Mo-Sys Engineeringとキヤノンは、キヤノンの最新CV(Camera Vision)プロトコルを実装し、カメラからMo-SysのStarTrackerカメラトラッキングシステムへ、レンズのメタデータを単一のケーブルで直接伝送する技術を共同開発した。この技術は、カメラとレンズからトラッキングシステムまでをエンドツーエンドで統合する、世界初のソリューションである。
開発背景
キヤノンは2024年6月、バーチャルプロダクション(VP)のワークフローを効率化する「キヤノン バーチャルプロダクションシステム」を発表した。このシステムは、RFマウントの高速通信により、ズーム、フォーカス、絞り、歪みといったレンズの光学データをリアルタイムでカメラへ転送し、単一のイーサネット接続を介して「CVメタデータ」として出力する。これにより、従来必須であったレンズの事前キャリブレーションが不要となり、VP制作における人員、セットアップ時間、操作の複雑さを大幅に削減する。
このCVメタデータは、SMPTE(米国映画テレビ技術者協会)のグループが策定中の草案を基に、キヤノンが独自の拡張を加えたもので、可読性の高いJSON形式で構成されている。
Mo-Sys Engineeringからの提案を受け、キヤノンは歪みデータの出力オプションとして、OpenTrackIO規格に準拠したOpenLensIOモデルを追加。これは2025年9月9日のファームウェアアップデートで発表された。
Mo-Sys EngineeringのCEO、マイケル・ガイスラー氏は、「キヤノン バーチャルプロダクションシステムは、メーカーが真にVP対応のカメラとレンズの組み合わせを提供した初めての事例だ。我々が提案したOpenTrackIOプロトコルへのキヤノンの対応は、VPワークフローの新たな基準を確立した」と述べている。
IBCで初公開されたこの連携システムは、レンズのメタデータをカメラ本体経由で伝送するため、物理的なレンズエンコーダーといった追加のハードウェアが不要になる。
Mo-Sys Engineeringのテクニカルディレクター、ジェームズ・ユーレン氏は、「VPにおいてカメラトラッキングは課題の半分に過ぎず、残りの半分はレンズそのものだ。従来は各レンズの手動キャリブレーションに多大な時間が必要だったが、VPに深い知見を持つレンズメーカーが提供する光学パラメータを活用することで、その時間を大幅に短縮できる」と説明する。
キヤノンは、「本システムはVPの複雑さを軽減するだけでなく、創造的な可能性を広げるために設計されている。レンズの自由な交換や、CG背景上での精密なボケ表現といった機能は、これまでVPでは実現不可能だった。OpenTrackIOへの対応により、より多くの技術者がこの恩恵を受けることを期待している」と付け加えた。
OpenTrackIOは、SMPTEのオープンソースイニシアチブとして開発された。キヤノンはレンズメーカーとしてこの開発に積極的に関与し、今回初の対応を実現したことで、業界のリーダーとしての地位を確立。映画・放送業界全体におけるVP技術のさらなる普及を牽引していく。
この画期的なレンズ/カメラパッケージは、10月14日~16日にムンバイで開催される「Broadcast India Show」のキヤノンブースで展示される。Mo-SysのVPスペシャリストが現地でサポートを行い、本パッケージによって実現する強化されたワークフローに関するさらなる知見を提供する。