Vol.03 デジタル・ライカM。どれを選ぶのか?[My Camera Story]

LEICA M10-P / Leica Summilux 50mm F1.4 ASPH. @TOKYO JAPAN

高橋俊充 TOSHIMITSU TAKAHASHI │ プロフィール
1963年、石川県小松市生まれ。デザインプロダクション勤務を経て、1994年フリーに。アートディレクター、コマーシャルフォトグラファーとしての活動を主体とし、カメラメーカーのプロモーションや雑誌執筆なども行う。日々、フォト・ドキュメンタリーをテーマに写真創作に取り組み、写真展開催、写真集制作など自身写真作品を発表し続ける。受賞歴:日本APAアワード入選、金沢ADC・会員特別賞、準グランプリ、ほか多数。
写真集:「SNAPS ITALIA」「SNAPS MOROCCO」ほか。
Webサイト:TOSHIMITSU TAKAHASHI Photography

それぞれに個性のあるM型ライカ

「デジタル・ライカ。レンジファインダーの魅力(前編)(後編)」にてレンジファインダーの楽しさ、その歴代モデルについて駆け足ながらお伝えできたかなというところで「さてどれが良いのか?」、これが私自身よく聞かれるし意見も分かれるところ。

実際カメラメーカーは、常に今までより高性能で進化したカメラを目指し、日々努力をしているわけで、当然ながら現行最新モデルの「M11」がいいに決まっている。

しかしながら、ユーザーの好みもそれぞれで、特にライカ使いはこだわりが半端じゃない。一口に「最新モデルが、サイコー!」とは中々行かないものだ。

丁度この執筆中に「M11-P」が発売された。前コラムでお伝えしていた、いわいるライカ商法の発動である。「おっ、ついにM11にも『P』が…」と思ったが、今回の「P」は、これまでの赤バッチ外し、レタリングライカロゴの刻印などのアップグレードモデルに留まっていない。

「コンテンツクレデンシャル機能を搭載した世界初のカメラ」という謳い文句が付く。

もちろん、この言葉だけではなんのことだか見当もつきにくいが、写真が「フィルム」から「デジタル」に変わり、その「デジタル」も悪く言えば何でもありの加工ができてしまう時代に「その写真は決定的な瞬間を捉えた一枚の写真と言えるのか?」、改めてその原点に立ち、その写真の真正性を記録していくという…。現代の「デジタル写真」の在り方においてとても大切な部分であることは間違いない。

「写真」が「データ」と呼ばれてしまう現在。こういった「写真」という何より重要なところを問い直し、「P」モデルに搭載してきたところは素晴らしいことであり、デジタルカメラが生み出す「写真作品」という価値に、しっかりと取り組んでいるライカは、貴重なカメラメーカーだと思う。

mycameraStory_03_01.jpg
LEICA M10-P / Leica Summilux 50mm F1.4 ASPH.
@ BARI ITALIA
※画像をクリックして拡大

求める画素数で選ぶ

話は大きくそれてしまったが、「さてどのモデルを選ぶのか?」という現実的な話に戻る。

一つには画素数の違いがある。

M8で1,030万画素。M9で1,800万画素。M(Typ240)とM10が2,400万画素、M10-Rが4,089万画素、M11は6,030万画素となる。

ユーザーはどのくらいの画素数を必要とするのか?自身の作品をどのくらいの大きさでプリントするのか?そのあたりをイメージすればいいだろう。

私自身、画素数は2,400万画素あれば十分だと考える。2,400万画素あれば11×14サイズの精細な銀塩プリントから、B0サイズくらいまでの大判ポスタープリントにも耐える。

また、レンジファインダーカメラであるM型の距離計でピントを合わせる場合、その精度を問えば2,400万画素が良いところだろう。それ以上の画素数でのピント合わせはEVFやライブビューの拡大など使わないと中々厳しい。また、手ぶれ補正を内蔵していないM型では、高画素になれば画像のブレも気になる。

もちろん良い写真は、ピンボケであろうがブレた写真であろうが関係なく良い写真な訳で、四の五の言わず高画素機を選ぶのも正解だ。

さらに、4,000万画素や6,000万画素あればクロップして使うこともできる。

しかし私自身で言えば、レンジファインダーで撮った写真はまずトリミングはしない。なぜなら、その場に立ってその時着けていたレンズの焦点距離で、瞬間フレーミングし捉えた写真は、良くも悪くも自分のすべてが詰まっているからだ。

もちろん撮影後のトリミングを否定するわけではない。マグナム・フォトの写真家による名作には大胆にトリミングした作品も多く存在する。それぞれに考え方はあるわけで、必要と思えばトリミングも可能な高画素モデルは、大変有利な存在と言える。

cameraStory_03_02.jpg
LEICA M10-P / Leica Summilux 50mm F1.4 ASPH.
@TOKYO JAPAN
※画像をクリックして拡大

シャッター機構で選ぶ

もう一つ選ぶポイントとして大きいのは、「M10」以前か「M11」以降である。

「M10」までは、ざっくり言えばフィルム時代のM型ライカの「フィルム」が「デジタルセンサー」に置き換わったという形だったが、「M11」ではシルエットこそ変わらないものの、完全にデジタルカメラとしてのレンジファインダーに生まれ変わったと言える。

なら「M11がいいじゃない」となるところだがそうもいかないのがM型で、多くのこだわりどころは、シャッターの機構にある。

「M10」までは、シャッター幕反射による測光方式だが、「M11」ではセンサーによる測光に変わっている。センサーに写り込まれた画で測光しているので圧倒的に精度は高い。しかしこれにより、「M11」は電源を入れたときシャッターが開いた状態となり、測光もその状態で行うので、シャッターを切るときには、一度シャッターを閉じてシャッターが走り、また開いて待機状態という動きとなる。多くのミラーレス機がそうであるものの、M型のそれはタイムラグというか、「M10」までのシャッターフィーリングに慣れている体にはどうもしっくりこない。

「M10」までのモデルは起動してもシャッターが閉じた状態のままなので、そのままシャッターを切れば、ただシャッターが走るというシンプルな動きである。

もちろん、「Leica-M(Typ240)」や「M10」もライブビューを使えば「M11」同様の動きとなるが、とても馴染めるものではなかった。そもそもライブビューで撮影するのならレンジファインダーカメラは使わないのだが…。

「M11」もファームアップなどで、大変高速になってきているのであまり違和感はないが、シャッターを切った時「スカッ」とシャッターが落ちる感触の「M10」以前のモデルの方が、気持ちいいと感じる。

私の選ぶデジタル・ライカMは

くどくど話は止まらない。なんならまだまだ語り尽くしていないのだが、ここで一旦整理すると私自身のベスト・デジタル・ライカMは「M10-P」だ。

シャッター機構、センサー画素数、ルックス含め私の中で、今でも手放したくないのが「M10-P」である。カメラ性能を求めず言えば、次点には「M9-P」が入る。画素数は1,800万画素でも十分だし、何より「M9」のCCDセンサーによる画は今見てもとても素晴らしいと感じる。

しかしながらCCDセンサーはもう壊れてしまうと修理もできないだろう。どのモデルにも共通するが、ライカといえどもデジタルカメラはやはり電子機器。一生モノとは中々ならないところが悲しいところだ。


以前の記事でも書いたのだが、「M10」でレンジファインダーのデジタル化は一つの完成形に達したと思う。「M11」からは第二章の始まりで、新しい「M11-P」を見ればわかる通り、ライカは今後も進化を続け「デジタル・レンジファインダー」のあり方を見せてくれることになるだろう。私にとって現在のベストが「M10-P」であるものの、さらなる進化により新しい機種を手に入れたくなる日も来るだろう。その時の価格が手の届くものかは、別の話ではあるが…。

M8から始まったライカ・デジタルレンジファインダー。それぞれの画作り。それぞれのスタイルに機能などなど、ぜひ自身にあったこだわりの愛機、M型ライカで、二度と訪れることのない素晴らしい一瞬を捉えてもらえれば。

mycameraStory_03_03