RCS全国大会

2歳から8歳まで参加可能なランバイクのシリーズ戦であるR.C.S.全日本ランバイク選手権シリーズ(以下、RCS全国大会)。RCS全国大会では、2019年ごろからレース会場からライブ配信を行なっており、レース会場への来場が難しい遠方の家族やサポーターもレースを楽しむことが出来るようになっている。今回は、サマーランドで開催された大会の中継現場の様子を取材させていただいた。

レース中継だけでなく、審判用用途でも活用できる環境構築

レース会場内に設置されたカメラの映像は、V-8HDを通じてP-20HDと接続され、中継だけでなくレース中に審判員が判定する用途でもスロー映像が利用されていた。

これまで大規模なスポーツ大会でしか活用されてこなかったインスタントリプレイやスロー判定などを、中小規模の大会で実施するにあたってのノウハウや機器選定のポイントなどについて、レース配信を担当しているナカヤマシャシンの中山さんにお話を伺った。

ナカヤマシャシン 中山利尚氏

――中山さんのこれまでの活動について教えてください

中山氏:

元々はスポーツ雑誌などで記者カメラマンとしてスチルをメインに活動していました。2015年ごろから映像制作の割合が増え始め、ドローン撮影からライブ配信まで手がけるようになりました。

――RCSのレース配信は、どういうきっかけで始めたんですか?

中山氏:

レーシングカートサーキットで生配信をやっていた流れでRCSの代表と知り合いまして、2019年からレース中継をスタートしました。
自分自身がモータースポーツ好きということもあって、一緒にシーンを盛り上げて行きたいという思いもあって活動しています。

屋外のテント内に機器類を設置

――スイッチャーなどは、ライブ配信に向けて揃えられたんでしょうか?

中山氏:

映像編集機器などの経験はありましたが、ライブプロダクションでのスイッチャーは触ったことがなかったので、ローランドの製品を利用しながら覚えていった感じです。
現在はローランドのV-8HDをメインスイッチャーとして使用しています。インプット数は5~6入力使う想定で、カメラが4~5台、テロップ用のPCを1台から構成しています。

――機材選定のポイントなどがあれば教えてください

中山氏:

レース会場では仮設のテント内に機材を設置するのでコンパクトであることと、安定性が高いことを重要視しています。大会が複数日に渡って開催されるような場合は、テント内に機材を仕込んで数日間に渡って使用することも多いので、そういった場面でも、大きなトラブルなく利用することが出来ることがポイントですね。
あと、消費電力が大きすぎないことも重要なポイントですね。発電機や会場の電源を使用することも多いですが、バッテリーのみで運用できるような機材構成。具体的には700W以内に収まるように構成しています。バッテリー運用を基準に考えられることで、機材設置の自由度もアップしますし、イベント用仮設電源工事を待たずに準備やテストを行えるという点でも大きなアドバンテージですね。

P-20HDでエンタメ性を重視した配信も実現可能に

――今回の配信では、インスタント・リプレイヤーP-20HDを積極的に活用されていましたが、導入のきっかけについて教えていただけますか?

中山氏:

世界選手権クラスの中継をイメージして、必要な演出をしたいと考えた時に、リプレイヤーがあることが演出のポイントだと考えました。中継を見ている人にとっては、リプレイの画面を入れることでグッとエンタメ性がアップする。そのことは理解していましたが、なかなか簡単に導入できるものがない中で、ローランドからP-20HDが発表されたので、導入を決めました。

P-20HDのスチル機能を使ってタイトルを準備
配信テント内には審判員が映像を確認に来ることも

――今回は2台のP-20HDを使用されていましたが、それぞれの役割は?

中山氏:

1台はプログラムアウトを録画しています。もう1台はスタート直後のストレートをずっと記録しています。競技の特性上、スタート直後での接触などが起こりやすいため、審議の対象になりやすい箇所を写し続けるようにしています。
審判側で別のカメラも用意されているのですが、P-20HD導入後は映像を判定に活用されることも増えましたので、コース全体の設計に合わせてカメラ配置やP-20HDに接続するカメラなどを設計しています。
スイッチングは、先頭集団に合わせて切っていくことになるので、プログラムアウトだけの記録では判定用途には向かないため、今回2台体制を作れたのは良かったです。

2台のP-20HDとV-8HDが効率よく配置されている

――審判団の方が配信ブースに映像を見に来た際の機材配置など、多くの最適化がされているように感じました

中山氏:

一人でオペレートをすることも多いので、とにかく手順をシンプルにして、ミスが減るような工夫をしています。レース中のテロップなどは、PCアプリケーションのOBSを使ってPCの映像出力をスイッチャーに入力しています。タイトル画像や待機画面など最終段の静止画素材については、プログラムアウトを録画しているP-20HDに仕込んでおくことで、スイッチャーを触らずに切り替えることが出来るようにしています。

――これからのスポーツライブ中継について重要だと思うことはなんでしょうか?

中山氏:

スポーツ中継の現場においては、オペレートの最適化が重要だと思っています。
小規模の配信現場、特に屋外で配信するような現場の場合、機材をコンパクトにするという面からも映像・音声をオールインワンで扱える機器の導入を検討しています。PCでのオールインワンシステムも検討したことがありますが、安定性の面、特に復旧時間の短さという点で、ハードウェア製品をこれからも選んでいくと思います。
RCSをはじめとしたサーキットでの中継を通じて、スポーツ中継のノウハウを貯めていきました。マイナースポーツこそライブ配信で収録している素材のクオリティが重要なポイントになると考えています。その意味でも、インスタント・リプレイヤーは、小規模スポーツ中継でこそ、必要なマシンだと思います。

一人オペレーションで可能なことが広がる

仮設スペースでリプレイを含めたオペレーションを一人で運用する。以前であれば考えられないような運用が機能の進化や機材の小型化で実現できるようになり、それによって競技・大会運営のあり方まで変わっていくだろうことを感じさせてくれる取材だった。



WRITER PROFILE

岩沢卓

岩沢卓

空間から映像まで、幅広いクリエイティブ制作を手がける兄弟ユニット「岩沢兄弟」の弟。 デジタル・アナログを繋ぐコミュニケーションデザイン・プランニングを行う。