txt:石川幸宏/猪蔵 構成:編集部
映画の世界にも来るべき新潮流
Cine Gear Expo(以下:CGE)を振り返ってみると2000年代中盤まではパナビジョンやARRI、コダックといった大手の映画カメラ機材会社が広大にブースを占拠していたが、今はその様相がガラリと変わってしまった…。昔を知る人間としては、映画はフィルムからデジタルという移行がほぼ完全に終わった感じを、今回のCGEで改めて感じた次第だ。
いまは全体的にはロケ用の撮影機材好きにはたまらないガジェットが大盛り展示という様相のCGE展示だが、毎年おなじみのメーカーに加えて、新興のメーカーが代わる代わる出てくるようで、顔ぶれが違うのは面白い。またStage(スタジオ)内には、ソフトウェアなどの室内展示も毎年指向が変わる。その中でもオンセット(ロケ現場)でのDITツールなども注目されている。オンセットのグレーディングソフトウェアやDITツールなども充実してきているのが最近の傾向だ。
もう一つのCGEの面白さとして、普段は入ることができないパラマウントスタジオの中を、限られた範囲ではあるが自由に歩き回れるので、ハリウッドの映画スタジオの雰囲気をリアルに楽しめるというのは魅力だ。また会場は、NAB等とのトレードショーとは大きく異なり大変フランクだ。ドリンク、ポップコーンなどのフリーサービスやGive Away(お土産)も多く、家族連れも多いことは楽しさを倍増させる。今年のCGEは、4Kというキーワードがもっと立っていると思いきや、その辺のコピーはカンファレンスや大手メーカーのプレゼンのみで、展示会場では特に4Kにフォーカスした展示は行われていなかった。また興味深いのは開催初日(30日)に行われたレンズメーカーの会議では、そもそもレンズに4K仕様というのが必要あるのかどうか?という点も議論になったという。それよりも周辺の歪みだったり、色収差であったりの部分のほうが大事で、概ね全メーカーの総じた意見であったようだ。
たったの2日間(カンファレンス等も含めると4日間)だが、撮影関係者やカメラマンは一度は行くと何かしら触発されるものが必ず見つかる、そしてまた来たくなる、そんな展示会がCine Gear Expoだ。 それでは、DIT、カラーグレーディング、周辺機器をダイジェストで見て行こう!
Cine Gear Expo 2013 フォトダイジェスト
colorfront
colorfrontからは、On-Set Live!が登場。EOS C500のRAWデータをAJAのIo XTを介してそのまま読み込み、MacBook Proでオンセット(撮影現場)での簡易グレーディングも可能に。撮影現場でのDIT(Digital Image Technician)ツールは日々進化している。
Light Iron
いま全米でアウトポスト・モバイルツール(DITツール)ソリューション・プロバイダーとして、最も信頼ある技術と知識を持つと言われるLight Ironは、iPadによるパーソナルビデオアシストソフトウェア”LIVE PLAY 3.0″を公開。現場の各ポジションが必要な情報をショットごとに書き込めるアシストツール。例えば監督の意見をショットごとに書き込めたり、VFXスーパーバイザーのマネージメントツールとしても使用可。メイクやスタイリスト用のカメラ位置確認、また30日分のデイリー管理などをすべてワイヤレスで管理。App Storeから$9.99で販売。
Aviator cameragear
一瞬”RED Rocket”というバナーが紛らわしい、どこにでも持ち運べる撮影用ギアを制作しているAviator camera gear。The Rocket スライダーはデザインもユニークな、コンパクトに折り畳めるプレオーダー製品($475)。写真はスライダーの天板にマイクロハイハット($125)を装着したもの。
FREEFLY MOVI M10
CineGear会場でも人気のMOVI M10。正式には”3-AXIS DIGITAL GYRO-STABILIZED”というシステムらしいが、アルミとカーボンファイバー、ステンレスの組み合わせで重さ1.5kgという仕様。9-18Vの電源供給が必要。ステディカムとはまた違う用途として日本でもすでにユーザーが増えているようだ。
Libec
このところ毎年CineGearExpoに出展している常連の日本企業でもあるLibec。今年は新製品RSプラスシリーズを全面に、これから本格的にシネマ市場への参入も視野に入れているようだ。今回は、通常は見られないRSP-850の雲台のメカニズムまでを見せる展示で来場者の注目を浴びていた。
Zacuto
こちらも常連のZacuto。こちらもコンパクト化に対応してアーム部分を折りたたみできる新しいモジュラータイプのリグシステムが登場。従来のDSLR Gorilla Kitsのスリングショットシリーズのニューデザインのようだ。販売時期は未定。
Fill-Lite
NAB2013の会場ではBAND PROのブースに参考出展していたFill-Lites。オレゴン州に本社を持つ、これもまたシネマトグラファーでもあるOwen Stephans氏が発明した柔らかな光を再現するLEDライトパネル。24×27インチのThe 200 Modelから、大きめのスタジオFill-Liteパネルは、51×59インチ角で薄さ1.5インチというものまで、枚数を組み合わせて、これもまたiPadからのコントロールが可能だ。
DINKUM SYSTEMS
コンパクトからショルダー型の大型カメラまで、あらゆるタイプのカメラのレンズシェードを提供するDINKUM SYSTEMS。要は遮光用のハネキリ板にクネクネ三脚のアームがついたもので、多少の伸縮も効くところが嬉しい。約$90〜40ドルまでと手頃な値段も嬉しい。レンズシェードだけでなくGoProや小型LEDライト用のアタッチメントなどもある。これもまたエミー賞を獲得したシネマトグラファー、John Mans氏のアイディアで製品化されたものだそうだ。
GRIP TRIX
どんな難攻不落の状況でも撮影を成立させるのがお得意のGRIP TRIX。荒れ地や砂漠などの土地でも撮影可能な特殊撮影車両や機材などをレンタルしている。映画撮影もついにエコロジー時代に突入した!今回は太陽光パネルのバッテリーカーを展示。アメリカの日差しならこれでも充分な電源が得られそうだ。
filmotechnic
1990年からあるカメラカーシステムの老舗、filmotechnic社のPORSCHE CAYENNE TURBOカメラカーも例年通り出展。この車に一般的にお目にかかれるのもCine Gear Expoの特筆点かもしれない。他にもフォード RAPTORやメルセデス ML63 AMG、そして極めつけはフェラーリまで、高級ハイパーカメラカーのラインナップを揃えている。カメラのリモート回転ヘッドやアームなどのカメラ周辺機器も全て特殊仕様。しかし、なんでカメラカーのベースにこんな高級車が必要なのか?と思っていたが、単に新型高級車の全力疾走シーンのカメラワークには、その車に匹敵する走行性能と、温度などの耐環境性能を持っていないと撮影できない、ということだった。男ならつや消しブラックの車体に妙に惹かれる。
In-N-Out Burger
撮影にケータリングはつきもの。しかも美味しくないと撮影のテンションは上がらないのは万国共通だ。西海岸では No.1ハンバーガーチェーンとして有名なIn-N-Out Burgerも毎年Cine Gear会場にケータリング車が出前出張。会場内で売られているホットドッグもあるが、その美味しさは段違いなので、売り切れ必至で長蛇の列。