
先日、予約から半年の時を経て「LEICA SL3」が手元に届いた。発売直後から愛用していた「LEICA SL2-S」への想いは募るものの、実物を手にして、これは戻れないなと覚悟を決めることになる。LEICA SL3はスペック以上に小さく、そして何より軽かった。

フィルム機でもない限り、デジタル機において「小さい」「軽い」はやはり正義だ。
では、デジタル機として最もコンパクトなiPhoneをはじめとするスマートフォンが終着点かといえば、そうではない。近年のGRシリーズやX100シリーズの人気ぶりをみても、スマートフォンには置き換えられない写真機としてのフィジカルな体験が欠如しているからだ。
それはファインダー越しに被写体とつながるという共有体験かもしれないし、シャッターユニットの繊細かつメカニカルな挙動と人体が連動し一体化するような感覚かもしれない。
しかし、わかってはいてもスマートフォンのカメラがますます多彩に、RAWデータがよりリッチになるほどに求めてしまうものなのだ。ここにカメラとしての体験が備わればどんなに素晴らしいだろうかと。
そこに現れたのが、「Leica LUXグリップ」だ。

これは単なるグリップではない。iPhoneに「写真機としてのフィジカルな体験」を宿すための、ライカならではの哲学であり、新たな提案である。
それは新たなガジェットや量産されたパーツではなく、カメラ本来の身体性を備えたモジュールだ。
スマートフォンのカメラは確かに進化を続け、センサー性能も処理能力も飛躍的に向上した。しかし、どれだけ解像度が上がり、ダイナミックレンジが拡張されようとも、カメラを「構える」という身体的な所作が欠落したままでは、撮るという行為そのものの満足感には届かない。
Leica LUXグリップは、MagSafeを介してiPhoneと一体化することで、その感覚を呼び戻す。手に馴染むホールド感が、iPhoneを「握る道具」へと変える。これは、GR IIIの絶妙なラバーグリップや、X100シリーズのボディバランスが生み出す心地よさとは似て非なるものだ。

言うまでもなく、哲学よりもマーケティングを優先する量産型のプロダクトとも一線を画す。哲学なしにこのグリップをMagSafeを介してスマホに取り付けることはできない。
Leica LUXグリップを握ることで撮影時の安定感が向上し、まるで「ライカSLシステム」のようなホールド感が備わると、ようやくそこでもうひとつ大きな気づきを得る。iPhoneの高品質で大きな液晶画面は、iPhone 16 ProでさえHasselblad X2Dのモニターよりも大きなライブビューを提供してくれることに。
Leica LUXグリップがつながることで、最も高性能で軽量なライブビュー機能を備えた新しいカメラが生まれたのだ。

「手の中でカメラを感じる」ことの大切さ。ライカはその価値への哲学を追求し続ける。それゆえに、Leica LUXグリップは単なる補助的なアクセサリーではなく、iPhoneに「写真機としての存在感」を与えるための唯一無二のピースなのだ。
作例
ここからは作例をご覧いただきたい、と書き出したところで再認識したのだが、Leica LUXグリップはカメラではない。この後につらつらと続く写真は「Leica LUX」アプリで撮った写真でしかないのだが、もう筆者の脳の中ではLeica LUXグリップはカメラなのだ。そう脳と体に染み込むほどに、このLeica LUXグリップはiPhoneでの撮影体験を変えてくれた。

Leica LUXグリップでのファーストライト、ポートレートモードを駆使してNOCTILUX 50mm F1.2 ASPH.の描写を再現しているようだ。Leica Chromeと写真の相性がとても心地よく多用している。


同じ瞬間を撮った写真でも、選ぶレンズシミュレーションや「Leica Looks」によって変化する。テンポよくカジュアルなこれまでのiPhoneでの撮影体験とは別物だ。

夕方になって多摩川沿いに少し足を伸ばしてみた。上空を飛来する鳥もI-SUMMILUX 120mm F2.0 ASPH.で、いとも容易く引き寄せられる。あくまでシミュレートした画角や描写ではあるが、中望遠以上の焦点距離を体感する機会はライカファンであってもなかなかないだろう。このあたり、iPhoneとLeica LUXグリップとの掛け合わせでしか味わえない、これまでにはない醍醐味ではないだろうか。

目の前の光景をノスタルジーな世界に染めてくれるLEICA I MODEL A 50mm F3.5は、粒状感も気に入った。



圧縮効果が最も強いのがAPO-TELYT 135mm F3.4だ。遠景を引き寄せ、圧縮し、自由に切り撮る。この望遠域の楽しみを極軽量で味わえることの贅沢さを存分に味わっていただきたい。
Leica LUXグリップの機能と操作性


タッチ操作でも使用できる「Leica LUX」アプリだが、Leica LUXグリップとコネクトすることでカメラ機のようなフィジカルな操作性が得られる。特に機械式2段シャッターとセッティングダイヤルのフィーリングには全く妥協のない、ライカならではのクラフツマンシップを感じた。
アプリを操作しながら案内に従って、Leica LUXグリップとiPhoneをペアリングする。電源のON/OFFはシャッターボタンの長押しで対応する仕様だ。
2つあるファンクションボタンには、PモードとAモードの切り替えとレンズの切り替えを割り当てて使用したが、割り当てられる機能は他にも選べる。ファンクションボタンなどに機能を自由に割り振れるのは、「ライカSLシステム」など他のライカのデジタル機とも共通する嬉しいポイントである。


グリップの底面には1/2のネジ穴もありミニ三脚などを取り付けることも可能だ。
先ほどまでの作例はAモード、ここから続く三枚はPモードで撮影した写真になる。PモードではRAW撮影も可能になるので撮影後の編集の自由度は高い。また、PモードではLeica LUXグリップのセッティングダイヤルに割り当てた露出調整をフィジカルに操作することで、世界観を追い込むこともできる。




同じ位置からでも24mmと120mmでは構図に大きな変化が生まれる。それもファンクションボタンをクリックするだけでだ。これを体験した後ではLUXアプリ単体での撮影体験には戻れる気がしなかった。
アプリで撮るか、カメラで撮るか。Leica LUXグリップは、そこまでの撮影体験の違いを生み出してしまった。



まとめ

直前にiPhoneを16Proに機種変更したこととも相まってか、このLeica LUXグリップを受け取ってからのiPhoneでの撮影はこれまでにない満足感をともなう体験となった。
もちろん完全に置き換わるものではないが、例えば手荷物を最小限に抑えて出かけたい時に、iPhoneとこのLeica LUXグリップがあれば、コンデジを速やかに手放せるだろう。
冬場であればコートのポケットに、夏場でも少しゆとりのあるポケットにするりと忍び込むほどにコンパクトなそれは、日常の何気ない瞬間と、いつもは手を伸ばそうとしなかった遠景とを、撮影可能な光景に置き換える革新的な力を秘めている。
Leica LUXグリップは、マーケットで圧倒的なシェアを有するどのメーカーも成し得なかった、撮り手にとってOFFとONをより自由に、より積極的に行き来させてくれる、写真機としてのライカの哲学がインストールされた、この時代ならではのトリガーとしてのグリップだった。
宮下直樹(TERMINAL81 FILM)|プロフィール
フリーランスのフォトグラファー・シネマトグラファー
写真・映像、ドキュメンタリーから空撮まで。
視覚表現の垣根を超えた小さな物語を縦横無尽に紡ぐ。
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