カンファレンスデーを含めて6日間のNAB Showが終わった。ふたを開けてみれば、参加者は88,044人と、昨年(82,650人)に比べて微増している状況に終わった。
デジタル放送移行を終えた米国放送業界が、映画市場と同様にフルデジタル制作のステレオスコピック3Dに取り組むであろうことは、NAB Show取材以前から想定していた。しかし、展示会場全体が、ステレオスコピック3Dやデジタル一眼に染められてしまうほどの勢いが出ているということは予想できなかった。米国放送市場が、ステレオスコピック3Dやデジタル一眼という表現手法を糧に、新たな制作方法の構築に向けて歩み始めた第一歩として記憶されるものになるのではないだろうか。
カメラレコーダー関連では、キヤノンがついにファイルベース化を果たしXF300/XF305を発表、公開した。カメラコーデックにはMPEG-2 4:2:2 50Mbps/MXFを採用することで、ある意味、放送用途のスタンダードなコーデックによりファイルベース参入最後発の遅れを挽回できるか──。ノンリニア編集システムとの親和性も高そうだが、ブース内にノンリニア編集システムとの連携はほとんどアピールされていなかったことが気になった。
パナソニックは、マイクロフォーサーズ仕様を採用したAVCCAM AG-AF100を投入した。フォーサーズはもともとデジタル一眼用の仕様だが、ミラー機構のないマイクロフォーサーズ仕様が策定されたことでライブフォーカシングが可能になり、デジタル一眼ムービーの新たな可能性を拓いている。このマイクロフォーサーズ仕様をカメラレコーダーに使用したことで、映画の35mmフィルムの撮像面積は得られないにせよ、一般のカメラレコーダーよりは十分に広い撮像面積を得ることができる。デジタル一眼用のフォーサーズレンズ、マイクロフォーサーズレンズもラインアップが揃ってきているので、AVCHDコーデックのレンズ交換カメラレコーダーとして、デジタル一眼と同様に期待できそうだ。
さて、ステレオスコピック3D、デジタル一眼ムービーは、技術的には決して新しいものではない。これまでの制作手法をベースに、フルデジタル制作時代の新しい表現手法を採り入れられることが注目される一因だ。フルデジタル制作が可能になった段階においては、世界のどの国においても横一線での取り組みだ。映画製作のメッカであるハリウッドを抱える米国市場における技術構築の速さは、他を圧倒するものがあるにしても、その他の地域においても、いかに早く市場形成できるかが制作市場の活性化につながることを熟知しているようで、南米や欧州からの来場者が熱心にブースを覗き込む姿が見られた。
貪欲に新たな表現手法を取り込み始めた海外市場とは異なり、日本の放送・プロダクション市場は今年もまた手を引っ込めたたずんでしまったという印象は拭えない。日本人の姿よりも、韓国や中国をはじめ、東南アジア諸国からの来場者を、世界同時不況さなかの昨年以上に見かけるという状況にあり、制作市場の冷え込みが今後もしばらく続くことを想像させた。立ち上がれ、ニッポン。
来年は何が出てくるのか?また来年このラスベガスから繰り広げられるNABに臨みたい。