P-10Log(10bit-Log)の開発の背景とトレンドとしてのLogに思う

時代は大判センサーとなり、もはや4Kを標榜する時代となった。この事実は、数年前の事を考えると隔世の感がある。それを受けて、今注目されているソリューションがLogやRaw収録である。NAB2012でもそのトレンドは顕著であることは間違いない。進むべき方向は見えてきた。しかしながら、実際のワークフローや運用を考えるとまだ実用ではなく、手探りで行われている状況だ。

RedやCanonC500発売によってLogやRaw制作が注目されているのは周知の通り。何かと目にするLogやRawはこれからますます我々の身近になる事は言うまでもない。前回の流れを受け、[RAW side LOG side 〜Log撮影ビギナーズ]の第七弾は、その時代を見据え、早くから独自のLog(P-10Log)について開発に取り組んできたパナソニックの商品開発チームの平野浩二氏、斉藤浩氏、国末勝次氏に話を聞く事ができた(インタビューは、NAB2012開催直前)。今、改めて注目されるLogやRawについて、パナソニックがどう考えているのか注目したい。

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左から、事業企画グループ 齋藤 浩氏、商品技術グループ 平野 浩二グループマネージャー、カメラ開発チーム 國末 勝次氏

編集部:パナソニックは、デジタルシネマへの取り組みが、非常に早かったですね。かつてDVXが発売された時の24P対応など、映像が映画っぽい事で話題になりました。そういう意味でもパナソニックファンは多いですよ。映画は、ある意味映像に携わる人間にとっては、最高峰ですから、一種あこがれはあります。そんな映画業界では当たり前とされるLogが急に陽の目を浴びています。ユーザーの反響もあるこのタイミングで、既に完成された技術でもあるP-10Logをもう一度新しいものとして打ち出す事も面白いと思うのですがどうでしょうか?

Panasonic:我々パナソニックでは、確かに取り組みは早かったですね。CMや映画がフィルムの時代から、デジタルでフィルムライクに再現できないか?ということでスタートしたのが発端です。ご存知の通りVariCamに実装され、フィルムライクな制作が可能になりました。映画の世界ではダイナミックレンジの広さが必要です。10bitのRGBに焼き直す際に、記録のハードディスク含めて非圧縮記録で、10bit-Logという規格を準備して、フィルムにそのまま変換できるものというのがP-10Logです。フィルムとデジタルがどう共生できるか取り組んできた流れがあります。今、Logが注目される事は、面白いですね。今まではLogの説明が難しかったという事があります。ようやく浸透したかという感じはします。現状ですとHPX3700GのみP-10Log出力が可能です。それ以前はVariCam F-RECですね。当然、F-RECで記憶して、もう一度変換が必要でしたが、HPX3700Gでは、そのまま出力可能というコンセプトでした。

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HPX3700G

編集部:そんな歴史のあるP-10Logの開発の背景を教えてもらえますか?

Panasonic:F-RECでずっとやってきましたが、もう一つフィルムに近いもので収録できないのか?という思いが発端です。フィルムからのスキャニングデータとビデオの色空間及びガンマを様々な角度から比較し、データを作り上げながら製品に実装していったという感じです。当然S-Logよりも前に取りかかっていました。ビデオでのフィルム表現を追及しF-RECを開発しましたが、使用して行くうちにさらにフィルムプリントとの整合性を追求する中でP10-Logが生まれました。

従来のビデオから、ガンマカーブを変えればフィルムに近い、ガンマの形にしていく事で、フィルムライクに色々トライして来た中で、生まれたと言えますね。より実際のフィルムと同じガンマカーブになるように、フィルムからデータをつくっていく。フィルム撮影とビデオ撮影を比較し、ギャップをみながらフィルムにならう感じで作り上げられたものなのです。

ここが重要なのですが、デジタルシネマと言いながら、まだまだフィルム上映する劇場が多いのが実情です。デジタル撮影後に制作プロセスを経て、最後にフィルムに焼き直すワークフローが多い事になります。では最終的にフィルムに焼くところまで想定した時に、フィルムと同じガンマになっていればフィルムからスキャンしたのと全く同じ様に、制作がスームズに行くのか?というのが重要な部分です。カーブそのものがフィルムのように作り込み可能なのが、P-10Logの一番の特長とも言えます。世の中にあるガンマーカーブの類いが、どれだけフィルムをエミュレーションできているのかは少し疑わしいですが、P-10Logは相当正確に再現できています。一番、フィルムに近づけたものになっていると言えますね(笑)。

各社のLog、Logカーブを比較してもらったら面白いことになるのではないかと思います。一度比較して頂いて、P-10Logというのが何を狙ってつくられたものなのか、そのカーブを見て頂くと、我々がかなりそこに対してどれだけ自信を持っているかわかると思います。なるほど!パナソニックはこういう考えでこのカーブをつくったのか!という考えがきっとみえてきます。

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編集部:今、Logに注目しているユーザーと言えば、DSLR世代つまりEOS5Dユーザーが多いという印象です。ハイエンドというよりも、今まで5Dユースで、CMやPV制作をしていた方が多いのではないでしょうか?きっと映画の世界を知らずに、Logを初体験という世代がほとんどです。そういうニーズに向けての動きは、何か考えていらっしゃいますか?上位のデジタルシネマ向けであれば、Log収録も当たり前だと思いますが、もう少しミドルレンジでの商品展開も考えられますか?小型のカメラが実現できるとか…。

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Panasonic:Logがトレンドになっているのが非常に面白いですね。フィルムを体験されている方は、それが当たり前です。現在もいろんな意味でフィルムの方がまだ良いのでは?新しい世代とか新しい使い方ということで考えると、Logが新しくて、今までできなかった表現が可能になるという逆の発想になっているのが面白いですね。基本的には、実装は可能なので、ニーズがあれば考えます。逆に市場的にニーズがどのくらいあるのかですね。Logの良さは認めますが、コストの問題やワークフロー的なバランスも考えなければなりません。全ての制作物にLogが必要かと言うとそうではないと思います。ハイエンドになりますが、超大作映画向けの開発はしていたので、その下のレンジの商品を出す事は、技術的には可能です。そういう意味では広げていきたいですね。

編集部:このトレンドで、ニーズが出てくると思います。改めて、紹介するのも若い人達には良いかもしれませんね。一方でRaw制作に関するカメラ開発など計画にはありますか?

Panasonic:実は、Rawが扱いやすいのか?という疑問は持っています。見えない階調をコントロールする作業であったり、増感現像の処理は、はたして、全ての人にメリットなのかなという印象があります。本当にフィルムを知っている人でないと扱いきれるものではないと思いますね。完全にRaw撮影で、後付けで全てやる事がどこまでできるのか。

例えば、RED社カメラですと、基本、Raw記録で、全て後処理になります。ある意味ハイエンドでは、Rawが確立されて、ある程度普通に使える様になっていると思います。しかしながら制作というものは、時間やコストが非常にタイトな事の方が多い訳です。タイムイズマネーの状況下では全部がそうなるのかといえば疑わしい所が多いですね。むしろ私たちはカメラの映像信号処理でもっともっと勝負できると思っています。

カメラメーカーとしては、カメラの中に入っている信号処理の良さを知っていますので、後処理でなくカメラでつくり込む事を大事にしたいですね。全て外に出すのが果たして本当に良いのか。もちろん、両方の視点でものづくりを考えています。

編集部:フィルムを触る機会が減っていますので、それでどうなるかということですよね。クリエイターの人達は、実はあまりそこは重用視していなくて、「こうしたい」という事に重きを置いています。後処理で何かができる事はメリットではありますね。カメラの心臓部分で色々処理するのか、Raw撮影後、処理するのか、実はこだわりはないのかもしれません。ただ、選択できるという事は良い時代だと言えますね

Panasonic:選択できる様にしておくのは、必要なことなのかもしれないですね。これがいい結果を招くかどうかはわからないのですが…

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NAB2012で参考出品されたVariCam4Kモデル

お話を伺った時点では、当然、話題にもならなかったが、NAB2012で参考展示された久しぶりのVariCamであるVariCam4Kモデルのモックが発表された。Log記録なのかRaw記録なのか、現時点では詳細がわかっていない。しかし、スマートフォン対応であったりドッカブル方式であったり、時代のニーズに応えようとしているのが垣間見える。2012年の現在の状況をパナソニックが出した我々への解答である。このインタビューを通して、パナソニックのカメラメーカーとしての矜持とクラフトマンシップを感じるとともに、今後も魅力ある製品に期待をしたい。

Vol.06[RAW side LOG side] Vol.00