「Androidベースのエンコーダー」に衝撃を受ける
「YoloBox」と初めて出会ったのは2019年夏。北京・中国国際展覧センターで開催されていた「BEIJING INTERNATIONAL RADIO, TV & FILM EXHIBITION 2019」(以下:BIRTV)を現地取材したときのことです。
中国はちょうど5G(第5世代移動通信システム)の正式サービス開始を控えていて、2019年のBIRTVはどのブースをみても5G推しの展示が多かった印象。さらには、中国国内でのライブ配信に対する注目が(その当時の日本よりも)高かったこともあり、テレビやラジオ局といったいわゆる放送業界向けのものだけでなく、ライブ配信を意識した製品やサービスもたくさん目にしました。
このBIRTVを日本の私たちが一言で言い表すと「Inter BEEの北京版」ということになるのかもしれません。しかし、展示の規模や会場の雰囲気から感じられる勢いはInter BEEよりもBIRTVのほうがひと回りもふた回りも上。いくつもの展示場が並ぶ広いBIRTVの会場を4日間歩き回り、Inter BEEでは感じることのないワクワク感は3年が過ぎた今でも忘れることはできません。
そのワクワクを感じたモノのひとつが、7インチほどのディスプレイを備えたタブレットで、AndroidベースのカスタムOS上で動作するYoloLiv社のライブストリーミングエンコーダー「YoloBox」です。
本体はとても分厚く、「タブレット」と呼ぶにはちょっと躊躇ってしまうサイズ感でしたが、映像は2つのHDMI映像入力端子と1つのUSB-A入力端子、音声はステレオミニプラグの入力端子が1つ。そして、内蔵のLANポートやSDカードスロット、ヘッドフォン端子などが本体に備わっていることを考えれば、とてもコンパクト。
Androidベースのタブレットですからバッテリー駆動もできて、Wi-Fiはもちろん、カードスロットにSIMを挿せば4G LTEのモバイルデータ通信で配信ができますし、簡易的なスイッチャー機能も搭載されています。
これを見た当時は、Androidベースで動作して映像スイッチングも可能なライブストリーミングエンコーダーは日本ではまだ存在していなかったので、これが実用で動くのかどうかが正直なところ疑問であったものの、これまでにないコンセプトの製品を目の前にしてとても興奮をしたものです。
でも、技術基準適合証明(以下:技適)取得のハードルもあることから、こうしたコンセプトの製品を日本で見ることは遠い未来の話、だとそのときは思っていました。
単なるエンコーダーとしてだけでなく、UVCキャプチャーデバイスとして活躍
それから約2年が過ぎた2021年10月。YoloBoxの後継機種にあたる「YoloBox Pro」をYoloLiv社の正規国内販売代理店としてシステムファイブが取り扱い、国内販売を開始します。
国内発売されたYoloBox ProはYoloBoxと比べ、本体のディスプレイは7インチから8インチへ、映像面ではHDMI映像入力端子が2つから3つへ増えるとともに、(YoloBoxと同様に)USB-Aの入力端子にはWebカメラを挿すことも可能。HDMIのビデオカメラだけでなく、コロナ禍で活躍の場が増えた身近にあるWebカメラを挿してもよいのは魅力です。
音声面ではLine InとMic Inの2つのステレオミニプラグの入力端子がつき、YoloBoxに比べるとYoloBox ProではCPUがQualcomm Snapdragon 660へとアップグレードされました。
先にも挙げたように、日本でこうしたものを見るのは技適の兼ね合いで難しいとばかり思い込んで諦めていたこともあり、このニュースを見たときは本当に衝撃的で、国内販売が開始されて間もないうちに私自身もYoloBox Proを手にし、発売からまもなく1年となるいま現在でも活用をしています。
YoloBox Proをベースとしたときの私の機材構成は、HDMI入力端子へカメラ(パナソニック DMC-FZ1000)とパソコン(MacBook Pro)、そして、オーディオミキサー(YAMAHA MG06)のSTEREO Outから出力された音声を(レベルコンバーターでバランス・アンバランス変換した上で)YoloBox ProのLine Inへ入力する簡易的なスタイルです。
週イチで配信をしているプライベートのYouTube LiveではYoloBox Proのエンコード機能を利用した「ライブストリーミングエンコーダー」として、また仲間たちとStreamYardを用いたライブ配信をするときにはYoloBox ProのUSB-C端子を利用して「UVCキャプチャーデバイス」として利用するのが主な使い道。
そして、プライベートのライブ配信以外にも、案件として請け負うライブ配信の現場では、小型のビデオスイッチャーのマルチビュー、または複数のハードウェアエンコーダーをまとめて監視するためのモニタリング用途としてなど、「ちょっとしたモバイルディスプレイ代わり」として使うこともあります。
スマホやタブレットと同じようにバッテリー駆動ができるYoloBox Proは、現場でサッと取り出し、HDMIケーブルを挿してすぐに使えるのでとても便利です。
「Inviting guests機能」でStreamYardのように遠隔のゲストとトークする進行も容易に
日本での発売以降、YoloBox Proは多くのバージョンアップが施されてきました。発売直後と比べ、最近のYoloBox Proはできることが増え、操作画面のUI周りも改善がされています。
できるようになったことのひとつとして、先にも紹介したYoloBox ProのUSB-Cポートを通じて、UVCのキャプチャーデバイスとして利用できるようになったことは、私自身の利用頻度を挙げる大きな要因でした。
付属のUSB-C to Cケーブルをパソコンへ接続することで、映像デバイス、音声デバイスとしてYoloBox Proが認識され、先に挙げたStreamYardをはじめ、Zoomなどのビデオ会議システムでの利用も可能です。
YoloBox Proを手にしてしばらくの間は内蔵のストリーミング機能でYouTube LiveをはじめとするRTMPに対応したサービスでライブ配信をするときしか出番がなかったのですが、USB-C Outの機能が実装されたことで、YoloBox Proが活躍できるシーンが増えました。
また、直近での特に大きなアップデートは「Inviting guests(ゲスト招待)」機能のタブが追加されたことでしょう。
YoloBox Proが認識した3つのHDMI映像入力端子やUSB-A入力端子を通じて入力された映像デバイスをタップして切り替えるのと同じように、Inviting guestsで参加したゲストひとりひとりをソロで表示したり、最大3人を分割し、同時に表示する画面レイアウトもできます。
ただ、StreamYardに親しみがある人からみると、Inviting guestsで参加したゲスト全員をまとめて表示したいときや、パソコンの画面とゲストを組み合わせた画面レイアウトに対してはもう少し改善を期待したいところですが、遠隔の場所にいる人とネット越しにつなぐトークをするようなライブ配信をYoloBox Proでも実現することが容易となりました。
「挑戦的で革新的」だけどさらなる「操作性と安定性」の向上に期待
YoloBox Proは日本で発売された時点ではできないこと(機能上の制限)が多かったのですが、頻繁なバージョンアップによって、Inviting guests機能のような挑戦的なアップデートも多く行われてきました。
その一方で、現時点のYoloBox Proは「挑戦的なアップデートによって生まれる、革新的な機能を体験したい」、いわゆる「流行りモノ(コト)」に常にのっていきたいエキスパートにとってはとても魅力的で、面白いガジェットの一つと言えます。
しかし、YoloBox Proはまだまだクセが強いですし、バージョンアップによって引き起こされる不具合の報告を時折見かけることもあります。今のところは不具合が起きたことを想定した上で、予め代替えの手段(機材)を用意して対応できるスキルが必要かもしれません。
そういった意味で、いまのYoloBox Proはスマートフォンでいうところの「メイン端末にはならないけど、サブ端末として持ちたい」立ち位置にまだいると感じます。
もちろん、YoloBox Proは(そして最近発売された「YoloBox Mini」も)ライブ配信をこれから始めるビギナーでも、スマートフォンと同じように気軽にライブ配信ができる「メイン」のデバイスとしての位置付けを狙っているはずです。
その立ち位置まで辿り着き、(いい意味で)枯れたデバイスとなるまでには、もう少しの時間がまだ必要と個人的に感じています。
でも、YoloBox Proがビギナーでも、エキスパートでも、そしてプライベートだけでなく、ライブ配信の現場でも安心して使える機材のひとつとして活躍の場が増えることを期待したいのです。