txt:石川幸宏/猪蔵 構成:編集部
機動性&コンパクトに焦点
例年通り、今年も5月31日と6月1日の二日間、米ハリウッドのパラマウント・スタジオの中で開催されたCine Gear Expo 2013。文字通りの映画撮影機材専門の展示会・コンファレンスで、ここ毎年、このパラマウント・スタジオ内の”New York Street”と呼ばれる古いニューヨークセットを模した屋外セットを使って、テントを使った野外展示を中心に開催されている。また今年はその奥にある”Stage31、32″の二つの撮影スタジオを使って一部屋内展示も行われた。メジャースタジオの奥まで一般人が入る機会はなかなか無いので、開催日も2日目は土曜日ということもあり、会場には撮影関係者も皆家族連れで観覧している姿も多く目立つのもCine Gear Expoならではの光景だ。
日没になると夕日が奇麗なグラデーションを描き出す
今年も初日は午後2時〜午後9時、2日目は午前10時〜午後5時という変則的な展示を行っているのがCine Gear Expoの特徴でもあるが、これは初日の夕方から日没時のマジックタイムにおいて主に照明関係の機材の効果を見せるための演出の一部でもある。そしてほぼ屋外にテント張りで展示していることで、屋外ロケ地と同じ条件で機材を観られるというのもとても実践的なところだ。この辺が雨がほとんど降ることはないロサンゼルスだからこそ開催出来るイベント企画と言えるだろう。
数年前からパラマウントスタジオに開催会場が固定されてからは、ある程度出展する企業の顔ぶれも固定化しているが、全体の印象としては、昨年よりも若干規模が小さくなった印象と、この会場での大きな新しいカメラの発表もなかった。専用ブースは出展しないソニーだが、PMW-F55/F5の関連各社への積極展示を進め、F65での撮影作品として敷地内にあるパラマウントシアターで4K作品の『アフターアース』を上映、キヤノンは自社ブースを中心に、EOS C500、EOS-1D Cの展示を行った。しかしこれらの製品とも昨年から今年のNABにかけて世界各国ですでに多くの発表イベントを行っているので、派手さや目新しさには少し欠けた印象だ。
会場から見えてくる気になる製品群
そんな中で目立ったのが、GoPro HERO 3を中心としたコンパクト・シネマカメラ関連の展開である。
GoPro HERO 3用の専用ケージなどをRedrock Micro社ほか数社が展示していたが、注目はハリウッドのレンタルショップRADIANT IMAGESのブースだ。文字通りすべてレンタル専用製品ではあるが、すでに巷では話題のGoPro HERO 3をCマウント仕様に改造した”NOVO”をはじめ、Silicon Imagingの”Sl-2K”の改造版、「Sl-2K nano」など、小型改造製品のオンパレードといった展開にブースはかなり盛況だ。
Redrock Micro Cobalt Cage of GoPro HERO3
Redrock MicroからもGoPro HERO3用の専用ケージ”Cobalt Cage of GoPro HERO3″が出ている。本体価格は$99、アクセサリーキットはプラス$35、ショートアーム等は別売。
Hollywood Impact Cage for GoPro HERO3
こちらもGoPro HERO3用の専用ケージ。個人に近いようなメーカーもKickstaterなどで資金を集めて作るような細かい製品も出てきたのは、これまでの映画産業が大きく変わろうとしている現れかもしれない。
RADIANT IMAGES :NOVO
「NOVO」はすでに今年2月頃にニュースとして全世界に知れ渡ったが、『End of Watch』という映画撮影のためにView Factor社へRADIANT IMAGES社が発注したことをきっかけに出来たカメラで、5.76mm×4.29mmのCMOSセンサーを有するGoPro HERO 3のブラックエディションをベースに、4K解像度、ベース感度ISO 640、8ストップのダイナミックレンジ、MPEG-4/H.264でマイクロSDカードで記録、収録できるフレームレートは1080pで60fpsまで、720pで120fpsまで、WVGAの848pで240fpsまでとGoPro 3の基本機能そのままだ。重量は3.2oz(90.72g)でCマウント装着のため、レンズ位置はほぼ中央に変更されている。ディストリビューターはワールドワイドではこのRADIANT IMAGES社が務め、ヨーロッパ圏ではP+S Technik社が行うという。現状のところレンタルのみでここ2〜3週間で出荷可能だとのこと。会場にはプロトタイプの”NOVO 2K”のモックアップも展示されていた。こうしたコンパクト・シネマカメラの現場からの需要はDSLRに変わる需要として多くなっているようで、今後かなりメジャー映画作品でも頻繁に使用されてくると予想される。
様々なコンパクト・シネマカメラキットが揃うRADIANT IMAGES社のブース。NOVOはGoPro HERO 3の改造品であることはすでに知られた存在だが、ハンドグリップ等に装着された実物を観てみると、かなり実用に堪えうるブラッシュアップが施されている。ヘッドセットとモックアップでSl-2Kも展示されていた。
Air Drone
4月のNABに引き続き、このCine Gear Expoでも無線コントロールのマルチローターヘリに多くの人気が集まっていて、コンパクト・シネマカメラとともにハリウッドで実際に使用されているメーカーのブースが出展(中国、韓国系は出展無し)していた。アメリカにおけるこのところの無線コントロールによるマルチローターヘリ市場の活況には、どうやら今後の連邦航空法改正を見込んだバックグラウンドがあるようだ。米国の電波法は日本以上に大変に厳しく、ラジコン用の周波数57MHz帯を使おうとすると、免許申請から審査、利用箇所制限などかなり面倒な手続きが必要になるという。そこでWi-Fiなどで利用される2.4GHz帯の電波を使えば無免許でもラジコンヘリを飛ばせることが発明され、現在のAR DroneのようなWi-Fi利用のヘリが誕生してきた。しかしそこで引っかかってくるのがアメリカの連邦航空法で、現状では400フィート(約122m)以上にラジコン等が上ることは基本的に禁じているという。
筆者が5月31日のAfter NABイベントでご一緒した、アメリカの電波法や航空法にも詳しい日本大学生産工学部講師で映像新聞社論説委員でもある杉沼浩司氏の見解では、2012年2月14日にオバマ大統領がサインした「FAA(連邦航空局)改革法2012」がポイントになっているようで、ここで2015年までにUAV(=Unmanned Air Vehicle / 無人航空機:航空法規ではUASと呼ばれる)の高度規制を撤廃することを求めており、これを機にUAV・UASのビジネスがいまアメリカでは活況になっていて、この映像業界にも多くが参入を目論んで進出してきているのでないか?という指摘をされていた。
筆者は電波法や航空法の専門外なので詳しい内容はよくわからず、今後の展開もまだはっきりしたわけではなさそうだが、とはいえ現場ではそうした法的バックボーン云々よりも、もっと手軽に面白い画を撮りたいといった欲求が先行しており、会場ではいつもどこかでマルチローターヘリが飛行しているという賑やかさだった。
マルチローターヘリはいまや撮影機材としても定番に。DJIではPhantomを特売価格($649)で会場販売したり、MOVIでも話題のFreefly社もブース出展するなど、各社のマルチローターヘリの展示は多くの注目を集めていた。
Cine Gear Expo開催期間にちょうど全米公開となった、F65で撮影されたウィル&ジェイデン・スミス親子の共演によるM・ナイト・シャマラン監督作品『アフターアース』の試写が、4Kシアターで無償プレミア上映された。