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2000年の放送開始から、テレビ朝日系で25年もの間、長く親しまれているTVドラマシリーズ「相棒」。水谷豊演じる主人公、警視庁刑事部特命係・警部の杉下右京と、寺脇康文扮するその相棒の亀山薫の名コンビが、毎回難事件の解決に奔走する、地上波TVコンテンツを代表する社会派刑事ドラマだ。

2025年10月から始まった現在放送中の最新シリーズ、season 24では、撮影機材を刷新し、富士フイルムの新しいシネマカメラ「GFX ETERNA 55」が新たに投入された。連続ドラマでこのGFX ETERNA 55が採用されたのは世界初となる。

「相棒」では過去にも、制作技術全般に関しても新たなチャレンジを毎年試みていることでも有名だ。初期の頃のビデオテープ収録からファイルベース収録への移管も民法TVドラマとして初の試みで、そこから早期のノンリニア編集システムの採用など、ここ25年間の映像技術の歴史から見ても、常に最新の映像技術を取り入れてきた革新的な番組でもある。

ここ10年間だけを見てきて驚かされるのは毎回撮影現場を訪れるたびに新しい機材と最新のワークフローが導入されており、TVドラマで毎年撮影技術が進化し続けているコンテンツは、世界の映像業界を見てもあまり例がないだろう。

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「相棒 season 24」撮影現場

主演の水谷豊氏も「『相棒』はこれまで、映画とTVドラマの間の"世界観"を追求しながら常に進化してきた」と語る。その実現のために、その時代時代にフィットした様々な最新カメラが採用されてきた。また本編のテレビシリーズでは、毎年半年間/2クールという長期に渡り使用されるため、単に高機能の最優秀なトップエンドカメラが採用されたというわけではなく、常にクオリティとコスト、プロ目線でのトータルなそのパフォーマンス効率とバランスを考えたカメラが選択されてきた歴史がある。

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25年間「相棒」に携わってきた会田正裕(JSC)氏

さらにテレビシリーズとして半年間にわたり撮影が続く現場においては、単なる画質性能だけでなく、運用面での安定性やワークフローとの親和性も重要なポイントとなる。GFX ETERNA 55は、ラージフォーマットならではの高い映像品質を保ちながら、テレビドラマの現場でも実用的に運用できるカメラとして設計されている点も大きな特徴だ。

映画的な映像美とテレビドラマの機動力。その両立を目指す「相棒」の制作思想にとって、GFX ETERNA 55の導入は単なる機材更新にとどまらず、シリーズの映像表現を次の段階へと押し上げる象徴的な出来事といえるだろう。

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「相棒 season 24」台本

「相棒」シリーズの技術革新を常に牽引してきたのは、25年間続く同シリーズの撮影を担当してきた会田正裕氏(アップサイド)。常に進化しながら新たな世界観を映像化してきた「相棒」の、その下支えとなる新技術に常に挑戦するその姿勢は業界随一かもしれない。

昨年から始まった今シーズンでは、富士フイルムの新たなシネマカメラ「GFX ETERNA 55」を採用。最新ファームを要して今シーズン初めて本格的に会田氏自らが撮影を担当した、1月21日に放映された、第13話「信用できない語手」の撮影現場に密着した。

久しぶりのメインカメラ変更

会田氏:

今回の「相棒 season24」は、久しぶりにメインカメラをGFX ETERNA 55に変えるという大きな決断をしました。この13話から僕も本格的に使い始めたのですが、まず使っていて非常に楽しいです。

「相棒」はこれまでも独特の色使いをしてきたのですが、単に鮮やかさだけではなく、社会派ドラマなので青を強調したり、色をくすませたりなど、時代に応じて色々と変えてきましたが、今回のGFX ETERNA 55を投入することで、肌のトーンや全体的な色の使い方をもっと膨らませていこうかなと思いました。このカメラの大きな特徴は、やはり暗部がとても扱いやすくなったということです。黒の階調がすごく出やすいし、サスペンスでよく使うような薄っすらと人の影が見えてるシーンなどでは色も出るし、とても表現しやすくなりました。

またラージセンサーの効果としてできることが増えたことです。ピントをうまくコントロールして被写界深度をこれまで以上に浅くすることもできるし、暗いところもこれまで以上に得意なカメラなので、難しい照明条件でも撮影できるなど、可能な撮影が増えたことで映像演出の新しいアイディアに繋がったり、ライティングの幅も拡がりました。

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GFX ETERNA 55での特命係の撮影シーン

映画とテレビの間の表現

会田氏:

豊さん(水谷豊)が常々仰ってきたのは、「『相棒』はテレビだからといって明るいばかりではなく、映画のような表現もしつつ、TVドラマなのでストレスなく見てもらえる作品であることが重要だ」ということです。

これだけ長い間続いているTVドラマなので、老若男女幅広い層が見てくれている作品です。よく言われるTVドラマは明るくしてほしいという要望も各所からありますが、豊さんが明るいだけではダメだというのを先頭に立って言っていただいていたので、我々スタッフも堂々と自信を持って映画的表現を追求できたというのがあります。

でも視聴率などを見ても、結果として豊さんが仰ってきた表現が魅力的なコンテンツとして世間に受け入れられていると思っています。

微妙なコントラスト表現が際立つ

会田氏:

例えば今回の撮影では、石畳のシーンでは石のディテールのコントラストを際立たせるために、スタッフにお願いして単に地面を濡らすのではなく、石の頭だけを一つ一つ丁寧に濡らしてもらいました。

単に地面に水を撒いてしまうと全て黒っぽい表現になってしまいますが、このカメラの特徴である暗部の階調の良さが、石の頭だけを濡らすことで際立ち、さらに後のカラーグレーディングで細かいグラデーションが際立って、西洋の石畳を彷彿させるような表現ができて、大きく結果が違うからです。以前のカメラではできなかった、こうした柔らかなコントラスト表現といった、いわゆる"映画的な表現"が簡単に作れてしまうのも、GFX ETERNA 55の大きな魅力ですね。

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コントラスト表現のためのスタッフが準備をする石畳のシーン

会田氏:

GFX ETERNA 55では単純な設定でも、これまではポストでのカラー調整でなんとかするというのが当たり前だったのが、LUTの設定だけでも現場でかなりの表現まで再現できるのも魅力です。元々ビデオ自体はポジ特性なのに、ここまでハイライトが使えるようになったというのは凄いと思いました。

これまでTVドラマの撮影では、12ストップのシネマカメラを使用しても自分のスタイルでは、映像として見せたい領域はストップ数としては上が3.5、下が3という配分の、約6.5~7絞りの間に収めるという方法で撮影してきました。
今では広いダイナミックレンジを持つカメラも多く出てきましたが、メーカーによってその測定もまちまちですし、実際の現場で実際に使えるダイナミックレンジが違うことも多いです。その意味では、"実際に使えるDレンジ"幅が広いのもこのカメラの特性ですね。

色彩表現の進化

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特命係の壁の色も各面微妙にトーンを変えている

会田氏:

以前のカメラと大きく違ったのは、色の表現です。特にRec.709の特性が大きく変わりました。色彩表現がリッチなりましたね。以前は色が作品に合っていないところもあり、カラーライトを使った時も、例えば青と赤の混合色である紫色の表現がうまく出ないなど、複雑なカラーライトの表現も綺麗に出せなかったところも多かったのですが、GFX ETERNA 55にしたことで、それが可能になりました。難しい赤色の表現もこれまで得られなかったような映像表現が可能になりました。

右京さんをはじめ登場人物のフェーストーンがハイキー、ローキー共に整えやすく、色が残るといった部分は扱いやすいです。以前なら後でカラーグレーディングで補正する前提でしたが、GFX ETERNA 55は現場でできることが多くなりました。

色の階調も例えば、東映東京撮影所にある、特命係の部屋のセットですが、あそこも昼夜のシーン、夕景、朝日など様々なシーンが出てきますが、以前は伝統的なグレーの単色の壁だったものから、僕のアドバイスで壁の色も奥と左右、手前で壁の色を変えています。これは海外の映画作品を撮影した時の経験から学んだもので、海外ではシーンごとに壁のトーンを塗り変えることもあります。過去作品と比べるとわかりますが、過去の作品ではなかなか微妙な表現が映像に出せなかったところも、GFX ETERNA 55では再現されています。こうした微妙な表現もさらにやりやすくなったと言えますね。

正確性か表現性か

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進化した色表現が新しい映像表現を生み出している

会田氏:

これまで使用してきたシネマカメラの中には、例えば「色を正確に再現すること」を重視した特性のものもありました。そうしたカメラでは、その特性を活かした表現を行ってきましたが、一方で表現の幅という意味では、どうしても限界があったのも事実です。

しかしGFX ETERNA 55では、これまで難しかった映画的な表現が実現できるようになったと感じています。言い換えれば、このカメラは必ずしも"正確性"を最優先にしたカメラではありません。ですから、医療用途や産業用途のように、厳密な画像再現が求められる分野には必ずしも向いていないかもしれません。

重要なのは、「正確な画像データを取得するためのカメラ」なのか、それとも「映像表現のためのツールなのか」という違いです。GFX ETERNA 55は、明らかに後者、つまり映像表現のためのカメラだと思います。

このカメラの映像はよく「フィルムライク」と言われますが、その理由は露出の扱い方にもあると思います。フィルムの時代、例えばISO800程度の感度で撮影していた頃は、ハイライトは比較的記録される一方で、暗部が潰れてしまうことを常に気にしていました。そのため、少しオーバー気味に撮影しておき、カラータイミングで全体を引き締める、という工程を経て仕上げていたのです。
GFX ETERNA 55は、そのプロセスを一度の撮影で実現できるようなイメージがあります。多少ハイライトに負荷がかかっても、暗部の情報がしっかり残る。そうした感覚で露出を決めています。

これまではハイライトを抑え、その分不足する暗部をライティングで補うという方法を取っていました。しかしそのやり方では、どうしてもコントラストが徐々に圧縮されてしまいます。

今回は「8絞り分のダイナミックレンジをフルに使う」という考え方で撮影を行いました。ハイライトをギリギリまで1絞りほど伸ばし、露出的に余裕を持たせることで暗部の情報量を確保する。その結果、暗部の階調が非常に扱いやすくなったのです。

デジタルでありながら、どこかフィルムのような質感を持つ──。GFX ETERNA 55によって、これまでとはまた違った新しい映像表現が可能になったと感じています。

更なる進化への期待

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会田氏:

現在のテレビシリーズの「相棒」ではオープンゲート記録ではなくFHD16:9/Pro Res HQで収録しています。ラージセンサーの特性としては、被写界深度が浅いとかそういう単純なことではなく、使っているうちにわかってきたのは、他のカメラに比べてGFX ETERNA 55はレーシングカーのような側面を持っています。

つまり使用するレンズ毎の特性とか、照明の変更で映像自体が繊細に変化するので、結果として出てきた映像を取り扱うのが非常に難しい部分もあります。僕のように最終結果の映像の目標が決まっている人にとっては扱いやすいカメラですが、決まってない人が撮ったらどうなのか? 個人的には興味がありますね。ただGFX ETERNA 55の操作性の部分は、従来のシネマカメラのように複雑ではなく、とてもシンプルなのでその分、撮影に集中しやすいです。色のチューニングなどもしやすいし、左右両面のモニタリング画面設計が同じになっているなど、ワンマンオペレーションでも複数のマルチスタッフオペレーションでも使いやすい設計で、現代の様々な制作スタイルにもフィットするようなアイディアも随所に感じられます。

現在、世界中で様々なシネマカメラが使われていますが、もともとフィルムの世界で映画界を牽引してきた時代もあった富士フイルムから、満を持して本格的なシネマカメラが出てきたということで、世界からの期待値も高いでしょう。昨年夏にこのカメラの発表を行ったハリウッドの現場にも行ってきましたが、そこでもGFX ETERNA 55の登場が非常に注目されていることを肌身で感じました。富士フイルムとしてはまだこれが本格的なデジタルのシネマカメラとしての初号機であり、まだまだこれからの発展途上だとは思いますが、実際の撮影現場で毎日操作するにつれ、非常に高いレベルからスタートしたカメラであることを感じています。

また国産メーカーのカメラであることは、我々日本のカメラマンにとっても大きな魅力です。それは我々現場スタッフの意見を直接開発メーカーに伝えやすいからです。使い慣れていけばもっと面白いことができると思いますし、その意味では「相棒」のような番組を通してのフィードバックが次世代機への更なる進化を促す材料になれば嬉しいですね。