■SIRUI公式ストアの価格
35mm T2.9 1.6× フルサイズアナモフィックレンズ:税込262,900円
50mm T2.9 1.6× フルサイズアナモフィックレンズ:税込220,000円
75mm T2.9 1.6× フルサイズアナモフィックレンズ:税込220,000円
100mm T2.9 1.6×フルサイズアナモフィックレンズ:税込262,900円
1.25xアナモフィック アダプター:税込122,650円
■問い合わせ先
SIRUI Optical
国内総販売元:常盤写真用品株式会社
SIRUIのアナモフィックレンズ「真打ち」登場!
アナモフィックレンズに少しハマり気味の昨今だが、今回の依頼が来た時点で受けない理由がないくらいやる気満々である。OnGoing Re:View Vol.199でも「SIRUI PRO CINEMAアナモフィック 1.33X 4本レンズセットをレポート」を書いたが、今回のSIRUIフルサイズ用アナモフィックレンズシリーズはいよいよ真打ち登場ともいうべき位置づけかもしれない。というのも、このシリーズはSIRUIの海外クラウドファンディングが行われている時に本気で購入しようか迷っていた物だから。
以前のSIRUI 24mm F2.8アナモフィックレンズを始めとしたシリーズはスチルレンズの延長線上の考え方であり、しかも倍率が1.33倍とやや控えめだったのだが、このフルサイズシリーズが発売されていなければ選択肢に当然入ってくる。レンズ自体は非常にコンパクトでありながら、画質の良さもあるので良い選択になっていた。しかし、フルサイズ、1.6xというこのスペックと、焦点や絞りが完全にシネマレンズ仕様になっている点が、気持ちを変えさせてしまうインパクトがあった。そう、これは完全にシネマレンズなのである。
見た目の話になってしまうが、大きさも大きすぎず、小さすぎない程よいサイズであり、しっかりとした金属感も悪くない。そしてどのレンズにもレンズサポーターが付いており、不要と思いながらも安心感は持てるのではないだろうか。100mmのレンズになるとRFマウントで1486gなので、ギリギリ本体側だけで三脚を受けるか、リグを組んでレンズ側でも受けるかを迷うことになる。
レンズサポーターをかませた方が断然安定感とマウントへの負担が少なくなるので良いに決まっているのだが、どうしても作業が伴うものなので、現場感からすれば省略したくなる気持ちは仕方ない。なので、今回は本体側だけで受けることに。
最近の低価格帯シネマレンズの頑張っている感の現れの一つが質感とサイズだと思う。特に中国系メーカーの台頭が著しく、光学的な質の向上のみならず、筐体の質感もこだわりを持ってきている。今回のSIRUI然り、DZOFilmや日本ではまだ馴染みの薄いGREAT JOYなど、この価格でこれを手に入れられるのだ、と嬉しい呟きが出てしまう。
今回のフルサイズシリーズの構成は、35mm T2.9 1.6×フルサイズアナモフィックレンズを始めとした、100mm T2.9 1.6×フルサイズアナモフィックレンズが先行して発表され、追加で50mmと75mmのT2.9 1.6×が加わった。面白いのはすべてのレンズが25mm刻みでT2.9という開放値であることだ。撮る側からすれば交換時の絞り値による変化がないので、頭の中は整理しやすくなる。
テスト機はソニーFX3
今回はFX3を本体側テスト機としてお借りしてレビューしている。簡単にFX3にも触れておく。発表当時はこれも迷った一台であったが、その時はα7S IIIを所有していたので、Web上でスペックを比較しても違いを感じられず、入れ替えまでにはならなかった。簡単に言うと、買い替えるまでもないとの判断だった。そのことを思い出しながら、実機が手元に来た時には一瞬、やっぱり…と思ってしまった。
しかしながらテストで使い始めると、明らかにこれは映像に特化したモデルであると改めさせられた。まず本体にボコボコとアクセサリー取り付け用ネジ穴が用意されている。もちろんアームやリグを取り付けやすくするためのものだが、本体自体に実装されているとやはり映像制作をメインにした機器であることを意識しているのであろう。
そしてRECインジケーターやモニター囲みにREC表示される画面の見た目は目障りに感じるかもしれないが、これが実にありがたいことに気づかされた。現場で焦り気味ではじめてしまったインタビューなど、自分では押したつもりでいたスタートボタンが押されていなかったことがあり、また撮影に集中してしまうとRECインジケーターが視界に入ってこないので、回っているものだと思いこんでいる。最悪の事態である。
しかしFX3はモニターに赤い囲みでREC中を表示していて、否が応でも視界に入ってくるので、押し忘れ事件とは無縁になるかもしれない。これは何気ない馬鹿げたうっかりなのだが、ワンオペではありがちな事件だと思うので、振り返ればこの機能があればすぐに気づいただろうと悔やまれる。そういう細かな何気ない違いは使ってみてこそわかるところであろう。ちなみにマイクホルダーの径が手持ちのゼンハイザーMKE 600ガンマイクと合わず、応急的に対処した。現場あるあるだが、機能すればいいのでこんな形でもOKである。
操作系をチェック!気になったのは
本題に戻るが、まずは操作系のチェック。写真では前玉側で立てて並べたので分かりづらいかもしれないが、ギアの位置がレンズによって変わらないパーフォーカルデザインを採用している。この辺はシネマレンズの定番的な考え方になってきたのだろう。レンズ交換の度にフォローフォーカスもセッティングし直しは辛いし、フォローフォーカスの位置が変わると感覚も微妙に変わってしまうので、今後もこのパーフォーカルデザインで構成していってもらいたいと思う。
前玉側からレンズを覗くと、当然奥に見えるのは楕円の窓である。いわゆるアナモフィックレンズの特徴であり、縦長の楕円になることで横比率を圧縮している。これは35mmでも100mmでも同じである。そして面白いと思ったことは、後玉から見た時に真円であったことだ。これは深掘りするほど調べきれていないので、そうだったという理解でお願いしたい。たぶんそれ程大きなことでもないだろうから…。
操作系で気になったところは2点ある。まずは各レンズでフォーカスリングの回転角が違うことだ。35mmが120°、50mmと75mmが95.5°、100mmが100°となっている。数値上では差があるのだが、使用感はさほど違和感を覚えるまではなかった。ただシネマレンズにしては意外に狭い角度なので、スチルからの感覚であれば違和感は少ないかもしれないが、シネマレンズに慣れている方にはクイックな感じになるかもしれない。
ちなみにシグマのシネマレンズは180°、そのほかのシネマレンズの多くは270°となっており、特にシネマレンズ系に見られる角度が広いとフォーカスプラー(フォーカス専門のスタッフ)による微調整などに対応しやすくなる。リグを組んで手動でフォーカスを取ろうとした場合は、広すぎる角度は回転操作が大きくなるので難易になるが、まあ、電動のフォローフォーカスがあれば問題ないのだが…。
またテスト機のギアの硬さがそれぞれだったので、そのアンバランスさが気になった。ギアの滑らかさと硬さは重要なファクターなので、良い塩梅を調整していただきたい。特にギアの滑らかさはレンズ選びで最重点のポイントなので。
いざ撮影、驚いたのは画角の広さ
さて、いよいよ撮影なのだが、FX3自体がコンパクトなのでなるべく軽くさせるために、小さめの外付けモニターを付けたほうが良いと思い、ちょうど安物モニターがあったのでそれを持ち出してしまった。結果、いざ撮影の時に動かない、という大失態が起こり、結局本体のさらに小さなモニターでフォーカスを取るしかなくなり、少々ピンが甘くなってしまった。しかもFX3に実装されている優れたオートフォーカスはマニュアルレンズでは働かないので、もうどうにもこうにも。
といいつつ、カメラを構えてモニターを見た瞬間に画角の広さに驚いた。当然ながらモニターでは横方向に圧縮されているのだが、「ここまで映るんだ」と思ったのが正直な感想だ。最初にテストしたのが35mmなのでなおさらそう思ったのだろう。フルサイズセンサーにアナモフィックレンズ、この組み合わせは余すことなく広さを表現できるので、とにかく広さを求めたい方には良い組み合わせだと思う。
フルサイズなので35mmの広角はそのまま捉え、さらにレンズ側で1.6倍の広さが表現されるので、大体22mm相当に換算される。Super35の時には逆に望遠側に振れるので、折角の超広角が広角になってしまっている。つまりかなり魅力的である。実際の画もこんなに広く撮れるのかと編集時に感心してしまっている。これは実際に展開してみて驚くと思う。
どのレンズもシネマティックに
そして画角のチェックと画質のテイストは各レンズのキャプチャで確認してもらいたい。
総じて言えることはシネマティックなテイストでまとまるところだろう。逆に言えばシネマティックに見えない画ではシネマレンズといえなくなってしまうのだが、意外に低価格帯のレンズではそれもあり得ていると思う時もある。
そして不思議な感覚の柔らかい画というか、少々のピンの甘さも甘受してくれるというのだろうか。これがパキパキに映しだすレンズであれば、ピンの甘さが際立ってしまい、まったくお話にならないがっかりしたことになってしまう。撮り直しか…と。
ただ画に柔らかさがあると、それを上手くスポイルしてくれるので、あれ、これもありかな?!と思えてしまう。もちろんパキッとピンが合っていることが望ましいが、ドキュメンタリー映画などでは助けられることもあるだろう。何せ一発勝負の撮影環境では思いもしなかった結果が編集時に起こり得るので。
また横方向の両端はにじみや歪みが出るだろうと想像していたのだが、にじみに関しては気にならず、歪みに関してはカメラを振った時に感じられる程度であった。この辺がやはり高価格帯のレンズと差が出てしまうところだけれども、でも価格的に1/27ですから(ARRI 35mm T1.9 Master Anamorphic Lensが海外での販売価格が$41,670.00)。
そう考えた時に、自分の撮影環境というかバジェット感から落としどころをどこにするかで価値観が決まるのだろうから、逆にこの価格でここまで撮れるんだ、の評価になると思う。
アナモフィックレンズで求めるものは広さなので、どうしても広角レンズに気持ちを持っていかれがちだが、今回のテストで新たに感じたことは、望遠側でのアナモフィックレンズってありだな、と。望遠になるとどうしても被写体にフォーカスさせていくので、横方向の広がりは求めても仕方ないと思っていた。
しかし被写体の縦方向が変わらず、横に広がる画を見た時に可能性しか思い浮かばなかった。見えないで当たり前と思っていた見えない部分が見えているのだから。特に前回テストしたレンズ(1.33×)より広がりが大きい(1.6×)のでより感じているのだろう。そしてやはりよりシネマティックな画になるので、良い意味でイージーに映画らしい撮影もできてしまう。
編集時に感動する横展開
何よりも、撮影時の驚きより、編集時の感動の方が大きいことに気づかされる。フッテージを単に並べただけだと、チョロQみたいな画の羅列にしか見えないのだが、いざ横方向の縮尺を合わせた時に急速にこれはカウンタック(平べったい)だったのか、と思うくらいインパクトがある。
キャプチャを見ていただければ一目なのだが、走行している車は皆チョロQにしか見えないだろう。しかし横を広げる展開にすると、16:9のシーケンスの比率が変わらないまま、クロップされたクリップに置き換わる。これはシネスコサイズの2.39:1よりさらにクロップされ2.85:1になるので、最近の流行りでもある超横長な映像に置き換わるのだ。これだけでも前のめりになる方たちが想像つく。
そして横に引き伸ばす的(ズーム的)な感覚があるので、当然ながら画質劣化が起きるのかと思いきや、肩透かしを食らったようだ。特に端に出やすい歪みやにじみもなく、ちゃんと画になっている。自分に言い聞かせるようだが、フォーカスをきちんと取れば使えるレンズということだ。ただ先に書いたように、甘さを甘受する懐もあるので、面白いと思うことしかない。
また、このレンズセットには1.25× アナモフィックレンズアダプターが同梱されていた。実はこれが一番気になっていたのだ。というのも、クラウドファンディングが行われていた時に、これも販売しており、これだけでも買おうか最後の最後(最終日)まで悩んでいたくらいだ。
その理由は、手持ちのレンズに装着できる可能性を思っていたからだ。つまりKOMODOで装着しているRFレンズに付けられる可能性を。そうなると不満に思っていたSuper35であるがためのクロップ問題が一気に解消される、とうずいてた。
ただその時に買うまでにいたらなかったのは、超広角な11mmや14mmなどでどこまでケラれるのか調べても出てこなかった。その不安が最終的な決断には繋がらず、眺めているだけで終えてしまっていたので、渡りに船的な登場に浮足立ってしまった。そのような思いもあったので、これもテストしてしまったのだ。
カタログ上で眺めている時には、どうやって天地を合わせるのだろう、と不思議だったのだが、赤いボタンが解決してくれることに「なるほど」しか出てこない。取り付けのギアの合わせはそれぞれの個体差があるので、回しきったところが必ずしもジャストに正常位置で固定されるわけではない。
中の楕円の窓の先端(角度の狭いところ)がちゃんと上下にセットされないと横圧縮がされない。で、このアダプターのなるほどポイントは、締め切ったところで赤いボタンを押すとレンズの径が段階的に回転し、トップに来たところで止めると楕円の先端がちゃんと上下に来るようになるのだ。
もちろんレンズが重くなるのだが、RFレンズシリーズ自体がもともと軽いので許容の範囲である。そして何よりもクロップされてズームされていたものが、フルサイズセンサーと同じ広さが表現できるのは、今まで悩んできた分も上乗せされての感動である。
ただ気をつけなくてはならないのは、当初懸念していた超広角でのケラレだ。実装してわかったのが、14mmだと間違いなくケラれ、16mmくらいからケラレが取れてくる感じだ。そうなると16mm×1.31=21mmだったのが、21mmに対して1.25×で横に広がるので、16.8mmのフルセンサーと同じ値になる。
つまりほぼクロップされていたものがフルセンサーに匹敵し解消されるのだ。クロップファクターが1(今回の場合は1.05)に近いことがより良いことなので、とても嬉しい事態である。しかもあまり信用していないKOMODOのオートフォーカスも使えるのだ。今回のようにモニターと自分の目に不安がある場合には大きな保険になる。
この先も期待させるシリーズだ
で、気になるのは映り具合だが、KOMODOは横に広げた状態でモニタリングができるので、モニターを覗き込んだ時に目が点になるしかなかった。「これだよ、これを求めていたんだよ」と。映りはどうかといえば、やはり若干のアダプター類を装着した時に見られるエッジに対しての緑の色のにじみはあるものの、撮り方を工夫すれば問題なく使える感覚だ。超広角時のケラレの具合もわかり、映りもわかり、これは良い。
ちなみにこのタイプのアダプターはSIRUIのメーカーが比較するMoment 1.33× Anamorphic Lens AdapterやGREAT JOYの1.35倍アナモフィックアダプターも出てきているので、将来的な激戦ゾーンになるのかもしれない。手持ちレンズがアナモフィックレンズに変わるのは大いに歓迎なのだから。
たぶんこれからは低価格帯のアナモフィックレンズは多用されるような気がしている。通常のレンズと全てが置き換わるかと問われればNOであるが、横展開の不満を持っているクリエーターからは嬉しい悲鳴しか聞こえなくなるであろう。
この価格帯でのアナモフィックレンズの先駆者的ポジションにいるSIRUIだが、今回のレンズシリーズのできの良さは前述の通りだが、この先に出てくるであろうものに対しての期待感も大きくなった。そしてアナモフィックレンズは映像表現の幅を広げることは間違いない。
松本和巳(mkdsgn)|プロフィール
東京と北海道旭川市をベースに、社会派映画、ドキュメンタリー映画を中心とした映画制作を行っている。監督から撮影まで行い、ワンオペレーションでの可能性も追求している。2021年8月に長崎の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画を劇場公開。2022年4月に子どもの居場所を取り上げた「旅のはじまり」、8月には長崎被爆者の証言映画第二弾、広島の原爆被爆者の証言映画がテアトル系で公開。2023年1月には生きやすいライフスタイルを提案する「-25℃ simple life」、3月には保護犬を生み出さないために犬と人の関係を追った「dog and people」が公開される。テアトルシネマグループと一緒に「SDGsシェアプロジェクト」も立ち上げ、先ずは「知ってもらう」をテーマに社会課題の映画化を行なっていく。
mkdsgn