4Kは、現状の映像界において必然としてやって来る次世代プラットフォームだが、それは過去に2011年7月の地デジ化に向けて行われてきた、SDからHDへと進化した時のそれとは大きく異なる。単に解像度の拡大というだけではないことが4K関連の取材を通して見えて来た。
まず4K制作におけるワークフローの明確化の問題は大きなポイントとなってくるだろう。いまポストプロダクションでは4K制作の依頼が増えて来てはいるものの、その混在するフォーマットによる素材データの複雑さ、そして制作そのものの様々な仕様、また最終的な上映手段や配信デリバリーの仕様の色々によって、4K制作のワークフローと必要となるハード&ソフトウェア環境の判断、もしくは固定化できていないため、営業の見積り試算が簡単に出来ないという点が問題視され始めている。
そして、また4KTV放送に向けては放送事業者の負担が非常に大きいこと。さらには一般への4K映像の視聴環境の普及問題と、本格的な実運用への道のりは長そうだ。さらには4K映像がそもそも何にどう必要なのかという議論も多いため、現況における4Kコンテンツの価値観というものを、制作者は今一度考える必要があるのかもしれない。
アスペクト・フリーコンテンツへの道程
LGの21:9(3440×1440)ディスプレイ「31UM95」
今回の4K特集の編集を進めるにあたって、一つのキーワードがずっと頭の中にあった。それは「アスペクト・フリー」である。とりわけ実運用面においては、現状における4K画像は特に映画、CM業界においては、質の高い2K(HD)画像を作り出すためのクロップ、スタビライズ、リサイズのための素材画像として用いられるケースがほとんどで、これは現行のハリウッドを始めとする世界の映像業界でも同じこと。
SAMSUNGの「U8500」
フル4Kのままの制作、配信、上映は、現状の映像インフラを考えれば、まだ現実的ではないわけで、上映基準をHDもしくは2Kサイズとした場合、そこから自由なアスペクト比で映像を切り出せる「アスペクト・フリー」のための映像素材としての価値に、現在の4Kのポテンシャルは重きを置いていると考えていた。そこに今年のInrternational CESでは、SAMSUNGの180度湾曲ディスプレイや、LGの21:9(3440×1440)のディスプレイなど、すでに民生用では「アスペクト・フリー」を形にしつつあるデバイスも登場し、4Kもしくはそれ以上の高解像度がもたらす新たな可能性を示しているように思う。
4K本来のポテンシャル
しかしこの記事の編集期間中に、フル4Kで撮影編集された今春封切りの劇場公開映画「相棒-劇場版III」の4K試写を目撃したことで少しその考え方が変わってきた。この作品はソニーPMW-F55のXAVC、4Kサイズで全編撮影されており、今回の試写会会場は東映東京撮影所内の東映デジタルセンターのシアターで行われた。フル4Kワークフローで完成させた4K作品を、4Kシアターでしかもサウンドも最新のドルビーアトモスによる上映だった。これに関する詳細記事はまた別途掲載を予定している。
先の座談会のフルフィル田中氏の発言にもあるように、”4K素材をそのままフル4Kワークフローで完成させること”で、4Kディスプレイではなくシアターの大画面でもその解像感が充分に維持され、撮影に使用したレンズの善し悪しまでが分かってしまうというのを目の当たりに実感することができた。ここまでカットによってレンズの善し悪しが分かってしまうと、それによるダイナミックレンジの階調差も認識できるようになる。当然一般視聴者はそこまで意識はしないものの、サブリミナルな効果としての解像感はこれまでと違ったものを伝えることは間違いない。また今回の発見として、これまでデジタルでは難しかったボケの中での現実感が、人間の目の視認と同じように見えて来るようになることだ。4Kなりの表現というものが、またさらに一段階上のクリエイティブを喚起させることだろう。
この1年の技術進化によって、4Kへの具体的な道筋は見えて来た。それ以上の8Kというその先の未来も示されている。今年、そして来年あたりまでは、以前SDからHDへの移行期にあったように4Kへの技術的R&Dが行われ、そこからまた何か新しい技術が生まれて来ることもあるだろう。ユーザーにとって、実用的4Kへの流れを自分サイズで見極めつつ、より実用価値のある4K制作とは何かを模索していく時期なのかもしれない。
4Kカメラ撮影サンプル比較
最後に現行業務用の4Kカメラ撮影サンプルを掲載し、静止画ではあるがその違いを比べてみたい(撮影:ビデオフォーシンズンズ 井上清氏)。
■EOS-1D C
1DCはDSLRと同じトーンの画で高い解像感を持つ。静止画と4K動画が同じトーンなので、両方使う場合は合わせやすい。CanonLogでも記録可能だが、今回は未使用。
ISO:100絞り:F22
シャッタースピード:1/60
4096×2160 / 24p
■SCARLET-X
SCARLETは1DCほどの解像感はないものの、落ち着いた上品なトーンを持つ。RAWで記録するのでファイルのレートは高くなるが、画調の変更は無理なく行える。
ISO:800絞り:F9.1
シャッタースピード:1/30
4096×2160 / 24p
REDCODE 8:1 / 4096×2160 / 30p ISO:250
絞り:F13.4
シャッタースピード:1/30
4096×2160 / 24p
REDCODE 8:1 / 4096×2160 / 30p ISO:800
絞り:F22
シャッタースピード:1/30
4096×2160 / 24p
REDCODE 8:1 / 4096×2160 / 30p
■PXW-Z100
PXW-Z100は解像感も高く素直な画調。EOS-1D Cのような派手さやSCARLETのような色気はないが、ナチュラル感がある。ただ、センサーが小さいためか、静止させるとノイズが見える。これはEOS-1D CやSCARLETには見られない。マニュアルでのフォーカシングは画を見るだけではかなり難しい。ピーキングを使用する必要がある。
GAIN:0dB絞り:F4
シャッタースピード:1/60
4096×2160 / 30p
XAVC / 4096×2160 / 30p
txt:石川幸宏 構成:編集部