Stereoscopic 3D制作現場からの声
毎年のNABショーで2002年から毎年開催されている看板カンファレンスである”デジタルシネマサミット”が、今年から名前を『DCS』(頭文字を簡略化)と改め、”DCS2011″としてデジタルシネマに関する各方面からの報告やトークショー等が行われた。今年は主にステレオスコピック3Dに関して、初日の4月9日に行われたが、この中で注目されたのは、ここ数年のS3D制作の経験を踏まえた制作現場からのケーススタディの報告だ。
事例として紹介されたのは昨年全米で公開され大ヒットした『Yogi Bear in 3D』。アメリカの古いアニメーションの3Dリメイク作品だ。1960年代に日本の古いファンにも”クマゴロー”の愛称で親しまれた『Yogi Bear』が、昨年『ヨギ&ブーブー わんぱく大作戦』として3DCG版として映画化された(日本でも今年4月2日からの公開を予定していたが、東日本大震災の影響で残念ながら公開中止となっている)。
DCSではこの映画の監督であるエリック・ブレヴィグ監督とVFXスーパーバイザーらがゲストとして出演し、S3D作品制作の現場の声が語られた。ちなみにブレヴィグ監督は、映画『トータル・リコール』でアカデミー賞の視覚効果賞を受賞し、あのマイケル・ジャクソン主演の3D映像作品『キャプテンEO』の制作にも関わった経験を持つ。彼らの発言として興味深かったのは「S3D作品を作るのは大変だが、3Dの魅力としてファンタジーの世界感に浸れるという側面を持っているということ」と「S3D製作の際の”決め事”など厳密な製作ルールに則った作品が、必ずしも3D作品として評判を呼ぶわけでない」という点だ。
ステレオスコピック3D映像にはイベント映像やアトラクションなど、ある種の”体験”を求める目的で制作されることが多く、視聴者側にある程度の能動性が求められる。ある意味で3D映像を見たいという意志があって、初めて”3D体験”というものが成立するものだとも言えるだろう。「3D制作のルール」に則った映像が必ずしも魅力的ではない、というのはおそらくそのためだと推測され、特にエンターテインメント作品においては、多少の過度な映像があったほうがより3D効果を堪能出来る、ということにも捉えることができる。もちろん医療向け、学術向け、もしくはドキュメンタリーといった3D作品ではいわゆる「良い3D」が求められるのは言うまでもない。
S3Dコンテンツから見える2つの方向性
Sony HXR-NX3D1J
最近のステレオスコピック3D向け機材は、今回の『HXR-NX3D1J』にも見られるような小型カメラの登場で大きく変わる可能性がある。最近の海外の展示会で大きく注目されていたのは、GoPro HD HEROなどに代表される、ホビー性の高いHDカメラ製品だ。GoPro HD HEROは昨年のNAB2010に登場して話題となった商品だが、さらに今年は他社ブースでもGoPro HD HERO用の様々な周辺ツール、ガジェットを見かけることができた。またGoPro HD HERO 2台を1つのケースにまとめた2眼式3D撮影が可能な3D専用パック「GoPro 3D HEROシステム」も発売され、手軽な3D撮影も思いのままになってきた。
このGoPro HD HEROの人気からか、以前からあった小型のヘッドカムなどの製品にも再びスポットが浴びるようになり、他社製品のブースも拡大・活性化していた。国内のポストプロダクションは言うに及ばず、ハリウッドのポストプロダクションにもこれらのミニカムコーダーの素材が持ち込まれるケースは増えているという。
ここに来て3D映像は2つの大きな流れがあるように見える。1つはリアルを忠実に再現しようとする『リアル3D』の世界。これは「ワールドカップサッカー」などのスポーツ中継など臨場感を伝える手段としての3D映像である。その他ドキュメンタリーや多くのビデオ素材としてもリアリティのための3D映像は基本として存在している。そしてもう一つは、ファンタジーな映像に浸りたい、もしくはアクロバティックな映像を体験してみたいという、いわゆる『フェイク3D』もしくは『エクストリーム3D』の世界。これは主として映画やイベント、アトラクション映像向けのコンテンツである。
いずれにせよこれらの3Dコンテンツを生み出すにはやはり経験値が最も重要であり、また新しいS3D対応機材の登場によってより身近に、より手軽に入手できるようになったことで、更なる3Dコンテンツの熟成が期待出来るという時期に入って来たと言えそうだ。