はじめに
バスケットボールは日本国内において野球やサッカーに次ぐ人気を持つスポーツのひとつだ。近年はNBAで活躍する日本人選手の登場や、国内プロリーグであるB.LEAGUEの発展に加え、3人制バスケットボール「3×3」がオリンピック正式種目となったことなどを背景に、競技への注目度は年々高まっている。また、インターネット配信の普及によって、これまで現地でしか観戦できなかった試合をリアルタイムで視聴できる機会も大幅に増えた。
現在ではB.LEAGUEだけでなく、高校ウインターカップやU15クラブチームの全国大会、さらにはU12カテゴリーであるミニバスケットボールの全国大会にいたるまで、幅広いカテゴリーでライブ配信が行われている。
一方で、こうしたライブ配信の拡大を支えている現場では、慢性的な人員不足という課題も抱えている。バスケットボールはコート内の展開が非常に速く、競技経験や撮影経験の少ないオペレーターが適切な構図を維持し続けることは容易ではない。そのため、一定品質以上の配信を行うためには経験を積んだカメラマンが必要となるケースも多く、特に育成年代の大会や地域大会では人員確保や予算面が大きなハードルとなっている。
筆者はライブ配信や映像制作業務に携わる一方で、休日にはミニバスケットボールチームのコーチや審判として活動している。また、3×3の国内大会や高校ウインターカップ地区予選決勝リーグなど、バスケットボール競技のライブ配信にも携わってきた。競技の魅力をより多くの人に届けるためには、ライブ配信環境のさらなる普及が欠かせない。
そしてその実現には、より少ない人員でも高品質な配信を行える仕組みが求められている。そんな中、ソニーのリモートカメラにバスケットボール競技に対応した新たな自動追尾機能が搭載されたとのニュースが飛び込んできた。AI技術を活用してボールや選手の動きを解析し、自動で最適な構図を維持するという機能だ。
今回は幸運にも、この新機能を実際のバスケットボール大会で試用する機会をいただいた。本稿では、ミニバスケットボール大会および中学校大会での検証を通じて、自動追尾機能がバスケットボール配信の省人化にどこまで貢献できるのかをレポートする。
AIを活用したバスケットボール自動追尾機能
今回検証したのは、ソニーのリモートカメラに新たに搭載されたバスケットボール競技向けの自動追尾機能だ。本機能は、ソニーが「AIアナリティクス」と呼ぶ映像解析技術を活用し、コートラインやボールの位置、選手の動きをリアルタイムに認識しながら、競技映像として自然な構図となるよう自動でパン・チルト・ズーム制御を行うものだ。
従来の自動追尾カメラは、特定の人物を追いかける用途や、あらかじめ設定されたエリア内で被写体を追従する用途が中心であった。しかしバスケットボール競技では、常に10人の選手とボールが高速で移動し続けるため、単純にボールだけを追えばよいわけではない。例えば、熟練したスポーツカメラマンはボールの位置だけでなく、選手同士の位置関係やプレーの流れを見ながら構図を決定している。ボールがパスされる前の段階から次の展開を予測し、シュートや速攻が発生しそうなスペースをあらかじめ画面内に収めることで、視聴者が見やすい映像を作り出しているのである。
特にバスケットボールは、攻守の切り替わりが非常に速い競技だ。リバウンドからの速攻やロングパスによる展開では、一瞬でコートの反対側へプレーが移動することも珍しくない。そのため、スポーツ中継の中でもカメラワークの難易度が高い競技のひとつと言える。
今回ソニーが追加したバスケットボール向け球技モードは、こうした競技特性を考慮しながら画角を自動制御することを目的としている。もし実用レベルの追尾性能が実現できているのであれば、これまでカメラマンが担当していた役割の一部を自動化できる可能性がある。とりわけ人員や予算の確保が難しい育成年代の大会や地域大会では、その恩恵は大きいだろう。果たして実際の試合環境において、どこまで自然な映像を生成できるのか。今回はミニバスケットボール大会および中学校大会での検証を通じて、その実力を確認していく。
実際の試合で使用してみた
今回の検証では、本機能を実際のバスケットボール大会に投入し、その追尾性能や配信運用上の有効性を確認した。検証対象として選んだのは、筆者が所属するスポーツ少年団チームが参加するミニバスケットボール大会の市内男女決勝戦だ。ミニバスケットボールは一般カテゴリーと比較してコートサイズやゴール高が異なるものの、ソニーによれば本機能の動作には影響しないとのことだった。しかしながら、いきなり本番環境で検証を行うことには不安もあった。そこで本番配信に先立ち、筆者の娘が出場する中学校バスケットボール大会において事前テストを実施することとした。
まずはテスト撮影で基本的な追尾性能や画角の傾向を確認し、その結果を踏まえてミニバスケットボール大会本番でのライブ配信に臨むという流れだ。今回の検証では、以下のポイントを中心に確認を行った。
- コート設定などの事前設定のワークフローの操作性
- 攻守の切り替わり時における追従性能
- ロングパスや速攻発生時のカメラワーク
- フリースローやタイムアウト時の画角制御
- ライブ配信用途としての実用性
- カメラオペレーター省略による運用上のメリット
これらの項目について、テスト撮影および本番配信の両方から評価を行った。
機材構成(テスト撮影)
今回ソニーから貸与いただいたのは、光学20倍ズームレンズを搭載するPTZオートフレーミングカメラ「SRG-A40」だ。本球技モードに対応するモデルとしては、同社のフラッグシップ機である BRC-AM7もラインアップされている。
しかし、今回の検証テーマは育成年代大会や地域大会における省人化配信だ。実際の導入シーンを考慮すると、より導入しやすい価格帯のモデルで検証する意義は大きいと考え、本機を選択した。
テスト撮影を行った中学校大会は、さいたま市内の公共体育館で開催された。今回は保護者として観戦する立場であったため、コートレベルでの撮影は行わず、観客席から撮影を実施した。電源には300Wh(ワットアワー)クラスのポータブル電源を使用した。体育館によっては電源確保が難しいケースもあるため、このような構成で運用できるかも確認したかったポイントのひとつだ。また、本機にはマイクが内蔵されていないため、環境音収録用の外部マイクを使用した。映像確認および収録にはモニター一体型レコーダーを使用し、設定用PCとはLANケーブルによる直接接続を行った。
カメラのオートフレーミング設定
設定は一般的なPTZカメラと同様に、同一ネットワーク上のPCからWebブラウザ経由でアクセスして行う。
まずはPTZオートフレーミング設定のフレーミングモードメニューから球技(バスケットボール)を選択する。
続いてコート情報を登録する。設定作業ではカメラのパン・チルト・ズームを操作しながら、コート四隅およびサイドライン中央部を画面内に合わせていく。カメラの画角にコート全てが映らなくてもPTZ操作を行い、四隅を設定していけば良い。コート設定が完了すると、メイン画面からオートフレーミングを有効化するだけで自動追尾が開始される。コート設定後にカメラを動かしてしまうと設定をやり直す必要があるため、コート設定前にカメラ位置を決めておく必要があるので注意が必要だ。
テスト結果
※プライバシー保護のためボカシ処理をしています
娘の試合は大会初日の第1試合だったため、会場入りから試合開始までの時間にあまり余裕がなかった。事前には設定作業に時間を要することも想定していたが、実際には機材設営からコート設定、自動追尾開始までを含めて約20分で準備を完了することができた。今回の大会では、初戦をサブアリーナ、2回戦を3面構成のメインアリーナで撮影した。サブアリーナは1面のみの運用であったため特に問題はなかったが、興味深かったのは2回戦である。撮影対象コートの手前では別の2試合が同時進行しており、画面内に複数のコートと多数の選手が映り込む環境となっていた。
撮影前はAIが手前のコートの選手やボールに反応し、誤った追尾を行う可能性を懸念していた。しかし実際の撮影ではそのような挙動は見られず、対象コートを安定して追尾し続けた。結果として、ライブ配信用途としては十分実用的な映像が得られ、本番配信に向けた性能面での不安を払拭する結果となった。
※プライバシー保護のためボカシ処理をしています
機材構成(本番配信)
テスト撮影で十分な手応えを得られたことから、本番となるミニバスケットボール市内大会決勝戦でライブ配信を実施した。
球技モードでのオートフレーミングを行う場合、カメラ位置はコートサイドの、サイドラインから1.5m(メートル)以上、高さ1m(メートル)以上にカメラを設置する必要がある。しかし会場となった体育館にはコートサイドに観客席がなく、カメラはTO席後方のフロア上に設置した。
この設置場所はアップコートの一部として使用されるため、試合開始直前まで機材を設置することができない。そのため、限られた時間の中で機材の設営からコート設定、自動追尾の確認までを完了させる必要があった。
しかし実際には、カメラの設置からオートフレーミングの設定までを含めても大きな混乱はなく、一人で問題なく準備を完了することができた。テスト撮影を経て操作手順を把握できていたこともあるが、本機能の導入や運用に特別な負担は感じなかった。
今回の配信では、スコア表示用の映像としてデジタイマを別カメラで撮影し、ライブ配信システム側で合成を行った。具体的には、TO席向かいに設置してあるデジタイマをPXW-X70で撮影し、vMix上で必要な部分を切り抜いてスコア表示として配置している。その映像をメインカメラ映像と合成し、LiveUを用いてYouTubeへ配信した。
バスケットボールでは試合時間だけでなく、クォーター終了間際の残り時間やショットクロックなど、時間情報が試合展開を理解する上で重要な要素となる。特に終盤の接戦では0.1秒単位の表示が勝敗を左右するケースもあるため、視聴者にとってタイマー表示は欠かせない情報だ。
本来であれば競技用スコアシステムから映像信号やデータを取得して連携するのが理想的だが、育成年代の大会や地域大会ではそうした設備が用意されていないことも少なくない。そのため、デジタイマを別カメラで撮影し、配信ソフトウェア上で切り抜いて表示する手法は、現在でも比較的低予算なバスケットボール配信の現場で広く採用されている。
配信結果
※プライバシー保護のためボカシ処理をしています
結果として配信は概ね成功した。自動追尾機能は2試合を通じて安定して動作し、試合進行に支障をきたすような追尾ミスは発生しなかった。男女ともに1点を争う白熱した決勝戦となったが、会場へ足を運ぶことができなかった保護者や関係者にも、その様子をライブ配信で届けることができた。
今回の本番環境は、TO席後方というこれまでのテスト環境の中でも最もコートに近い位置への設置となった。そのため、速攻時のロングパスなどが発生した際には大きく素早いパン動作が求められる状況であったが、自動追尾は問題なく追従し、プレーの流れを見失うことはなかった。
また、配信映像を確認した指導者からは「小学校の体育館でも使用できるのか?」や「予算が許せばチームで導入したい」という声も聞かれた。さらに審判員からは、「自身のレフェリングを振り返るための映像としても活用できるのではないか」といった意見も寄せられた。
筆者自身もこれまでいくつかのバスケットボール配信に携わってきたが、本機能は単にカメラオペレーターの省力化に留まらず、これまで配信や映像記録そのものが難しかった育成年代の大会において、新たな可能性を感じさせるものであった。
まとめ
今回、育成年代のバスケットボール大会におけるライブ配信の省人化をテーマに、少人数かつ最小限の機材構成で撮影・配信を行った。
結果として、これまでカメラオペレーターとスイッチャー・配信担当者の最低2名を必要としていた配信業務を、設営から撤収まで含めて1名で問題なく実施することができた。本機能による省人化の効果は非常に大きく、今後より多くの大会や試合を手軽にライブ配信できる可能性を感じた。
特に育成年代の大会では、予算や人員の確保が難しいことが少なくない。そのような現場において、本機能は単なるカメラワークの自動化に留まらず、「配信を実施できるかどうか」そのものを左右する技術になり得るだろう。
一方で、今後のアップデートに期待したい点もあった。
ひとつは画角に関する設定だ。全体的な追尾性能には満足しているものの、状況によっては理想よりもやや広めの画角で撮影されるケースが見受けられた。利用者側で追尾時の画角傾向を調整できるオプションが追加されれば、より幅広い運用に対応できるだろう。
もうひとつは、オートフレーミング再開時の挙動だ。例えばフリースロー前のタイムアウト中にオートフレーミングを停止してベンチの様子を撮影し、その後フリースロー再開に合わせてオートフレーミングを有効にした場合、カメラは一度スタートポジションであるコート中央へ移動してから追尾を開始する。
現在の構成でも十分実用的ではあるが、スタートポジションへ戻ることなく直前の構図から追尾を再開できるモードが追加されれば、さらに使い勝手は向上するだろう。
今回の検証を通じて、ソニーのバスケットボール自動追尾機能は育成年代の競技配信において十分実用的なレベルに達していることを確認できた。人手不足や予算不足に悩む現場にとって、本機能はバスケットボール配信の裾野を広げる有力な選択肢となりそうだ。
さいごに
今回の検証を通じて、自動追尾技術がスポーツ配信のハードルを大きく下げる可能性を感じた。今後、対応競技や機能がさらに拡充されれば、これまで人員や予算の制約によって配信が難しかった大会や試合も、より手軽に映像として届けられるようになるだろう。
スポーツへの興味や憧れは、自らプレーすることだけでなく、試合を観戦することから生まれることも多い。実際に筆者自身も、数多くの試合を観る中で競技への理解を深め、その魅力に引き込まれてきた。ライブ配信によって、会場へ足を運ぶことができない人々にも競技の魅力を届けることができれば、スポーツ文化のさらなる発展にもつながるはずだ。
今回の検証結果が、育成年代スポーツの配信に携わる方々や、新たにライブ配信に取り組もうと考えている方々の参考になれば幸いである。
最後に、本検証および撮影にご協力いただいた、さいたま市スポーツ少年団ミニバスケットボール部会の皆様に、この場を借りて感謝申し上げる。
サカイアキヒロ|プロフィール
1984年生まれ。映像カメラマン/配信エンジニア/録音技師。
業務用音響機器メーカーでエンジニアとして培った音響とネットワークの知識を活用しライブ配信現場でテクニカルディレクターからCMやWebドラマの録音技師として幅広く活動中。YouTubeでは機材レビューや配信技術などの動画を発信中。