日本の音楽映像シーンを最前線で目撃し続けたライター林永子(a.k.aスナック永子)が、映像の現場を牽引するプロフェッショナルにインタビューを行う連載企画。
今回は、第一線の大手企業広告映像や映画にて活躍している人気撮影監督、岡村良憲氏をお招きし、近作や近況についてお話を伺った。
岡村良憲(Ryoken Okamura)|プロフィール
1975年生まれ
1999年 黒澤フィルムスタジオ入社
2003年 フリーで撮影部として活動
2012年 シネマトグラファーとして独立
https://www.hrvst.jp/author/ryoken-okamura/
あらゆる撮影技法が詰めこまれた「HENSHIN THE FIRST」
――撮影技法や機材など、印象的だった近作についてお聞かせください。
ケイトの商品「リップモンスター」と仮面ライダーのコラボ映像「HENSHIN THE FIRST」。広告でありながら、約10分のショートムービーとしての人気も高く、再生回数の多い作品です。
――女性が仮面ライダーを演じる時代になりましたね。
主演の女優、天翔天音さんは、元祖仮面ライダーの藤岡弘、さんの次女であり、仮面ライダーのDNAを継ぐキャスティングという意味でも話題となりました。監督は昨秋公開の映画「ウィンドブレーカー」でご一緒した萩原健太郎さんです。
――ロケやスタジオ、アクションやビューティーと、様々なシチュエーションが撮影の教科書のように詰めこまれています。
自分が好きで得意としている様々な撮影方法が詰まっています。カメラは、主にソニーVENICE 2で撮影しています。レンズはSIGMA FF High Speed Primeや、LAOWAを使用したり、Go Proを使ったカットも入っています。
制作会社はCMのプロダクションですが、映画の方法論に則り、台本ベースで進行しています。これまで自分は、基軸は広告映像で、長編映画の撮影もしてきましたが、その両者で培った経験値を発揮できた現場でした。リアリティとファンタジー、一瞬しか映らないけど、季節感のために雪を降らせたり。各シーン、細かく計画しています。自分にとっての現在地、総集編みたいな作品です。
――集大成的であり、設定も現代的で、様々な意味でハイブリッド感があります。
クライアントワークであり、あくまでも化粧品の広告なので、コマーシャル的な脳を使うのと同時に、ストーリーの世界観を大事に、映画的に撮影をしました。今までのキャリアがあってこそ撮れた世界観だと思います。
――バイクの走行シーンも迫力満点です。
バイクが飛んだり、転んだ勢いで路上を滑っていくカットなどは、ワイヤーアクションです。その手前のバイク走行シーンは、主人公に扮したライダーが欲望の化身(CG)に追いかけられているのですが、本人が乗っているシチュエーションも作りたいので、一瞬顔が見えるカットを合成しています。激しいバイクアクションカットでは、昔は「ロックンロール」などと呼ばれていたやり方で、その場の臨場感やノリで撮る。バイクが縦横無尽に激しく動くところを、カメラカーの上で機材を操縦しながらガンガン撮る。ライダーとカメラのせめぎ合い。そのシーンがすごく好きです。
KATE仮面ライダーで使用したカメラカー バイクシーンで使用した――音楽のインプロビゼーション、セッションのようですね。
まさにジャムセッション。フィジカルのライブ感も大好き。
あらゆる技法でリアリティを追求する
――フィジカルが伴う撮影といえば、2024年のポカリスエットCM「潜在能力は君の中。」(監督:柳沢翔)。ARを駆使した素晴らしいコマーシャルでした。
山を駆け登って撮影しました。ロケハンの時に、走りきれなくて、2カ月間ほど走り込みのトレーニングをして、結果的に体脂肪が落ちて、腹筋が割れました。もう戻りましたが(笑)。
――年齢によって、体力も含めて、撮れるビジョンは変わってきますか?
年を重ねた今は、肉体的に鍛えていないと。やっぱり、カメラ手持ちでわーっと撮りたいじゃないですか。ステディカムのオペレーターに任せることはもちろんありますが、どう撮るか伝えるのがもどかしい瞬間もあり、どうしても自分の感覚、フィジカルのタイミングで行きたいと思う時も正直あります。

一方で、シズル撮影や、ライティングを作りこんでいる時のような、フィジカルとは違う、技巧的なスタジオワークも大好きです。先日は、ザ・プレミアム・モルツの60秒CMを撮影したのですが、これは主にストップモーションで、とても難解なことをしているのですが、1回見ただけでは、何がすごいのか視聴者のみなさんに伝わらないかも(笑)。
――壮大なコマ撮り作品なんですね!

1粒の麦をワンカットずつ動かしたストップモーションから始まり、黒い板を掘った版画のアニメーションへ。多くの美大生たちに参加してもらい、最後には「個性の数だけ輝きがある」状況を示す画に導かれていきます。
この過程がおそろしく難解で、麦が芽吹く成長経過の途中で全体を写真に撮って、大きなパネルに焼き、そのプリントを広大なスペースに並べて、俯瞰から再撮影しています。最初の「ミクロ」なコマ撮りから、「マクロ」なタイムラプスでの撮影に切り替わっています。照明は朝昼夜と繰り返す光をLEDで微調整。コマ撮りでは、カメラと照明用に2台のマイロ(モーションコントロール・ロボット)を使い、タイムラプスでは、カメラは自作の昇降機に、ライトはカメラ用の大きなクレーンに乗せて、動きをつけています。
――この作品の監督も柳沢さんですね。
いつもすごいことしか考えてこない監督です(笑)。カメラマンは、監督の右腕。その監督のビジョンを少しでも上回る画を、技術をもって具現化する役割を担っていると思います。広告も映画も、ディレクターが何を考えているかを映像化するのが面白い。撮影は、手品、魔法に近くて、ディレクターのビジョンを具現化するアウトプットのあらゆる方法論、技法を、フィジカルも含めて全方位的に追求しながら、クリエイティブを突き詰めていきたいです。
プロダクションワークを経た完成形の映像

――今後、どんな作品を手がけたいですか?
そう聞かれるかなと思って、どんなジャンルに携わりたいか考えていたのですが、結論としては「全部」。コンテンツの種類ではなく、撮影表現として、とにかく全ジャンルを手がけていきたいです。その「全部」のジャンルが詰まっているのが、コマーシャルや映画かなと。いろいろな表現、意図、目論見があり、その多様な目的に合わせて撮影に向かううちに、いろいろな場所に、思考に、自分が飛ばされるのがとても楽しいですね。
――撮影監督として経験値を培った今だからこその着眼点でしょうか。
カメラマンとして独立した当初は、やりたい仕事ができるわけではないし、自分の得意分野もわからないまま夢中で仕事をしていました。活動していくうちに、自分のスタイルが構築されていき、周囲からの評価もあり、現在の自分のスタイルに行き着くのではないかと思います。結果的に、表現力や経験値もアップグレードして、やればやるほど、やれることが増えていく。そして、悩むことも増えていく(笑)。
――どんどん新しい発見も増え、深化していく?
深化もすれば、進化もする。今までもそうですが、改めて、撮影後の編集、CG、音響のスタッフとのセッションもさらに大切にしたいです。例えば、再認識しているのは、映像表現の半分を担う音の大切さ。音次第で、感情や状況の表情が変わる。打撃音ひとつとっても、僕の中では超重たい音を想定して撮ったカットに、ふわっとした音響が選択された場合、見え方ががらっと変わりますよね。だからこそ、撮影後のプロダクションワークのスタッフとの連携を経て、監督に渡すための、より良い現場での画作り、いい作品にするための工程を、まだまだ突き詰めなければならないと思っています。
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