Vol.33 簡略化へ進むウェビナーと多様な映像表現を求められるライブ配信が共存する2022年へ[ライブ配信手帖]

新しい情報が手に入りにくいもどかしい状況が続く

今年(2021年)も新型コロナウイルス感染症の拡大によって、昨年(2020年)と同じようにさまざまな展示会は中止やオンラインのみの開催へと追い込まれました。

国内はもちろん、近年、私が関心を寄せているCOMPUTEX TAIPEI(台北)、Broadcast Asia(シンガポール)、そして、BIRTV(北京)といった海外で開催される展示会も同様で、そもそも、国境を越えることさえも容易ではない状況が続いています。

私のみならず、日頃、ライブ配信やウェビナーの配信に携わる人、そして、映像や音響関係の人たちにとっても、関連する製品やサービスの新しい情報を得る機会がない、もどかしい年であったかもしれません。

「元通りまではいかずとも、このままいけば元通りの生活へ近づいていけるのかも」と感じてしまうほどの落ち着いた日々がしばらく続いたものの、(この記事を執筆しているちょうどいま)新しい変異株が日本でも確認されたことで、再びこれからの日常がどのように変化するのかを心配する時間がやってくるのかもしれません。引き続き、感染症対策をとりながらの生活は来年(2022年)もきっと求めるのでしょう。

Vol.33 簡略化へ進むウェビナーと多様な映像表現を求められるライブ配信が共存する2022年へ[ライブ配信手帖]

そんな厳しい状況のなかではありましたが、感染症の拡がりが一時的に落ち着きをみせた11月にはInter BEE 2021が幕張メッセで開催されました。

とはいえ、例年は幕張メッセの1〜8ホールを使用して開催されているInter BEEですが、今年は5〜8ホールのみと会場規模が縮小。2年前に比べれば、出展をするブースの数は大きく減ったかたちとなりました。

特に、1〜2ホールで展開されていた音響関連のブースは特に少なかったことで、これらを専門とする人たちにとっては物足りなさを感じたかもしれません。その一方で、映像を専門とする人たちとしては規模が小さくなったものの、久しぶりにある程度の情報収集ができて良かったという声も聞きます。

ライブ配信関連でいうと、いつも大きな規模のブースを展開するBlackmagic Designは残念ながら不在。訪れた人たちの関心は、開催直前に展示が予告されていたCerevoの「Liveshell W」、また、日本の技術基準適合証明を取得して10月から発売された「YoloBox Pro」が展示したシステムファイブ、そして、NDI関連製品を展示したブースへ関心を寄せた人も多かったように感じます。

私自身も物足りなさを感じつつも、2年ぶりに幕張メッセで開催されたInter BEEのブースをまわり、「訪れることで情報をダイレクトに得て、そのとき感じた疑問をすぐにぶつけることができる」リアル展示会イベントの良さを改めて実感したのです。

ウェビナーの現場は簡略化の道を進む

私が携わったライブ配信とウェビナーの配信現場を振り返ってみると、「リアルからオンライン、そして、ハイブリッドへ」とかたちを変えていった昨年のような大きな動きは、今年はひとまず落ち着きつつあると感じています。

昨年は感染症の拡がりによってひとつの場所に多くの人たちが集まることが難しくなったことで、突然、かつ、早急な対応が求められた「リアルからオンラインへ」のかたちは、多くの人たちが戸惑い、そして、試行錯誤の日々が続きました。

そして今年は、私たちのようなライブ配信やウェビナーの配信を専門とする人たちだけでなく、これまでZoomやTeamsのようなビデオ会議システムを用いたオンラインでのコミュニケーションに無縁だった一般の人たちも、特に「Zoom」はいまや「YouTube」と同じように誰もが知るものとなりましたし、ビジネスパーソンならおそらく一回は触れたことがあろう大きなサービスとなりました。

その認知が広がったことで、最近、ウェビナーの現場では少しずつ簡略化の道を進んでいるようにも感じます。特に感じるのは「機材の簡略化」です。

ウェビナーの現場はライブ配信の現場に比べ、ウェビナーをコントロールする”ホスト”となるパソコンだけでなく、配信に問題が無いかを確認するための”パネリスト”や”視聴者”権限設定をしたパソコン、さらには、スライドを投影するための(画面の共有機能を用いるための)パソコンなども準備するケースも多く、現場で必要となるパソコンの数はその分増えていきます(この数年、ウェビナーの現場に対応していくためにパソコンを追加で調達した!という方もいらっしゃるかもしれません)。

ただ、逆に、カメラは一台のみでスイッチングは不要なウェビナー現場が大半を占めたような気がします。そして、カメラ据え置きの固定アングルで対応することもあれば、パン・チルトやズームが必要となるときはリモートの方向制御とズーム制御が可能なPTZカメラを活用し、予めアングルをプリセットしておいて切り替えるという手段をとることも。つまり、横についたカメラマンがきめ細やかなカメラ操作するシーンが本当に少なくなりました。

カメラの台数が少なくなったことで、結果的に、ウェビナーの現場では8入力のビデオスイッチャーではオーバースペックとなるケースも多く、4入力、場合によっては(Roland V-02HD mkIIのような)2入力のビデオスイッチャーでも十分事が足りてしまうのでは?と感じてしまうこともしばしばです。

私自身の最近のケースでは、小規模のウェビナーで、状況が許すならば、登壇者を捉えるカメラの映像を受けるためのV-02HDと、スライドを投影するためのパソコンの映像をZoomの”第2カメラのコンテンツ”機能で表示するためのV-02HD mkIIを2つ並べ、それらが出力したものを一台の”ホスト”権限のパソコンへ入力して済ませてしまうことも多くなりました。

ウェビナーの現場における機材の簡略化へ至る理由の多くは予算都合というのもありますが、ライブ配信に比べるとウェビナーの現場ではカメラの台数が減り、ビデオスイッチャーのスペックを大きく必要としない機材の簡略化の道を進んでいるように感じます。

そう考えると、今年のウェビナーの現場では昨年に発売されたBlackmagic DesignのATEM MiniシリーズやRolandのV-1HD+などの4入力、今年発売されたRoland V-02HD mkIIのような2入力のHDMIビデオスイッチャーなど、スペックがたくさん詰め込まれたプロフェッショナルな上位なものではなく、ビギナーも操作可能な製品たちを(ビデオスイッチャーだけに限らず)多く目にしてきたと思うのです。

その一方で多彩な映像表現の必要性も

Vol.33 簡略化へ進むウェビナーと多様な映像表現を求められるライブ配信が共存する2022年へ[ライブ配信手帖]

ウェビナーの現場における簡略化が進む一方で、ライブ配信の現場では多彩な映像表現の必要性を求められるシーンもあると感じています。 ウェビナーはビデオ通話会議の仕組みを基とされていて、登壇者などの話し手を映すカメラの映像画質や音質は、参加者に視聴してもらうには(昔より利便性は高まったものの)限界があります。

また、ある程度のウェビナーの実施回数を重ねていくと、フォーマットが決まったウェビナーでは他の差別化を図ろうとしたとき、より多彩な映像表現、よりよい音質としたライブ配信のほうを活用したいと考えるケースも多いです。

そして、私たちの現場だけでなく、インターネットを通じてオンラインでさまざまなコンテンツを見ることが当たり前となった参加者(視聴者)たちも、そのコンテンツの価値を見分ける力がついてきています。

これによって、「(ひとつの場所に多くの人たちが集まることが難しくなったから)オンラインで見ることができるだけでもありがたい」存在であったライブ配信やウェビナーの配信は、「(オンラインで見ることができるのは当たり前となったことで)これまで以上により多彩な映像表現、よりよい音質としたコンテンツで、あたかもリアルでその場にいるかのような体感や情報を得ることができる」存在となることが求められているように感じます。

この流れ、およそ10年ほど前のライブ配信黎明期時代と似ているような気がするのです。

その時もライブ配信という仕組みが珍しく、いまその場で起きているリアルタイムな状況が映像と音声でインターネットを通じて伝達されてくる仕組みそのものに驚き、それだけでもありがたい・すごいと感じていたものが、しばらく時が過ぎたことによって、見ていた視聴者たちの目が肥えてきて(テレビで放送されるような)コンテンツへ次第に移っていったあの時代です。

その10年ほど前にライブ配信の現場で起きていたことが、いまはウェビナーの現場でも求めれたり、もちろん、現代のライブ配信の現場もこれまで以上に多彩な映像表現が求められているようにも感じます。

その求められ方はもちろん10年前とはまた違ったかたちではありますが、昨年と今年のこれらの流れは、新しく登場したウェビナーという仕組みが定着したことによって、なんだか「時代が一回りした」ような懐かしい感じもするのです。

2022年はどうなる(期待したいこと)

Vol.33 簡略化へ進むウェビナーと多様な映像表現を求められるライブ配信が共存する2022年へ[ライブ配信手帖]

「機材の簡略化」と「多彩な映像表現の必要性」は相反するもの。多彩な映像表現を必要とするならばスペックのある機材が必要となりますし、機材の簡略化を必要とするならば多彩な映像表現の実現は難しくなります。

でも、来年も今年と同じようにYouTube Liveなどのライブ配信とZoomなどのビデオ会議システムを活用したウェビナーの配信現場で「これら相反するふたつのものが共存していく」年になると感じています。

「機材の簡略化」が求められるシーンにおいては、昨年発売され大きな話題を呼び多くの人たちが手にしたBlackmagic designのATEM Miniシリーズ、そして今年は、RolandからV-02HDの後継機となるV-02HD mkIIなどのビデオスイッチャー、Yololivからは先に触れたYolobox Proが登場しました。

その一方で、「多彩な映像表現」が求められるシーンでは昨年と今年にBlackmagic designからATEM Mini EXTREMEシリーズ、RolandからV-8HDやV-160HDが登場していますが、ただ、Roland V-160HDを除き、これらの製品たちはHDMIがベースとなったものたちばかりです。

プロフェッショナルの人たちだけでなくビギナーの人たちをターゲットとする製品たちは昨年と今年多く登場したものの、近年ではプロフェッショナルの人をターゲットとする(SDIがベースとなった)ビデオスイッチャーの製品は近年少なかったように感じます。来年は「多彩な映像表現の必要性」に応えられるSDIベースのビデオスイッチャー製品のアップデートを待っている人も多いことでしょう。

そして、もうひとつ私個人的に期待したいのは専用のライブ配信エンコーダー機器。

近年はBlackmagic DesignのATEM Mini/Mini EXTREMEシリーズをはじめ、Web PresenterでYouTube、Facebook、Twitterなどへ配信できる仕組みを活用する現場も多くなっています。

そもそも、日本におけるこの分野を切り開いてきたのはCerevoのLiveshellシリーズだったと言えるでしょう。この数年、新しい製品の発表が無かったそのCerevoが先日のInter BEE 2021で発表した「Liveshell W」にも個人的に注目をしたいところ。

そして、さまざまなメーカーからも専用のライブ配信エンコーダーが登場し、ライブ配信の安定性の向上につながり、私たちの現場で活用できる製品の選択肢がさらに増えていくことにも期待をしたいのです。

WRITER PROFILE

ノダタケオ

ノダタケオ

ライブメディアクリエイター。スマホから業務機器(Tricasterなど)までライブ配信とウェビナーの現場を10年以上こなす。