txt:岡英史 構成:編集部
Kino Flo Lighting Systems
キノフロといえば、タングステンやデイライトが主流の時代に蛍光灯を撮影用に開発した会社として有名になった企業だ。タングステンの3200Kからデイライト色である5500K・6500Kを作るにはB3・B5のフィルターを入れる必要があったのだが、タングステン色・デイライト色を主流に開発が始まり、その後グリーン・ブルーバック用の蛍光灯が登場したおかげで現場が時間短縮できたことは皆さん経験済のはず。
当初は蛍光灯=フリッカーが出るから話にならないという意見もあったが、キノフロのフリッカーレスバラストはその心配も開放してくれた。とはいえさすがに筆者の仕事でキノフロを個人持ちするぐらいなら素直に照明部の予算を作った方が良い。
黒澤フィルムスタジオ(川崎スタジオ)
そしてその照明部にお世話になる時は今回の黒澤フィルムスタジオに依頼するのだが、昨年キノフロのワークショップを開催するので興味があればと、お誘いを受けた。正直照明部が行うキノフロのワークショップはさすがに敷居が高いと思ったが、新型のLEDの話もあるので何かスキルに繋がれば良いかなとお誘いに乗ることにした。
結果から言うと非常に面白いワークショップだった。もちろんすべてがわかった訳ではないが、自分のレンジに非常にマッチする部分が聞けることが出来た。今回のレポートはその部分に絞って書いてみたい。
LEDと白色の関係
キノフロ社のスコット氏のプレゼンは難しい言葉をわかりやすく解説
まず今回は照明に関する初歩的なことを展開したいと思う。光に詳しい照明部の方は元より、撮影監督やシネマトグラファーの方々には物足りない内容かもしれない。今回のワークショップはLEDライトの特性とその使い方をメインとし、数あるLEDライト中で何故キノフロのLEDは優れているのか?という着地地点に行く話をほぼ90分の中で順を追って説明があり、色のスペクトラムからその数値の話まで照明はほとんど素人の筆者にしては何となく「なるほど…」というニュアンスで追っかけるのが精一杯だったが、その中で一つだけ自分の仕事の中でも役立つものがあった。
それはベースになる白をしっかり認識するとことだ。何を今更そんなことは当たり前だろ?と言われると思う。実際筆者も話のとっかかりの部分ではそう思ってしまったが、では白ってどういうことなのか?という説明あたりからなかなか面白いことになった。ここからの話は照明的には「そりゃ違う!」という部分があるかもしれないが、筆者の理解力の中なのでご容赦いただきたい。
白を撮るというのはどこの現場でも行うはず。特に日々条件が違うENG現場では日向と日陰、室内と室外で撮るのはもはや常識的な部分である。何故か?理由は簡単、その都度「白」が変わるからだ。同じ白でもタングステンの下の白と太陽光の下の白では色温度が全然違う。
3200K(赤)~6200K(青)ぐらいの色温度に差が出るが、人間の目はそれを勝手に補正してしまう。しかしカメラはそれを赤系の白や青系の白と認識してしまう。もちろんこのホワイトバランスが狂ったままでは、Logで撮ろうがRAWで撮ろうが最終的にまともな色は出てこない。
ホワイトバランス
ENGで光量があるオープンで白を撮るにはさほど苦労なく作ることが出来る。撮りたいシチュエーションを想定して日向なのか日陰なのか、その割合がどの位ミックスしてるのか、それに似た環境で白を撮ればほぼ間違いはない。では夜や室内等の光量が少ない所ではどうするか?
答えはライトで明るくすること。タングステンの頃は3200KをベースにB1~5のフィルターで色味を作っていた。タングステンもフィルターもほぼ同じものが流通していたので特に問題になるようなこともなかったが、タングステンから蛍光灯に変わったところでいわゆるG(グリーン)被りという現象があり、それを解消するカラーチェンジャー的なフィルターを使うようになった。
この頃にキノフロのディーバはこの現象を起こさない唯一の蛍光灯だった。そこからLEDになると更にこの色かぶりは酷くなってきた。特に初期の中国・韓国製品は目で見えてもグリーンだったりマゼンダに転ぶことも良くあった。とはいえ、その技術は年々進歩し、LEDもかなり性能が上がったが、その性能の指数を表すものとして演色指数(CRI)を表示し始め、その数値が高い物ほど色かぶりがない高性能のLEDライトと言われていたが、その指数よりも色がおかしい?と感じることがあったのではないだろうか?筆者もその辺は不思議に思っていて指数がおかしいのか目が悪くなったのか首を傾げたが、今回のワークショップでその意味がかなり分かった。
色域とホワイトライト
そもそも色域とは、人間の目で認識可能な色の範囲(可視領域)と特定の色の範囲を定めたもの。これはデジタルカメラやスキャナ、ディスプレイ、プリンタなど、様々なカラーイメージング機器があるが、再現できる色の範囲はすべて異なるため、それらを明らかにし、使用する機器間で色のすりあわせを行うために決められたもの。その中でLEDで発光した光をカメラで受け取る時のバランスのズレが色転びという問題になる。
最近は4K収録のためなのかこのカラースペースとそれにまつわる話をよく聞く。HDのRec.709と4KのBT2020ではその範囲の違いは誰が見てもわかるほどに異なる。これだけ違うと撮影段階でしっかりと色も管理しないと後でその処理が大変になってくる。そのためのDITというポジションが大きくクローズアップされているのも昨今の特徴だろう。この何処まで色を再現出来て作り込めるかの話は流石に筆者では難しすぎるため他の詳しい方に任せるとして、注目したいのはこのRGBの際の部分ではなく真ん中の白の部分だ。
このカーブの部分にいかに光を乗せるかによってそのLEDライトの特色がわかってくる。白色LEDが出た時はその素子だけで白を出していたが、それだけでは先に書いたCRIの数値はこのカーブに沿うことができず、G寄りだったりM寄りだったりする。それが初期の頃のLEDでよく言われていた「まだまだ使い物にならない」という部分だ。しかし今は2色のLEDを使うことによりその直線的だったがその曲線に沿うものとなってきた。もちろんそれだけではまだ足りず、この資料の様に1つのライトパネルのブロックに色々な色を混ぜることにより直線的だった数値が多角形的に曲線に沿うことができる。
イメージ的に書くと上の図の様な感じ。LEDの種類(色)が多い方がその帯域に沿ってカーブに近く沿うことがわかってもらえればOKだ。そしてよくG被りがとかMが被るというのはどういうことなのか?これはLEDの種類の特色になる。例えばSony HXR-NX3の本体前部にはLEDライトが付いているが、当初βモデルのテストをした時は目に見えてG被りが酷く、他のライトと混ぜることが難しかった。製品版になってからはこの色かぶりが随分改善されてきた。
これも大雑把に言えば同じLEDでもその生産地やその時の素子技術によってその素子の特性が変わる。つまりカーブより下側の特性をもつLEDならM被りが多く逆に上側だとG被りが多くなる。この図はかなり極端に線を引っ張っいるので、もしCRIを図ったなら滅茶苦茶な数値が出る感じだろう。
ではCRI95や97という演色が良いLEDでも何か変に色が被ってると感じたことはないだろうか?もちろん説明書に違う数値が書いてあるというのは別にして、カラーメーターで計っても数字はいいのに何かおかしい場合はこういうことも考えられる。
例えばLED 2色でCRI95、3000K~6500Kまで変化できるライトがあるとして、その数値に乗るのはA又はA’の部分となり、その他の部分はその数値が低くなる。つまりこの図で判断すると、このライトの美味しいポイントは3800K辺りと4800K辺りの2か所という感じだ。逆に言えば3200Kや6000K付近の演色は完全にMに転がってしまってこれを補正するためにはCCフィルターを入れなければならない。このポイントの数を多くするためにはキノフロの様な性能の良いLEDライトを購入するのが手っ取り早い。
と言ってしまうと元も子もなくなるので、このセミナーの開催者である黒澤フィルムの能勢氏に頂いたアドバイスとしてはこのカーブから外れたケルビンで撮るなら、光量最大で指数の良い場所(カーブに沿ってる場所)でのケルビンで撮ることが理想。ライトメーターで指数を図るのがベストだが、特にこだわらず自分の見た目で被りを感じられない白の部分があればそれを使えば何も気にしないよりはグンと質が良い物が撮れるとのことだった。
カラーガンマとビデオカメラ
人間の見た目も大事な部分だとはいえ、いい加減な部分でもある。では何をどう見れば良いのか?まずはこの見た目の白(RGB)とLEDの白が違和感なく合えばLEDライトとしてそれはアリだろう。このグラフに色々なLEDのグラフを重ねるとメーカーはわからないが、そのLEDライトの特性が理解しやすい。
この3種類のグラフはLEDライトの一例だが、同じLEDといえどもその光の出し方によって赤が飛び出していたり、強かったり等々その辺の結果が面白い。この辺も照明部の人ならもっと詳しくわかると思うので興味のある方は調べて欲しい。
最後に面白い話だったのは、カメラのカラーガンマの話。幾ら色域が広く性能の良いLEDライトがあってもそれを受け止めるカメラとの相性が悪ければ折角各々の調整が良くてもマッチングが取れない。この図はRec.709とその周りのビデオカラーガンマの対比になるが各々のラインがどのメーカーからかはわからないが、キノフロのワークショップと言うことを考えればENG系ではなく制作系のカメラということが想像できる。
この各々のカラースペースを見れば感の良い方はどのカメラかわかるかもしれない。一番大きなスペースを持っているのはどこのカメラなのか、この辺も興味深いところだ。ワークショップではその辺の話も出ていたがここではあえて伏せて置こう。ヒントは昨年のIntrBEEで筆者が一番推していたカメラだ。
総評
今回中々文字にするのが難しくいつも以上に読みにくいかと思う。この他にも色々と興味深い話も聞けたが残念ながら筆者のスキルではそれをコラムに起こすのが少し難しいので割愛させていただいた。とはいえ、このホワイトライトの部分はENG・制作系関わらず理にかなっている話で筆者のスキルでも何とか理解が出来た。
しかし、このワークショップはFacebook等で告知をしていたので最悪人数オーバーなら、メディア枠で潜り込もうと思ったくらいだが実際は満席に少し足りないくらい。照明部の方がほとんどだと思うがカメラマンや撮影監督、DITの方はほとんど参加がなかったのは少し驚いた。今の日本では撮影撮監と言いながら自分でカメラを回してる現場も多い中、その様な方々が光の出口であるライトのワークショップに来ていないのは非常にもったいない!と言うのが一番の感想かもしれない。
取材・素材協力:黒澤フィルムスタジオ