小型業務用3Dカメラという位置づけ
3Dコンテンツ拡充の呼び水となるか。ソニーの業務用小型3DカメラHVR-NX3D1J
二眼一体式の業務用小型3Dカメラが話題を呼んでいる。ソニーが7月に発売した「HXR-NX3D1J」だ。1/4型CMOSセンサー搭載、基線長(ステレオベース)31mmの平行セッティング、最短撮影距離80cm、レンズは色ずれの少ないGレンズ、焦点距離は35mm換算で34.4mm(2D撮影時は29.8mm)、光学10倍ズーム(2Dは17倍)、光学&電子手ブレ補正機能(Active SteadyShotを含む)、3.5型視差バリア方式裸眼3D液晶パネル搭載など、5月に発売された民生3Dカメラ「HDR-TD10」と同様の仕様である。そこに業務用としてさらに加えられた機能がいくつかある。
- MVC1080/24Pに対応
- 取り外し可能なXLR入力アダプター(ハンドル付き)とエレクトレットコンデンサーマイク(付属品)
- リニアPCMもサポート
- 内蔵メモリ容量96GBに増量
- レンズフード
- タイムコードやユーザービットにも対応
- LCDのディスプレイモード・HDMI出力にL+R mix、R onlyが追加
NX3D1Jのステレオベースは31mm、料理のディスプレイカットや人物の顔などを細かな立体感ある3D映像を撮影することができる。3D奥行き調整次第では50cmほどまで被写体に接近できるのが魅力だ。また民生機で培われてきたソニーのハンディカムの強力な手ブレ補正「Active SteadyShot」は解像度が多少失われるものの驚くほどに手ブレを抑制することができる。歩きながら撮影してもまるで特機に乗せているかのようななめらかな移動ショットが撮影可能だ。接近した被写体が破綻しにくく、手ブレによる「3D酔い」も防げるのであれば、どんな現場においてもディレクターレベルで十分に安全な3D映像を効率よく撮影することができるというわけである。
「AVCHD Version2.0」対応の新世代カメラ
今回初めて対応したMVC1080/24Pの記録方式は28MbpsのMPEG-4 MVCフォーマット。ソニーの独自規格としているが、7月1日に発表された「AVCHD Version 2.0」の策定により、正式に「AVCHD 3D」規格に準拠となった。これによりMVC1080/24pとMVC720p/60pが仕様であるBlu-ray 3D規格に対応したことになり、本機で撮影した3D映像をそのままBlu-rayディスクに記録することができるようになった(Blu-rayディスクに記録するには別途※1有償ソフトであるSONY Vegas Pro 10.0e※2とMVC録画に対応したBDレコーダーが必要)。また2Dによる1080/60pの記録を実現。「AVCHD Version2.0」の「AVCHD 3D/Progressive」にも対応したことも注目されている。さらには業務用のXLRマイクアダプター(ハンドル付き)が搭載されたことで、ピンマイク・ブームマイク・音声ミキサーからの入力対応で音声部分の不安も解消される。音量調整もマニュアルで瞬時に対応でき、マイクアダプタ上部のハンドルは、目線よりも低い位置から狙うことが意外と多い3D撮影ではありがたいデザインである。
※1:HXR-NX3D1Jの民生版「HDR-TD10」は対応するBDレコーダーに接続して直接3D映像を記録できるが、HXR-NX3D1Jはサポート対象外
※2:Vegas Proの民生版「Vegas Movie Studio HD 11」は60iのドルビー音声を記録するHDR-TD10のMVCファイルに対応するが、HXR-NX3D1Jはサポート対象外
撮影セッティングは視差調整を中心
NX3D1Jは業務用3Dカメラとしての位置づけであるので、どれほどマニュアル操作に対応しているかが期待されていた。ところがレンズ脇下部に配置されたマニュアルダイアルボタンはTD10と全く同様の機能である。3D撮影時にボタンへ割り当てることができるのは、「3D奥行き調整」「フォーカス」「カメラ明るさ」のみで、「絞り」や「シャッタースピード」「ホワイトバランス」などは調整することができない。腰を据えた撮影以外は一部の項目をオートで使用せざるをえないだろう。ソニーの3D撮影スタイルの提案は、フォーカスや絞りなどはなるべくオートで対応し、3D奥行き調整に専念することで誰もが簡単に3D映像を効果的に撮影することができるというものであることが伺える。
ハンドルによりさまざまなアングル撮影に対応で。加えて水平解像度2562ピクセルの高精細裸眼液晶パネルが快適な3Dモニタリングを実現
液晶モニタは122.9万ドットの明るくクリアな視差バリア方式液晶でのモニタリングは非常にとにかく快適であった。解像度を2562×480にすることで視差バリア方式の欠点を見事にクリアしているのは評価が高い。液晶は3.5インチであるため破綻はおこりにくいが、大型ディスプレイなどで視聴する前提がある場合は視差を弱めにしたり保険カットを撮るなどの注意が必要となる。表示は2Dや左右の画像を混合して視差確認できるL+R Mixモードなどに切り替えることもできる。筆者は3Dモードで見るよりもL+R Mixモードで確認した方が慣れているので撮影しやすかった。左右の2重像が重なる所がコンバージェンスポイントなので確認が容易だ。また破綻してしまう視差の幅をおおよそ憶えておけば目を痛めず破綻を見つけることができる。
音声マンによるブームマイクから現場音を拾いNX3D1JのXLR入力へ。3D映像に臨場感を加えるためには現場の音をキャッチしたい!
NX3D1Jは平行法を採用しているので、左右映像の重なり具合を幾何学的にずらすことでコンバージェンスポイントを作り出しているのだが、その際にオーバースキャンされる分を最初から高い解像度設定にしているため最終的な映像もフルHD解像度を保持している。3D放送や3D中継のサブカメラとしても十分に活躍できるレベルであるといえるだろう。また、2D撮影時には60pで撮影できるなど、2Dカメラとしての完成度も高い。「AVCHD Progressive」「AVCHD 3D」「AVCHD 3D/Progressive」規格に準拠した今、 AVCHDカメラの購入を考えていて3D撮影にも興味がある場合はこのカメラも選択肢のひとつとなる。
撮影後の編集ワークフロー~「ネイティブ」か「左右分離」か
Vegas Pro 10.0e 最新バージョンのみNX3D1JのMVCファイルを読み込める
撮影後の編集作業のワークフローであるが、動画編集ソフトでMPEG-4 MVCをネイティブで対応しているものは少ない。しかしそんな中でもいくつかのお薦めのワークフローは「そのまま(ネイティブ)」か「左右分離」の二つの方法である。ネイティブでの編集は現時点ではVegas Pro10.0eが対応しており、MVCファイルをそのままタイムラインに乗せれば再生・編集可能だ。さらに3Dモニタを繋げていればリアルタイムで立体感を確認しながら視差調整や編集ができる。ファイル書き出しも様々なフォーマットが選択でき、左右分離で書き出せば他の編集ソフトやAfterEffectsのようなコンポジットソフトにも移行できるのがいい。他の編集ソフトを持っていてもNX3D1Jとセットで買う価値のあるワークフローだ。
同梱のContent Management Utility
左右分離の方法はソフトウエアとハードウエアで分離する方法があり、ソフトウエアであればカメラに付属された「Content Management Utility」(Windowsのみ)、3Dtv.atの「MVC to AVI converter」が多く使われている。ハードウエアでいうと、Blackmagic Design社「DeckLink HD Extreme 3D+」を使用すれば簡単だ。付属の「Content Management Utility」はカメラをUSB接続しキャプチャしたあと「左右2つの動画の作成」を選べば簡単にLR独立したAVCHDファイルに書き出されるようになっている。処理時間は収録実時間×およそ1.5ほどである。
3Dtv.atの「MVC to AVI converter」も操作は簡単だ。カメラからUSB経由でHDDにコピーしたファイルをドラッグアンドドロップでインターフェイスに入れ、書き出しフォーマットをAVI/非圧縮を含め10種類の中から選択しStart Conversionを押せば分離される。非圧縮の書き出しやビクターJVCのMVCにも対応しているが10分ほどの素材を分離するのに1時間ほどかかってしまうのが難点だ。
Blackmagic Design社 DeckLink HD Extreme 3D+
一方でBlackmagic Design社「DeckLink HD Extreme 3D+」は、PCIeのスロットに指すキャプチャーカードで、HDMI1.4のフレームパッキング方式に対応し、HD-SDI/HDMIの3D左右2系統入力・出力ができる優れものだ。左右の書き出しフォーマットとして「AVI 10bit YUV/AVI 8bit YUV/AVI Motion JPEG/ DPX 10-Bit RGB」の4種類から選べる。一般のHDDの転送速度を考えるとAVI Motion JPEGが効率的で、画質的にも問題はないだろう。実時間でキャプチャ&左右分離が終わるのも魅力だ。ただし、SONYのカメラ側からの信号の問題でキャプチャは「60i」にしか対応していない。収録が「24p」でも「60i」で収録されてしまうので注意したい。
総括
編集環境も徐々に整い、インタビューやドキュメントもディレクターレベルで2Dカメラとそれほど大差なく撮影することができる。3D映像の制作に対して敷居が高いと感じている人もまだまだ多いようであるが、こうしたカメラで積極的に3D映像を撮影し、さらに基本的な知識を身につけていけば、コンパクトバジェットで確実な3D映像の制作は可能なのである。「3Dは見るのも楽しいが作る方ももっと楽しい」ことを多くのクリエーターに体感してもらえるカメラの登場であろう。