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高橋俊充 TOSHIMITSU TAKAHASHI │ プロフィール
1963年、石川県小松市生まれ。デザインプロダクション勤務を経て、1994年フリーに。アートディレクター、コマーシャルフォトグラファーとしての活動を主体とし、日々、フォト・ドキュメンタリーをテーマに写真創作に取り組み、写真展開催、写真集制作など自身写真作品を発表し続ける。また、カメラメーカーのプロモーションや雑誌執筆なども行う。受賞歴:日本APAアワード2013、2024入選。金沢ADC・会員特別賞、準グランプリ。ほか多数。
写真集:「SNAPS ITALIA」「SNAPS MOROCCO」ほか。
Webサイト:TOSHIMITSU TAKAHASHI Photography
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LEICA SL3 / ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.F8.0 1/160sec. ISO250

ライカSLという存在

これまで「デジタル・ライカ。レンジファインダーの魅力」にてM型ライカ、レンジファインダーの楽しさをお伝えしてきたのだが、私自身、コマーシャル等の仕事ではライカSLシリーズを使っている。レンジファインダーの魅力に取り憑かれライカを使うようになったのが始まりだったが、このカメラを使うことによってライカが歩んできた歴史、写真文化に対する考え、写真表現に対するこだわり等、様々なものを含めライカを愛するようになってきた。

丁度「LEICA SL2」が登場した頃に、私は初代「LEICA SL」を中古ながら購入した。垂直に立ち上がった軍艦部。各所各所にシャープに尖ったディテール。電源以外何もレタリングのないスイッチ類…。そのデザインとやや大ぶりのサイズからくる存在感は特別なものだった。写真を撮る機材ということはもちろん、所有する喜びも併せ持った一台だと感じた。

また、ファインダーを覗いて見える画像はなんとも言えず柔らかいトーンの質感で、ピントリングを回して浮かび上がった画にゾクッとしたものだ。

仕事のできるライカ

当初、Mマウントレンズを付けてプライベートや自身の作品撮りでの使用ではあったが「L-Mount Alliance」であることからSIGMAレンズも使える。SIGMAのArtシリーズは非常にシャープでボケ表現も自然で信頼できるレンズだ。ズームやマクロなど、数本のSIGMAレンズも揃え仕事でも使用を始めた。これが予想外に使えることを知った。操作の基本となる無記名のスイッチや大型ダイヤルは、自身で割り当てることができ、ユーザープロファイルで様々なセッティングを登録しておけば瞬時に呼び出すことができる。

私の場合で言うと、ポートレイト撮影、ドキュメンタリー撮影、フラッシュを使用した商品撮影に、空間撮影など、それぞれに適したISOやシャッタースピード、AFセッティング、WBなどをカスタム登録している。それらはタッチパネルで瞬時に呼び出せるため、都度モードダイヤルを選び、ISO、WB設定などの操作がいらず、そのスピード感は別格で、現場でのトラブルも格段に少ない。

また、Capture Oneを使用してのテザー撮影や、フラッシュ撮影においても様々なサードパーティ製品のライカ対応モデルも増え「え?これって仕事で使える!?」となった。

実際、仕事で使うとなると現場に持ち込むカメラは一台という訳にはいかない。「LEICA SL2」を新規で購入し、「SL」「SL2」の二台体制で仕事をこなすようになった。後に「SL2-S」の登場で、初代「SL」を手放し、「SL2」「SL2-S」の二台体制となり現在にいたる。「SL2」は4730万画素という高画素撮影に。「SL2-S」は2400万画素ながら高感度にも強く、暗いシーンなどに威力を発揮し、この二台はとてもバランスの良い組み合わせだ。

もちろん操作系はほぼ同じでカメラを持ち変えた時の誤操作によるトラブルも起きない。仕事の現場ではいかに間違いなく執り行えるかが一番重要なところでもあり、この二台はとても頼りになっている。

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LEICA SL3 / ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH. F8.0 1/250sec. ISO100
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ライカSL3の登場

前置きがとても長くなったが「LEICA SL3」の登場である。スペックや仕様を見る限り「SL」シリーズの最新モデルとして魅力溢れるカメラだと感じた。そして今回発売のタイミングでお借りしてテストさせていただくこととなった。「SL」シリーズを、初号機から仕事で使うユーザーとして、かなり個人的な目線、さらにスチール・フォトグラファーとしてのレビューであるが、その辺はお許しいただきながら、それぞれ感じたところをポイントごとにお伝えしていく。

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LEICA SL3 / ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH. F2.0 1/200sec. ISO200

気になる画作り

初代「SL」から今回の「SL3」まで、それぞれカラー、トーンなど画作りは違う。このあたりはあくまで個人的な感想にはなるが、まず「SL」の画はやや渋いくらいの色調で、ある意味非常にライカらしい画だった。あの色味だけでも手放すんじゃなかったと今でも思うところ。

「SL2」では彩度、コントラストともやや高めの印象で、誰もが美しい画だと感じるものだろう。撮影現場でもテザー撮影でモニターに映し出される画を見て、いやーよく撮れていると錯覚(笑)してしまうほどだ。

そして「SL3」。「SL2」を継承する感じの画作りだが、割りとニュートラルに振られている。派手な印象はないが、ある意味肉眼で見た印象のまま記録してくれている。自然な発色は撮影後の現像段階においても非常に扱いやすく、デジタルデータとして大変ありがたいものだ。

デザイン・サイズの変更、71gの軽量化

「軽いっ!」

手にしてまず感じたのがそこだ。サイズとして横幅がわずかに短く、グリップがやや前にせりだしただけだが、非常に持ちやすくデザインされている。やや大柄な「SL2」はその存在感が魅力であったので、その力強さがやや薄れた感はあるが、バランスのいい大きさだと感じる。これがもっとコンパクトになってしまうとカメラとレンズのバランスが悪くなるだろう。

35mm判フルサイズミラーレスが出始めの頃は「フルサイズがこの小ささ!」といったコンパクトさ売りのカメラが多かったが、小さいカメラは持ち運びにはいいが、使いやすさとはまた別で、それに相応しいサイズが必要だと考える。SLシリーズの良さはまさにそこで、今回の「SL3」はまた絶妙なデザインとサイズになったと思う。

そしてわずか71gの軽量化だが、これがまた思いのほか軽く大変扱いやすい。グリップの良さとの合わせ技ではあるが、長時間の撮影にもストレスを感じさせないものだった。これは驚きだった。

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LEICA SL3 / ライカ アポ・ズミクロンSL f2/35mm ASPH. F2.0 1/60sec. ISO320
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チルト液晶の搭載

これは今までなんでなかったんだろうと思うポイント。ビデオクリエーターにとってはバリアングルの方がさらに使い勝手もいいのかも知れないが、それはカメラとして美しくないだろう。

M型ライカなどはファインダーを覗いて撮るべきカメラなので、一生付いて欲しくないチルト液晶だが、仕事カメラとしても使えるSLシリーズにはマストだ。三脚を据えてのローアングルやハイアングルなど、設定や再生時に置いても圧倒的に便利な機能と言える。

有効6030万画素 トリプルレゾリューション技術

6000万画素の解像度は、画質に置いて大きくバージョンアップしている。特に同時にお借りした、APOレンズとの組合せで叩きだすローパスレス6000万画素の画はまさに驚くべき描写で、絞り込んだ時の解像度と立体感は、「SL2」とはまた次元の違う力強さを感じる。さらに高感度耐性の高さも目を見張るものがあり、「SL2-S」と変わらない高感度に対する強さを感じる。

また、トリプルレゾリューション技術による、6000万画素、3600万画素、1800万画素とRAWで記録できるところも魅力だ。仕事内容によっては小さい画素数で事足りることも多い。あとの作業効率やスピードを考えればとてもありがたい仕様と言える。

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LEICA SL3 / ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH. F2.0 1/200sec. ISO160(フラッシュ使用)
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LEICA SL3 / ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH. F2.0 1/160sec. ISO6400

位相差検出AFの追加

「SL2」には「位相差検出AF」がなかったわけで、ようやく搭載されたことになる。しかしスチール撮影に置いては「SL2」の「コントラストAF」と、「デプスマップ(物体検出AF)」だけでも人物撮影などは追尾性も高く非常に優秀だ。今回「SL3」での位相差AFの追加によりさらなるAFスピードを期待したが、実はあまり実感が得られなかった。このあたりはムービー撮影などで効果が現れるのではと思う。

ライカUXデザインによる使いやすさの向上

先に述べた通り、ライカのユーザーインターフェイスを含む操作性の高さは「SL3」においてさらにブラッシュアップされている。ISOダイヤルにも割り当てることのできる大型ダイヤルの追加。電源スイッチはボタン式となり、スマートフォンでいうところのスリープ状態のようなモードが加わり、素早い撮影復帰が得られる。

その他、カスタマイズ可能なユーザーインターフェイスなど、ユーザー各々が使いやすいように自分カメラとして様々なセッティングが行え、今まで以上に使い勝手の良さが感じられた。

この他、挙げだすときりがないくらい細かい点で様々な改良が施されている。しかし「SL2」ユーザーの私がしばらく使ってみても違和感なく操作できたのは、ライカの言うユーザーフレンドリーなデザインが踏襲されているからだろう。

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LEICA SL3 / ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH. F3.5 1/640sec. ISO100
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LEICA SL3 / ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH. F5.6 1/400sec. ISO100

ライカSLを使う理由

画質、デザイン、操作性などなど、様々な点について触れてきたが、あらためて、なぜ「LEICA SL」を使うのか?

よく写るカメラは他にもいろいろあるだろう。35mm版フルサイズにおいても、さらにミディアムフォーマットセンサーのカメラであればこれ以上の写りも期待できるかもしれない。しかし「LEICA SL」にあるのは、写真を撮る行為に、喜びも付加してくれるところだろう。それは五感の部分でもある。

ファインダーを覗き、フォーカシングから、シャッターを落とす。この一連の行為がとても心地いい。特にシャッターフィーリングは撮影者にとって一番重要なところだと考える。シャッターを落とした時の心地よさが次のシャッターへの気持ちに繋がるのだ。そしてそれが自ずといい仕事に繋がると確信できる。

プライベートでM型ライカで写真を撮りたいという思いと同じく、仕事においてもライカを使いたい。そう思わせることこそ、他のカメラでは持ち得ないライカの性能なのではないだろうか。

「LEICA SL」に始まり、「SL2」「SL2-S」、そして「SL3」へと進化を重ねてきた。バランスの良いボディサイズと軽量化された「SL3」。ぜひ持って旅に出たいと思わせてくれるカメラとなった。6000万画素という高画素に、ナチュラルな色表現はきっと旅先の空気までも映し出してくれるだろう。

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LEICA SL3 / ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH. F2.0 1/2000sec. ISO160
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LEICA SL3 / ライカ アポ・ズミクロンSL f2/35mm ASPH. F8.0 1/1000sec. ISO100
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