ARRIは、8月1日と2日の2日間、同社機材を体験できる「ARRI祭2025」を開催した。1日目は東宝スタジオ、2日目はaex inc. Shiba Studioが会場となり、本稿では初日の東宝スタジオの様子を中心にレポートする。
「ARRI祭」は2021年3月に東映京都撮影所で初回が開催された、機材展示とセミナーを組み合わせた大規模なイベントだ。4年ぶりの開催となる今回は、セミナーを設けず、来場者がより多くの機材に触れられるハンズオン形式に特化していた。1日目はゲストトークなどもなく、来場者は展示された機材をじっくりと見て、触れることができた。
特に注目すべきは、2025年7月31日に発表されたばかりの「ALEXA 35 Xtreme」の実機が早くも展示されたことだ。また、ARRI Rentalの65mmセンサー搭載カメラ「ALEXA 265」が展示されていた点も大きな驚きであった。ARRI Rentalの製品が日本国内で展示されること自体が非常に貴重であり、さらに、65mmセンサーをフルカバーするシネマレンズ「Vintage 765」も登場。これまで国内の展示会で紹介されることのなかったレンズを直接見られる機会は極めて珍しく、来場者からは感嘆の声が上がっていた。
ARRIは従来、アジア、アメリカ、ヨーロッパなど地域ごとに独立した事業展開を行っている印象があったが、今回のARRI Rentalからの協力や、本国の最新機種が迅速に展示されたことから、組織全体で連携する「オールARRI」へと変化している様子がうかがえた。
国内のARRIは、ここ数年新製品を発表しているものの、実機に触れるデモンストレーションやハンズオンショーケースの機会が減少していた印象があった。しかし、今回の「ARRI祭」は、そうした撮影現場の期待に応えるものとなった。会場には多くの来場者が訪れ、展示を心待ちにしていた人が多かったことが見て取れた。近年の動向からARRIの勢いを心配する声もあったが、会場の熱気は、その懸念を払拭するに十分なものであった。
それでは、展示会場の様子を紹介していこう。
発表直後の「ALEXA 35 Xtreme」、メジャーアップデートの全貌
会場で最も多くの来場者が集まっていたのが、発表されたばかりのALEXA 35シリーズ最新モデル「ALEXA 35 Xtreme」の実機展示であった。今回のアップデートは、センサー自体に変更はないものの、バッファーボードの交換などにより、マイナーチェンジではなくメジャーアップデートに近い大幅な機能向上が図られている。


このモデルは、フルダイナミックレンジを維持したまま最大330fpsのハイスピード撮影が可能である。さらに、新しいコーデックとセンサーオーバードライブモードを組み合わせることで、フレームレートの上限を660fpsまで引き上げることができる。センサーオーバードライブ使用時のダイナミックレンジは11ストップに低下するが、709で表示されるモニター上の映像がそのまま収録されると思えば、実用上大きなデメリットはない。
従来のハイスピード撮影では、Phantom Flex4Kのような専用カメラを別途用意し、異なるパイプラインで作業を進める必要があった。しかし、ALEXA 35 Xtremeは1台で標準撮影とハイスピード撮影を兼ね備えているため、すべての作業を同一のパイプラインで完結させることができる。これにより、制作ワークフローの大幅な効率化が期待できる。センサーオーバードライブ時は2Kとなるため、解像度ではPhantom Flex4Kに及ばないものの、ARRIならではの優れた色再現性と、同等かそれ以上のダイナミックレンジが強みとなりそうだ。
また、ハイスピード撮影だけでなく、時間とコストの削減に貢献する点も注目される。ALEXA 35 Xtremeは、新たに「ARRICORE」と呼ばれる次世代RGBコーデックを搭載した。これにより、データ量を削減しつつ高画質を維持することが可能になる。
ARRICOREの導入により、ポストプロダクションやDITのデータ管理にかかる時間が短縮され、結果として制作全体のコスト削減につながる可能性がある。もちろん、従来のワークフローを継続することも可能だが、アップデートによって制作の選択肢が大きく広がることは間違いないだろう。
ALEXA 65の後継モデル「ALEXA 265」を国内展示
ARRI Rentalの「ALEXA 265」も大きな注目を集めていた。本機は「ALEXA 65」の後継モデルにあたる。「ALEXA 65」は、その大きなボディと重量が運用上の課題とされていたが、「ALEXA 265」では大幅な小型化が実現されている。


筐体は従来モデルより横幅が若干広くなったものの、基本的な構成は維持されている。NDフィルターは、センサーフォーマットが大きいため、従来のターレット式ではなくスロットイン式に変更された。
本機はARRI Rentalによるレンタル専用機材であり、日本国内でも利用が可能である。国内での撮影実績はまだないものの、すでに複数のプロジェクトで導入が検討されているという。レンズは、従来のALEXA 65用レンズがそのまま使用できるほか、旧来のフィルムカメラARRIFLEX 765に対応するレンズなども使用可能である。
さらに会場には、ALEXA 265/65をカバーする「Vintage 765」の展示もあった。Hasselblad VシステムのレンズをベースにPLマウント化したもので、独特の映像表現を可能にする。

色再現性と耐久性で差別化する新SkyPanelシリーズ
SkyPanelの新製品として、「SkyPanel S60 Pro」と「SkyPanel X」が展示されていた。 「SkyPanel S60 Pro」は、従来の「S60-C」の後継モデルである。大きな変更点として、これまで外付けだった電源が本体に内蔵され、セッティングの手間が軽減された。
また、BluetoothとワイヤレスDMXに対応し、操作性が向上している。明るさは従来モデルから約1.1〜1.2倍に向上したが、基本的な使用方法はS60-Cと変わらない。7年前に発売されたS60-Cは機能面で古さが見られたが、今回のアップデートで他社製品に追いついた形となる。
一方、「SkyPanel X」はS60-Cの後継というよりも、異なる用途を想定したモデルである。消費電力は従来の600Wから800Wに向上し、約1.5倍の明るさを実現した。最大の特徴は、前面のレンズユニットを交換できる点である。「Hyper Optic」と呼ばれるレンズを装着すれば、パネルライトでありながらスポットライトのように光を集光させることが可能になる。

さらに、「SkyPanel X」は最大3台まで連結でき、その際の合計出力は2400Wに達する。「Hyper Optic」と組み合わせれば、2000Wクラスのスポットライトに匹敵する明るさを得られる。また、防水・防塵性能はIP66に準拠しており、雨天時の屋外ロケはもちろん、水洗いができるほどの高い耐久性を誇る。

ユーザーの使い分けとしては、スタジオなど屋内での使用が想定される「S60 Pro」に対し、高い耐久性を持つ「SkyPanel X」は屋外ロケでの活用が見込まれる。
他社ブランドに対するARRIの優位性としては、まず色の再現性が挙げられる。演色評価数(RA)などのスペック面で優れており、カメラを通した際の映像の完成度が高いと、多くのユーザーから評価されているという。また、製品の耐久性も高く、5年、10年といった長期間の使用が可能である。国内に修理拠点があるため、故障時のアフターサービスが迅速である点も強みとしている。
最新技術と現場への真摯な姿勢が交差した「ARRI祭2025」
今回の「ARRI祭2025」は、ARRIの最新技術が持つ優れた実力を再認識させると同時に、制作現場の声に真摯に耳を傾ける企業姿勢が感じられる、非常に満足度の高いハンズオンショーケースであった。特に、1台でハイスピード撮影までを可能にする「ALEXA 35 Xtreme」がもたらすワークフローの革新には、多くのクリエイターが未来の映像制作の可能性を感じたに違いない。