正常進化を遂げたミドルクラスカメラを3年ぶりに投入
今年のキヤノンは、各HDV業務用カメラをマイナーチェンジしてきた。
気がつけば、HDV業務カメラとして最初に登場した(ビクターなどの初期HDV機を除く)ソニーHVR-Z1Jを追従する形で登場したキヤノンXH G1/A1は、登場からすでに3年の月日が経っていた。当時を振り返れば、HDVという機構上、標準カメラとして君臨していたPD-170に比べどうしてもf値が暗くなり、室内での撮影ではしっかりとした照明を立てないとHDVの帯域の広さを生かすのは難しかった。その後、キヤノンはXL H1を投入。レンズメーカーとしては文句の付けようがない会社が作ったカメラだけあって、そのレンズの明るさは当時どのHDVカメラよりも群を抜いて良かった。しかし、さすがに筐体の大きさと価格で簡単には使用できない現場も多く、その声を反映してか初代XH G1/A1が登場したというわけだ。
面白いことに、ソニーがこの情報をキャッチしていたかの様にXH G1潰し?とも言えるタイミングでHVR-V1Jを出してきた。結果は言わずとも、当時の両機の売れ行きを振り返ってみれば分かるだろう。実は、筆者は当時ある筋からXH G1の24P(24F)機能を使って短編映像を作って欲しいと言う依頼を受け、当時のInter BEEに向けて10分程のショートフィルムを撮影した。キヤノン色と言えば良いのだろうか?若干エッジが強く出る感じのある質感を、24Pとシネガンマをメインに使って柔らかい映像を作った覚えがある(結局、若干バイオレンスっぽい描写があったためにお蔵入りしてしまったが……(笑))。
そんなXH G1/A1ではあったが、今年のInter BEE 2008でようやくマイナーチェンジ。第2世代機XH G1S/A1Sが登場した。この1年を振り返ってみれば、フラッグシップであるXL H1、ミドルレンジのG1/A1のいずれもマイナーチェンジが行われたことになる。型番に”S”を付けるだけの、本当の意味での正常進化とも言える「安定性」重視したマイナーチェンジが図られたと言っても過言ではない。
市場の声に耳を傾けて勝ちに行け!!
業務で使う以上、安定性という信頼は絶対の物だと思っている。そういう意味では、キヤノンが行ったのマイナーチェンジはなかなか良い判断だ。民生機のHF-11でも、AVCHD規格上限となる24Mbpsでの記録を実現し、無駄な機能を追加せずにあくまでもシンプルに出してくるなど、キヤノンは、ビデオに関しては真面目に頑張って物を作っているように感じている。キヤノンレンズの素性も良いし、大きさも問題ない。しかし、他メーカーの同レンジのカメラと比べると、いつもワイド端に疑問が残る。とにかく良い製品を作っている割に、どうもレンズ部分の最終的な考えが、ユーザーとメーカーで食い違っている様な気がする。
来年のキヤノンに望むことは、ズバリ「後出しジャンケンでも良いから、勝ちに行け」と言うことだ。例えば、せっかくH1があるのだから、ラージテープを回せるようにするだけで、S270Jの登場は無かったかも知れない。XH G1も、初期の段階でH1と共通のレンズ交換式であれば、Z7Jの登場は驚異では無かったはずだ。せっかくの高帯域録画可能な民生機HF-11も、ワイド端が35mm換算で30mm以下なら、ソニーもパナソニックも追従出来なかったはずだ。これからのキヤノンには、もっと市場の声に耳を傾けて貰いたいと思う。
最後に、今話題になっているEOS 5D Mark IIについて。このスペックは、特に録画ファイルのコーデック見ると、40MbpsのH.264形式QuickTime(1920×1080/30P)と言う感じだ。プログレッシブということも踏まえると、クワッドコア程度のCPUではまずネイティブでは動かないと思われる。筆者としては、撮影時間制限とネイティブファイルが現存のノンリニア編集システムでネイティブに扱えないという時点で、結構食指が外れているのも確かだ。同様の理由で、実はRED ONEにもそれほど興味があるわけではないのが本音。しかし、わずか30〜40万程度で、35mmフルサイズのCMOSセンサーで動画が撮れるのは、時間制限があるとはいえ驚異でもある。この高画質があれば、使い方次第でEOS 5D Mark IIもアリなのか?とも思えるが、いやいやそんなことよりも、単純にXL H1のボディに同じCMOSセンサーとエンジン、EFマウント(およびXL変換マウント)をもったビデオカメラを作って貰えれば良いだけの事だ。価格は、ずばり100万円。ソニーやパナソニックが追従する前に作っちゃえば、今度は先出しジャンケンで絶対に勝てるはずなのだ。
問題は、この声がしっかりとキヤノンに届くかということだなぁ。
岡 英史(VIDEONETWORK)
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