ソニーが3月14日より発売を開始した4Kハンディカム“FDR-AX100”。これまで通りのハンディカムサイズでありながら、4K(UHDで30pに絞りこんだ仕様)領域が撮影可能な次代の民生用ビデオカメラの先を行くビデオカメラの登場である。同社の4KTV事業を後押しするための、よりパーソナルな4Kコンテンツ普及のための訴求ガジェットであることは明快だが、それ以上にこのカメラに対する市場の期待値は大きいようだ。

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FDR-AX100

同時に発表されたHDハンディカム“HDR-CX900”とは兄弟機であり、ボディ筐体は同寸、ともに1.0型のExmor R CMOSセンサーを搭載している。4K撮影という以外では、最上位のHDハンディカムという位置づけだろう。総画素数は2090万画素、動画撮影時の有効画素は1420万画素。4K画像を60Mbpsのビットレートとなるフォーマット「XAVC S」での収録が可能。またHD映像も50Mbpsの高いビットレートで撮影できる。また4K高画質の映像を捉えるため、レンズの口径(フィルター径)も62mmと、このクラスにしては大型のカール・ツァイスのバリオゾナーTレンズを搭載。光学12倍ズーム(35mm換算で29.0~348mm)、F値2.8~4.5となっている。サイズも昨年に発売されたハンドヘルドタイプの“FDR-AX1”に比べ、重量も1/3の重さの790g、体積比にして1/4サイズと小型化した。さらにこのクラスでは珍しい、マニュアル操作のNDフィルターも搭載。2枚のNDフィルター内蔵で、クリア(ND未使用)、1/4(1枚使用)、1/16(1枚使用)、1/64(2枚使用)の4段階の設定が可能になっている。このカメラの開発陣に開発秘話などのお話を訊いた。

TRUE4K_05_05.jpg 写真左から、デジタルイメージング事業本部 コア技術部門 光学設計部1課 畠山丈司氏
IP&SDI事業本部 商品企画部門 商品企画2部1課 プロダクトプランナー 鈴木康介氏
デジタルイメージング事業本部 商品設計部門 設計4部2課 プロダクトデザインマネージャー 神澤貴雄氏
デジタルイメージング事業本部 システム技術部門 カメラ部1グループ 長尾祥一氏
――開発コンセプト

鈴木氏:FDR-AX1が昨年、ハンディカムとして初めての4Kビデオカメラとして発売されましたので、今回のFDR-AX100はハンディカムの4Kカメラとしては2号機という位置づけとなります。AX1は凝った映像撮影をされる方を対象に出したものですが、そこからさらに、4K=新しいステージの映像といったものを押し進めて行くためには、あの大きさが、いわゆる“お父さん”という方々が持ってもなかなか厳しい大きさです。

現状のビデオユーザーの多くがファミリー層であることを考えると、単にキレイな映像というだけでなく、自分たちのパーソナル映像を“思い出”といった部分にまで踏み込んで行きたいと考えたとき、やはりこういった手のひらに収まるサイズを実現したかったのです。とはいえ、セミプロの方にも“映像描写”という点でアプローチしたいという思いもあったので、マニュアル機構であり、1.0型の新型CMOSセンサーや新規開発のレンズを搭載することにより、取り回しが手軽で、4Kをより表現豊かに撮影頂ける製品を生み出したいと考えました。

――AX1からAX100へ

神澤氏:AX1とAX100は開発の最初から全く開発コンセプトが違っていて、AX100はより広いユーザー層に使って頂くためには、まず(筐体を)小型化すること、でも4K画質は妥協しないことが起点でした。

AX1に関してはまずソニーとして、機能に妥協の無い4Kカメラを市場に出すことをコンセプトにしています。また、業務用のZ100になりますと、Intraの600Mbpsなどかなりハイビットレートの動画まで撮れるという、かなり高機能な4Kカメラとなっています。それに比べてAX100は小型化を譲らないために、いくつかの機能は搭載していないので、その辺が2つのカメラの開発コンセプトとしては、スタートの部分で少し違っています。

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――小型化にあたっての障壁

神澤氏:とにかくこのサイズで4K撮影ができるようなレンズ開発に伴う、小型化する部分が最もハードルが高かったです。小型化にあたっては消費電力を下げる必要がありますので、そこが色々と機能制約に関わってきます。実際にAX100は、FDR-AX1にくらべて消費電力を1/3くらいまで落としています。AX100の開発では民生用BIONZ Xを使っていかに(筐体を)小さくするかということに注力しました。

鈴木氏:AX100は、最新のαシリーズやサイバーショットRX10などに搭載されている「BIONZ X」を採用し、民生用におけるソニーの最新システムで4Kが撮れる動画カメラという位置づけです。またユーザーインターフェイスについてもAX1の場合は、業務用途、セミプロの方も使用することを考えたインターフェイスだったのですが、AX100では、これまでのハンディカムのような一般のユーザーの方にも使いやすく、簡単なユーザーインターフェイスを採用しています。

サイズ感としては設計当初は従来のHDV機である、HDR-HC1のサイズを目指していました。ボディデザインもハンディとして長時間撮影するといった時に、ハンディカムが従来からこういう形が適しているという私たちの認識もありますが、今回は通常のハンディカムよりもグリップ感やベルトの太さを太くしたりするなど、長時間手持ち撮影する事も想定した仕上げになっています。

――1.0型イメージセンサー採用の理由

鈴木氏:スチルカメラのラインナップでもすでに1.0型イメージセンサーを採用したサイバーショットは、RX100、RX10といった製品を発売しており、きれいで明るく、描写力が高いというメリットが得られておりますが、一方でデジタル一眼レフ機によるムービー撮影が一般化して来た中で、AX100は大きなボケを表現に活かせ、また静止画も高画質で撮影できますし、ズーミングや持ち易さ等の本来のビデオカメラの良さをしっかり持っている、静止画/動画の両方に強いビデオカメラに仕上がっています。

神澤氏:ビデオカメラでも静止画がかなりの高画質で撮影できる点も大きなポイントです。また動画を撮影しながら静止画を同時にキャプチャーできる機能も付けているので、我々も自信を持って静止画撮影を推奨できます。静止画モードで14.2Mのサイズ(16:9、5024×2824ピクセル)がもっともキレイな画質で静止画撮影ができます。

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――XAVC S

神澤氏:XAVC Sは圧縮率が高いので、PCで編集する際にどうしてもある程度のマシンスペックは要求されますが、今回は自社の編集ソフト「Movie Studio Premium」をAX100ユーザーに対しては無償ダウンロードクーポンを同梱しており、こちらでXAVC Sの4K編集もできるようになっています。

鈴木氏:運動会や家族ムービーなどのファミリー層ユーザーにも楽しんで頂きたい事はもちろんですが、風景撮影などの趣味層の方々にも多くご使用頂きたいと考え、やはりそういった層を意識したところで、編集ソフトへの対応もしっかりとして行かなければならないと考えています。

またPCスペックもCore i5、i7のクアッドコア以上の性能のCPUであれば、マシンスペックにもよりますが、しっかりと動作する確認がとれています。新しい機種はそこに対応しているものが多いので、ワールドワイドでも編集できる環境は整って来ているのかなと考えております。また他社のノンリニアソフトでも順次対応予定です。

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――BIONZ X

神澤氏:BIONZは長年弊社のデジタルイメージング製品の画像処理エンジンとして搭載して来たものです。他社さんと同様に細かいバージョンアップはしているものの、名称自体にナンバーを振ることはありませんでしたが、今回新たに「BIONZ X」という名称が付けられました。それだけ性能面も大きくジャンプアップした証であり、4Kカメラとしては初めてBIONZ Xが搭載されたことになります。

長尾氏:BIONZ Xは、昨秋発売したα7/α7R等から搭載している新エンジンです。α7/α7Rの場合、静止画の高画質処理にこのエンジンの能力が使用されていますが、FDR-AX100では4K動画撮影の処理に対して、最新の高画質画像処理エンジンの能力が発揮されています。同じエンジンですが静止画と動画ではやはり使い方が違います。

――レンズ

鈴木氏:今回は1.0型イメージセンサーとの組み合わせで最高の画質を実現するとともに、スムーズな動作のインナーズームやAFなど使い勝手にも配慮したレンズを新規に開発しました。カードスロットのすぐ前までがレンズ部分となっており、筐体全体のかなりの部分をレンズが占めています。

畠山氏:4K解像度の収録に適したレンズとして、カール・ツァイス社と共同開発したバリオゾナーTレンズで、色収差を大幅に補正するED(特殊低分散)ガラスや球面収差を補正する新開発の薄型非球面レンズ(AAレンズ/Advanced Aspherical)、高い収差補正効果を発揮するERレンズ(高屈折率レンズ)を採用して高コントラストで、かつ解像感のある画質を実現しています。レンズリングやマニュアルダイアルなどの操作部分にピーキング機能と16倍の拡大フォーカス機能が備えてあり、4K撮影のサポート機能にも配慮しました。

総括

世の中の動きが一般を巻き込んで4Kへの進展が急速に進む中で、FDR-AX100の存在は、いままで闇雲な存在の4Kをリアルに手中にできる最適なガジェットと言える。また4K画像ならではの新たな視聴スタイル提案として、再生時に任意の部分をHDサイズで切り取って再生できるHDクリップは、4Kコンテンツのクロップ再生を簡易的にできるものとして、4K素材の恩恵を肌身で感じることができる機能としても注目だ。FDR-AX100が4Kをより身近な存在にする新規軸となるのか?発売後の展開がさらに楽しみだ。

txt:石川幸宏 構成:編集部


Vol.03 [TRUE 4K] Vol.05