なのは「どんな人なのか?」というそもそものパーソナリティーではないだろうか。
ということで、目に見えるキャラクターデザインはいつでもできるのだから、パーソナリティーがVTuberに最適なキャラクターを探す(または)育てるという方針が生まれた。つまり、今回プロデュースするVTuberは、実はVTuberではなく、VTuberの「たまご」なのだ。
そう、VTuberの「たまごたち」が集まるところを作ったらおもしろいんじゃないか?そして、ここから本当にVTuberとしてデビュー出来たら。そういういきさつで、「ツルンッ!とたまご学園」というチャンネルが生まれたのである。
記念すべき第一回の配信は6月に行われた。この時のチャレンジは、「一度に18人のたまごたちを配信する」というもの。デジタルハリウッドの協力を得て、動学内にあるモーション・キャプチャ・カメラREALIS RTS4000を使用することにした。
RTSを使用することで、VIVEやNOITOMを使用することなく、大勢のキャラクターを一度に動かすことができるのではないか。まして今回はたまご。簡単じゃーん!とちょっと思った(公開時にそんな思いはみじんもなかったけど)。
教室を用意し、プレイアリアの中に卵を配置。学校という設定なので、「起立!」で立ち上がり「礼!」でお辞儀をする。たまごたちも「起立」して「礼」をする。リハーサルでは確かにうまくいっていたのだけど、人が多すぎてキャプチャ・カメラからの死角が増えすぎてしまい、足のトラッキングが外れてしまったり、たまごがちらついてしまったりとなかなか大変だった。
写真を見ていただくとわかるが、このスペースに入れる人数ではなかったなと反省。配信時の様子はサイトにまだ残っているので、興味のある方はぜひ見てほしいです。なかなかせっかくのモーキャプチャ・カメラをこんな使い方するなんて!と言うほどぜいたくなシステムだった。
この時、かなりちゃんと見てくれている視聴者の方から「椅子の数が合わない」という突込みが。実は5人づつ3列できれいに並べておいたのに、本番が始まる直前に「たまごたち」が勝手に並べ方を変えてしまって、最前列4人、一番うしろの列が、6人になってしまっていた。気が付いた時には本番が始まってしまっていて、もうどうしようもなかったのだが。
そんなこともあって、かなりどたばたした配信だったが、とりあえずこれだけ大勢の新米VTuberを、自前のプラットフォームで配信することができたという実績を残すことができたのである。はたして、たまごたちは人気者になれるのでしょうか。
動画も随時公開とさせていただきます。お楽しみに!