今年1年、カメラ収録と編集のワークフローは、フルデジタルワークフローの構築に向けて、進化と改善が続けられてきた年となった。これまで数年をかけてテープレス化が行われてきたが、今年ほど一気に変化した年だといえる。本稿の後で、3人のカメラマンに、各社の今年の製品動向を分析してもらい、カメラマンとして次世代のカメラやワークフローに思うことを語ってもらっている。

ここでは収録がテープベースになったことで進展したノンリニア編集環境の現状と課題を整理してみたいと思う。昨年までと比べて大きく変化した部分は、編集環境自体の効率化が図られたことと編集作業面の高速化が進んだという2点だ。

カメラコーデック対応なくしてノンリニアではあり得ない

編集環境自体の効率化という意味では、今年はカメラ環境がファイルベースを中心としたもの変わったことが大きいだろう。ショルダータイプや小型ハンディタイプのカメラレコーダーは、基本的にフラッシュメディアやハードディスクへの収録が可能になった。ビデオキャプチャ時代からストレージへのファイルコピー時代に変わったわけだ。

映像をファイルとしてコピーできるようになったからといって、それですぐにノンリニア編集が可能になるかと言えば、ノーだ。ファイルベースであるが故に、各社のカメラコーデックが乱立するようになり、ノンリニア編集システム自体がこれらに対応しなければ、映像ファイルとして認識できない。にもかかわらず、ノンリニア編集システムの対応はカメラの普及次第なんてことが続いてきた。ファイルベースであるから、ノンリニア編集で使えないカメラは売れない。それがさらにカメラ対応を遅らせる。カメラメーカーとノンリニア編集システムベンダーが互いの顔色をうかがっていた弊害といえるだろう。

2008年になって、カメラメーカーとノンリニア編集システムベンダーが協業して開発をする取り組みが加速。ここに至ってようやく、テープメディアが存在しない以上、お互いの協力なくしては、ユーザーが安心して使用できる環境を構築することができないと悟ったようだ。

CPU依存から脱却。アクセラレーター活用で高速化を実現

これまでノンリニア編集システムの改善と言えば、CPUの性能向上に依存してきた部分があったが、今年のトレンドは「アクセラレーター」だったと言えよう。高速なPCI Expressバスを使用したカードや専用ハードウェアはもちろん、GPUコンピューティングやハードウェアコーデックを活用してまで、処理の高速化に力をおいた開発がなされてきた。

ファイルベースのカメラが主流になり、さまざまなカメラコーデックが生じたことは最初に述べた。このカメラコーデックには、複雑な処理をしなければならないH.264ベースのコーデックのAVCHDやAVC-Intraなども含まれている。カメラコーデックへの対応という関門を通過しても、カメラコーデックをネイティブで扱い、マルチストリームでもストレスなく扱えるようにするという関門は、CPUの高速化・マルチコア化を待ってるだけでは先に進めないほど高く険しいものだった。

今回、アクセラレーターを活用することで、その険しい関門を抜ける突破口を得た。しかし、GPUコンピューティングの開発環境は、NVIDIAのCUDAとAMD(ATI Technologies)のATI Streamでは互換性はない。各社のアクセラレーターにはプラットフォームやOS依存もある。こうして見ると、ファイルベースの処理の高速化は、やっと始まったばかりだ。現在は、エフェクトやトランジション、ファイルトランスコードといった部分でのアクセラレーター活用が中心だが、来年以降はCPU、GPU、アクセラレーターがよりシームレスに連携して高速化を進展させていくようになるだろう。

トムソン・カノープス編集ソフトウェアがメジャーバージョンアップしてEDIUS Pro 5となった。AVCHDにネイティブ対応したほか、ソニーXDCAM EX、パナソニックP2HD、池上通信機GFCAMへの対応を行った。エフェクトやトランジションなどでGPU処理を活用したほか、ハードウェアエンコーダFIRECODERシリーズで処理の高速化を行った。
アビッド テクノロジーハードウェア環境を一新し、PCI Expressバスを活用した新アクセラレーターAvid DNA Mojo DX/Nitris DXを投入したほか、GPUコンピューティング処理も活用して高速化を図った。秋に投入したAvid DS 10では、メディア管理ソリューションのInterplayとの連携も可能になった。
オートデスク非圧縮だけしか扱わなかったオートデスクが、大きく方針転換。カメラコーデックへの対応を始めた。9月に発表したLustre 2009、Flame/Flint/Smoke 2009 Extension1、Inferno 2009の各システムでは、GPUコンピューティングも活用しながら処理の高速化を行った。
アドビ システムズ映像制作スイート製品が、1年半振りにメジャーバージョンアップしてCS4 Production Premiumとなった。ファイルベースに対応したOnLocation CS4や音声解析情報のメタ情報活用を図ったPremiere Pro CS4に注目が集まっている。Premiere Pro、After Effects、Photoshopでは、NVIDIA製グラフィックスカードを使用したGPUコンピューティングを活用している。
アップルFinal Cut Studio 2は今年はリビジョンアップが中心だった。ワークフローサポートツールとしてメディアマネジメントを行うサーバアプリケーションFinal Cut Serverが、発表から1年以上をかけて今夏ようやく発売。メタ情報管理のほか、サーバサイドのファイルエンコーダを搭載することで、ワークフローの強化を図った。

メタ情報の活用範囲を制作ワークフローに活かせ!

ファイルベース編集に対応したノンリニア編集システムだが、実際の編集現場の作業に目を移すとまだまだ不完全だテープベースではシーケンシャルにクリップが並び、連続したタイムコードもあったが、ファイルベースになると、連番のファイル名とファイル作成時間だけが頼りとなってしまう。今後は、クリップ内容を確認・検索するためのメタ情報が、重要な役割を担う。

問題はここからだ。編集ワークフローで有効活用したメタ情報は、本来、2次利用やアーカイブなどでも有効な情報だ。編集ワークフローだけでのメタ情報活用にとどまらず、インジェストから、編集、送出・配信、アーカイブにいたるまでの制作ワークフロー全体で活用できるようにしていって欲しい。さらには、配信した映像にもメタ情報を活用することで、映像に含まれる音声を文字検索する可能性すら見えてくる。こうしたことは放送アーカイブの検索といった部分でも有効に活用できるはずだ。


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