txt:ノダタケオ 構成:編集部

ライブ配信のニーズの高まり

「ライブ配信をしたいんですが、できますか?」

ライブ配信が突然注目をされるようになって以来、専門とする私たち(いわゆるライブ配信の配信代行をしている人たち)へ問い合わせをいただく機会が増えているように感じます。同様に、日頃から多くの動画(映像)制作をしてきた、いわゆる映像プロダクションの人たちのところにもクライアントから声がかかることが多くなったと聞きます。

やはり、製品やサービスのプロモーションのための様々な映像制作を担ってきた(これまでの長い間に密接な関係と信頼がある身近な)映像プロダクションの人たちへ、クライアントがまず最初に声をかけるのはごく自然な流れだと思うのです。

その一方で、映像プロダクションの人たちは「急速に盛り上がったライブ配信のニーズに対応がなかなかできていない」と感じている方も少なくないと聞きます。“編集”という過程を経て作り出される動画(映像)制作と、”いま起きている瞬間(や情報)をリアルタイムに伝える”ライブ配信は、一般の人達(クライアント)には”同じ映像制作”として、一緒のくくりにされてしまいがちです。

しかし、実際のところ、”これらは似て異なるもの”であることはご承知の通りです。案件として規模が大きなものであれば、撮影は映像プロダクションの人たちが、そして、それ(映像音声)を受けてライブ配信をするところは私たちがお手伝いをする、といった役割分担をするケースは少なくありません。

でも、実際のところ「決まった予算感があるなかで自分たち(映像プロダクションの人たち)だけでなんとかしなければならない」ケースも多い(実情)のかもしれません。「カメラとマイクはある。そして、パソコンもある(でも、ライブ配信をするにはどうしたら良いのか?)」そんな人たちへ向けたトピックを少し紹介します。

スイッチャーを使うことの意義

例えば「社内の一室(会議室など)」から「1名もしくは2名で(写真奥のタブレットにある)プレゼンテーション資料を見せながら発表」をし、「(写真手前右のパソコンを用いて)ライブ配信」。その様子を「社員が社外(リモートワーク先)からリアルタイムで視聴する」というシーン想定で、実際に機材をセッティングをしてみた一例がこちらです。

「カメラとマイクはある。そして、パソコンもある」ならば、機材面で準備をしたいのはビデオスイッチャー。

もちろん、ビデオスイッチャーを使わずとも、カメラやマイクの映像音声を直接パソコンへ取り込むことは可能です。しかし、カメラやマイクの映像音声を取り込むためにかかる負荷だけでなく、映像音声をエンコードしライブ配信するための負荷が1台のパソコンへすべてかかってしまうため、結果的に、パソコンの挙動が不安定になってライブ配信が停止しかねないリスクはどうしても避けなければなりません。

ライブ配信を専門とする私たちの現場においては、カメラやマイクの映像音声を取り込み処理する役割と、映像音声をエンコードしライブ配信をする役割は機材的にも分担されることが基本。できることならば、ビデオスイッチャーを一台いれたほうが負荷分散の一助になりますし、ライブ配信が止まってしまうかもしれないと心配する精神的な負担も軽減させることもできるのです。

また、負荷分散する目的として活用する以外にも、ビデオスイッチャーがあることによって複数台のカメラを接続し「全体の雰囲気を伝えるアングル(いわゆる引き)」と「話し手の表情を伝えるアングル(いわゆる寄り)」を作り出すことも可能となります。ひとつのカメラだけではアングルが単調となりがちですが、複数のカメラを接続して、カメラアングルが切り替わることで、動きのある見せ方もすることができる、という利点も生まれるのです。

今回、機材セッティング例で登場しているのはRolandのAVストリーミング・ミキサー「VR-1HD」。VR-1HDは複数のカメラを接続することができるビデオスイッチャーとしての機能と、複数のマイクを接続することができるオーディオミキサーの機能がオールインワン。特に「これからライブ配信を活用していきたい」と考える人たちへ候補に挙がりやすい代表的な機材のひとつと言えます。

人物をとらえるためのカメラ1台とプレゼンテーション資料を見せるためのパソコンやタブレット等、さらに1人もしくはテーブルを挟んで向かい合わせに座った2人が同時に発表をする(話す)ことを想定した2本のマイクがVR-1HDへ接続されているというケースです。

VR-1HDは3つのHDMI映像入力端子を備えていますから、さらにもうひとつカメラを追加して2カメ+プレゼンテーション用のパソコンやタブレット等を接続することもできます。好みのVIDEO INPUTへそれぞれ2台のカメラとプレゼン用デバイスを接続してもよいのですが、カメラはInput1/2、Input 3にはプレゼン用デバイスを接続することで、隣のTHRU端子から(画面切り替えをしても影響されない)プレゼン資料だけが画面出力される(プレゼン登壇者が現在の表示状態を確認するための)モニタ環境も作り出すことが可能です。

一方、音声面では2本のマイクを接続したコンボ・タイプ(XLR、TRS標準)のマイク端子のほか、RCAタイプのLINE IN端子を使ってスマートフォンからBGMを流すこともでき、今回のような想定シチュエーションにVR-1HDで十分対応することができるでしょう。

USB 3.0ケーブル一本で簡単接続

このVR-1HDをはじめとするRolandのAVミキサー(VRシリーズ)の大きな特徴は、USB3.0で(ライブ配信の役割を担う)パソコンと接続することによって、手軽に映像と音声をパソコンへ取り込むことができること。さらにいえば、接続するためにパソコンへ専用ドライバーをインストールする必要がありません。直接VR-1HDとパソコンをUSB 3.0のケーブル一本でつないでしまえばOK。パソコン側はUSBのWEBカメラを接続したのと同じような感覚で、カメラデバイスとして、またマイクデバイスとしても、VR-1HDを認識をしてくれます。

■ビデオ設定画面
■オーディオ設定画面

従来、ビデオスイッチャー(やカメラなど)からHDMIで出力された映像音声をパソコンへ取り込むためには、ビデオオーディオキャプチャ機器を間に入れなければなりませんが、VR-1HDではUSB 3.0でダイレクトに接続できるので、このような”キャプチャ機器は不要”となります。

また、先にも挙げたように”ビデオスイッチャーとオーディオミキサーが一体化”されていますから、ライブ配信をこれから活用したい人たちがパソコンへ映像音声を取り込めるようになるまでに迷いやすい・陥りやすい機器のケーブル接続のハードルも軽減されると思うのです。

いまYouTubeよりZoomが求められることも

さて、ここ最近のライブ配信事例を振り返ってみると、音楽ライブのライブ配信はYouTube Liveなどのライブ配信プラットフォームを利用することが多いのかもしれません。YouTube Liveでは”高画質高音質”、さらに”数千・数万単位での同時視聴”を捌くことが可能です。

ただ、最近のライブ配信事情でちょっと異なるのは、企業における社内向け戦略説明会や社内勉強会、セミナー、そして入社式などの行事は「YouTube Liveなどのライブ配信プラットフォームではなく、Zoomミーティング(以下:Zoom)といったビデオ会議システムを使いたい」というリクエストが増えてきている傾向があります。

元々、テレビ会議をするために社内ではZoomを使っており、社員の人たちはZoomに馴染みがあることも、理由のひとつとなっているようです。結論から言ってしまえば、YouTube Liveなどのプラットフォームを利用したライブ配信のときと同じように、Zoomなどのビデオ会議システムでもVR-1HDを用い、複数のカメラや複数のマイク、さらには、プレゼン用マシンを組み合わせたライブ配信をすることが可能です。

発表する人と操作する人の役割分担を

Zoomはもともとビデオ会議を目的としたツールですから、一台のパソコンやタブレット等の前に一人ずつの姿が映し出され、一つの会議ルームへ集まり、複数の人たちで会話を展開していくスタイルが基本です。

ただ、社内向けの勉強会やセミナー、または、社長が社員に向けて今年の事業戦略をプレゼンするなど、どちらかといえば情報を一方的に複数の人たちへ伝えるスタイルの場合、発表する人本人自らが操作をし、カメラのアングルを決めたり、マイクを調整したり、さらにはプレゼン資料を画面共有するなど自由自在に操るのは難しいこともあるでしょう。

発表する人は発表に専念(操作をしてもプレゼン資料を次ページへ送るぐらい)し、ライブ配信を視聴(参加)する人たちへ向けて送り出す映像や音声の調整など技術的な部分は映像プロダクションの人たちでお手伝いをする、という形が最もスマートです。

画面レイアウトも自由自在

YouTube Liveなどのライブ配信では始まる前に「まもなく始まります」とか終わった後に「ご視聴ありがとうございました」などのメッセージが入った「蓋絵」と呼ばれる静止画を表示することがあります。

Zoomのようなビデオ会議システムではそうした蓋絵を使うシーンはなかなかないのかもしれませんが、今回のような、勉強会やセミナープレゼンテーションといったケースでは、始まる前と後に何らかの静止画を表示させたい時もあるかもしれません。

Zoom単体ではこうしたことを実現するにはひと手間ですが、ビデオスイッチャーと組み合わせた機材構成であればこうした静止画を入れることは容易ですし、テロップなどを入れることも可能です。

さらにはプレゼンとカメラの画面を一つの画面に合成することも可能です。Zoom単体では実現しにくいこうした画面レイアウトの自由度は、ビデオスイッチャーを活用することによって容易に実現することができます。

Zoomを用いたライブ配信のポイント

今回、VR-1HDを使ったZoomのライブ配信のシミュレーションをしてみて感じたことをふたつほど共有したいと思います。

(1)ネットワークのチェックを念入りに

これは改めて触れるまでもないのかもしれませんが、Zoomでライブ配信をする際、配信を担うパソコンはWi-Fiではなく有線LANで、さらには品質のあるネットワークを利用した方が良いでしょう。また、複数の人たちがひとつのルームへ集まり、相互に会話を展開していくスタイルであるならば、ネットワークの不調によって途中で会議を中座することはある程度許容されるかもしれません。

でも、情報をひとつの場所から一方的に複数の人達へ伝えるスタイルであった場合、万が一、ネットワークや配信を担うパソコンの不具合でZoomへの接続が切れてしまうと(いわば、発表ステージから出演者が突然いなくなってしまうのと同意で)、進行そのものが中断しますし、ネットワーク越しに視聴をしている人にも混乱を与えることになりかねません。

YouTube Liveなどのプラットフォームではネットワークの品質に応じて、映像や音声のクオリティーを下げることでライブ配信が中断しない工夫をすることが可能ですが、Zoomのようなビデオ会議システムの場合は配信側で意図的に調整をすることが難しいのです。

これはZoomに限りませんが、どのプラットフォームでライブ配信をするにしても、とても重要なことのひとつはネットワークの確保です。実施の前にネットワークのチェックをし、十分な品質があるかどうか、もし無いならば代替えの手段も準備しておくことは忘れないようにしたほうが良いでしょう。

(2)Zoomの“クセ”を事前にチェックしておく必要

冒頭で“編集”と”ライブ配信”は似て異なるもの、と紹介しましたが、同様に、YouTubeのようなライブ配信プラットフォームと、Zoomのようなビデオ会議システムも、”これらは似て異なるもの”です。どちらも”映像と音声を伝送することができるもの”には間違いはありませんが、もともと情報をひとつの場所から一方的に複数の人達へ伝えるスタイルにはZoomのようなビデオ会議システムよりYouTubeのようなライブ配信プラットフォームのほうが良いと感じます。

ただ、今回の想定シーンでは「一般の人に広く見せるのではなく、社内などクローズドに情報を伝える手段」として、さらには「普段使い慣れている仕組みを流用したい」というクライアントの希望を考慮するならば、YouTubeのようなライブ配信プラットフォームの代わりにZoomのようなビデオ会議システムを使うことは十分にあり得ますし、すでに、そうした事例はたくさん発生しています。

そのうえで、Zoomはビデオ会議システムとして(YouTubeのようなライブ配信プラットフォームにはない)クセや向き・不向きがあるように感じます。 一例として、プレゼン資料に“動画”が含まれていた場合、その動画をZoomで高画質高音質で魅せるのは(見せることは可能ですが、クオリティー的に)適さない印象を個人的に受けています。

YouTube Liveなどのライブ配信の現場で当たり前のようにできることをそのままZoomでやってみると、期待した通りのクオリティーにならないことも多々ありそうです(そもそもの仕組みが異なるので仕方がないのですが)。こうしたことから、Zoom独特のクセに早期の段階でチェックし慣れておくことも必要と感じています。可能であれば、クライアントを交えた事前のテストもしておく必要はありそうです。

映像のプロだけでなく、これから始めてみたい人にも

昨今、音楽ライブを中心としたパブリックなイベントだけでなく、社内勉強会やセミナーを中心としたクローズドな行事においても、“いま起きている瞬間(や情報)をリアルタイムに伝える”ためにYouTube LiveやZoomを活用するニーズが急激に高まっていることは、誰もが感じているところだと思います。

とはいえ、“編集”という過程を経て作り出される動画(映像)制作と勝手が異なるライブ配信は「カメラとマイクはある。そして、パソコンもある」「でも、ライブ配信をするにはどうしたら良いのか?」と、多くの動画(映像)制作を担ってきた映像プロダクションの人たちでさえも困惑することはあるのかもしれません。

特に、カメラからビデオスイッチャー、マイクからオーディオミキサーを経由し、ライブ配信を担うパソコンへ映像音声を取り込むまで、さらには、そこからライブ配信プラットフォームやビデオ会議システムを通じて、画面越しにそれを視聴する(情報を届ける)までに至る物理的な映像音声機器の接続は、迷いやすい・陥りやすいのハードルが多く存在します。

映像プロダクションのような映像のプロの人達だけでなく、ライブ配信をこれから始めてみたいと考えている人にとって、今回のようなビデオスイッチャーとしての機能と、複数のマイクを接続することができるオーディオミキサーの機能がオールインワンとなった「VR-1HD(をはじめとするRolandのVRシリーズ)」を活用してみることは、迷いやすい・陥りやすいハードルを軽減する一助となるはずです。

WRITER PROFILE

ノダタケオ

ノダタケオ

ライブメディアクリエイター。スマホから業務機器(Tricasterなど)までライブ配信とウェビナーの現場を10年以上こなす。