放送、DVD/Blu-ray、Webなど各種メディアを横断したワンソース・マルチユースの映像制作を可能にするフルデジタル制作だが、日本には忘れてはいけない配信メディア「ワンセグ放送」がある。携帯だけでなく、カーナビ、ゲーム機器などに搭載されたことで、新しい配信メディアとして認知されたワンセグ放送だが、新しい映像表示装置としての可能性が見えてきた。ワンセグをテレビ放送としてではなく、低出力の電波を使用して映像に文字情報を加えたデジタルサイネージとして活用するエリア限定ワンセグ放送の期間限定実証実験が、「姫路菓子博2008」(2008年4月18日~5月11日の24日間)や「渋谷駅前周辺地区」(10月31日まで実施中)などで行われ始めている。

今回、デジタルデータ放送制作関連ソリューションの開発会社にメディアキャスト(東京都渋谷区)がある。メディアキャストは、BS・地上波・ワンセグのデータ放送制作ソリューションやPremiere Pro CS3用のワンセグ用H.264エンコードプラグインなども提供している。杉本孝浩社長にお話をうかがった。

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メディアキャストは、2008年4月18 日から姫路市で開催された「姫路菓子博2008」会場内で実施されたエリア限定型のワンセグ放送実証実験に、ワンセグデータ放送技術やコンテンツ制作技術を提供した。

──メディアキャストとして、現在の制作環境についてどう見ていますか。
杉本孝浩氏(以下、杉本)「日本の放送のデジタル化のピークはほぼ終了したと感じています。これまでのデジタル放送移行と昨今の経済事情で収支的に厳しい状況にある放送局にとっては、2011年の完全移行に照準を合わせて更なる運用の効率化と共に、デジタル化の際に導入された設備のリプレイスを苦慮模索している段階かと思われます。そのような状況もあり最近は各機器ベンダーからも目新しいデジタル放送技術は少なくなり、今までのデジタル放送技術をベースにコンパクトで安価なものへと移ってきたように思います。小型の専用ボックスやPCに映像エンコーダ(MPEG2、H.264)とMUX(多重化装置)、そして変調機が入った機器も登場してきていますので、近い将来には500万円以内で館内CATVや学校内限定のデジタル放送が実現できそうな状況にもなってきました。アナログ時代から新しい放送技術はキー局から生まれますが、当初は決して扱いやすいものではなく、まだまだ高価なものです。その後に少しずつ改善が加えられ、操作性も良く安価になり、準キー局、地方ローカル局へ導入されていきます。その後さらに改善が加えられ、その技術はケーブルテレビ局で使用されていきます。ケーブルテレビ局の導入が終わる頃には、放送技術はさらに省スペース化、低価格化が進み、学校や娯楽施設、テーマパーク、ホテルなどで使用されていきます。この流れはデジタル放送技術も同様で、HD映像制作がようやく一般企業や公共施設で活用が広がる段階に入って来たと思います。メディアキャストのデータ放送ソリューションも更なる高機能化と低価格化を目指していきます」

──デジタルサイネージへのデジタル放送技術利用にも注目が集まり始めています。期間限定の実証実験が行われているエリア限定ワンセグ放送は、データ放送連携も可能な双方向デジタルサイネージとしての活用もできそうですが。
杉本「すでにIP網を使用して映像サーバーからPCや専用STBなどにコンテンツ配信するデジタルサイネージが実現していますので、デジタル放送技術のデジタルサイネージへの応用はまだ未知数で、放送技術がデジタルサイネージと融合するかどうかは、2009年の課題ではないでしょうか。しかし、デジタル放送技術をデジタルサイネージに利用した場合のメリットと言えば、やはり表示装置に家電量販店で売っている汎用のテレビを利用できることだと思いますので期待は大きいかと思います。考え方を変えればワンセグではありませんがケーブルテレビは家庭のテレビ向けの地域限定サイネージと言え、既に活用されてきているとも考えられます」

──エリア限定ワンセグ放送の活用が未知数とする理由は。
杉本「さまざまな場所で実証実験が行われていますし、期待できる新しいメディアだとは思っています。実証実験は現在、主にUHF帯域で行われていますが、本格運用では地上デジタル放送完全移行で空いたVHF帯域を活用するならば、現在審議中のマルチメディア放送やデジタルラジオ放送との兼ね合いと干渉などの問題も避けられません。VHF帯域をどう使用していくのか、総務省によって制度化を進めているという現段階では、エリア限定ワンセグ放送の活用はもう少し時間がかかると見ています。ただ最近では誰でも携帯しているワンセグ受信機へコンテンツ配信ができるメディアとしては大きく期待されると思います。あとはビジネスモデルを生み出すことが出来るかが焦点でしょうね」

──データ放送コンテンツ面での可能性はどうでしょうか?
杉本「現在エリア限定ワンセグ放送実験を行う際はDPA(社団法人デジタル放送推進協会)のガイドラインに沿う必要があります。ガイドラインでは受信機のNVRAMが使用できない状況もあるのと、市販受信機には1次リンク先のドメイン規制(TV局系列ドメインのみ有効)もありますので自由に1次リンクサイトを応用することができません。となると、データ放送コンテンツは放送帯域内に限定するか、携帯サイトへ遷移させるという方法を考える必要があります。放送帯域内に多くの情報を付加させる方法として最近では16QAM(直交振幅変調)変調方式を用いるケースも増えてきています。16QAM方式はOFDM方式を使った地上デジタル放送と比べ限定された区域に多くの情報を送るエリア限定ワンセグ放送には最適かと思います。携帯サイトへの誘導に関しては、逆の発想でワンセグ放送は携帯サイトへ誘導するための最適な手段と考え積極的に行えば良いと思います」

──エリア限定ワンセグをデジタルサイネージに使用する場合の制作についてはどう考えますか?
DataCaster_tool.jpg杉本「ワンセグの場合、BMLオーサリングと、テキストと画像が必要になります。メディアキャストはBMLオーサリングツールの開発会社ではありますが、ケーブル放送向けにはオーサリングツールではなく、百数十種類の検証済みBML画面テンプレートを使用して、テキストと画像を組み合わせ、階層指定をするだけで容易にデータ放送が実現するオールインワンシステムであるDataCaster suite(左図)を提供しています。これと同様に、エリア限定放送や館内放送でもテンプレート方式に近いものになっていくでしょうね。もちろん、現在のワンセグデータ放送向けオーサリングツールFoliage typeCを、コンシューマ向けツールとして発展させる可能性もありますが、需要次第ですね」

──映像制作面ではPremiere Pro用のH.264エンコーダプラグインも出しましたが。
杉本「現在はCS3対応ですが、エンコード用のプラグインですからCS4でも問題なく対応できると思っていますが、まだ検証作業中です。エリア限定ワンセグは、映像制作面でも新たなメディアとなり得るのではないでしょうか。デジタルサイネージの映像制作は、まだまだ限られた人たちが、限られた表示装置用に制作していますが、すでに普及している表示装置である携帯やモバイル機器に向けて、Premiere Proのような一般的なツールで映像制作できることは大きなメリットだと思います」

──エリア限定ワンセグによるデジタルサイネージの可能性をどう見ていますか?
杉本「エリア限定ワンセグによるデジタルサイネージだけでなく、一般的なデジタルサイネージにも言えることですが、その表示を使うことによるビジネスモデルを生み出すことが出来ないと事業の継続はなかなか難しいものはあります。エリア限定ワンセグ放送自体でのビジネスは相当厳しいかもしれませんが、少なくとも、あるエリアに集客するためのツールメディアとしてエリア限定ワンセグを活用し、そのエリアでしか得られない映像や情報に価値を持たせることにより間接的なビジネスモデルを発掘できる可能性はあるかと思います。緊急情報や災害情報はもちろんですが、地域活性化ツールとして間接的に利用するという考え方は可能なのではないでしょうか」

(インタビュー:秋山謙一)