撮影現場でのモニタリング環境の構築は非常に重要な課題だ。多くのスタッフとキャストに対して適切なモニター環境を提供することはとても重要なプロセスである。監督、演出部はもちろんのこと、照明部、録音部、メイクやスタイリストなど、多くのスタッフがモニターに映し出されるライブ映像を指針として各パートの役割をこなしていく。そういった意味で適切な大きさと正確で安定したモニター環境の構築は、円滑に撮影現場を進めていく上で非常に重要だ。

かつて映像のモニタリングと言えば有線で行うしかなく、ケーブルを結線するだけでも、ケーブル長や太さ、取り回し方法、断線のリスクなど、撮影現場においてかなりの時間と労力を必要とする作業であった。それはスケジュールの厳しい現場になればなるほど煩雑で、現場間移動の多い撮影や野外での撮影などでは大変な労力が掛かっていた。

そんな煩雑なモニター環境を劇的に変えたのが、2012年に発売されたTeradek Boltだ。5GHz帯のワイヤレスSDI/HDMI伝送を採用し、遅延ほぼゼロとされた。最大数百メートルの伝送距離をカバーした同社製品は撮影現場に革命をもたらした。

その後各メーカーよりワイヤレス伝送機器がリリースされたが、どれも遅延が大きかったり、不安定だったりと煩雑な撮影現場で使用するには満足する性能が得られず、しばらくはTeradekのシェア独占状態が続いた。

しかしながらTeradek社の製品はコストが高く、潤沢な予算の撮影案件を除き、中小規模の低予算の撮影現場で常に使用できるとは限らないという状態が続く。

2018年、そんな「隙間」に目を付けたのがHollyland Marsシリーズに代表される中国ブランドである。安価で高性能を謳った製品が数多くリリースされたが、安定性や遅延時間においてTeradekに遠く及ばないものが多かった。

技術革新が進む中、今回Accsoonから「CineView Master 4K」がリリースされた。他の機種の性能を圧倒的に凌駕するだけでなく、安価な価格も非常に魅力的な製品だ。今回はCineView Master 4Kについてレポートする。

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CineView Master 4Kの特徴

商品の特徴と言えば、まず挙げられるのが、HDMI入力で最大(3840×2160)24/25/30/50/60 fpsのビデオ入出力フォーマットをサポートしているという点だ。現場4Kモニタリングの必要性はさておき、最新のTeradek製品にも迫る性能でこの価格は驚異的だ。

また、独自に開発したRTMS 4.0プロトコルに基づき2.4GHz+5GHz+6GHzの周波数を統合し、3つの帯域を使用することで安定した伝送を実現するとしている。周波数帯に関しては使用時に特に気にする部分ではないが、搭載されているフルカラーLCDには現在の周波数状況が表示される。そのため送信/受信機共に周波数毎で大きさの異なる6本のアンテナが実装された。

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送信機側の入力として3G-SDI、HDMI2.0の入力に加え、HDMI2.0スルーアウト、iPhone等をモニターとして使うためのMFI認証USB-C出力端子が実装されている。受信機側は3G-SDIとHDMI2.0の出力となり、送受信共に12V2AのDC入力端子が実装されている。背面には送受信機共に、NP-Fバッテリースロットも実装され、オプション品ではあるが送信機用にカメラ側Vマウントにダイレクト接続できるマウントも発売されている。

この機種の特徴として、専用アプリを使用し、iPhone/Androidなどのモバイル機器でも同時受信できる点があるが、受信機の数と組み合わせには制限が有るので要注意だ。これには5通りのコンビネーション、最大4つの受信が可能となっており、受信機とモバイル機器の合計が4つまで自由な組み合わせで使用可能となっている。仮に受信機を2つ使用した場合、モバイル機器は2つまで使用可能となる(有線接続も1系統可能なので最大5つのモニターが同時使用できる)。

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さて、この種のワイヤレス機器、特にお隣の中国製品においてもっとも撮影現場で気になるのは以下の3点ではないだろうか?

  • 安定した送受信と飛距離、遅延速度
  • 電源立ち上げ時の映像接続までの時間
  • プロダクトのクオリティー

今回は以上の3点について簡単ではあるが検証してみた。

現場で気になる点を検証

まず、気になる点として実用レベルで何メートルまで送受信できるのかと言うことだろう。本体設定は製品の出荷時のまま、Wireless Bitrate Settingはデフォルトの9、VBR/CBR SettingもデフォルトのCBRとした。今回は野外においてHD-HDI/30fpsで入力された信号が晴天で見通しの良い条件下で何メートルまで受信可能か試した。

結果はほぼ遮蔽物がない環境下で330メートルまでの受信距離を確認できた。それ以上離れると映像のコマ落ちが見受けられ、最終的にブラックアウトとなった。メーカー公称値は2.5kmとなっており、検証時の実測距離とかなりの差があったのが気になる点だ。

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しかしながら本体のビットレート設定などで距離の違いが出る可能性も高く、この点は引き続き検証していきたい。少なくとも今回の検証結果である300メートルの距離があれば、特殊な撮影環境を除き通常の撮影時にほぼ困ることはないとも感じた。

次に気になるのが遅延速度だ。メーカーは25ms・0.025秒としているが実際はどうなのか?

同じくHD-SDI/30fpsにてBlackmagic URSA Mini Pro 4.6K G2を使用し撮影、送信した信号をBlackmagic Video Assist 7インチ 12G HDRにて表示し、遅延フレームを計測した。計測した遅延時間として0.2秒・約6フレームという結果が出た。URSA Mini Pro 4.6K G2とBlackmagic Video Assistはメーカーによるとそれぞれ内部遅延が1フレーム未満と言うことなので、仮に2フレーム分を差し引いて計算すると、結果として計算上で4フレーム・133msの遅延となった。これも飛距離と同じく設定ビットレートによっては違いが出てくると思われる。

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こちらもメーカーカタログ値と違う結果となったが、実測値でこれだけ低レイテンシであれば、現場での仕様に重大な支障が出ることは少ないと思われる結果となった。

次に電源投入時のスタートアップ時間を計測した。結果は以下のようなものになった。

  1. 送受信機共に同時オン 61秒
  2. 送信機オン状態からの受信機オン 40秒
  3. 受信機オン状態からの送信機オン 55秒
  4. 両方電源オンからの送信機の映像信号入力時 4秒

撮影時に想定される状況としてはカメラバッテリー交換などで3.が一番可能性の高い状況かと思う。両方オンの時でも最大約60秒で映像出力されるので、忙しい撮影現場でもあまりストレスは感じなくて済みそうだ。

最後に製品のクオリティーに関して。ボディはアルミ製で非常に頑強な印象だ。張り出したアンテナ部分は若干気を使うが、安っぽさは一切感じない。表示面積は小さいがフルカラーのLCDもとても見やすかった。この製品、プロ機材という括りで言えば低価格な部類になると思うが、その割に高性能で非常にコスパのいい製品と言える。

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価格は2025年2月末現在、約138,000円で販売されておりコストパフォーマンスはかなり高い。個人的にはかなりお勧めできる機材だ。みなさんも導入を検討してみてはいかがだろうか?



WRITER PROFILE

千葉孝

千葉孝

カメラマン歴33年。ドキュメンタリーからMV、ドラマ、映画、CMまで様々なジャンルで活動している。