既にそろい踏み、各社の取り組み
4K対応の製品としては、カメラではソニーのF65、RED DIGITAL CINEMAのRED ONE、アストロデザインのAH-4410-A、キヤノンのEOS-1D C、JVCのGY-HMQ10、NABで参考出品されたパナソニックなどがあり、こうしたカメラで撮影された映像を収録するレコーダーも計測技術研究所、アストロデザイン、Convergent Design、S.two、AJA(Ki Pro Quad)、Codex Digitalといったメーカーから発売されている。
編集やDIなどポストプロダクション系でもDigital Vision Nucoda、FilmLight Baselight、ASSIMILAT SCRATCH、QUANTEL iQ、Blackmagic Design DaVinci Resolve、Discreet、Adobe Creative Suite 6、Vegas Pro、Final Cut Proなど様々な対応製品が各メーカーから発売されている。多くはデジタルシネマ系の高価な製品だが、最近では民生機を意識したものや価格的にもHD機器と比較しても手頃な製品が相次いで発売になっている。
4KのカメラはREDから始まったのではなく、DALSAが2003年のNABで披露したOriginが劇場用映画の撮影にも使用されたのが草分け的存在といえる。その3年後RED ONEが発表され、Originを1-2週間レンタルする価格でREDならカメラを購入可能ということから話題となった。また、Blackmagic DesignからはDaVinci Resolveが驚くほど低価格で供給されたほか、レコーダーもKi Pro Quadを始めとして幾つかのメーカーから今まででは考えられない低価格で発売される。まだ、インターフェースなど詳細が決まっていない段階にもかかわらず手に届く価格帯の製品が相次いで発売されているのが現状といえよう。
4K普及の鍵は?
あまりにも高価格ではフィルムとの比較から普及は望めない。フィルムに比べてトータルでコストダウンが可能になるだけでなく、撮影や後処理、流通など様々な部分での利点が必要になる。そもそも、デジタルシネマが本格化するきっかけは、合成が伴う作品の場合に撮影したフィルムをデジタイズしてCGなど合成処理を施し、再びフィルムに戻すといった作業において、撮影部分をデジタル化することでワークフローを簡素化し、クオリティとコストダウンを両立させたことにある。このときはすでに発売になっていたハイビジョンのシステムを流用していた(Panavision HD-900Fにより撮影されたスター・ウォーズ エピソード2)。
その後シネコン形式の上映も増え、流通でも脱フィルムの流れが始まる。また、映画産業は上映以外にもDVDやテレビ放映なども視野に入れた利益構造があり、トータルで考えてもフィルムからデジタルへの移行は必然でもあった。加えて、昨年のコダックの破綻によるフィルム供給の不安もあったと思われる(映画系ではコダックとフジフイルムの2社が圧倒的シェアをもつ)。
ハイビジョン(HD)から始まったデジタルシネマも、放送でもHDが広まる始まるにつれて2Kや4Kにステップアップしていく。テレビとの差別化という要素もあるが、技術水準やコスト的に見て4Kが充分射程距離に入ってきたからであろう。
ちなみに、映画というと製作費が莫大で湯水のように費用をかけられるように思われがちだが、芸術という側面もありつつ、実は立派な産業といえ、売り上げに直接関係のない制作に対するコストダウンの要求はかなり厳しい。これは最近に始まったことではなく、現在のノンリニア編集のルーツもこうした映画産業のコストダウンから生まれたものでもある。
各メーカーにおける4Kに取り組みは様々だが、そのいくつかをプライベートショーや取材を通して見てみよう。
ソニー | 湖西テックにおけるものづくり
ソニーのプロフェッショナル向け放送機器の設計から製造、サービスまでを受け持つ
今までは、いかにコストダウンするかという課題は大量生産で解決してきた。ただ、制作用の業務用機器は民生機のように月産何万とか何千台というロットではなく、数十台、ものによっては数台というものもある。大量生産の対極にある業務用機器では少量・多品種・高価格というのが今までの常識だった。生産コストの安い海外で製造という方法もあるが、技術漏えいの問題やそもそも4K解像度となると輸出規制の対象製品なので、必ずしも生産コストの安い海外で製造することが可能とは限らない。そのあたりの解決策を、ソニーの業務用機器を中心に小ロット製品を生産しているソニー湖西テックを取材した。
4Kは発展途上の分野だが、デジタルシネマの業界では導入が始まっている。ビデオなどと異なりたとえ普及が進んでも多くの台数が見込まれるわけではない。少量多品種かつクオリティも高く、長期に渡るサポートも必要になる。いきおい高価になりがちだが、そうなると普及が進まない、売れないというジレンマに陥ることになる。デジタルシネマではRED以前にも幾つかのベンチャー企業がカメラなどを開発したものの、普及に至らなかったのはこうしたことも理由の一つといえよう。
湖西テックは厚木で生産していた業務用機器を始めとした小ロットの製品を製造する工場である。4KプロジェクターやデジタルシネマカメラF35のほか、VTRのシリンダーヘッドなどのリペアパーツなどを製造している。
見学コースとして披露されたのは主に組立工程のパートで、説明によると画面に表示された工程作業を元に組み立てるようになっており、その時必要なネジなどの部品は必要な物がトレーに出て来るほか、ビットや締め付けトルクなど異なるセッティングが施された複数のドライバーは必要な物にのみ通電される仕組みになっているという。他にも基盤への部品の実装ハンダ付けや完成品の調整、プロジェクターのプリズムといった光学系の製造など多岐に渡っている。通常は、それぞれ別の工場や下請けへ発注するようなものまで、この工場では総合的に製造しているそうである。
画質検査、SR-R4との接続確認工程。4Kカメラから中継車、補修パーツなどもこの工場の担当
ここで注目されるのは、画面表示される作業工程だ、ステップごとに画像入りで表示されるので、部組みや工具などに習熟した要員なら誰もがどんな製品でも組み立て可能だろう。説明があったわけではないが、補修パーツなどは業務用機器の場合それだけで何万何十万するものも少なくない。生産台数に応じてこうした補修パーツを用意する方法では、無駄も多く保管管理やスペース、税制面などを考えると製品販売価格に占めるこうした費用は馬鹿にならないはずである。
キヤノン | CINEMA EOS SYSTEMで本格化する4Kの動き
CINEMA EOS SYSTEM の4K撮影が可能なカメラC500
ハリウッドでCINEMA EOS SYSTEMをセンセーショナルに発表したキヤノン。デジタル一眼とビデオ、さらにはレンズの技術を統合して新たな展開を開始した。すでにC300は発売され、4K撮影が可能なC500が年内には発売される。それに合わせてレンズもEFレンズマウントとPLマウントのレンズがCINEMA EOS SYSTEMとして順次発売される。
C300やC500はデザイン的には新たなカメラという印象を受けるが、すでに発売になっているC300を見る限りラージセンサーを搭載したHDカメラである。メニューなどもビデオのXFシリーズに近く、キーになる画像処理エンジンもひと世代前のDIGIC DV Ⅲが採用されている。CINEMA EOS SYSTEMには一眼レフのEOS-1D Cもラインアップに加わっており、現在の市場もそうだがメーカーとしても過渡期にあるような印象だ。
話は変わるが、7月23日にキヤノンはミラーレスカメラEOS Mを発表し、ミラーレスの市場にも参入を開始した。すでにこのゾーンにはEOS Kissというラインアップが存在しているが、別のラインアップとして販売していくということである。EOS Mに対応したレンズは2本で、ズームレンズは動画撮影に適した静粛性を備えていることを特徴の一つとして挙げている。一方EOS M本体は動画撮影に対応しているが、特徴として大きく謳ってはいないので、将来的にこのシリーズで動画撮影に秀でたカメラが登場してくるのであろう。その布石としての意味合いが強いレンズということになりそうだ。ミラーレスカメラはミラーが無いぶん動画撮影に有利な構造なので、CINEMA EOS SYSTEMのエントリーモデルとして動画撮影に特化したカメラの出現に期待したい。
CINEMA EOS SYSTEMのレンズラインアップとしてはズームレンズと固定焦点レンズがあるが、固定焦点レンズと今後発売が予定されているズームレンズはすでにあるスチルカメラ用のEFレンズの流れを汲むものといえ、すでに実績のあるレンズ構成を元に動画撮影用にリファインしたようだ。
EFおよびPLマウントのレンズが発売される
キヤノンではいままでの資産である60種類以上あるEFレンズをCINEMA EOS SYSTEMや今回発表したEOS Mでも使用できるようにアダプターを用意するといった配慮をしているが、動画を撮影する上では必ずしも使い勝手が良いとはいえない、やはり動画はそれ用に作られたレンズが必要になるわけで、その点キヤノンはすでにスチルカメラ用のEFレンズや業務用ビデオカメラ用レンズ、シネカメラ用レンズのラインアップを有しており、これらをリファインすることも可能なほか、レンズを設計のノウハウ蓄積もあり手頃な価格で製品として発売することができるだろう。
JVCケンウッド | ボトムアップで4K市場に迫る!
GY-HMQ10という小型ビデオカメラの発売で4K市場に参入したJVCケンウッドだが、すでにNHK技研展やCEATECなどでは以前から4Kカメラの試作品などを出展していた。今回発売になるGY-HMQ10はそうした試作品と異なり、民生機的なデザインとなっている。記録も特徴的な方法をとっており、4Kの画像を4つのフルHDフォーマットのH.264/MPEG-4形式ファイルとして4枚のSDメモリーカードに記録する方法をとっている。4Kのファイルフォーマットとして一般的かつ手軽に扱える一つの方法といえよう。
記録だけでなく出力も4系統のHDMIから出力される
ただ、単に4つのHD画像を組み合わせて4KにしてしまうとH.264/MPEG-4で記録されているため、まれに繋ぎ目が不自然になってしまうことがある。これを防ぐため、繋ぎ目を僅かにオーバーラップしてその部分を馴染ませる技術も利用できる。H.264/MPEG-4を始めとした圧縮コーデックは複数のピクセルをグループにして圧縮しているため、4つに分けて別々に記録したものを単純につなぎ合わせても繋ぎ目が不自然になってしまうためこうしたことを避けるための配慮といえるだろう。
JVCケンウッドとしては、4K市場に参入するにあたり、NHK技研展やCEATECなどに出展していたような業務用的なカメラを発売するという選択肢もあったはずだが、すでに幾つかのメーカーから発売されており、民生機につながる小型ビデオカメラとして製品化したようである。
同社はGY-HMQ10をハンドヘルドサイズの業務用4Kカメラレコーダー世界初として謳っているが、過去にもHD(720p)やネットを使ったワイヤレス伝送可能なカメラ、民生用小型フルHD 3Dカメラなど、ハンドヘルドサイズでは業界初の製品を幾つか発売している。
なお、業務用4K対応のプロジェクターとしてDLA-SH4KやDLA-SH7NLをすでに発売しているほか、民生用としてDLA-X90RやDLA-X70Rを発売している(e-shiftデバイスによるアップスケーリング表示)。
Blackmagic Design | 続く快進撃、4Kの現場では?
Blackmagic Cinema CameraにはDaVinci Resolveがバンドルされて30万円ほど($2,995)で発売予定
各種コンバーターやキャプチャー機器などをリーズナブルな価格で提供しているBlackmagic Designでは4K対応製品としてすでにDeckLink 4KやDaVinci Resolve、HyperDeck Studio Pro(HD×4による4K再生機能を搭載)といった製品を世に送り出している。この中で話題になったのはカラーグレーディングソフトウェアDaVinci Resolveであろう。Cintel Internationalを買収後DaVinciの行く末を案ずるユーザーもいたが、なんと一桁以上安価な価格で提供された。さらにHDに機能限定されたLiteは無償提供だ。ビデオではカラーグレーディングはあまり一般的とは言えないが、これによりDaVinciユーザーが増えたことは容易に想像がつく。さらに、NABで公開された2.5Kイメージセンサーを搭載したBlackmagic Cinema CameraにはDaVinci Resolveがバンドルされ、30万円ほど($2,995)でもうすぐ発売される予定だ。
4Kに限らず、たとえ撮影機材が安価になってもその後の過程でコストがかかってしまっては普及は望めないが、DaVinci Resolveのような製品が存在することでワークフロー上のボトルネックがかなり解消されたといえよう。Blackmagic Designは本来特殊なために高価格になりがちな製品を実にタイミングよくリーズナブルな価格で市場に投入しており、今後更なる期待が持てると思う。
Blackmagic DesignのカラーグレーディングソフトウェアDaVinci Resolve
来るべき世界、その後に…
さて、いくつかのメーカーの情報を元に4Kの現状について俯瞰してみたが、ここで見えてくるのは製品の価格が急速に下がっており、制作系の機材だけでなく民生機器も東芝が4Kのテレビを発売しただけでなく、ビクターやソニーからホームシアター用のプロジェクターが発売され、制作から一般家庭での視聴への道筋ができつつあるということだ。
この流れの中で、問題になるのはどうやって家庭まで4Kの映像を届けるかである。放送は電波帯域の割り当てや規格化などから普及するまでは10年以上かかるだろう。DVDやBlu-rayといった媒体も従前のように業界団体主導では時間がかかりすぎて現状の4Kの開発スピードにはとても追いつけないだろう。
残るは、CSやCATVだが専用のチューナーの開発やセットトップボックス、配信のコーデックなどやはりスピード的に難しい。その点ネットは非常に柔軟に対応することができ、すでにYouTubeは4Kに対応している。4Kはビデオや映画、ITなど様々な業界により発展していく今までにない媒体といえ、開発や普及のスピードも同様に今までとは違うスピードとなるだろう。残る問題は4Kで見るべきコンテンツだが、制作機材が安くなり、ネットで誰もが配信できるようになれば、必ずしもコンテンツホルダーが要るとは限らない。つまりはネット上でそうした場をどのように提供するかの問題であろう。
txt:稲田出 構成:編集部