txt:稲田出 構成:編集部

今問われる映像品質検証の現状とは?

アナログVTRが全盛期のころは、素材の受け入れチェックや完パケ納品テープのクオリティ・チェックなどは、正直ポストプロダクションではあまり真剣に行われていなかった。それでも素材テープは、1インチVTRへ1本化する時のコピー作業時にある程度目視で確認し、完パケテープは編集時にプレビューしながら確認を行っていた。

VTRがデジタルになり、編集もノンリニアに移行するとデジタル特有の予期せぬ問題が出てくることになる。アナログのVTRならばドロップアウトが増えるなど、その兆候が徐々に現れるのに対して、デジタルではいきなりブロックノイズ発生や、ブラックアウトなど、見た目にも派手な現象が顕著だ。

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ブロックノイズが盛大に発生した画像の例。デジタルの場合はアナログのように徐々に画質が悪くなるということはあまりなく、補正範囲を超えた途端にこうした画像になり、フリーズすることがある

ここまでひどい状態ではなくても圧縮により生じるブロックノイズなどは目視での確認では限界があるのが現状だ。放送の場合は、目視で感知できない範囲であれば許されることもあるが、パッケージソフトの場合はエンコードし、オーサリング後に問題になることがある。最近ではさすがにアナログ素材の持ち込みは、殆ど無いものの、デジベやHDV、HDCAMなど記録媒体だけでなく、圧縮フォーマットや記録フォーマットのラインナップは、多彩になってきた。放送でもパッケージソフトでも同様だが、素材や完パケのクオリティ・チェックは難しいが必要な作業となりつつある。

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一見したところ問題なさそうに見える画像もよく見ると破錠している部分がある。数フレームにわたり発生していれば見つけることも可能かもしれないが、1フレームだけこうした画像が混じっていたのでは、目視チェックでの発見は非常に困難だ

主に放送前提で持ち込まれる素材は様々だが、納品はHDCAMということが非常に多い。地デジの場合、ノンリニアに素材を取り込む時の設定は、1440×1080iがほとんどで、編集もそのフォーマットで行うことになる。通常素材より上位のいわゆる中間フォーマットへ変換して取り込む設定のため、ビットレートが足りないなどに起因したブロックノイズ等が発生することはないが、素材そのものに問題があることもある。特に小型ビデオカメラで撮影された物や、荒編をノートPCなどで行ったものなどでは、1フレ黒味が入っていたり、ブロックノイズが発生していたり、音声に問題があったり、TCの不連続があったり、簡単にプレビューのみでは発見が難しい問題が潜んでいることもある。

リニア編集とノンリニア編集

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素材がテープの場合は、取り込み時に目視あるいは、ノンリニア編集機である程度こうした問題を発見することができるが、素材がデジタルデータの場合は、メモリーカードやHDD、ネット経由で受け取り、直接ノンリニア編集機のディスクにコピーまたはフォーマット変換しながら取り込むことになるので、この段階で問題を発見することがあったとしたら、読み込み不能なフォーマットやファイル自体に問題があるなど、深刻な状態ということになる。低ビットレートで記録を行う小型ビデオカメラでは、記録の段階で動きの速い被写体などを撮影することで破錠してしまうこともある。ただ、軽微な破錠だと見逃すことも多々あるものの、こうした小型ビデオカメラで撮影する番組では、見た目で大きな破錠でない限り予算的に諦めざるを得ないという事情もある。

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リニア編集では、たとえ単純にカットをつなぐだけでもプリロールや調走を行いプレーヤーからレコーダーへコピーするため、ここで必ず1度は映像確認を行うことができる。ノンリニア編集では、カットを単純に繋ぐ場合、こうした作業なしに編集を行うことも可能だ。それが、ノンリニア編集の利点でもあり、効率の良い編集環境となっている。問題は、編集作業が終了した後にクオリティ・チェックまで行う時間的余裕があるのかということと、その必要があるかである。

というのは、一般にポストプロダクションでは、編集結果には責任があるものの持ち込まれる素材のクオリティは責任の範囲外という考えもあるからだ。とはいえ、局納品した完パケテープに問題があれば、どこに問題があったかを特定するためには、素材と完パケテープのクオリティチェックは必要で、簡単にこうしたチェックが行えるシステムが求められる。

ちなみに昨今の放送事情は複雑で、地デジの場合ビットレートは放送規格上約17Mbpsしかなく、さらに受信機であるテレビ自体も様々なデジタル処理が行われているので(フレームメモリー、IP変換、3D NR、スケーラーなど)、普通に見ていてもブロックノイズなど、結構見受けられる。視聴者側も慣れっこになっているのだろう。

さて、ハイビジョン放送は、地デジだけではなく、BSやCSなどあり、1440×1080iではなく1920×1080iで納品ということもある。BSハイビジョン放送は、 ビットレートが約24Mbpsあるので、少しでも綺麗にということなのだろうが、HDCAMは1440×1080で収録され、HD-SDIベースバンド入出力時には、1920×1080スケーリング処理されることを考えるとポストプロダクション的には、HDCAMで納品といわれると少々複雑な心境になる。

Blu-rayなどパッケージソフトのオーサリングでは、エンコードでクオリティが大きく左右される。持ち込まれる素材は局などの番組制作ものに比べるとそれほど沢山の種類のフォーマットはない。カメラで撮影したものをそのまま持ち込まれることはほとんどなく、編集済の素材が持ち込まれるからだ。ただし注意しなくてはならないのは、編集の過程で1フレ黒味が入っていたとか、ブロックノイズが生じていたりするとエンコード後のクオリティが思いのほか悪くなることがある。

エンコードには比較的時間がかかるので、できれば素材持ち込み時にチェックすると効率的だ。エンコード後やオーサリング終了後必ずクオリティチェックを行うが、これにはエンコーダーや専用のチェックソフトを使えるので、問題箇所をある程度特定することができる。エンコーダーによっては、問題箇所のパラメーターだけを設定しなおすだけで、その部分だけを再エンコードしてくれるから効率的だ。ただ、最終的には目視チェックが必須で、ここで問題が見つかることも多いが、非常に時間がかかるほか、経験による個人差が大きいので、一定したクオリティを保つのは難しい。

クオリティ・チェックの憂鬱

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クオリティ・チェックは、アナログの時よりデジタルの方が重要である。特にデジタルtoデジタルで変換した場合やエンコーダーで処理する場合は非常に重要になる。従来こうしたチェックは人手に頼っていたが、人間が集中できる時間や人によってばらつきがあること、など課題も多い。 最近ではこうしたチェック用のシステムがいくつか発売されているが、スピードや柔軟性、精度など「帯に短し襷に長し」といった感がある。 特にテープ素材特有のノイズを検出するものは製品化されておらず、目視に頼らざるを得ないのが現状である。特にHDCAMは放送業界では、当たり前のように使われているフォーマットであり、それだけに対応が望まれていた。

こうした現状を踏まえ、ニコンシステムではHD-SDI入力を備えたクオリティチェックシステムを開発した。すでに、IMCなどに参考出展されているので、ご記憶の読者もいるだろう。開発にあたり、大手ポストプロダクションなどでベータテストが行われ、日々ブラッシュアップされ、ほぼ仕様も固まり、実際に導入が始まろうとしている。今回は、製品の特徴をメーカーであるニコンシステムの開発者にインタビューするとともに、ユーザー現場の生の声をお伝えしよう。