4Kといえば水平画素のことだが、4K(2K)はデジタルシネマ由来のフォーマットということもあり、ビデオにはない特徴がある。それはRAWデータを扱うことができることで、4K2Kという解像度だけでなくRAWが扱えるからこうしたフォーマットを利用するという場合もあるようだ。ここでは、4K2Kを語る上で欠かせないRAWについておさらいをしてみようと思う。

画素の配列

RAWはセンサーからの情報そのままのデータなので、当然センサーによって異なることになる。つまり、統一した規格があってどのメーカー、どのカメラでも同じではない。このあたりが、RAWを扱う上で混乱しがちなところだ。

センサーはご存知のように画素で構成されているが、カラーの信号を得るためにRGBのフィルターがある。ビデオカメラでは、レンズからの光をダイクロイックフィルターでRGBに分けてRGB独立したセンサーで撮像する。デジタルシネマでは、既存のPLマウントレンズなどを使用することが前提となるので、センサーは単板(1個)でセンサー上でRGB別々に撮像することになる。1つのセンサーでRGBを撮像する場合1つ1つの画素にRGBのフィルターを対応させることになるが、現在一般的に採用されているのはベイヤー配列である。

ほかにも、ソニーのF35やF65のような配列のものもあり、今後この2つ以外にも新たな配列のものが出てくることもありうる。ちなみに撮像素子の発展の過程ですでに様々な配列が考案されている。RGBではなくYMCのフィルターを採用したものも過去の歴史の中ではあったものの、感度面では有利だが色再現があまり良くなかった。

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一般的なベイヤー配列のセンサー

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ソニーF65に搭載されているCMOSセンサーの配列。ベイヤー配列を斜めにした構成

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ソニーF35に搭載されているCCDセンサーの配列。RGBを一組にして1ピクセルを構成

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一般的な3板方式のダイクロイックによるRGB撮像方式。レンズマウント部分からセンサーまでの長さが必要なので、バックフォーカスの長いレンズが必要。PLマウントレンズなどはそのまま装着してもバックフォーカスの違いから使用することはできない

ダイナミックレンジ

撮像素子のダイナミックレンジとは、暗いところから明るいところまでどれだけ幅広くリニアに信号として出力できるかであり、一般に画素の面積で決まってしまう。

ビデオでは信号のレンジが決まっているので、その範囲に収めなくてはならず、そのままだと明るい部分はほとんど白く飛んでしまうことになる。撮像素子のダイナミックレンジが技術進歩につれて広くなるにつれ、広くなったダイナミックレンジを活用する方法が考えられてくる。業務用機でいえば空や窓外の景色が飛ばないように輝度の高い部分のガンマを変えるニーという機能で、現在のシネガンマやフィルムガンマに通じるものといえるだろう。

当時のビデオカメラはオートホワイトバランス機能はあったが、高い色温度には対応できず光学フィルターを利用していた。現在ではこうした光学フィルターに頼らなくてもセンサーのダイナミックレンジが広くなり、電気的な補正だけでデーライトからタングステンあるいはそれ以上の範囲までをカバーできるようになっている。

カメラによっても異なるが、RAWデータに対応したカメラではオートホワイトバランス機能を搭載しているものもあり、この場合はセンサーからの情報はホワイトバランスにより調節された後の出力になる。

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16ビットのダイナミックレンジを有する4KのデジタルシネマカメラDALSA Origin

ちなみにDALSA Originという4Kのデジタルシネマカメラは16ビットのダイナミックレンジを有していたが、RAW記録の場合はホワイトバランス固定でタングステンのみとなっていた。最近のカメラは12-14ビットでオートホワイトバランスを装備しているものが多いようだ。

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シネガンマやフィルムガンマにより、広いレンジの輝度をカバーすることができる。見かけ上ダイナミックレンジが広がる

RAWの利用

RAWはセンサーの構造に依存しており、ベイヤー配列の場合は1画素ごとにRGBの情報を含んでいない。これを一般的なRGBの画素に変換するのが、デジタル現像とかデベイヤーといわれる処理だ。最初からRGBに変換した形式でカメラから出力されればよいように思われるが、ベイヤーから一般的なRGBへ変換する手法にはいくつかあり、それが画質を特徴付ける要素にもなっている。各メーカーのいわゆる絵作りに直結する部分なので、デジタル現像やデベイヤーといわれる処理を行うツールはメーカーが用意していることが多い。また、色調補正やガンマ、ダイナミックレンジなどもRGBに変換する前の状態(ベイヤーのまま)で行うほうが忠実な再現が期待できるので、こうしたツールにはベイヤーからRGB変換だけでなく色調補正などが行えるようになっている。RAW記録可能なレコーダーやDIソフトなどでは、こうした理由によりキヤノンRAWとかARRI RAWなど対応するRAWを明記している。

フィルムのダイナミックレンジをいかにしてデジタルでも実現させるか、その有力な方法がRAWということになる。では、最終的にフィルムにしないのであれば、RAWは必要ないのか。そもそも、そうした色域やダイナミックレンジを再現できるモニターやプロジェクターがあるのか。といった問題もあるが、たとえばシネガンマやフィルムガンマなどはダイナミックレンジをオート化することでHDなどに適応しているともいえる。RAWはある意味シネガンマやフィルムガンマでオート化された部分を後処理で細かく調節でき、場合によっては画面上の特定の部分で異なる設定を行うことができるので、より細かな絵作りが可能となる方法といえるだろう。

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デベイヤーやデジタル現像の方法は色々ある。左のように4つの画素を1つのピクセルとしたり右のように4つの画素をダブらせて1つのピクセルにする方法もある。これらはその一例だが、どのような方法をとるかで絵作りに影響する。

4KもRAWも現状ではオーバースペックという意見もある。たとえ劇場用映画でも2Kで充分であるとかシネコンが多くなる現状ではそうしたアウトプットの現状に合わせたダイナミックレンジや解像度で制作するべきとかである。4KやRAWに対応した様々な機材が発売される中で結論を出すのは不可能だ。規格や制作手法なども決定打が存在しないもののすでに見切り発車している状況ではある。映画やビデオ、写真など異なる業界でキーワードとなりつつある4Kだが、これにより従来あった業界の垣根が取り除かれ、新たな映像表現の場として発展してほしいものである。

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2011年における映画館の状況。3D対応も含め、デジタル上映の映画館も増えてきている。

txt:稲田出 構成:編集部


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