txt:岡英史 構成:編集部

馴染みのあるブランドが生まれ変わった

ManfrottoからVitec Imagingに社名変更した同社。とはいえやはり筆者も含めてほとんどの方は「Manfrotto」の方が通じやすい。それほどまでに同社のブランドイメージは強い。筆者も幾度とManfrotto(あえてこの名前で)製品を紹介してきた。

Nitrotech 608

今回はManfrottoから2つの製品を紹介する。一つは筆者の生業でもあるビデオ撮影に欠かせない三脚関連から「Nitrotech 608」。そしてもう一つは、新コロナウイルス感染症拡大のため、大幅な自粛に伴うリーモートワーク下でのオンラインミーティングなどで役立つ「JOBY GorillaPod Mobile Vlogging Kit」だ。

JOBY GorillaPod Mobile Vlogging Kit

Chapter1:窒素を使った雲台Nitrotechが変えた常識 Nitrotech 608

写真三脚として、Manfrotto製品はアマチュアからプロまで広い層の方々が使用されているが、ビデオ三脚は後発のためか、意外とプロの使用率は低い。カウンターバランスとドラッグの効きが細かいため、操作感は他メーカーの物より使いづらいというのが最も大きな理由だろう。筆者もその点に関しては好みの問題ではあるが、やはり同じように思っていた部分はある。

その考えを一新させられたのは2017年に発売された「Nitrotech N8」だ。カウンターバランスに窒素ガスを封入し、滑らかな動きと理論上0gから動作出来るカウンターバランスが特徴だった。カウンターバランス0~8kgまで動作できるのは非常に画期的で、中型クラスのハンドヘルドカメラからミラーレスカメラやスマホまで同じ操作感で動かせるのはこの雲台しかない。

特にスタッフの少ないロケでは今までミラーレスカメラとハンドヘルドカメラ2本の三脚を持って行くか、もしくはどちらかのカットを諦めるしかなかったのが、Nitrotechのお陰で両方を使えるようになったのは大きい。もちろんカウンターバランスだけではなくドラッグの操作感もこれまでのManfrotto製品に比べると1段上のクラスになったといえる。

これでちょっと使うだけの三脚からロケに持って行く三脚へグレードアップしたがやはり完全ではない。どの三脚メーカーでも同じことが言えるが、他メーカーと明らかに違う部分は、やはり使いづらいと思うのは世界共通項目のようで、1年前のNABではその辺を改良した次期モデルが展示してあった。それがNitrotech 608である。

新型Nitrotech 608

ベース的な物はなにも変更がないのでマイナーチェンジに近いと思ったが実は色々変わっていた

日本ではInterBEE 2019で参考展示しており、その動作感には満足できるものであった。N8ユーザーでそろそろ買換えを考えてる方は実際に触ってみるとその違いに驚くかもしれない。間違いなく同列雲台の中では最後発という事も含めて買いの雲台だ。

では違いを見て行こう。一番の違いはカウンターバランス・ドラッグのプラス側・マイナス側の方向がいわゆるネジの「締める」方向に統一された。全製品N8の一番違和感がある所がこれで解消されたと言う事だ。次にチルト方向のロックも同じく右回転によるロックとなり、全てのダイヤルが違和感なく操作できるようになった。またカウンターダイヤルが大きくなり、ロックダイヤルの形状も3か所の突起を含む形状に変更されたので力を無理に掛けずともロックが可能になった。

これはテレマクロやテレ端で撮影する時には大きなポイントになる。その他の機能は特に変更もなく75mmボールを外してフラッドヘッドになるのでそのままスライダーや中型のJIBに載せる事ができる。もちろん操作感はそのままだ。

2台のNitrotech

(左)Nitrotech 608(右)Nitrotech N8

では新旧モデルの2台を比較してみよう。正直ダイヤル形状自体の差はないと思っていたがそれは大きな間違いで、アナウンスなく色々な部分がバージョンアップしているようだ。まずはこの雲台の一番の特色である窒素封入型ピストンによるカウンターバランス。

新旧モデルを並べるとそのダイヤル形状の違い良くがわかる

写真ではJVC GY-HC550とPanasonic DVX200(共にハンドヘルド)を載せているが、比較の際にはHC550を基準とした。N8ではバランスを取るのにダイヤルを4.5回転を必要としたが、N608は4回転と少しでバランスがとれた。

それだけN608のピストンの精度が上がったという事だろう。このピストン自体はManfrottoが製造している訳ではなく、自動車部品をOEMで使っているだけなのでコスト等は全く関係ない。三脚に、イタリア車の高価なパーツが使われているとなればなんとなく気分が良い。

それよりもドラックのフィーリングが良くなった。最初は若干粘度が下がって緩くなったのか?とも感じたが、そういう訳ではなく、むしろドラッグの微妙な締まり加減に対応している感じがした。さらに動き出しのスムーズさが確実にN8より良い。テレ端で被写体を狙うとその差は顕著にでた。

さらに、ボディーカラーも若干変更があり、より黒味が強くなった。また差し色の赤も少し増え、さすがイタリアデザインという感じだ。正式アナウンスはないが、このデザインもイタリアでは有名なデザイン会社が関わっていると聞く。あの黄色い文字で有名な所だ。前記した窒素ピストンといい、車好きならそれだけでも所有して良い三脚なのでは?と個人的には思っている。

(上)Sony PXW-X70(下)JVC GY-HC550。これだけ大きさの違うカメラが同じフィーリングで扱えるのは少人数ロケで助かる

Chapter2:テレワーク(オンラインミーティング)でお役立ちのManfrotto製品

JOBY GorillaPod Mobile Vlogging Kitはこれでワンパッケージだ

執筆時は緊急事態宣言が解除された時期だが、実に4月後半から5月一杯までは本当にオンラインミーティングが増えた(その中にオンライン吞みも含む)。その際にこちらの意見や思いを伝えるには意外と苦労することはないだろうか?

一番大切なことは「音」。これがすべてだといっても良い。ここが「えっ、何?」と聞き返すようでは、そのミーティングやセミナーは成立しない。次にこちらの表情とアクションを伝えなければならない。カメラマン仲間でオンライン吞みをやると、カメラや音声機材をちゃんと持ち込んで行うために非常にクリアな会話と映像で、まさにバーチャルの壁を越えたかのように錯覚できるくらいだ。「えっ何?」と聞き返すときは本当に酔いつぶれてるという話で…。

さて、一般にはそこまで準備する必要はない。おすすめはみなさんお持ちのスマートフォンだ。Manfrottoにもおあつらえ向きの製品がある。最近のスマホは内蔵CPUも高機能で、カメラも多眼式などちょっと前の民生機よりも確実に画質が良い物が多い。なによりも簡単な操作でオンラインミーティングに参加できるのでITに詳しくない人でも気軽に参加できるのが良いところだ。

ただし、これは試聴側での話で、スピーカー側になるなら話は変わってくる。先に書いたように、しっかりと聞き取れる音声とそれを表現する映像は必須だ。とはいえ、全員がPCに映像と音声をキャプチャしてストリームを出せるわけではない。さてこんな状況を支えてくれる製品を紹介したいのだ。

GorillaPod Mobile Vlogging Kit

どんなところでもGorillaPodの3本脚が絡める場所なら設置可能。マイクとLEDも同梱されている

すでに数名の方にはお勧めして好評なManfrottoのGorillaPod Mobile Vlogging Kit。GorillaPodはすでに小型三脚としては有名だが、そのGorillaPodをベースに、自在アーム、マイク、LEDライトがすべてワンパッケージになっている。

セットアップも半完成品なので自在アームにライトとマイクをセットアップするだけ。マイクは単一指向性なので無駄なノイズを拾うことなく声だけを拾ってくれる。3.5mmミニステレオジャックをスマホに差し込めばOKだが、最近のスマホでイヤホンジャックがないものは変換を使用する(iPhoneだと純正付属のライトニング-アナログ変換)。LEDライトは特に難しい事はなく二つのスイッチでON-OFFから明るさの変更まで可能。

さらに、無償アプリをダウンロードすればBluetooth接続でスマホから細かいコントロールも可能となる。LEDライトはそのままでは強いので、オンラインミーティングでは付属のディフューザーが必須だ。それでも強く感じる方はコンビニの白い買い物袋をカメラに写り込まないくらいにフワッと被せるとさらに光が柔らかくなるので特に女性にはお勧めだ。

実際に使ってみたがこちらからネタバラシをしてようやく気付いたくらいなので、小規模なウェビナー等では十分なクオリティを発揮できるはずだ。ただし、消費電力は大きいのでバッテリー運用よりも外部電源や大容量モバイルバッテリーと併用すると安全だ。

実際のオンラインミーティングの画面。バーチャル背景を使っても十分負けないくらいの画質はでる

総評

今回は2種類のManfrotto製品を紹介したが、Nitrotech 608はやっと2現場に導入したに過ぎない。各々の現場でN608とN8を使い比べてみたが、まさにエボリューションモデルといって過言ではない。

この先減る事はなく、むしろ増える方向のオンラインミーティング。今までローカルで大きな声で無駄に人と時間を使っていた会議も、オンラインで行うことで必要最低限の人数での会議となるはずだ。その時にどこでも使えるMobile Vlogging Kitは大きなファクターになる。マイク・ライト付きを加味すれば価格も高くはない。

今回の2機種はお勧めの製品なので、触れる機会があればぜひ見て欲しい。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。