大型イメージセンサーとLog収録機能を組み合わせたカメラが増え、REDのRAW撮影と合わせて、撮影の幅が大きく拡がった。ここでは、RAW制作とLog制作の違いを理解しよう。

RAWという概念をファイルベースで実現したRED

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昨年発売されたEPIC。ファイルベースのカメラとしては最高のスペックを有する

REDの特徴は「RAW」「5K」「ハイスピード」という言葉に形容される。昨年末から市場に出始めたEPICは最大で5120×2700ピクセルの解像度を持ち、12bitの深度と13Stopの階調を併せて圧倒的な表現力を持っている。2048×1024ピクセルで300pのハイスピード撮影もできるため、多くの現場で重宝されるカメラとなった。いやはや恐ろしいカメラである。

REDを使った撮影は「RAW」という概念を知っておく必要がある。写真を撮る人であれば、このRAWデータというものの扱い方はよく知っていると思われるが、動画撮影の現場ではあまり聞きなれない言葉であることは間違いない。私もRED ONEで撮影を始めた2008年当初、この意味を理解するまでにそれなりの時間を要した。

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RED ONEによる撮影の様子。高解像度であるためフォーカスが大切。あとは露出さえ合わせれば、ほとんどの色調整は後で行える

RAWデータとは、簡単に言えばRGB化される前のあらゆる光の情報をそのまま保った状態のデータである。そのためデータ容量はそれなりに重く、少々扱いづらいのが難点だ。ただし自分の好みに合わせて素材のRGB化をポスプロ段階で行えるので、非常に幅広い映像表現の可能性を持っている。

通常の動画撮影では、映像はカメラ内でRGB化(=現像)され、さまざまなコーデックに圧縮される。当然、色温度などは後で修正できないため、撮影時に正しいカメラの調整を行わなければならない。ところがREDの撮影では露出とフォーカスさえ合わせておけば、色温度やISOなど、さまざまな現像条件を撮影後ソフトウエアで変更できるのだ。

メタデータを活用したRAW現像と可逆的編集

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RED素材のメタデータ一覧。これだけの数値をRGB化する前にポストプロ段階でいじることができる。自由度は非常に高い

もう少し分かりやすく言い換えれば、REDの素材はRAWデータに加えて、ISOや色温度などのさまざまなメタデータを調整しながら、PC上で現像できる。REDの素材は、メタデータを変更することで初めて映像になるのだ。私が初めてREDに出会ったとき、ISOまでもが後でいじれるという概念に頭が混乱したが、メタデータという考え方を理解することで、RAW素材を少し理解することができた。

すべては、RAWデータに付随するメタデータをソフトウェアが解析し、映像がRGB化されるのだ。それこそがRAWのもつ可能性である。しかもREDが開発した現像のカラーサイエンスが新しくなれば、その現像品質が更に向上するというのも面白い。2年前に撮影したRAW素材を今改めて現像すると、その素材は更に美しくRGB化されるのだ。

可逆的に色を編集できるRAW素材の可能性は、デジタルワークフローにおいて、想像を超える自由度を与えてくれる。

RED発売当初は、このRAW素材の編集ワークフローが非常に複雑だった。専用ソフトウェアでヒストグラムなどを見ながらメタデータを調整し、DPXやQuickTimeなどの中間コーデックに書き出す必要があった。最近は、REDの素材をそのまま編集ソフトウェアで扱えるようになってきており、中間コーデックに書き出すことなく、どんどん編集を進められる。


REDを最適に編集するAdobe Premiere Pro CS5.5

私が使っているのはPremiere Pro CS5.5だ。Premiereはいち早くREDのファイルをネイティブで扱えるようになっており、Premiereの中でメタデータを編集することが可能だ。非常に簡単で分かりやすいワークフローで4Kの素材を扱うことができる。「REDは編集が大変」という噂に翻弄されている人も多いが、実は5D Mark IIの編集となんら変わりはない。

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Premiere Pro CS5.5によるREDの編集の様子。中間コーデックに書き出す必要がないため非常にストレスのない環境を組める

Premiereの素晴らしいところは、REDのメタデータ編集を行える機能が非常に充実しているところだ。カットごとにメタデータをいつでも調整可能で、さらにはそのメタデータの情報をプリセットとして保存することができる。この保存データはRMDと呼ばれ、REDの専用現像ソフトだけでなく、After Effectsなどでも読み込みが可能だ。他のクリップにも適用できるため、効率的な運用ができる。ISOや色温度だけではなく、無数のメタデータを調整して自分の好きな色表現でRGB化させることが可能だ。

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Premiere Pro CS5.5のメタデータ編集画面。いつでも呼び出して編集可能だ

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HDで出力するときは3840×2160のサイズで撮影するとダウンコンバートが非常にきれいに行える

最終的にHDサイズで納品する場合(作業のほとんどの場合がHD納品である)、私はREDの解像度をあえて3840×2160に落として撮影している。これはちょうどHD解像度の4倍の大きさであり、サイズを50%にすることでぴったりとHDにダウンコンバートでき、映像のシャープさを忠実に再現しながらHDに落とし込めるからだ。13Stopある階調表現は、確実にダウンコンバート後も楽しむことができる。これがREDの大きな魅力であると私は感じている。

Premiere Proで編集を行い、メタデータの整理をし、それをそのままAfter Effectsにコピー&ペースト。その後Color FinesseなどのAfter Effectsのプラグインでセカンダリのカラコレを行う。50%のスケーリングもAfter Effects内で行い、最終的の書き出しレンダリングは現像も兼ねるので、効率的なコンポジットだ。一度素材をPCにコピーしたら、最後のレンダリングまで全てをネイティブで運用することができるため、個人的にはREDこそが最強のカメラだと感じている。

Canon Log搭載、Cinema EOS C300の登場

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今年発売されたCanon EOS C300。誰もが待ち望んだキヤノン初のデジタルシネマカメラだ

Cinema EOS C300はキヤノンが満を持して発売したデジタルシネマカメラである。8bitという限られた深度のなかで、キヤノンは見事にCanon LogというLog収録スタイルを実現した。昨年末、発売前のCinema EOS C300で撮影する機会を得た。映像はカメラ内でRGB化されるが、実はこのCanon Logは相当精密なチューニングがなされた、絶妙なLogであることが分かった。

Log収録は、センサーの性能をそのまま生かしたLog(対数)カーブによる記録方法で、ポスプロ段階での色調整(カラーコレクション、カラーグレーディング)を前提に、広いダイナミックレンジを確保して収録するスタイルだ。8bitという従来の映像記録と同じ色表現の世界で、ダイナミックレンジを稼ごうとするのは無理があるという声もあったが、キヤノンは8bit 4:2:2・MXFのCanon XFコーデックを活用して、見事に新しいLogの世界をC300に採り入れた。

キヤノンの大いなる技術力~レンズとイメージセンサー

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PLレンズに劣らない性能をもつEFレンズはコストパフォーマンスの非常に高い選択肢だ

RAWとは異なり、もちろん色表現の可能性はREDに比べて低いのだが、C300には非常に魅力的で将来性を感じさせる完成度を持っている。その完成度を支えるのが、イメージセンサーとレンズだ。

そもそもキヤノンが世界に「デジタル一眼レフ」による動画撮影の圧倒的なクオリティをEOS 5D Mark IIで披露したのは、EFレンズが捉える被写界深度の豊富な映像だった。5Kの解像度を要求されるスチルの世界で培われた日本を代表するレンズ群は、見事に動画の世界で新しい可能性を広げることになったのだ。特にEFレンズのLシリーズの単焦点レンズ群は業務用としても高い描画能力があると評価されている。映画で使用されるPLレンズといった「超高級レンズ」にも勝るとも劣らない描画能力は、5D Mark IIで実証され、C300のCanon Logの可能性を大きく支えている。

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C300のセンサーの評価は非常に高い。動画用にチューニングされ、驚くほどの描画能力を持っている

C300のイメージセンサーは大判で、動画記録に特化された、非常に能力の高いセンサーだ。RGB各色フルHDの画素数を有するスーパー35㎜相当のイメージセンサーは、いわゆるジャギーの少ない映像を記録することができ、従来のDSLRとは全く違う世界を映し出すことができる。高速読み出しにより、ローリングシャッターもかなり抑えることに成功。この高い技術力をもつイメージセンサーで、Canon Logはその表現力をよりいっそう増すことになった。


Logという特性を知る

Canon Logとはいったいどのようなものなのかを簡単に触れておこう。Log収録をするとコントラストの浅い、いわゆる「ねむい」画となってしまうのだが、これこそがLogのもつ力だ。カラーグレーディングを前提としたLog素材は、高いダイナミックレンジを持っており、従来のビデオガンマでは「白飛び」や「黒潰れ」で表現できなかった部分をしっかりと捉える力を持っている。そのため、明るい部分も暗い部分もディテールを表現できるのだ。グレーディング時に、どの情報を活かすかという選択肢を多くもつことが可能なため、映像表現に幅を持たせることが出来るようになった。従来のビデオガンマの表現範囲は約8Stopであったが、Canon Logはなんと12Stopまでの表現を持っている。

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Canon Logの素材切り抜き。夜の撮影のワンカット。感度も高く、多くの表現を可能にした

C300のイメージセンサーのベース感度はISO 850。カメラの0dBはISO 640であるのに対し、ISO 850でも十分なS/N比を確保しつつ、ダイナミックレンジ800%という幅広い表現力を発揮できるということである。つまり明るさを稼ぎたいときは、常にISO 800から撮影をスタートするといいだろう。

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LCDのウェーブフォームは非常に見易く、大変参考になる。外部モニタを用意しなくても適正露出を狙える

C300で撮影を行うときは、ほとんどの場合Canon Logを使用することになると思われるが、やはりLogの画をみながら撮影時の適正露出を決めるのはそれなりの経験が必要だ。もちろんLUTをかけて撮影プレビューするのが理想であるが、実はC300本体のLCDのみでもかなり追い込んだ露出設定を行える。ここでは詳しい内容は省くが、高精細のウェーブフォームとビューアシストというモニタリング機能を使うことで、外部モニタに出力することなく、適正露出を割り出せるのだ。

Canon Logで撮影した素材のカラーグレーディングにはさまざまな方法があり、今一番注目されているのはBlackmagic DesignのDaVinci Resolveを使う方法である。Lite版は無償で提供されているので、ぜひ一度試して欲しい。私は、RED同様にAfter Effectsで行っており、最近はColor Fineeseに加え、Magic Bullet LooksやColoristaなども使っている。REDと違いは、メタデータの編集がないだけで、あとは同じ感覚で作業できる。

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After EffectsのColor Finesseによる色補正の様子。どちらからというと色補正技術の習得が一番難しい

REDとEOS C300の使い分け

C300は本体価格だけで150万円を切る価格が設定されており、EPICなどに比べてリーズナブルであることに加え、保守やメンテナンスなど日本のメーカーである充実度・信頼度は非常に高いといえるだろう。8bitというデータの軽さも魅力だ。ノートパソコンでも簡単に編集が可能なC300の素材は、デジタルシネマのハードルを大きく下げた。あらゆる意味でC300は、「軽快」「手軽」「確実」といった言葉で形容できるカメラである。一方、REDは、多少の技術的なノウハウや経験が求められる場合が多く、「高性能」「技術力」「経験」といった言葉が作品を形作る。

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高画質なシネマクオリティを多くの人に届けたのがC300といえる。これからあらゆる現場で使用されていくだろう

長尺で撮影をしなければいけない時や、予算が限られているときなどにC300は大きな力を発揮することになる。16GBで約38分収録可能で、ビットレートが約50Mbpsというのも魅力の1つ。REDはC300の4倍以上のデータ量を有しており、特に5Kの素材はそれなりのマシンでないと思い通りに扱うことができない。RAWとLogという映像の性質も違う。より選択肢が広いRAWは現像というステップも頭に入れておく必要があるため、Logの色補正の方が少し簡単という見方もある。Logファイルは既にRGB化されたファイルであり、現像とは必要ない。反面、REDは、RAW現像が必要だが、画は限りなくハイエンドで、自信を持って撮影現場で使用できるのがいい。ハイスピードという点ではREDが何枚も上をいっている。

今後はカラーグレーディングが必須の時代へ

2台の共通点は、デジタルシネマカメラであるということと、収録後に色調整を行う必要があるということだ。どちらで撮影した素材も、その名のとおりシネマライクな素晴らしいものであることは間違いない。4Kや5Kといったものをそのまま提出することはあまりなく、現在のところHDによる作品制作が多いため、カメラの解像度は問題にならないだろう。それよりも大切なのは撮影後のカラーグレーディングをどこまで追い込めるかだ。カラーグレーディングを見越した撮影を行うという「逆算」的な発想で撮影をする必要すら出てきているほどだ。

時代がデジタルシネマという「大判センサー」のカメラが注目を集めるなか、従来はあまり行われなかったデジタルカラーグレーディングというジャンルも、これからワークフローの中には必要な過程となるだろう。

txt:マリモレコーズ 江夏 由洋 構成:編集部


Vol.03 [RAW side LOG side] Vol.05