とにかく簡単なHXR-NX3D1J
ソニーから発売された業務用3Dコンパクトビデオカメラ「HXR-NX3D1J」。民生用モデル「HDR-TD10」に業務用の音声入力ユニットをセットしたモデルで、カメラスペックとしては民生用と同じ、メニュー構成も一緒である。収録はAVCHDでSDカードもしくはメモリースティックに収録する。本体に96GBのメモリーを搭載しているので、メモリーカードなしでも収録が可能だ。レンズは2つあり、固定式(輻輳角とレンズ幅が固定)だが、ズームとピントが連動している。また、それぞれのレンズに独立した撮像素子を搭載しており、シャッターシンクロ、露出、色温度も連動してくれる。モニターは裸眼3D液晶で、撮影しながら立体感を確認できる。一方、バッテリーが新しい方式のV型になっている。まめカムなどで使っているH型にそっくりだが、マウント形状が異なるために使えないのは残念だ。弊社ではまめカムを多様していたこともあり、H型のバッテリーがたくさんあるのだが、これが使えないので、非常に落胆してしまった。
ソニーHXR-NX3D1J
さて、使ってみた印象だが、これなら3Dを知らないカメラマンやディレクターでも簡単に3Dが撮影可能だ。基本的にはカメラ任せで撮る仕様だが、露出は自然で扱いやすく、顔検出で露出も調整されるので、通常の撮影であれば何も気にせずカメラを向けたものが立体に撮れる。レンズ幅も適度であり、極端に近接撮影にならなければ破綻を気にせず撮影ができる。
一方、業務用途としてチューニングされた部分を取り上げると、まず音声ユニットである。インテリジェントシューに接続することによって、ファンタム電源も供給できる仕様になっている。キャノン端子2個が、それぞれ独立して操作することができ、オートもマニュアルもできる。1chを左右へ同時出力も可能。このユニットを使った場合、カメラ本体マイクは自動的に切られる。仕様はソニーの業務用カメラと同じなので扱いやすいだろう。さらに、レンズフードが付属している。非常に作りのよいフードで、カメラ本体に強固にロックされる。荒っぽく使われることの多い撮影現場では安心できる仕様だと言える。フード前はフラットになっているので、ガラスフィルタを貼付けたり、マットボックスを使う場合にも対応しやすいはずだ。
収録フォーマットは奇麗、編集にひと味加えれば大丈夫
お馴染みのVegas Proインターフェース
同じクラスのカメラとしてはJVCから発売されているGS-TD1が競合で、全体的なスペックは似ており、どちらもAVCHDで収録する。しかし3D収録フォーマットはGS-TD1がサイドバイサイドとMVCの選択が可能だが、HXR-NX3D1JはMVC収録のみとなっている。MVCはMP4・AVCHDの3Dフォーマットのひとつだが、2011年8月現在ではソニーのVegas Pro最新版のみで編集可能となっている。Vegasは撮影と編集を分業している日本のプロの現場ではマイナーな存在だが、非常に優れた編集ソフトで北米市場では比較的高いシェアを獲得しているようだ。
Vegasユーザーでなくても、HXR-NX3D1Jの付属ソフトのContent Management Utilityを使い左右映像を分離すれば、これまでの2D編集環境をそのまま利用することができる。ただし、このソフトを使うにはカメラとPCをUSB接続する必要があり、撮影と編集が別会社というような場合に一手間増えてしまう。そんな場合には3dtv.atの有償ソフトで分離するとよい。
ただ、個人的な印象としては、左右を分離してEDIUSなどのプロ御用達ソフトで編集する場合、左右を別トラックにしてマルチカメラ編集のように左右同時にカットするので、編集が煩雑になることは否めず、VegasのようにMVCをネイティブで編集できる環境が増えることが望ましい。弊社ではJVCのGS-TD1でVシネマを3本ほど完成させているが、DVDにするにせよブルーレイにするにせよ、実はハーフのサイドバイサイドでも画質的には十分に奇麗である。ただし、3Dのブルーレイを同時に作る場合には、言わなければ分からない程度だが、若干の物足りなさがある。
このMVCフォーマットは、先日AVCHD Version 2.0規格で「AVCHD 3D」として策定されたようだが、制作サイドとしては色々なフォーマットへの対応することは頭が痛い。ただ、「AVCHD 3D」を採用することで画質向上し編集が楽になるのであれば、使わない手はないだろう。
テレビやシネマの撮影ではシャッターで苦労
実際に撮影してみた印象を述べたい。すでにオンエア済みとなってしまったが、ちばテレビの朝の情報番組でこのカメラを使ってみた。ただし2D撮影である。撮影機能としては3Dと同じなので、参考にしていただきたい。発色も良好、解像度もあり、オンエアクオリティーであると言える。
一方、3Dの撮影はテスト程度で作品まで作る時間がなかった。ただ、触ってみた印象では、基本的にオート、もしくは半分オートなカメラだといえる。マニュアル機能は民生ベースなだけに苦しい。例えば、シャッターを固定して絞りを変えることはできない。つまり、シャッターを変えると絞りはそれに連動、絞りを変えるとシャッターが連動。AEシフトを行うとシャッターと絞りが連動してしまう。つまり、一度に動かせるのはどれかひとつだけになる。やや明るくとか暗くという画作りをすると、シャッターと絞りは勝手に決められてしまう。ただ、絞りを開けて背景をボカすというような撮影には向かない(撮像素子が小さく効果が薄い)ため、絞りオートは許せる。シャッターに関してはフリッカー対策ができないため困る。
この点はJVCのGS-TD1はフルマニュアルのため、どうにか映画などの現場でも使えるが、GS-TD1の絞りはF5.6が上限なので、屋外ではシャッターを使わないと露出オーバーになる。本機はタイムコード機能が搭載されており自由にTCとUBを設定できるが、テレビのマルチ収録以外でこの機能を使うかどうかは疑問ではある。
撮影・レンズは非常にいい クロスポイント調整が面白い
実際にカメラを使ってみると、さすがにソニーらしくAFは非常に素早いし、3Dのクロスポイントの移動も違和感がない。この点に関してJVCは、AFもクロスポイントもカメラが迷う事が多く、映画の現場ではマニュアルでしか使えない。しかし、ソニーはカメラ任せでもかなりいけると思う。マニュアルダイヤルの位置もよく、マニュアルとオートの切り替えも素早くできる。
一方、3D撮影に関しては、裸眼の3D液晶がよく見えるため、3Dの知識がないカメラマンでも効果的な3D撮影ができる。また、3D撮影の要ともいえるクロスポイントの設定だが、これもマニュアルダイヤルで簡単に変えられる。調整するに当たって、3D表示、左右混ぜた二重像、右だけ、左だけと表示をボタンひとつで切り替えられる。非常に優れた機能で、これさえあれば、3D撮影で失敗しがちな片方のレンズだけにしか画が映っていないというようなことが回避しやすい。ただし、3Dの調整量が数値で表されていないので、VE(ビデオエンジニア)としては、調整値の管理ができないのが困る。例えば同ポジで役者が消えるとか出てくるとか、役者が入れ替わるというようなとき、クロスポイントを決めるには、カメラ内の数値ではなく、被写体の中に目標を決めておかなければならない。編集へ渡す時にもクロス量の味付けに関して数値で言えないため工夫が必要となるだろう。
とはいえ、レンズ幅は狭くレンズは広角寄りであるため、編集時に立体量の調整が必要となる場面は少ないはず。新しい3D表現としても、このクロスポイント調整は特筆に値する。録画した状態でクロスポイントを変えられるので、画角が同じまま、被写体が画面手前に出てきたり、逆に逃げて行ったりする。非常に不思議な効果で、ホラー・スリラーに向いているかもしれない。見ている側は気付かないまま、被写体が迫ってくる。心理的な効果が大きいのではないだろうか。オート主体のカメラではあるが、映画の撮影現場でも活躍してくれるカメラだろう。