2026年2月18日、TOHOスタジオのスクリーンで、富士フイルムのシネマカメラ「GFX ETERNA 55」で撮影された作品「Eternal 〜道標〜」が上映された。上映後には、日本映画撮影監督協会(JSC)の協力によるトークイベントが行われ、ラージフォーマットセンサーによる描写や富士フイルムらしい色表現、そしてポジフィルムを意識したルックの可能性について議論が交わされた。

単なる製品紹介にとどまらず、このカメラが実際の制作現場でどのように機能するのかを検証する内容となっていた。

特に印象的だったのは、フルフレーム用アナモフィックレンズを現実的な選択肢として扱える点である。従来は予算や運用面の制約から採用が難しいケースも多かったが、GFX ETERNA 55ではその選択肢がより現実的なものとして検討できる可能性が示された。

また、外部モニターによるデスクイーズ表示を前提とした運用でも、ワークフローを整えれば現場で大きな支障はなかったという。撮影からポストまで無理なく成立する点も、本機の実戦的な魅力として語られていた。

登壇者は以下の通り。

  • 石川幸宏氏(モデレーター/映像ジャーナリスト・JSC賛助会員)
  • 山本英夫氏(撮影監督/JSC・本作統括)
  • 鈴木周一郎氏(撮影担当/JSC)
  • 伊藤俊介氏(機材担当/JSC)
  • 星子駿光氏(カラーリスト/DI Factory)
  • 大石誠氏(富士フイルム プロフェッショナルイメージンググループ 商品企画担当)
会場となったのは、TOHOスタジオのポストプロダクションセンター
トークイベントの様子

フィルムの魂を受け継ぐ新たな選択肢「GFX ETERNA 55」の第一印象

トークイベントの冒頭、各登壇者が語った「GFX ETERNA 55」の第一印象は非常に興味深いものであった。話題は富士フイルムによるシネマカメラ参入への期待から、ラージフォーマット特有の描写、レンズ選択の幅、そして従来機にはない独自性にいたるまで多岐に及んだ。

石川氏:今回、ついに待望の本格シネマカメラが登場したということで、私自身も非常に大きな期待を寄せていました。それでは、まずは「GFX ETERNA 55」を実際に手にされた第一印象はいかがでしたでしょうか。

山本氏(撮影監督):

富士フイルム様は、国内唯一の映画用フィルムメーカーとして映画人には最も身近な存在です。技術転換を経て満を持して発売された今回のシネマカメラには、深い感慨と共に「応援したい」という強い想いを抱いています。

実は数十年前、デジタル化の時期に同社のフィルム作品とデジタル作品を比較上映した映像作品「道標~Milestone~」を制作した縁もあり、今回の話には不思議な運命を感じます。独自のこだわりを持つ同社が放つ本機は、プロのみならず幅広い層にとっても扱いやすく、非常に門戸の広い一台だと実感しています。

鈴木氏(撮影担当):

このカメラは多彩な可能性を秘めており、多様な使い方が期待できます。センサーの選び方次第でレンズの選択肢も広がるため、その過程を楽しみながら創作に向き合えるでしょう。表現の幅を広げつつ作品作りを楽しめる一台、というのが私の第一印象です。

伊藤氏(機材担当):

実はベータ版からメニュー構成の検討に携わっており、今回は三和映材社さんにも機材面で多大なご協力をいただきました。当初は他メーカーとの違いを意識していましたが、触れるうちに既存の枠組みでは語れない独自の価値に気づかされました。

設定の多さに最初は戸惑いもありましたが、撮り手の目的さえ明確であれば、膨大な項目から必要な機能へ確実に辿り着けます。映画やMVなど、あらゆる現場や作り手の個性を受け入れてくれる、非常に懐の深いカメラだと実感しています。

星子氏(カラーリスト):

ポストプロダクションの立場から言うと、中判センサーならではの描写力がスクリーンに出した瞬間にわかりました。今回採用されている「F-Log2 C」というカーブが非常に扱いやすく、フィルムアプローチなカラーグレーディングを行う際に、破綻がなく自然で力強い画が作れる素晴らしい組み合わせだと感じました。

大判センサー特有の質感と描写

トークイベントで関心を集めたのは、Open Gateモードを用いたアナモフィックレンズの運用である。このモードにはデスクイーズ機能が搭載されていないという制約はあるものの、センサー全域を活用して記録情報を最大限に引き出せる点が評価された。利便性よりも表現の可能性を重視した運用であると言える。

石川氏:撮影の狙いについてお聞きします。1日目は北関東の木造の廃校でのロケでした。

山本氏:

木造校舎を選んだのは、木目の模様や建物の古さが持つ空気感を、ラージセンサーの解像力でどう描けるかを見たかったからです。広い空間でワイドレンズを使った時に、画が平面的に張り付かない。ちゃんとした遠近感があって、そこそこの絞りを入れて撮っているのに空気感がある。これはセンサーの大きさが持つ一番の力だと感じました。今回は全カット、4:3 Open Gate撮影ができる「GF」フォーマットで撮影しています。

石川氏:階段のシーンでは、カメラ位置を変えずに「ズームレンズ(16:9)」「単焦点レンズ(4:3)」「アナモフィックレンズ」の3パターンで比較されていて非常に分かりやすかったです。

山本氏:

パース感や空気感、シャープネスがそれぞれ全く違うので、面白そうだから並べてみた実験的なカットです。アナモフィックレンズはCookeを使いましたが、デジタルとの相性が良く、個人的に好きな柔らかい感じが出ましたね。

伊藤氏:

現場での機材運用についてですが、今回はアナモフィックモードではなく、Open Gateのモードを使用して撮影を行いました。Open Gate自体にはデスクイーズ機能が搭載されていないため、Cookeのアナモフィックレンズに対し、SmallHDのモニター側で2倍の補正をかけています。モニター上でフレームラインを表示させて確認し、そのままポストプロダクションへ繋ぐというワークフローを採用しました。

2日目の横浜ロケでは、高感度側の描写性能も検証された。デュアルベースISOの高感度モード(ISO 3200)を用い、LEDを最小限に使った暗い環境でも、黒の潰れや不自然な色濁りを抑えながら衣装のディテールまで自然に描写されたという。強い光源や白い衣装のハイライトでも過度なクリップ感は見られず、滑らかな階調が保たれていた点も評価された。

石川氏:2日目は横浜での撮影でした。夜のダンスホールや公園でのシーンはいかがでしたか?

山本氏:

夜のシーンは「デュアルベースISO」の高感度モード(ISO 3200)で、照明はLEDを一発当てただけで、ほぼ地明かりに近い状態で撮っています。それでも黒が変に潰れたり浮いたりせず、衣装のディテールまでしっかり出ている。ETERNAのLUTを当てただけでこれだけビデオチックにならない画が作れるのには驚きました。

鈴木氏:

暗部側の色味の濁りがない点も良かったですね。空の階調もめちゃくちゃ綺麗でした。

山本氏:

もう一つ驚いたのが、光源をまともに捉えた時や、衣装の白いハイライト部分です。普通なら白飛びしていやらしくクリップしてしまうところですが、それが素直に、破綻なく馴染んでいました。

現場での運用とAF性能

石川氏:今回メインで使われた「GF 32-90mm T3.5」ズームレンズはいかがでしたか?

鈴木氏:

約8割はこのレンズを使いました。このズームレンズでAFが使える点は非常に大きく、激しい動きのダンスシーンでも被写体をしっかり追従してくれました。精度の高さには助けられました。

さらに、標準装備のモニターも非常に見やすく、日中の屋外撮影でも反射に悩まされにくかった点は印象的でした。普段であれば黒布を使う場面でも、今回はそれが不要で、ストレスなくモニタリングできました。

山本氏:

モニターも素晴らしいんですが、我々はやはりファインダー(EVF)で生きてきた人間なので……富士フイルムさん、ぜひ優秀なファインダーを付けてほしいです(笑)。モニターだけだと見えなくなるものがあることに気づいたんですよ。

大石氏(富士フイルム):

すでにご要望は承っておりまして、実はGFX100 II用の脱着式EVFをこのETERNAにつなげる試作を実施しています。Open Gateもそのまま見れることを確認できているので、前向きに検討させていただきます。

フィルムを知る世代を唸らせる「ポジルック」

今回の上映では、標準のETERNA LUTに加え、ポジフィルムを意識した「ポジルック」バージョンも披露された。ProRes 422 HQで収録した素材にポジフィルムをベースとしたLUTを適用したもので、細かなグレーディングを行わなくてもフィルムの世界観が立ち上がる点が印象的だったという。ポジ特有の色の奥行きやトーンの崩れ方が自然に再現されているとの声も聞かれた。

石川氏:今回、DaVinci Resolveでの作業はいかがでしたか?

星子氏:

DaVinci Resolve上では、F-Log2 Cの素材をログの特性を活かしたまま段階的に調整できるようにしています。その感覚が、フィルム時代のタイミング調整に非常に近いんです。つい先週リリースされたDaVinci Resolve 20.3.2でF-Log2 Cが正式対応したことで、カラーマネジメントもよりスムーズになりました。

石川氏:今回、標準のETERNA LUTバージョンのほかに、特別に「ポジルック」のバージョンも上映されました。これにはどのような意図があったのでしょうか?

山本氏:

今回は内部RAWではなく、最高コーデックのProRes 422 HQでどこまで質感を出せるのかも見どころのひとつでした。実際にETERNA LUTを当ててみると、細かな作り込みをしなくても、ポジフィルムを思わせる方向へ十分に寄せていける感触がありました。LUTを載せた段階で世界観の芯が立ち上がってくるところに、このカメラのポテンシャルを感じました。

星子氏:

富士フイルムのポジフィルム(ETERNA CP DI 3514)をベースに、フィルムラボ出身の知見を活かしてカスタムしました。今回はノイズリダクションを一切使わず、グレインも足していないストレートな画なんですが、ポジならではの「ままならなさ」やケレン味がうまく表現できて、見えないはずのグレインが見えてくるようなルックに仕上がったと思います。

山本氏:

新しいデジタル時代において、今まで存在しなかった「新しいフィルム」をグレーディングで生み出しているような感覚です。それがこれからのデジタルシネマの面白さだと思います。

GFX ETERNA 55への期待と要望

トーク終盤では、GFX ETERNA 55に対する具体的な要望も共有された。内部収録でさらに豊かな情報量を確保できる可能性や、ポジベースのLookファイル、広色域ワークフローへの対応、HDR制作への展開などが挙げられ、本機が今後のアップデートによってさらに可能性を広げうることが示唆された。

石川氏:今後富士フイルムさんに期待することや要望をお願いします。

伊藤氏:

センサーが大きいことで、人の表情から伝わるメッセージ性がフィルムに近いと感じました。F-Logの状態でも非常に効率的に収録できていますが、内部収録でもっと豊かな質感や情報量を取り込めるようになると驚異的ですね。

星子氏:

今回はポジルックを試しましたが、今提供されているLUTはネガベースが多いので、ネガポジ掛け合わせができると面白いと思います。また、HDRなどの広色域での作業も増えているので、広色域のLookファイルを提供していただけると扱いやすいですね。

山本氏:

HDRに関連して言えば、今はLEDウォールを背景にした撮影も増えています。ラージセンサーを活かして、高品位なHDR素材を撮影できるカメラになれば、さらに世界が広がるはずです。そして何より、シネマカメラとして一番大切なのは「壊れないこと」「過酷な使用に耐える丈夫さ」です。ぜひ頑丈に作ってください。

今回の上映とトークイベントを通じて浮かび上がったのは、GFX ETERNA 55が単なるラージフォーマットカメラではなく、富士フイルムが長年培ってきた「色」の思想をデジタルシネマの文脈で再解釈した存在であるという点だ。ポジルックを含めた多様な色表現の可能性は、これからの作品づくりにどのような広がりをもたらすのか。GFX ETERNA 55は、その問いを現場に投げかけている。