番組・CM、映画、ミュージックビデオ(MV)、プロモーションビデオ(PV)など、各種映像制作においては、CGやVFXを使用せずにただ繋ぐだけの映像は少なくなっている。もちろん分野や予算に応じて、よりリアルな映像を作るためであったり、映像にアクセントを付けるためであったりと、CGやVFXの使用方法はさまざまなものがある。
8月の特集で採り上げたCGカンファレンスSIGGRAPHにおいては、毎年、米ハリウッドの最新アニメーション作品や最新フィルム作品のメイキングが展示ブースやカンファレンスで報告されている。予算規模も制作者数も大きいハリウッドの手法は、そのまま日本の映像制作に生かせるというものではない。しかし、その緻密なクリエイティブワークに見習うべきことも多い。
ハリウッド映画で特徴的なのは、「無駄のなさ」だ。たとえば、リアルさの追求といった面でも、制作最前線の人が見ないと違いが分からないような部分まで作り込むのではなく一般の人が違和感を持たないレベルにとどめたり、カメラの視野周辺で被写界深度から外れてボケてしまうような部分の作り込みをやめたりといったことは、よくあることだ。技術的に作り込みは可能であっても、一般の人が最終的な画を見たときに違和感を持つかどうかで判断しているようだ。もちろん、一般人であってもハイレベルな作品を見続けると、それなりに目は肥えてくるので、年々、技術的なハードルは高まってしまうのであるが……。
こうした制作ができる背景には、撮影段階からポストプロを考慮した制作が行われていることが挙げられる。CGで表現すべきこと、撮影で表現した方がよいものを切り分けながら、作業を効率化しているのだ。撮影段階で作業を切り分けることで、CGやVFXにかける制作期間も伸ばしたり、撮影が難しいカットにひたすら時間とフィルムを使うことを避けているわけだ。莫大な製作費をかけながらも、コストカットの意識は常に働いているとも言える。
縦割りなワークフローによる閉塞感をなくせ
日本ではどうか。CGアニメーションツールは、ハリウッド制作で揉まれて、毎年のように機能向上を果たしてきた。マシンパフォーマンスと時間さえあれば、誰もが劇場のスクリーンに投影しても申し分ないクオリティで制作できるようになった。この「誰もが制作できるツール」というのがクセモノだ。「誰もが制作できる」のは、「誰もがクオリティを上げられる」ことではないはずだ。編集や合成では「誰もが制作できる」ノンリニア編集システムが登場しても、クオリティを上げるにはテクニックが必要なことは理解されている。しかし、CGやVFXとなると、作品に味付けをする添え物で、困った時のCG/VFX頼みという位置付けになってしまうところに問題がある。誰もが制作できるのはモデリングとレンダリング部分であって、実際の画作りの妙といった部分は、制作者のテクニックや感性に裏打ちされたものであるはずだ。けっして添え物ではないのである。
しかし、日本の多くの映像制作において、撮影後にポストプロに持ち込まれ、その合成素材の制作をCGプロダクションが行うといった状況にある。ノンリニア編集が一般的になっているのに、全体のワークフローはきわめてリニアな縦割り構造なのだ。撮影を行う監督がCGに熟知していれば切り分けもなされるのだろうが、そうしたケースはまだまだ少ない。そうであるならば、監督とCGプロダクション、ポストプロとCGプロダクションなど、より緊密に連携しながらトータルなワークフローを模索していくべくなのだろうが、そうした動きはまだまだ鈍いというのが現状だ。こうした制作フローが、日本のCG市場をゲームコンテンツ産業中心に追いやってしまった一因にもなっているのではないだろうか。
そこで今回は、CGやVFXを活用するためのワークフローに焦点を当て、CM、映画、MV、PVの分野から最近の映像制作の事例を紹介していくことにした。分野や制作規模の違いはあれど、いくつもの制約の中でワークフロー全体で制作効率を改善していくヒントが見え隠れしていると思う。しかし、残念ながら、CM制作事例については、広告代理店から掲載許可を得ることができなかった。そのCMは、動物の実写映像をVFXを使うことでよりリアルに、しかも精悍に見せる好例であったのだが、「CGを使ったことは伏せたい」という理由で不許可となった。
こんなところにも、CGやVFXは映像のクオリティを向上させる必要不可欠なものではなく、CGやVFXを添え物としか見ていない現状がにじみ出る。映像にCG/VFXを使うことがそんなに恥ずかしいことなのか。まったく理解できない。制作現場だけでなく、映像をプロデュースする代理店関係者の理解も必要だということを痛感した次第だ。
映画、MV、PVの最新映像制作ワークフロー事例を紹介する。分野や制作規模の違いはあれど、いくつもの制約の中でワークフロー全体で制作効率を改善していくヒントが見え隠れしていると思う。参考にしてもらいたい。