txt:岡英史 構成:編集部
Multi Action Gimbal
電動3軸ジンバル「Libec TH-G3」
開封し、充電が終わったバッテリーを入れてスイッチオン。専用アプリで基本セット終わってポジションからの第一歩で感じたのは「人間に優しい」と言う事。もう少し言葉を付けるなら「初めてジンバルを使う方のファーストジンバルならこれを持つべきだ」と。これがTH-G3の初見だった。
この時のカメラはLUMIX G9+LEICA 12mm/F1.4+DJI FOCUSこの重さでも全く問題ない
Libec発の電動ジンバル行き
昨年は完全に沈黙を守ってたLibec。社長も変わり新生・平和精機工業として動き出したのは昨年末のInrterBEEだった。そこにあったのは、モックながら小型カメラをしっかりとコントロールできるコンセプトの雲台とさらに一台、今はDJIの一人勝ちとも言える電動ジンバルの分野に果敢にもLibecは、飛び込んだのだ。
各々のスペックはRONIN SCよりペイロードも含めて上の機種をぶつけてきたのもさすが老舗Libecだ。前に「ウチはカメラを載せる物なら何でも作りたいんです」と耳にした記憶があるが当にその言葉通りの物が登場した。とはいえDJI RONIN-S/SCという強力なライバルがいる中にあえて投入したということは絶対の自信があるという表れだろう。
そして年が明け、世間を騒がす自粛ムードの中にデモ機をお借りすることが出来た(単純に発売時期と自粛モードが被っただけなのだが)。
アーム類の切削加工は流石だ。もちろんその強度も十分
InterBEEには筐体がシッカリと出来上がっていたがそこからのソフト(アプリ)開発と調整に時間を大きくかかったと聞いている。完全に電子制御でそれをコントロールする人間とのシンクロがこの手のガジェットの使いやすさを左右する。その辺も踏まえて非常に楽しみにしていた機材でもある。
よく言われるのは「岡さん、電動ジンバルって嫌いでしょ。良くディスってるよね?」と言われるが実はそんな事は全くない。確かにスタビライザー系の機材で好みはステディカムだが電動ジンバルが駄目だとは一言も言った覚えはない。
ただそれを扱う一部の人間にそのセッティング方法含めて「それは違う」と言った事はある。自身もRONIN-MやOsmo Pocketを所有し、現場でも使用している。Steadicam Voltが登場する前にステディカムとRONIN-Mを組み合わせたハイブリッド型のスタビライザーも運用していたくらいだ。
Made in JAPANの強み
Libecを知らない方はこの業界でいないと思うが、その加工精度の高さは、最高峰だ。有名な同業他社と比べても頭一つ抜きに出ているくらいの精度の良さだ。さすがの日本製品と職人のパワーだろう。
それをしっかり感じれるのは各部のロックの軽さだ。ホンの少しだけ力を加えるだけで3㎏錘がシッカリとロックされる。そのクリアランスも微妙でがたつきが感じられないくらいなのに微調整の動きは非常にスムーズだ。この辺は中華製のジンバルと比べると雲泥の差なのは陶然としてRONINシリーズと比べても最後の追い込み微調整は1mm以下の動きが慣れれば出来るくらいだ。
デザイン的には最近流行りのハイウィングタイプではなくオーソドックスなケージスタイルを取っている。デザインは今となっては古いがその分強度は高い。
バッテリーもLibecブランドではあるが専用バッテリーではなく、汎用18650系のリチウム電池4本で駆動させている。多分電圧と形状から汎用品でも代替として使うことが出来ると思うが性能ムラや保証がないので、業務用途としてはしっかりとメーカー推奨品を使いたいところだ。
さすがに最近はいなくなったが、この手のジンバルはバランス取りが非常に難しい。X・Y・Z軸全てを95%以上の精度でバランス取りをしなければコントロールして動かすことはもちろん、常にモーターに負荷が掛かってるので消費電力が大きくバッテリーにも影響する。
筆者が行っているのはまず、ベースプレートをカメラのセンターに均一に取り付けるところから始める。カメラの重心位置とベースプレートの中心は同じところに置くのはスタビライザーの基本だ。ジンバルのXY軸のアームの重心位置とカメラの重心位置があっていないとZ軸に負担が掛かり微妙なコントロールに無駄にトルクが掛かるのでここは手を抜いたらダメな場所だ。
とはいえ、本番でレンズ交換すればバランスも崩れる。ここのリセットアップは現場の空気感を切らないためにも15分以内で出来るようにバランス点を覚えたいところだ。ハードウェアが終わったらソフトのチューニング。これもシーンの動きによって変更したい。動きが早いところやゆっくりのところ、ジンバルを持って走り回ったり、さらに回り込んだりとセンサー部分をいかに使いこなすかがポイントだろう。
カメラマウントのプレートはAP-Xにも使われてるManfrotto互換品なので、同社の三脚や一脚、さらにはManfrottoやザハトラーの小型三脚を使ってる方なら、同じセッティングでTH-G3に装着可能だ。
ソフトウェアのセッティング
これは初期メーカー推奨のセットアップ、操作するオペレーターが初心者でも微妙な動きはセンサーに反応せず大まかに動く。これで慣れてきたらフォロー速度の数値を上げて行く。
推奨セットアップより更に感応速度を鈍足にした数値。全く撮影と言う物に慣れていない方に持たせる場合やリーアングルで走る等、グリップの動きによりも安定方向に振った数値だ。
ステディカム等のリニアな動きに慣れている方ならこのセットアップがお勧め。自分の狙った方向にズバッと決める事が出来る。ただしグリップに対してかなりリニアに動くので階段等は要注意。フォロー不感帯を2にするとさらにソリッドになるがその分コントロールがシビアになる。
前記したセットアップよりフォロー速度を10落とすだけでかなり動きは楽になる。RONINで慣れている方ならこのくらいからスタートしてもOKだと思う。
ジョイスティックの感度はシーンの動きの速度に併せると体感的に気持ちが良い。特に50mmレンズを境にガッリ感応速度を落とすと無駄に行きすぎたり、戻し過ぎることがなくなる。微妙な角度フォローはジンバルのグリップ角で対応すればOKだ。
メインのコントロールパネルは特に説明は要らないだろう。見て直感的に操れるがメインのコントロールが左側になるので右利きやRC系に慣れている方はパン方向の時に若干上側に動いてしまうかもしれない。場合によりけりだが、2軸を動かすよりも1軸ずつ動かす方向を考えるとわかりやすい。
タイムラプスは画面タッチで動かすより、モニターを見ながらジョイスティックで操作した方が決まりやすい。数値を直接動かした方が精度は更にあがる。余り複雑なポイントをセットすると、スマホの空き容量に比例して落ちやすくなるので無用なポイントは省きたい。
他機種との比較
このジャンル、絶対的にDJI RONINシリーズが文句なくNo.1なのはしょうがないところ。既に3軸ジンバルとしての経験値がどのメーカーよりもあるのである意味ジンバルの世界では絶対王者的な立場だろう。
その機種と比較というのはかなりハードルが高いが、短い時間ではあるが比べて見た感じは悪くないという言葉が当てはまる。動かし方やボディの角度等で向き不向きがあるのはY軸とZ軸のモーターの位置によるモーメントの違いなのかもしれない。セッティングしてしまうとその差がさらにわからないので、両機共に工場出荷状態にて疑似的なワンテイクをオペレートして見た。
最初にも書いたが、TH-G3は初期設定では非常にマイルドな特性となる。なのでゆったりとした動きの中では無駄に狙った対象物に外れることなく追従してくれるが、チルトアップからの回り込みダウンやスイッシュではその後の動きに一瞬遅れが出てしまった。これは機種による性能というよりボディデザインによるアームへのタッチがあったかもしれない。簡単に言えばRONIN-Sはソリッドで尖ってるイメージに対してTH-G3はマイルドな動きという感じだ。
今回TH-G3にはフォーカスマンがつくことを想定してワイヤレスFFを取り付けているが、そのバッテリーをカメラの上部に付けていたために大きくチルトアップするとそこがアームに接触してしまうのだ。RONIN-Sはその辺の部分が綺麗に逃げているので全く問題はない。TEST時期にはTH-G3の純正フォローフォーカスはまだデモ機がなかったためにRONIN-Sと同じ環境ではなかったことを付け加えさせてほしい。
また、RONIN-Mのスタイルと比べるとワンハンドでオペレートも可能なスタイルは大きくアップダウン出来るのが特徴だがその分保持するための筋力はハンドルタイプに比べるとかなり厳しい。TH-G3にはオプションでハンドルKITもあるのでシステム重量が重めの想定があるならハンドルの同時購入をお勧めしたい。
特殊撮影(ダッチロール/タイムラプス)
ダッチロールはZ軸に対してグルグル360°以上カメラが回転しながら撮影する方法。TH-G3はペンライトスタイル(モードボタン押しながら電源ボタン2回タップ)の時にジョイスティックを左右に倒すことにより出来る。回転してる被写体に対して同回転をかける事で被写体以外を表現押して回すことが出来る。疑似的なドローンモードとして空中を回転させるという表現でも良いだろう。タイムラプスの説明は特に必要もないと思うので動画を参考にしていただければと思う。
ダッチロール
タイムラプス
TH-G3はノーマルポジション(トップダウンスタイル)からボトムアップスタイルにはグリップ部分を時計方向に回す事により簡単にローポジションでの撮影が可能になる。ほぼ同じスピードで同じラインをなぞってみたが、視線が下がるだけでその速度感は何倍にも広がる。良くF1のスピード感は何百キロにもなると言われるがそれを再現できるだろう。
その他
ペイロード500~3600gまでの幅を持つTH-G3はもちろん色々なカメラを載せることが出来る。小型のミラーレスや業務用ハンドヘルドカメラも搭載可能だ。小型ミラーレスの場合はその重量が軽すぎてY軸のバランスが取り難い時は付属の下駄をマウントに付ける事によりカメラの重心位置を上げ、疑似的に重量増を表現するところはさすが三脚メーカーというところだ。
ほんの少し高くなるだけで重量バランス的には200~300g重くなったのと同じになる
またカメラにガイド用にマイクを付けたり前後に長いハンドヘルドを載せる時は後ろのクリアランスに気を付けたい。出来れば純正でカウンターバランスもオプション扱いであるがこれを手元に持って行けば色々なカメラを載せるバリエーションが増える。出来ればこのウェイトは標準装備にしてほしかったくらいだ。
PXW-X70の場合クリアランス的にはこのくらいしかない。トップハンドル付けると耐荷重的には問題無いが重量バランス的に後ろに来るために後部がモーターと当たってしまう
EOS 5Dシリーズに17-40㎜のレンズを付けホットシューにAZDEN SMX30を取り付けた時のチルト方向の限界はこの様な感じ。前はカメラマウントにレンズが、後ろはマイクがZ軸モータに各々45°位で当たってしまう
総評
元々ミニジブに載せる電動ヘッドも製品ラインアップしているため、その辺りのノウハウや知見はあるとはいえ、常に静止を求められるジンバルと言うのは全く別の話のはずだ。Libecには高性能の三脚を求めている方も多い。もちろん筆者もその一人だ。
特に激戦区であるジンバルに参入してきたことは大きく評価できる。DJI RONINシリーズの完成度を考えるとまだまだソフト的に詰める部分は沢山ある。しかし現時点で現場でも十分活用できるレベルにあることは間違いないのだ。
この手のジンバルを持ち歩く時や移動の時、アームがバラバラになってしまうため、この様なゴムバンドやマジックテープ等でX・Y・Z軸のアームを纏めてしまうと安全だ
また、このジンバルを単体で使うだけではなく、ラインナップにあるSWIFT JIBとTH-G3での組み合わせればさらにコンパクトでワンマン運用が可能なミニJIBの登場も現実的だろう。むしろ作って欲しいくらいだ。ハード的にはファーストモデルとしてその剛性は十分満足できるものなので、後はモーションコントロール等のソフトウェアのバージョンアップを期待したい。